血痰と急速な腎不全―Goodpasture症候群から辿るCoombs分類II型
第105回医師国家試験 B問題 第44問
国試問題にチャレンジ
61歳の男性。血痰を主訴に来院した。1か月前から全身倦怠感を自覚し,食欲が低下していた。2日前から尿量が少なくなり,下腿に浮腫が出現した。今朝から尿が赤くなり,血痰が出るようになった。体温37.8℃。脈拍104/分,整。血圧182/108 mmHg。皮膚に出血斑を認めない。両側肺野にcoarse cracklesを聴取する。下腿に浮腫を認める。尿所見:肉眼的血尿,蛋白2+,糖(-),潜血3+。血液所見:赤血球250万,Hb 7.8 g/dL,Ht 23%,白血球8,500,血小板21万。血液生化学所見:総蛋白6.8 g/dL,アルブミン4.9 g/dL,尿素窒素72 mg/dL,クレアチニン5.5 mg/dL,尿酸9.2 mg/dL,Na 141 mEq/L,K 5.9 mEq/L,Cl 102 mEq/L。免疫学所見:CRP 3.2 mg/dL,抗基底膜抗体陽性。 アレルギー反応のCoombs分類で,この疾患と同じ型に属するのはどれか。
- a.気管支喘息
- b.アトピー性皮膚炎
- c.自己免疫性溶血性貧血
- d.アレルギー性肉芽腫性血管炎
- e.全身性エリテマトーデス〈SLE〉
対話形式の解説
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ドクターまとめ
急速に進行する腎機能障害と血尿に肺胞出血(血痰)を伴い、抗基底膜抗体が陽性であればGoodpasture症候群(抗GBM病)と診断します。糸球体と肺胞の基底膜に共通するIV型コラーゲンα3鎖に対するIgG自己抗体が直接結合して組織を傷害するため、Coombs分類II型(細胞傷害型)に属し、蛍光抗体法ではIgGの線状沈着を示します。同じII型には自己免疫性溶血性貧血、不適合輸血、ITP、重症筋無力症などがあり、気管支喘息やアトピー性皮膚炎はI型、SLEは免疫複合体による顆粒状沈着を示すIII型として区別されます。治療は血漿交換に副腎皮質ステロイドとシクロホスファミドを組み合わせ、肺腎症候群を疑ったら抗GBM抗体とANCAを速やかに測定することが重要です。アレルギーの型を暗記ではなく抗体の標的と傷害機序から理解することで、多様な免疫疾患の病態を体系的に整理できます。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・61歳男性。1か月前から全身倦怠感と食欲低下がある。 ・2日前から尿量減少と下腿浮腫、今朝から肉眼的血尿と血痰が出現した。 ・発熱(37.8℃)、頻脈、高血圧(182/108 mmHg)、両側肺野のcoarse crackles(粗い断続性ラ音)。 ・尿:肉眼的血尿、蛋白2+、潜血3+。血尿が目立ち、糸球体腎炎を示唆する。 ・血液:Hb 7.8 g/dLの貧血。血小板は正常で、皮膚の出血斑もない。 ・生化学:BUN 72 mg/dL、Cr 5.5 mg/dL、K 5.9 mEq/Lと高度の腎機能障害と高カリウム血症。アルブミン4.9 g/dLと低アルブミン血症はなく、ネフローゼ症候群ではない。 ・CRP 3.2 mg/dLと炎症反応があり、抗基底膜抗体(抗GBM抗体)が陽性。
診断へのプロセス
数日〜数週の経過で腎機能が急速に悪化し、血尿・蛋白尿を伴っていることから、急速進行性糸球体腎炎(RPGN)の病像である。これに血痰と両肺のcoarse crackles、貧血が加わっており、肺胞出血を伴う肺腎症候群と考えられる。肺腎症候群の主な原因には、抗GBM抗体によるもの(Goodpasture症候群、抗GBM病)と、ANCA関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症など)がある。本例では抗基底膜抗体が陽性であることが決め手となり、Goodpasture症候群と診断される。貧血は肺胞出血と腎機能障害の双方が関与していると考えられる。尿量減少・浮腫・高血圧は、腎機能低下による体液貯留を反映している。
設問の考え方
Goodpasture症候群では、糸球体基底膜と肺胞基底膜に共通して存在するIV型コラーゲン(α3鎖のNC1ドメイン)に対するIgG自己抗体が基底膜に直接結合し、補体の活性化や白血球の浸潤を介して組織を傷害する。これは組織や細胞に固着した抗原に抗体が結合して起こる反応であり、Coombs分類のII型(細胞傷害型)アレルギーに属する。蛍光抗体法でIgGが基底膜に沿って線状に沈着する所見(linear pattern)が特徴である。選択肢の中から同じII型に属する疾患を選べばよい。
選択肢考察
- ×a. 気管支喘息
アトピー型の気管支喘息は、吸入抗原に対するIgEが肥満細胞や好塩基球の表面のFcε受容体に結合し、抗原が架橋することで、ヒスタミンやロイコトリエンなどのメディエーターが放出されて起こる即時型の反応である。Coombs分類ではI型(即時型、アナフィラキシー型)に属する。なお、抗原曝露から数時間後に起こる遅発型の反応には好酸球やTh2細胞などが関与し、慢性の気道炎症を形成する。いずれにせよII型ではない。
