StudyMed医師国家試験

エコーに散る小さな光の点―砂粒小体が教える甲状腺乳頭癌の見つけ方

第104回医師国家試験 I問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第104回 I問題 第7問

甲状腺乳頭癌の診断に最も有用なのはどれか。

  1. a.CEA高値
  2. b.TSH低値
  3. c.サイログロブリン高値
  4. d.超音波検査で点状高エコー像
  5. e.頸部エックス線写真で粗大石灰化像

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、甲状腺乳頭癌を診断するときに何が一番役に立つかを問う問題だ。考えるときの軸は1つ。「その所見は乳頭癌に特異的か、ほかの甲状腺疾患でもみられないか」。この視点で選択肢を眺めてみよう。
医学生医学生
癌の診断なら、まず腫瘍マーカーが頭に浮かびます。サイログロブリンは甲状腺でつくられるので、高ければ乳頭癌を疑えるのではないでしょうか。
ドクタードクター
そう考える人は多いね。でもサイログロブリンは甲状腺濾胞細胞がつくる正常なタンパクだ。乳頭癌で高くなることはあるけれど、濾胞癌、濾胞腺腫や腺腫様甲状腺腫といった良性結節、さらにバセドウ病や甲状腺炎でも上がる。大きな良性結節でも高値になり得るから、存在診断には使いにくいんだ。
医学生医学生
では、サイログロブリンはどんな場面で使うんですか。
ドクタードクター
甲状腺を全摘して、必要なら放射性ヨウ素で残った甲状腺組織を壊したあとが出番だ。正常な甲状腺がなくなれば、サイログロブリンが出てくる源は癌の再発や転移しかない。だから術後の監視マーカーとして価値が高い。ただし抗サイログロブリン抗体が陽性だと測定値が不正確になる点には注意してほしい。
医学生医学生
なるほど、「診断」ではなく「術後の見張り役」なんですね。CEAはどうでしょう。消化器外科を回ったとき、大腸癌の術後フォローでよく測っていました。
ドクタードクター
CEAは甲状腺領域では髄様癌のマーカーだ。髄様癌は濾胞上皮ではなく、カルシトニンを分泌する傍濾胞細胞、いわゆるC細胞から発生する癌で、カルシトニンとCEAが高くなる。濾胞上皮由来の乳頭癌では通常上がらないから、CEA高値が出たらむしろ髄様癌を考えるべきなんだ。
医学生医学生
TSH低値も違いそうですね。甲状腺ホルモンが多すぎるときにフィードバックで下がる値なので。
ドクタードクター
その通り。TSH低値はバセドウ病、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎、機能性結節など、ホルモン過剰の状態を示す。乳頭癌はホルモンを過剰につくらないので、ふつうは甲状腺機能正常だ。機能検査は癌かどうかの判断にはつながらない。
医学生医学生
残るのは画像ですね。頸部エックス線の粗大石灰化と、超音波の点状高エコー。どちらも石灰化の話に見えます。
ドクタードクター
そこがこの問題の核心だ。病理学の講義で、乳頭癌の特徴的な所見を習ったよね。
医学生医学生
砂粒小体です。病理実習で、同心円状の層構造をもつ小さな石灰化を顕微鏡で見ました。すりガラス状の核や核溝、核内細胞質封入体もセットで覚えました。
ドクタードクター
完璧だ。その砂粒小体のような微細な石灰化が、超音波では音響陰影を伴わない細かな点状の高エコー像として描出される。これが乳頭癌に比較的特異的で、悪性を強く示唆する所見なんだ。だから正解は超音波検査での点状高エコー像になる。
医学生医学生
エックス線の粗大石灰化は、同じ石灰化でも意味が違うということですか。
ドクタードクター
そう。乳頭癌に特徴的なのはあくまで「微細な」石灰化で、単純写真で見えるような粗大な石灰化ではない。粗大石灰化は腺腫様甲状腺腫などの良性結節が長い経過をたどったときによくみられ、髄様癌や未分化癌でも出ることがある。それに、甲状腺結節の評価はそもそも単純写真より超音波のほうがずっと優れているんだ。
医学生医学生
石灰化の「大きさ」で意味が変わるのは、乳腺の画像診断で微細石灰化が悪性を疑う所見だったのと似ていますね。
ドクタードクター
いい連想だね。超音波で悪性を疑う所見はほかにもある。形状不整、境界不明瞭、内部低エコー、縦横比が大きい縦長の形、境界部の低エコー帯の不整や欠如など。これらを組み合わせて評価し、怪しければ超音波ガイド下の穿刺吸引細胞診で核溝や核内細胞質封入体を確認して確定診断する、という流れだ。
医学生医学生
乳頭癌は予後が良いと習いましたが、転移はしないんでしょうか。
ドクタードクター
転移はするよ。乳頭癌は甲状腺悪性腫瘍の約9割を占め、30〜50歳代の女性に多く、進行は緩やかで予後は最も良い。ただしリンパ行性に頸部リンパ節へ転移しやすい。対して濾胞癌は血行性に肺や骨へ転移しやすく、細胞診では濾胞腺腫との区別が難しいので、被膜浸潤や脈管浸潤の有無で組織学的に診断する。この対比は試験でもよく問われる。
医学生医学生
治療は手術が基本ですか。
ドクタードクター
甲状腺の葉切除または全摘と、頸部リンパ節郭清が基本だ。高リスク例では全摘後に放射性ヨウ素内用療法とTSH抑制療法を行い、術後はさっき話したサイログロブリンで再発を見張る。それから、高齢者で急速に大きくなる甲状腺腫瘍を見たら、乳頭癌などから未分化転化した未分化癌を考える必要がある。こちらは予後が極めて不良だから、経過の変化には敏感でいてほしい。
医学生医学生
組織型ごとに、由来細胞、マーカー、転移経路をセットで整理しておきます。

