StudyMed医師国家試験

神経細胞か、髄鞘か―「どこが壊れるか」で見分ける白質の病気

第104回医師国家試験 I問題 第38問

国試問題にチャレンジ

第104回 I問題 第38問

脳の白質が障害されるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.Parkinson病
  2. b.結節性硬化症
  3. c.多発性硬化症
  4. d.Huntington病
  5. e.急性散在性脳脊髄炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、5つの神経疾患のうち脳の白質を障害するものを選ぶ問題だ。カギは、それぞれの疾患の主病変が「神経細胞体」にあるのか「髄鞘」にあるのかを考えること。まず、灰白質と白質の違いを確認しておこう。
医学生医学生
灰白質は神経細胞体が集まっているところで、白質は神経線維が走っているところですよね。解剖実習で脳を割ったとき、白さがはっきりしていて驚きました。
ドクタードクター
いい記憶だね。白質が白く見えるのは、軸索を包む髄鞘、つまりミエリンが脂質に富むからなんだ。中枢神経の髄鞘はオリゴデンドロサイトが作っている。だから白質を主に侵す病気の代表は、軸索は比較的保たれたまま髄鞘が壊れる「脱髄疾患」ということになる。
医学生医学生
脱髄といえば、真っ先に多発性硬化症が浮かびます。
ドクタードクター
正解だ。多発性硬化症は、髄鞘とオリゴデンドロサイトが自己免疫的に障害される代表的な炎症性脱髄疾患。脱髄巣が脳室周囲白質、皮質直下、脳幹・小脳、脊髄、視神経などに多発し、時期を変えて新しい病巣が出てくる。空間的多発と時間的多発がキーワードだね。
医学生医学生
神経内科の講義で、MRIで側脳室に垂直に伸びる卵円形の病変を見ました。Dawson's fingerでしたっけ。
ドクタードクター
その通り。若年成人の女性に多く、視神経炎、感覚障害、運動麻痺のほか、体温上昇で症状が一過性に悪化するUhthoff徴候や、首を前に曲げると背中から手足に電撃痛が走るLhermitte徴候も有名だ。髄液ではオリゴクローナルバンド陽性やIgG indexの上昇がみられる。では急性散在性脳脊髄炎はどうかな。
医学生医学生
名前に「脳脊髄炎」とあるので、炎症で神経細胞そのものがやられる病気のように思えて迷いました。
ドクタードクター
名前だけだとそう感じるよね。でも急性散在性脳脊髄炎は、ウイルス感染やワクチン接種をきっかけに髄鞘に対する免疫反応が起こり、脳と脊髄の白質に散在性の脱髄をきたす疾患なんだ。病理では白質の小静脈周囲に脱髄と炎症細胞浸潤がみられる、いわゆる静脈周囲性脱髄だ。だからこれも白質の疾患として正しい。
医学生医学生
多発性硬化症とはどう区別するんですか。どちらも白質に病変が散らばっていますよね。
ドクタードクター
大事なポイントだ。急性散在性脳脊髄炎は小児に多く、麻疹や水痘などの感染後、あるいはワクチン接種後に、発熱や頭痛に続いて意識障害やけいれんなどの脳症症状を伴って急に発症する。典型的には単相性で、再発を繰り返す多発性硬化症とはそこが違う。MRIでも、大きく境界不明瞭な病変が同時期にそろって出てくるのが特徴だ。治療はステロイドパルス療法が第一選択になる。
医学生医学生
では残りの選択肢です。Parkinson病は中脳黒質のドパミン神経が脱落する病気なので、灰白質の病気ですね。
ドクタードクター
その通り。黒質緻密部のドパミン作動性神経細胞が変性し、残った細胞にはα-シヌクレインを主成分とするLewy小体がみられる。主病変は神経細胞体、つまり灰白質だ。Huntington病はどう考える?
医学生医学生
CAGリピートの伸長で尾状核が萎縮する病気でした。CBTの勉強で、側脳室前角が外側に広がる画像を覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。線条体、特に尾状核の中型有棘神経細胞が選択的に脱落して、舞踏運動、認知機能障害、精神症状を呈する。主病変は大脳基底核という灰白質だから、これも白質の疾患ではない。最後に結節性硬化症はどうだろう。
医学生医学生
「硬化症」とつくので多発性硬化症の仲間かと一瞬思いましたが、遺伝性の神経皮膚症候群でしたよね。
ドクタードクター
そう、名前に惑わされないことが大切だ。TSC1またはTSC2遺伝子の異常で全身に過誤腫ができる常染色体顕性遺伝の疾患で、脳では大脳皮質の皮質結節や、側脳室壁の上衣下結節、上衣下巨細胞性星細胞腫が特徴的だ。皮質や脳室周囲の過誤腫性病変が主体で、白質の脱髄を主病態とする病気ではない。顔面の血管線維腫、てんかん、知的障害の3徴も一緒に覚えておこう。
医学生医学生
神経変性疾患は神経細胞が脱落する灰白質の病気、脱髄疾患は白質の病気、と分けて考えればいいんですね。
ドクタードクター
その整理で十分戦える。発展として、白質を侵す疾患はほかにもある。抗アクアポリン4抗体が関わる視神経脊髄炎スペクトラム障害、JCウイルスがオリゴデンドロサイトに感染する進行性多巣性白質脳症、副腎白質ジストロフィーなどの遺伝性白質ジストロフィー、低ナトリウム血症の急速補正で起こる浸透圧性脱髄症候群、小血管病によるBinswanger病などだ。
医学生医学生
低ナトリウム血症の補正速度は、内科の実習で指導医の先生にかなり強く注意されました。
ドクタードクター
臨床ではとても大事な点だね。補正が速すぎると橋などに脱髄が起こり、重い後遺症を残しうる。また、免疫抑制状態の患者で亜急性に進行する多巣性の白質病変を見たら進行性多巣性白質脳症を疑う、というように、白質病変を見たときに背景まで考える習慣をつけておこう。

