「残るウイルス」と「去るウイルス」―慢性肝炎を起こす肝炎ウイルスの見分け方
第104回医師国家試験 I問題 第6問
国試問題にチャレンジ
慢性肝炎の原因となる肝炎ウイルスはどれか。2つ選べ。
- a.A 型
- b.B 型
- c.C 型
- d.D 型
- e.E 型
対話形式の解説
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ドクターまとめ
肝炎ウイルスは、経口感染するA型・E型と、血液・体液を介して感染するB型・C型・D型に分けると整理しやすく、慢性化するのは原則として後者です。ただしD型はB型のHBs抗原を必要とする不完全ウイルスで、単独では慢性肝炎の原因とならないため、慢性肝炎の原因として挙げるべきはB型とC型です。B型は母子感染や乳幼児期の感染で高率にキャリア化し、C型は成人感染でも高率に慢性化して、いずれも肝硬変や肝細胞癌の原因となります。A型は終生免疫が得られ、E型は豚・イノシシ・シカ肉から感染し妊婦で劇症化しやすいなど、各ウイルスの特徴も合わせて押さえておくと、予防や感染対策を含めた臨床判断に役立ちます。
解答・解説
正解はb, cです
肝炎ウイルスにはA型からE型までの5種類があり、「感染経路」と「慢性化するかどうか」で大きく2群に分けて覚えると整理しやすい。
経口感染する群:A型・E型
汚染された水や食品(生の貝類、加熱不十分な豚・イノシシ・シカの肉など)を介して感染する。急性肝炎を起こしても、免疫が正常な人ではウイルスは排除され、慢性化しないのが原則である。
血液・体液を介して感染する群:B型・C型・D型
輸血、針刺し、性行為、母子感染などで感染し、ウイルスが体内に残り続ける「持続感染」を起こし得る。持続感染によって肝臓の炎症が6か月以上続く状態が慢性肝炎であり、さらに肝硬変、肝細胞癌へと進展し得る。 このうちD型肝炎ウイルス(HDV)は単独では増殖できない不完全なウイルスであり、B型肝炎ウイルス(HBV)の外被タンパク(HBs抗原)を借りなければ粒子を作れない。したがってD型は常にB型感染を前提としており、単独で慢性肝炎の原因とはならない。また日本ではHDV感染はまれである。 以上から、それ自体で慢性肝炎の原因となる肝炎ウイルスとして挙げるべきものはB型とC型である。わが国の慢性肝炎・肝硬変・肝細胞癌の原因としても、C型とB型が大部分を占めてきた。
選択肢考察
- ×a. A 型
A型肝炎ウイルス(HAV)はRNAウイルスで、糞便に排出されたウイルスが水や食品(特に生の貝類)を介して口から入る経口感染をする。急性肝炎を起こし、まれに劇症化することはあるが、ウイルスは排除されて慢性化しない。感染後はIgG型HA抗体により終生免疫が得られる。診断にはIgM型HA抗体を用いる。
- ○b. B 型
B型肝炎ウイルス(HBV)はDNAウイルスで、血液・体液を介して感染し、持続感染を起こして慢性肝炎の原因となる。慢性化しやすいかどうかは感染した年齢で大きく異なり、免疫が未熟な出生時(母子感染)や乳幼児期の感染では高率にキャリア(持続感染者)となる一方、成人になってからの感染では多くが一過性感染で治癒する。ただし近年、欧米に多いゲノタイプA(遺伝子型A)は成人感染でも慢性化しやすいことが知られている。HBVは肝細胞の遺伝子に組み込まれるため、肝硬変を経ずに肝細胞癌が生じることもある。
- ○c. C 型
C型肝炎ウイルス(HCV)はRNAウイルスで、主に血液を介して感染する(かつては輸血や注射器の使い回し、現在は刺青・薬物の回し打ちなど)。急性感染後に自然排除される例は少なく、約60〜80%と高率に慢性化するのが特徴である。慢性肝炎は長い年月をかけて肝硬変、肝細胞癌へと進展し得る。現在は直接作用型抗ウイルス薬(DAA)により、大部分の症例でウイルス排除が可能となっている。
- ×d. D 型
D型肝炎ウイルス(HDV)は増殖にHBVのHBs抗原を必要とする不完全RNAウイルスで、HBVと同時に感染する「同時感染」か、HBVキャリアに後から感染する「重複感染(重感染)」の形でしか感染が成立しない。同時感染では多くが一過性に終わるが、重複感染ではHDVも持続感染となりやすく、B型単独よりも重い慢性肝炎や早期の肝硬変化を招く。しかしいずれもHBV感染が前提であり、D型単独で慢性肝炎の原因となるわけではないため、本問では選ばない。
- ×e. E 型
E型肝炎ウイルス(HEV)はRNAウイルスで、A型と同様に経口感染する。途上国では汚染水、日本では加熱不十分な豚・イノシシ・シカの肉や内臓の摂取が主な感染源となる人獣共通感染症である。免疫が正常な人では一過性で慢性化しない。妊婦、特に妊娠後期に感染すると劇症化しやすく死亡率が高い点が重要である。なお臓器移植後などの免疫抑制状態では慢性化する例が報告されているが、一般的な慢性肝炎の原因とはみなされない。
肝炎ウイルスの比較
A型:RNAウイルス/経口感染/慢性化しない/IgM-HA抗体で診断/ワクチンあり B型:DNAウイルス/血液・体液(母子・性行為など)/持続感染し慢性化し得る/HBs抗原・IgM-HBc抗体など/ワクチンあり(2016年から定期接種) C型:RNAウイルス/血液/高率に慢性化/HCV抗体・HCV-RNAで診断/ワクチンなし D型:RNAウイルス(不完全ウイルス)/血液/HBV存在下でのみ感染、重複感染で慢性化しやすい/日本ではまれ E型:RNAウイルス/経口(豚・イノシシ・シカ肉など)/原則慢性化しない/妊婦で劇症化しやすい
慢性肝炎の定義
肝臓の炎症(肝機能検査値の異常とウイルス感染)が6か月以上持続する状態をいう。炎症と線維化が進行すると肝硬変となり、肝細胞癌の発生母地となる。
B型肝炎の慢性化と感染年齢
母子感染(垂直感染)や乳幼児期の感染は、免疫が未熟なためウイルスを異物として排除できず、高率に無症候性キャリアとなる。日本では1986年から母子感染防止事業が行われ、新たなキャリアは大きく減少した。
POINT
・慢性化する肝炎ウイルスはB型・C型(D型はB型存在下でのみ)。 ・A型・E型は経口感染で、原則として慢性化しない。 ・C型は成人感染でも高率に慢性化する。B型は母子感染・乳幼児期感染で慢性化しやすく、成人感染では多くが治癒する。 ・D型はHBVのHBs抗原を必要とし、重複感染で慢性化しやすい。 ・E型は妊婦で劇症化しやすい。
