鉄は「出せない」からこそ「入口」で守る―吸収・分布・排泄で読み解く鉄代謝
第105回医師国家試験 B問題 第34問
国試問題にチャレンジ
鉄代謝について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.回腸末端部で吸収される。
- b.3価の鉄イオンとして吸収される。
- c.アスコルビン酸は鉄吸収を促進する。
- d.ヘモグロビン鉄は生体内の鉄全体の1/4である。
- e.能動的排泄機構は存在しない。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
鉄は十二指腸から空腸上部で吸収され、食物中の3価鉄はDcytbによって2価鉄に還元されてからDMT1で取り込まれます。アスコルビン酸や胃酸は還元と可溶化によって吸収を促進し、タンニンやフィチン酸、制酸薬は吸収を妨げます。体内総鉄量3〜4gのうちヘモグロビン鉄が約2/3を占め、貯蔵鉄は約1/4〜1/3で、老化赤血球からの鉄が再利用される閉じた回路が造血を支えています。鉄には能動的排泄機構がなく1日の喪失は約1mgにとどまるため、体内鉄量は肝臓のヘプシジンによる吸収調節で保たれており、頻回輸血では二次性ヘモクロマトーシスを来します。吸収・分布・排泄の流れを理解することは、鉄欠乏性貧血、慢性疾患に伴う貧血、鉄過剰症の診断と治療を考える土台になります。
解答・解説
正解はc, eです
鉄代謝の基本である「どこで・どの形で吸収されるか」「体内でどのように分布しているか」「どのように失われるか」を問う問題である。 成人の体内総鉄量は男性で約4g、女性で約3gほどである。1日に食事から摂取する鉄は10〜15mg程度だが、実際に吸収されるのはその約1割、すなわち1mg前後にすぎない。一方で失われる鉄も1日約1mgであり、吸収と喪失がほぼ釣り合っている。 体内の鉄の大部分は、老化赤血球の破壊で放出された後に再びヘモグロビン合成へ回される。つまり体内で「使い回す」閉じた回路になっている。鉄を積極的に体外へ出す仕組み(能動的排泄機構)は存在しないため、体内鉄量は吸収量の調節だけで保たれている。この調節の中心となるのが、肝臓で作られるペプチドホルモンのヘプシジンである。 吸収部位は十二指腸〜空腸上部である。食物中の非ヘム鉄は主に3価鉄(Fe3+)であり、2価鉄(Fe2+)に還元されてから取り込まれる。この2点を押さえれば、a・bは誤りと判断できる。体内分布としては、ヘモグロビン鉄が総鉄量の約2/3(60〜70%)を占めることを覚えておけばdも誤りとわかる。
選択肢考察
- ×a. 回腸末端部で吸収される。
誤り。鉄の吸収部位は十二指腸から空腸上部である。この部位は酸性の胃内容物が流れ込んだ直後にあたり、鉄が溶けたまま還元されやすい環境にある。回腸末端部で吸収されるのは、内因子と結合したビタミンB12と胆汁酸(腸肝循環)である。このため、胃切除後には鉄欠乏性貧血とビタミンB12欠乏性貧血の両方が起こりうるが、吸収部位は区別して覚える。
- ×b. 3価の鉄イオンとして吸収される。
誤り。食物中の非ヘム鉄の多くは3価鉄(Fe3+)であるが、そのままでは吸収されにくい。十二指腸上皮の刷子縁膜にある鉄還元酵素(Dcytb:duodenal cytochrome b)が3価鉄を2価鉄(Fe2+)に還元する。そのうえで、2価金属輸送体DMT1(divalent metal transporter 1)を介して細胞内に取り込まれる。細胞内に入った鉄は、フェリチンとして一時的に蓄えられるか、基底膜側のフェロポルチンから血中へ送り出される。血中へ出る際にはヘファエスチンによって再び3価鉄に酸化され、トランスフェリンに結合して運ばれる。なお、肉や魚に含まれるヘム鉄は、ヘムのまま別の経路で吸収され、吸収率は非ヘム鉄より高い。
- ○c. アスコルビン酸は鉄吸収を促進する。