- ×b. アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能異常を背景に、IgEを介したI型アレルギーの関与が大きい慢性の湿疹性疾患である。高IgE血症や好酸球増多を伴うことが多い。病態にはTh2型の細胞性免疫(IV型に近い機序)も関わるが、Coombs分類では一般にI型として扱われ、II型ではない。
- ○c. 自己免疫性溶血性貧血
自己免疫性溶血性貧血(AIHA)は、赤血球膜上の抗原に対する自己抗体(温式ではIgG、寒冷凝集素症ではIgM)が赤血球に結合し、補体の活性化による血管内溶血や、脾臓などのマクロファージによる貪食(血管外溶血)で赤血球が破壊される疾患である。細胞表面の抗原に抗体が結合して細胞傷害を起こす機序であり、Coombs分類のII型に属する。抗基底膜抗体が基底膜に結合して組織を傷害するGoodpasture症候群と同じ型である。直接Coombs試験が陽性になることが診断上重要である。
- ×d. アレルギー性肉芽腫性血管炎
アレルギー性肉芽腫性血管炎(Churg-Strauss症候群)は、現在は好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)と呼ばれる。気管支喘息やアレルギー性鼻炎が先行し、著明な好酸球増多を伴って小型血管の血管炎を生じるANCA関連血管炎の一つである(MPO-ANCAは約3〜4割で陽性)。病態には好酸球、Th2型の反応、ANCAによる好中球の活性化などが関与し、単一のCoombs分類の型には当てはめにくい。少なくとも基底膜などの組織抗原に対する抗体による典型的なII型反応ではなく、Goodpasture症候群と同じ型とはいえない。
- ×e. 全身性エリテマトーデス〈SLE〉
SLEは、抗核抗体(抗dsDNA抗体など)と抗原が形成する免疫複合体が、腎糸球体、皮膚、血管壁などに沈着し、補体を活性化して組織を傷害する疾患であり、代表的なIII型(免疫複合体型)アレルギーである。補体が消費されるため、活動期には血清補体価(CH50、C3、C4)が低下する。ループス腎炎では蛍光抗体法で顆粒状(granular)の沈着を示し、抗GBM病の線状沈着とは対照的である。なお、SLEに伴う自己免疫性溶血性貧血や血小板減少はII型の機序によるが、疾患としてのSLEはIII型の代表として扱われる。
Coombs分類(Gell-Coombs分類)
・I型(即時型、アナフィラキシー型):IgE、肥満細胞・好塩基球。例:アナフィラキシー、気管支喘息(アトピー型)、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、花粉症。 ・II型(細胞傷害型):細胞・組織に固着した抗原にIgG・IgMが結合し、補体やマクロファージ、NK細胞などが細胞を傷害する。例:自己免疫性溶血性貧血、不適合輸血、Rh血液型不適合による新生児溶血性疾患、特発性血小板減少性紫斑病、Goodpasture症候群(抗GBM病)、重症筋無力症、Basedow病(受容体を刺激する型で、V型として区別することもある)。 ・III型(免疫複合体型):抗原抗体複合体が組織に沈着し、補体を活性化して組織を傷害する。例:SLE、溶連菌感染後急性糸球体腎炎、血清病、過敏性肺炎(III型とIV型の両方が関与)、IgA血管炎。 ・IV型(遅延型、細胞性免疫型):感作T細胞とマクロファージが関与する。例:ツベルクリン反応、接触皮膚炎、移植片拒絶反応、結核の肉芽腫形成。
Goodpasture症候群(抗GBM病)
・抗原はIV型コラーゲンα3鎖のNC1ドメインで、糸球体基底膜と肺胞基底膜に共通に存在するため、腎と肺が同時に障害される。 ・臨床像:急速進行性糸球体腎炎(半月体形成性腎炎)と肺胞出血(血痰、喀血、貧血、胸部X線での両側浸潤影)。喫煙や有機溶剤の吸入などで肺出血が誘発されやすい。 ・腎生検:半月体形成と、蛍光抗体法でIgGの基底膜に沿った線状沈着。 ・一部の患者ではANCAも陽性となる(二重陽性)。 ・治療:血漿交換で抗体を除去し、副腎皮質ステロイドとシクロホスファミドで抗体産生を抑える。
肺腎症候群の主な原因
・抗GBM病(Goodpasture症候群) ・ANCA関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症) ・SLEなどの免疫複合体性疾患
POINT
・急速進行性の腎機能障害+血尿+肺胞出血(血痰)+抗基底膜抗体陽性 → Goodpasture症候群(抗GBM病)。 ・Goodpasture症候群はCoombs分類II型(細胞傷害型)で、蛍光抗体法でIgGの線状沈着を示す。 ・II型の代表:自己免疫性溶血性貧血、不適合輸血、ITP、重症筋無力症、Goodpasture症候群。 ・I型:気管支喘息、アトピー性皮膚炎。III型:SLE、溶連菌感染後糸球体腎炎。IV型:ツベルクリン反応、接触皮膚炎。