まとめ

甲状腺乳頭癌は甲状腺悪性腫瘍の約9割を占める最多の組織型で、病理では砂粒小体、すりガラス状核、核溝、核内細胞質封入体が特徴です。砂粒小体に相当する微細石灰化は超音波で点状高エコー像として描出され、乳頭癌に比較的特異的なため診断に最も有用であり、確定診断は超音波ガイド下の穿刺吸引細胞診で行います。CEA高値は傍濾胞細胞由来の髄様癌を示唆し、TSH低値はホルモン過剰状態を反映するもので、乳頭癌は通常甲状腺機能正常です。サイログロブリンは良性疾患でも上昇するため存在診断には向かず、全摘術後の再発監視マーカーとして活用されます。「その所見が本当にその疾患に特異的か」を問う姿勢は、甲状腺結節の評価に限らず検査選択全般の基本となります。

解答・解説

正解はdです

甲状腺乳頭癌は甲状腺悪性腫瘍の約90%を占める最多の組織型で、30〜50歳代の女性に多く、進行が緩やかで予後が最も良い。本問は「乳頭癌らしさ」を示す所見を選ぶ問題である。 乳頭癌の診断の中心は、超音波検査と穿刺吸引細胞診である。 ・超音波検査:境界不明瞭で辺縁が不整な低エコー腫瘤、縦横比が大きい(縦長の)形状、内部の微細石灰化などがみられる。 ・病理・細胞診:砂粒小体(psammoma body;同心円状の層構造をもつ微小な石灰化)、すりガラス状の核、核溝(コーヒー豆のような核の切れ込み)、核内細胞質封入体が特徴である。 砂粒小体に相当する微細な石灰化は、超音波検査では点状の高エコー像として描出される。この所見は乳頭癌に比較的特異的であり、診断的価値が高い。 一方、腫瘍マーカーや甲状腺機能検査は乳頭癌の存在診断にはあまり役立たない。乳頭癌は通常、甲状腺機能に影響しないため機能は正常であり、血中マーカーも良性疾患との区別が難しい。選択肢を検討する際は、「その所見が乳頭癌に特異的か」「他の甲状腺腫瘍や甲状腺疾患でもみられないか」という視点で判断するとよい。

選択肢考察

  1. ×a.  CEA高値

    CEA(癌胎児性抗原)は大腸癌などで用いられる腫瘍マーカーであるが、甲状腺腫瘍の中では髄様癌で上昇する。髄様癌はカルシトニンを分泌する傍濾胞細胞(C細胞)由来の癌で、カルシトニンとCEAの高値が特徴である。濾胞上皮由来の乳頭癌ではCEAは通常上昇しない。

