StudyMed医師国家試験

薬では止まらない「はやり目」―流行性角結膜炎の院内感染は手と物で断つ

第105回医師国家試験 B問題 第30問

国試問題にチャレンジ

第105回 B問題 第30問

流行性角結膜炎の院内感染防止に有効なのはどれか。2つ選べ。

  1. a.患者の抗菌薬点眼
  2. b.患者の抗菌薬内服
  3. c.患者の抗ウイルス薬内服
  4. d.患者が接触した物のアルコール消毒
  5. e.患者および医療関係者の流水での手洗い

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は流行性角結膜炎、いわゆる「はやり目」の院内感染対策を問う問題だ。考えるうえで大切なのは、「患者を治療すること」と「感染の広がりを断つこと」を分けて考えること。原因微生物の性質と感染経路から、何が本当に有効かを組み立てていこう。
医学生医学生
原因はアデノウイルスですよね。微生物学の講義で、8型や19型、37型あたりが結膜炎を起こすと習いました。
ドクタードクター
その通り。最近は53型、54型なども知られているし、19型の一部は64型に再分類されている。まずアデノウイルスの性質を確認しよう。エンベロープ、つまり脂質の外膜はあるかな。
医学生医学生
DNAウイルスで、エンベロープはなかったと思います。
ドクタードクター
正解。これが感染対策を考えるうえでのカギになる。エンベロープをもつインフルエンザウイルスなどはアルコールで簡単に不活化されるけれど、エンベロープのないアデノウイルスはアルコールに比較的強く、乾燥にも強い。涙液や眼脂がついたドアノブや器具、タオルの上で1週間以上感染性を保つこともあるんだ。
医学生医学生
ということは、主な感染経路は接触感染ですか。
ドクタードクター
そう。患者の涙液や眼脂には大量のウイルスが含まれていて、それが手指や物品を介して他人の眼に運ばれる。眼科では眼圧計、点眼瓶、細隙灯顕微鏡の顎台なども媒介になるし、医療者の手が患者から患者へ運んでしまうこともある。では選択肢を見ていこう。抗菌薬の点眼はどうかな。
医学生医学生
眼科の臨床実習で、はやり目の患者さんに抗菌薬の点眼が処方されているのを見ました。だから効果があるのかなと思ったんですが。
ドクタードクター
いい観察だね。でも、抗菌薬は細菌に作用する薬で、ウイルスには効かない。臨床で抗菌薬点眼を出すのは、角膜上皮が傷んだところへの細菌の二次感染を防ぐためで、あくまで患者本人の合併症予防なんだ。ウイルスの排出量は減らないから、院内感染防止策にはならない。
医学生医学生
抗菌薬の内服はなおさら意味がないですね。耐性菌を増やすだけになりそうです。
ドクタードクター
その通り。ウイルス性結膜炎に抗菌薬を全身投与しても、治療にも感染防止にもならない。不要な抗菌薬は薬剤耐性の原因にもなる。
医学生医学生
抗ウイルス薬の内服はどうでしょう。ウイルスが原因なら効きそうに思えます。
ドクタードクター
そこが引っかけだ。アシクロビルはヘルペスウイルス、オセルタミビルはインフルエンザウイルスに対する薬で、作用機序上アデノウイルスには効かない。アデノウイルス結膜炎に臨床で使える有効な抗ウイルス薬はなく、治療は対症療法が中心。だから薬でウイルス排出を止めることはできないんだ。
医学生医学生
薬が使えないなら、残るのは感染経路を断つ方法、つまり物品の消毒と手洗いですね。
ドクタードクター
そう、それが正解の2つだ。患者が触れた物のアルコール消毒は、乾燥に強いウイルスが物品に長く残ることを考えると有効な対策。ただしアルコールに抵抗性があるから、さっと拭くだけでは不十分で、消毒用エタノールで十分に拭き取る、浸漬なら数分以上の接触時間をとることが必要だ。器具によっては熱消毒や次亜塩素酸ナトリウムのほうが確実だよ。
医学生医学生
手洗いも、速乾性のアルコール手指消毒剤だけでは足りないということですか。
ドクタードクター
そういうこと。アルコールが効きにくい相手だから、石けんと流水でウイルスを物理的に洗い流すのが最も確実なんだ。医療者だけでなく患者本人にも、眼をこすらない、触ったら手を洗う、タオルを共用しないといった指導をすることが大事だね。
医学生医学生
ノロウイルスもエンベロープがなくて、アルコールが効きにくいので流水と石けんの手洗いが基本だと感染制御の講義で習いました。考え方が同じですね。
ドクタードクター
いいつながりだね。エンベロープの有無から消毒法を考えるのは、院内感染対策の基本的な発想だ。最後に臨床像も押さえておこう。潜伏期はおおむね1週間で、充血、流涙、眼脂、眼瞼腫脹が急に起こり、片眼から数日遅れて反対側にも及ぶことが多い。耳前リンパ節の腫脹・圧痛や結膜濾胞が特徴的で、小児では偽膜を作ることもある。
医学生医学生
発症後1〜2週間で角膜に点状の混濁が出ることもあると聞きました。
ドクタードクター
多発性角膜上皮下浸潤だね。視力低下やまぶしさの原因になり、ステロイド点眼で対応する。診断にはイムノクロマト法の迅速抗原検査があるけれど、感度は十分でなく陰性でも否定はできない。発症後2週間ほどはウイルスを排出するので、タオルや点眼瓶の共用禁止、疑い患者の診察場所や診察順の工夫、医療者自身が罹患したときの就業制限も重要だ。学校保健安全法では第三種の感染症で、医師が感染のおそれがないと認めるまで出席停止になるよ。