正しい。アスコルビン酸(ビタミンC)には還元作用があり、食物中の3価鉄を吸収されやすい2価鉄に変える。さらに鉄と可溶性のキレートを作るため、腸管内で鉄が不溶化するのを防ぐ。この2つの作用によって非ヘム鉄の吸収が高まる。胃酸も同じように鉄の溶解と還元を助けるため、胃切除後や酸分泌抑制薬の長期使用中は鉄の吸収が低下する。逆に、お茶のタンニン、穀類のフィチン酸、制酸薬などは鉄の吸収を妨げる。
- ×d. ヘモグロビン鉄は生体内の鉄全体の1/4である。
誤り。ヘモグロビン鉄は体内総鉄量の約2/3(60〜70%)を占め、最も大きな割合である。次に多いのが、フェリチンやヘモシデリンとして主に肝臓・脾臓・骨髄に蓄えられている貯蔵鉄で、全体の約1/4〜1/3(25〜30%)にあたる。つまり「1/4」は貯蔵鉄の割合に近い値である。そのほか、筋肉のミオグロビン鉄が数%、シトクロムなどの酵素に含まれる組織鉄はごく少量である。血清中でトランスフェリンに結合して運ばれている鉄は数mg程度で、総鉄量の0.1%前後にすぎない。
- ○e. 能動的排泄機構は存在しない。
正しい。鉄を積極的に体外へ出す仕組みはない。失われる鉄は、剥がれ落ちる腸管上皮や皮膚、汗、毛髪などに含まれる分だけで、1日約1mgにとどまる。女性ではこれに月経による喪失が加わる。体内鉄量の調節はもっぱら吸収量で行われている。具体的には、鉄が過剰になると肝臓からヘプシジンが多く分泌され、フェロポルチンを分解して腸管からの鉄の放出を抑える。このように排泄で調節できないため、赤血球輸血を繰り返すと鉄が体内に蓄積し続け、二次性ヘモクロマトーシス(輸血後鉄過剰症)を生じる。治療には鉄キレート薬(デフェラシロクスなど)や瀉血が必要となる。
体内の鉄の分布(成人)
・総鉄量:約3〜4g ・ヘモグロビン鉄:約2/3(60〜70%) ・貯蔵鉄(フェリチン、ヘモシデリン):約25〜30%(肝臓・脾臓・骨髄) ・ミオグロビン鉄:数% ・酵素鉄(シトクロムなど):わずか ・トランスフェリン結合鉄(血清鉄):約3〜4mg
鉄のリサイクル
赤血球の寿命は約120日である。老化した赤血球は主に脾臓のマクロファージに取り込まれて壊され、ヘモグロビンから鉄が取り出される。取り出された鉄はフェロポルチンを通って血中へ出され、トランスフェリンに結合して骨髄の赤芽球へ運ばれ、ヘモグロビン合成に再び使われる。毎日造血に使われる鉄は約20〜25mgにのぼるが、その大部分はこのリサイクルでまかなわれており、食事から吸収される約1mgは喪失分を補う程度である。
ヘプシジンによる調節
ヘプシジンは肝臓で作られるペプチドホルモンで、鉄の出口であるフェロポルチンに結合してこれを分解させる。その結果、腸管からの鉄吸収とマクロファージからの鉄放出がともに抑えられる。 ・分泌が増える状況:鉄過剰、炎症(IL-6による)。炎症に伴う貧血(慢性疾患に伴う貧血)では、ヘプシジン増加により貯蔵鉄があっても造血に使えない状態になる。 ・分泌が減る状況:鉄欠乏、造血の亢進、低酸素。 遺伝性ヘモクロマトーシス(HFE遺伝子変異など)では、ヘプシジンの産生が不十分なため鉄の吸収が過剰になる。
鉄吸収に影響する因子
・促進する因子:ビタミンC、胃酸、動物性たんぱく質、鉄欠乏状態、造血の亢進 ・抑制する因子:タンニン、フィチン酸、カルシウム、制酸薬・プロトンポンプ阻害薬、炎症(ヘプシジン増加)
吸収部位の対比
・十二指腸〜空腸上部:鉄、カルシウム ・空腸:葉酸、多くの栄養素 ・回腸末端:ビタミンB12(内因子と結合したもの)、胆汁酸
POINT
・鉄は十二指腸〜空腸上部で、2価鉄(Fe2+)として吸収される(3価鉄はDcytbで還元されてからDMT1で取り込まれる)。 ・ビタミンC(アスコルビン酸)と胃酸は鉄吸収を促進し、タンニンやフィチン酸は抑制する。 ・ヘモグロビン鉄は総鉄量の約2/3を占め、貯蔵鉄が約1/4〜1/3である。 ・鉄の能動的排泄機構はなく、1日の喪失は約1mgである。体内鉄量は吸収で調節され、その中心はヘプシジンである。 ・排泄できないため、頻回輸血で二次性ヘモクロマトーシスを起こす。 ・回腸末端で吸収されるのはビタミンB12と胆汁酸である。