  2. ×b.  TSH低値

    TSH(甲状腺刺激ホルモン)の低値は、甲状腺ホルモンが過剰な状態(バセドウ病、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎、機能性結節など)で、ネガティブフィードバックによりTSH分泌が抑制されることを示す。乳頭癌は甲状腺ホルモンを過剰に作ることはなく、通常は甲状腺機能正常であるため、TSH低値は乳頭癌の診断に結びつかない。

  3. ×c.  サイログロブリン高値

    サイログロブリンは甲状腺濾胞細胞が産生するタンパクで、乳頭癌で高値となることはあるが、濾胞癌や、濾胞腺腫・腺腫様甲状腺腫などの良性疾患、バセドウ病や甲状腺炎でも上昇するため、乳頭癌に特異的ではない。特に大きな良性結節でも高値となり得る。臨床的には、甲状腺全摘術後(および放射性ヨウ素による残存甲状腺の破壊後)に正常甲状腺組織がなくなった状態で、再発・転移を監視するマーカーとして有用である。なお抗サイログロブリン抗体が陽性だと測定値が不正確になる点にも注意する。

  4. ○d.  超音波検査で点状高エコー像

    乳頭癌の組織内には砂粒小体と呼ばれる微細な石灰化がしばしば生じ、これが超音波検査で音響陰影を伴わない細かな点状の高エコー像(微細石灰化)として描出される。この所見は乳頭癌に特徴的で悪性を強く示唆するため、境界不整な低エコー腫瘤などの所見とあわせて診断に最も有用である。確定診断は、超音波ガイド下の穿刺吸引細胞診で核溝や核内細胞質封入体などを確認して行う。

  5. ×e.  頸部エックス線写真で粗大石灰化像

    乳頭癌に特徴的なのは砂粒小体による「微細な」石灰化であり、単純エックス線写真で見えるような粗大な石灰化ではない。粗大石灰化は腺腫様甲状腺腫などの良性結節で長期経過に伴ってみられることが多く、髄様癌や未分化癌でも認められることがあるため、乳頭癌に特異的ではない。また甲状腺結節の評価には単純エックス線写真より超音波検査が優れている。

甲状腺悪性腫瘍の組織型と特徴

・乳頭癌(約90%):濾胞上皮由来。リンパ行性に頸部リンパ節へ転移しやすい。砂粒小体、すりガラス状核、核溝、核内細胞質封入体。予後は最も良好。放射線被曝(小児期)が危険因子。BRAF遺伝子変異が多い。 ・濾胞癌(約5%):濾胞上皮由来。血行性に肺・骨へ転移しやすい。細胞診では濾胞腺腫との区別が困難で、被膜浸潤・脈管浸潤の有無により組織学的に診断する。 ・髄様癌(1〜2%):傍濾胞細胞(C細胞)由来。カルシトニン・CEA高値。約1/4〜1/3が遺伝性で、多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2、RET遺伝子変異)に合併する。アミロイド沈着を伴う。 ・未分化癌(1〜2%):高齢者に多く、急速に増大し予後は極めて不良。乳頭癌などから未分化転化して生じることがある。 ・悪性リンパ腫:橋本病(慢性甲状腺炎)を背景に発生することが多い。

甲状腺結節の超音波で悪性を疑う所見

形状不整、境界不明瞭・粗雑、内部低エコー、縦横比が大きい、微細石灰化(点状高エコー)、境界部低エコー帯(ハロー)の不整・欠如など。

乳頭癌の治療

甲状腺切除(葉切除または全摘)と頸部リンパ節郭清が基本。高リスク例では全摘後に放射性ヨウ素内用療法とTSH抑制療法を行う。術後はサイログロブリンで再発を監視する。

POINT

・乳頭癌は甲状腺癌の約90%、予後良好、リンパ行性転移が多い。 ・超音波の微細石灰化(点状高エコー)=砂粒小体を反映し、乳頭癌に特徴的。 ・細胞診ではすりガラス状核、核溝、核内細胞質封入体。 ・CEA・カルシトニン高値は髄様癌。 ・サイログロブリンは乳頭癌に特異的ではなく、全摘術後の再発マーカーとして有用。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。