まとめ

流行性角結膜炎はアデノウイルスによる感染力の強い結膜炎で、涙液や眼脂を介した接触感染により眼科外来や病棟で院内感染を起こしやすい疾患です。アデノウイルスに有効な抗ウイルス薬はなく、抗菌薬もウイルスには無効なため、薬物療法では感染拡大を防げません(抗菌薬点眼は細菌の二次感染予防に用いることがあります)。院内感染防止の柱は、石けんと流水による手洗いと、患者が触れた物品・器具の消毒による感染経路の遮断であり、エンベロープを持たず乾燥とアルコールに強い性質を踏まえて、十分な接触時間や熱消毒・次亜塩素酸ナトリウムの使用を考慮します。臨床的には耳前リンパ節腫脹や1〜2週後の多発性角膜上皮下浸潤が特徴で、学校保健安全法では第三種感染症として扱われます。病原体の構造から有効な消毒法と対策を導く考え方は、ノロウイルスなど他の院内感染対策にも応用できる重要な視点です。

解答・解説

正解はd, eです

流行性角結膜炎(epidemic keratoconjunctivitis:EKC、いわゆる「はやり目」)は、アデノウイルス(主に8型、19型〔現在は一部が64型に再分類〕、37型、53型、54型など)によって起こる急性の結膜炎である。感染力がきわめて強く、眼科外来・病棟での院内感染の原因として重要である。 本問では「患者を治療すること」と「感染の広がりを断つこと」を区別して考えることが鍵になる。

アデノウイルスの性質

アデノウイルスはエンベロープ(脂質の外膜)を持たないDNAウイルスである。エンベロープを持つウイルス(インフルエンザウイルスなど)はアルコールで容易に不活化されるが、アデノウイルスはアルコールに比較的抵抗性を示し、さらに乾燥にも強い。涙液や眼脂が付着した器具・ドアノブ・タオルなどの表面では、1週間以上にわたって感染性を保ちうる。

感染経路

主な感染経路は接触感染である。患者の涙液・眼脂には大量のウイルスが含まれ、それが手指や物品を介して他者の眼に運ばれる。眼科診療では、眼圧計・点眼瓶・細隙灯顕微鏡の顎台などを介して患者から患者へ、あるいは医療者の手指を介して広がる。

対策の考え方

アデノウイルスに有効な抗ウイルス薬は実用化されておらず、薬物で患者のウイルス排出を止めることはできない。したがって院内感染防止の柱は、(1)手指衛生(流水と石けんでの手洗い)、(2)患者が触れた物品・器具の消毒、(3)タオルや点眼瓶の共用禁止、診察順や診察場所の工夫などの接触遮断、という「感染経路の遮断」になる。

選択肢考察

  1. ×a.  患者の抗菌薬点眼

    抗菌薬は細菌に作用する薬であり、ウイルスであるアデノウイルスには効果がない。臨床では、角膜上皮障害に伴う細菌の二次感染(混合感染)を予防する目的で抗菌薬点眼を併用することはあるが、これは患者本人の合併症予防であって、ウイルスの排出量を減らすものではない。したがって院内感染防止策にはならない。