まとめ

中枢神経は神経細胞体が集まる灰白質と、髄鞘に包まれた神経線維が走る白質に分けられ、白質を主に侵す代表は髄鞘が障害される脱髄疾患です。多発性硬化症は空間的・時間的多発を示し再発と寛解を繰り返す自己免疫性脱髄疾患、急性散在性脳脊髄炎は感染やワクチン接種後に小児に多く発症する原則単相性の静脈周囲性脱髄で、いずれも白質の疾患です。一方、Parkinson病(黒質)やHuntington病(尾状核)は神経細胞が脱落する灰白質の変性疾患であり、結節性硬化症の脳病変は皮質結節や上衣下結節などの過誤腫性病変で脱髄疾患ではありません。白質疾患にはほかに視神経脊髄炎スペクトラム障害、進行性多巣性白質脳症、白質ジストロフィー、浸透圧性脱髄症候群なども含まれます。「病変が神経細胞体にあるか髄鞘にあるか」という視点は、神経疾患の病態理解と画像の読み解きの基礎になります。

解答・解説

正解はc, eです

中枢神経系の組織は、神経細胞体が集まる灰白質(大脳皮質、大脳基底核、脳幹の神経核、小脳皮質など)と、神経線維(軸索)が集まる白質に大きく分けられる。白質が白く見えるのは、軸索を取り巻く髄鞘(ミエリン)が脂質に富むためであり、中枢神経系の髄鞘はオリゴデンドロサイト(稀突起膠細胞)によって作られる。 白質を主に侵す疾患の代表は「脱髄疾患」である。脱髄とは、軸索は比較的保たれたまま髄鞘が壊れる病態であり、後天性の炎症性脱髄疾患として多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)、急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis:ADEM)、視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)などがある。このほか、先天性の髄鞘形成異常である白質ジストロフィー(副腎白質ジストロフィー、異染性白質ジストロフィーなど)、JCウイルスによる進行性多巣性白質脳症(PML)、Binswanger型の虚血性白質病変なども白質の疾患である。 これに対し、神経変性疾患の多くは特定の神経細胞群が脱落する「灰白質の疾患」である。Parkinson病(中脳黒質)やHuntington病(線条体、特に尾状核)がその典型である。 本問では、各疾患の主病変が「神経細胞体(灰白質)」「髄鞘(白質)」「皮質・脳室上衣下の過誤腫性病変」のいずれにあるかを考えれば、白質を障害するものとしてMSとADEMの2つを選ぶことができる。

選択肢考察

  1. ×a.  Parkinson病

    誤り。Parkinson病は、中脳黒質緻密部のドパミン作動性神経細胞が変性・脱落し、線条体へのドパミン供給が減少することで、安静時振戦・筋強剛・無動・姿勢保持障害などのパーキンソニズムをきたす疾患である。残存神経細胞内にはα-シヌクレインを主成分とするLewy小体がみられる。主病変は神経細胞体の集まる灰白質(黒質、さらに進行すると青斑核、迷走神経背側核、大脳皮質など)であり、白質を主に侵す疾患ではない。

  2. ×b.  結節性硬化症

    誤り。結節性硬化症は、TSC1またはTSC2遺伝子の異常による常染色体顕性(優性)遺伝の神経皮膚症候群である。mTOR経路の抑制が外れることで、全身に過誤腫が生じる。中枢神経系の特徴的病変は、大脳皮質の皮質結節(cortical tuber)、側脳室壁の上衣下結節(subependymal nodule;しばしば石灰化する)、および上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA)であり、いずれも皮質や脳室周囲の過誤腫性・腫瘍性病変である。白質の脱髄を主病態とする疾患ではない。臨床的には顔面の血管線維腫、てんかん、知的障害がVogtの3徴として知られ、白斑(葉状白斑)、爪囲線維腫、心横紋筋腫、腎血管筋脂肪腫、肺リンパ脈管筋腫症なども合併する。

  3. ○c.  多発性硬化症

    正しい。MSは、中枢神経系の髄鞘およびそれを形成するオリゴデンドロサイトが自己免疫的な機序で後天的に障害される代表的な炎症性脱髄疾患である。脱髄巣は脳室周囲白質、皮質直下、テント下(脳幹・小脳)、脊髄、視神経などに多発し(空間的多発)、時期を変えて新たな病巣が出現する(時間的多発)ため、症状は再発と寛解を繰り返す。MRIでは側脳室に垂直に伸びる卵円形の白質病変(ovoid lesion、FLAIRで縦断像にするとDawson's fingerとも呼ばれる)が特徴的である。若年成人の女性に多く、視神経炎、感覚障害、運動麻痺、Uhthoff徴候(体温上昇で症状が一過性に悪化)、Lhermitte徴候(頸部前屈で背中から四肢に放散する電撃痛)などがみられる。髄液ではオリゴクローナルバンドの陽性やIgG indexの上昇がみられる。

  4. ×d.  Huntington病

    誤り。Huntington病は、第4染色体上のHTT(ハンチンチン)遺伝子におけるCAGリピートの異常伸長による常染色体顕性(優性)遺伝の神経変性疾患である。世代を経るごとに発症年齢が若くなる表現促進現象がみられる。線条体(特に尾状核)の中型有棘神経細胞が選択的に脱落し、舞踏運動、認知機能障害、精神症状(性格変化、うつなど)を呈する。画像では尾状核の萎縮により側脳室前角が外側に拡大する(butterfly appearance)。主病変は灰白質である大脳基底核であり、白質の疾患ではない。

  5. ○e.  急性散在性脳脊髄炎

    正しい。ADEMは、ウイルス感染やワクチン接種を契機として、中枢神経系の髄鞘に対する免疫反応が生じ、脳・脊髄の白質に散在性の炎症性脱髄をきたす疾患である。病理学的には白質の小静脈周囲に脱髄巣と炎症細胞浸潤がみられる(静脈周囲性脱髄)。先行感染としては麻疹、風疹、水痘、流行性耳下腺炎などの発疹性ウイルス感染や上気道感染が知られ、感染後は発疹出現などの数日~1週間後、ワクチン接種後は1~2週間程度で発症することが多い。小児に多く、発熱・頭痛・嘔吐に続いて意識障害、けいれん、多巣性の神経症状が急性に出現する。MRIでは両側性・非対称性の大きな白質病変が多発し、深部灰白質(視床や基底核)が侵されることもある。典型的には単相性の経過をとる点でMSと異なる。治療はステロイドパルス療法が第一選択で、効果が不十分な場合は免疫グロブリン大量静注療法や血漿交換が行われる。

MSとADEMの比較

・経過:MSは再発・寛解を繰り返す(時間的多発)。ADEMは原則として単相性。 ・好発:MSは若年成人(特に女性)。ADEMは小児に多い。 ・先行事象:ADEMでは感染やワクチン接種が先行することが多い。 ・症状:ADEMは発熱や意識障害(脳症)を伴うことが多い。MSでは意識障害は通常みられない。 ・MRI:MSは比較的小さな卵円形病変が脳室周囲などにみられ、新旧の病変が混在する。ADEMは大きく境界不明瞭な病変が同時期に多発し、造影効果もそろっていることが多い。 ・髄液:MSではオリゴクローナルバンド陽性が多い。ADEMでは陰性のことが多い。

白質を主に侵す主な疾患

・炎症性脱髄疾患:MS、ADEM、NMOSD(抗アクアポリン4抗体陽性)、MOG抗体関連疾患 ・感染症:進行性多巣性白質脳症(PML、JCウイルスによるオリゴデンドロサイトの感染)、HIV脳症 ・遺伝性の白質ジストロフィー:副腎白質ジストロフィー、異染性白質ジストロフィー、Krabbe病 ・代謝・中毒:浸透圧性脱髄症候群(低ナトリウム血症の急速な補正による橋中心髄鞘崩壊症など)、一酸化炭素中毒の間欠型 ・血管性:Binswanger病(小血管病による広範な白質病変)、CADASIL

灰白質を主に侵す主な疾患

Parkinson病(黒質)、Huntington病(尾状核)、Alzheimer病(大脳皮質・海馬)、筋萎縮性側索硬化症(運動ニューロン)、脊髄小脳変性症の多く(小脳皮質・脳幹核)など。

POINT

・白質=髄鞘に富む神経線維の集まり。白質を侵す代表は脱髄疾患(MS、ADEMなど)。 ・MS:空間的・時間的多発を示す自己免疫性の中枢神経脱髄疾患。再発・寛解を繰り返す。 ・ADEM:感染後・ワクチン接種後に生じる静脈周囲性脱髄。小児に多く、原則単相性。 ・Parkinson病(黒質)、Huntington病(尾状核)は神経細胞が脱落する灰白質の変性疾患。 ・結節性硬化症の脳病変は皮質結節・上衣下結節・SEGAであり、白質の脱髄疾患ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。