  2. ×b.  患者の抗菌薬内服

    ウイルス感染症に対して抗菌薬の全身投与を行う意味はなく、結膜炎自体の治療にも、周囲への感染防止にも役立たない。不要な抗菌薬投与は薬剤耐性菌を生む原因にもなる。

  3. ×c.  患者の抗ウイルス薬内服

    アシクロビル(ヘルペスウイルスに対する薬)やオセルタミビル(インフルエンザウイルスに対する薬)などは、作用機序上アデノウイルスには効かない。アデノウイルス結膜炎に対して臨床で使える有効な抗ウイルス薬は存在せず、治療は対症療法が中心である。したがって抗ウイルス薬で感染拡大を防ぐことはできない。

  4. ○d.  患者が接触した物のアルコール消毒

    アデノウイルスは乾燥に強く、患者が触れたドアノブ・器具・椅子などが長期間にわたり感染源となるため、環境・物品の消毒は接触感染を断つうえで有効な対策である。ただしエンベロープを持たないためアルコールへの抵抗性があり、さっと拭くだけでは不十分で、消毒用エタノールで十分に拭き取る、あるいは浸漬の場合は数分以上の接触時間を確保する必要がある。器具によっては煮沸などの熱消毒や次亜塩素酸ナトリウムによる消毒の方がより確実である。

  5. ○e.  患者および医療関係者の流水での手洗い

    手指は涙液・眼脂を他者や物品へ運ぶ最大の媒介であり、手指衛生は院内感染防止の基本である。アデノウイルスはアルコールに抵抗性があるため、速乾性アルコール手指消毒剤だけでは不十分になりうる。石けんと流水による手洗いでウイルスを物理的に洗い流すことが最も確実な方法である。患者本人にも、眼をこすらない、触れた後は手を洗う、タオルを共用しないといった指導を行う。

流行性角結膜炎の臨床像

・潜伏期:約1週間(おおむね5〜14日)。 ・症状:急性の充血、流涙、眼脂、眼瞼腫脹、異物感。片眼から始まり、数日遅れて他眼にも及ぶことが多い。 ・所見:結膜濾胞、耳前リンパ節の腫脹・圧痛が特徴的。小児では偽膜を形成することがある。 ・角膜合併症:発症から1〜2週間後に多発性角膜上皮下浸潤(点状の混濁)が出現し、視力低下やまぶしさの原因となる。これに対してはステロイド点眼を用いる。 ・経過:結膜炎症状は通常2〜3週間で軽快する。発症後おおむね2週間程度はウイルスを排出し、感染源となりうる。

診断

臨床所見に加え、結膜ぬぐい液を用いたイムノクロマト法による迅速抗原検出キットが用いられる(感度は十分ではなく、陰性でも否定はできない)。

治療

特異的な治療薬はなく対症療法が中心である。細菌の二次感染予防として抗菌薬点眼、炎症や角膜上皮下浸潤に対してステロイド点眼を用いる。

感染対策のまとめ

・手指衛生:流水と石けんでの手洗いを基本とする。 ・環境・器具:乾燥に強いため、患者が触れた物品は消毒する。熱消毒が確実で、加熱できない物は次亜塩素酸ナトリウムや消毒用エタノールで十分な接触時間をとって処理する。 ・運用:タオル・洗面器・点眼瓶の共用禁止、疑い患者の診察場所や診察順の区別、医療者自身が罹患した場合の就業制限。

法的扱い

・感染症法:5類感染症(定点把握)。 ・学校保健安全法:第三種の感染症に分類され、医師が感染のおそれがないと認めるまで出席停止となる。

POINT

・流行性角結膜炎の原因はアデノウイルス(8・19・37・53・54型など)で、有効な抗ウイルス薬はない。 ・抗菌薬(点眼・内服)はウイルスには効かず、院内感染防止策にならない(点眼は二次感染予防目的で使うことがある)。 ・アデノウイルスはエンベロープがなく、乾燥とアルコールに強い。物品の消毒は十分な時間をかけて行う。 ・院内感染防止の基本は流水と石けんでの手洗い、および患者が触れた物品・器具の消毒による接触感染の遮断。 ・耳前リンパ節腫脹、1〜2週後の多発性角膜上皮下浸潤が特徴。学校保健安全法では第三種。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。