カステラの後に突然の蒼白―卵アレルギー児に起きたアナフィラキシーショックを見抜く
第104回医師国家試験 H問題 第25問
国試問題にチャレンジ
3歳の男児。友人の家でカステラを食べた後に突然嘔吐し,全身蒼白になり,搬入された。卵を食べて蕁麻疹が出たことがあった。意識はもうろうとしている。四肢は冷たい。脈拍140/分,整。 最も考えられるのはどれか。
- a.腸重積
- b.不整脈
- c.食道異物
- d.てんかん発作
- e.アナフィラキシーショック
対話形式の解説
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ドクターまとめ
食物アレルギーの既往がある小児が、原因食物を含む食品を食べた直後に嘔吐、全身蒼白、四肢冷感、頻脈、意識障害を急激に呈した場合は、アナフィラキシーショックをまず考えます。アナフィラキシーの約1〜2割は皮膚症状を欠くため、蕁麻疹がないことは否定の根拠になりません。腸重積、不整脈、食道異物、てんかん発作は、アレルゲン摂取直後の発症とショック・意識障害の同時出現をまとめて説明できない点で区別できます。治療の第一選択はアドレナリン0.01 mg/kg(小児最大0.3 mg)の大腿前外側部筋注で、仰臥位・下肢挙上、酸素、輸液を併せて行い、二相性反応に備えて経過観察します。カステラなど卵を含む加工食品にも注意を払い、自己注射薬の指導や園・学校との連携まで見据えることが、命を守る実践的な知識になります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・誘因:カステラ摂取後に「突然」症状が出現した。カステラは鶏卵を主原料の一つとする菓子である。 ・既往:卵を食べて蕁麻疹が出たことがある → 鶏卵に対する即時型食物アレルギーが疑われる。 ・消化器症状:嘔吐。 ・循環不全の徴候:全身蒼白、四肢冷感、頻脈(140/分。3歳児の安静時心拍数はおおむね80〜120/分程度であり明らかに速い)。 ・中枢神経症状:意識もうろう(脳血流低下による意識障害)。 ・脈は整であり、不整脈を示唆する所見はない。
診断へのプロセス
アレルゲン(卵)を含む食品の摂取直後に、消化器症状(嘔吐)に加えて循環不全(蒼白、四肢冷感、頻脈)と意識障害が急激に出現している。これは複数の臓器にまたがる全身性の即時型アレルギー反応、すなわちアナフィラキシーであり、血圧低下・末梢循環不全・意識障害を伴うことからアナフィラキシーショックと判断できる。本例では皮膚症状の記載はないが、アナフィラキシーの約1〜2割では皮膚・粘膜症状を欠くため、皮膚症状がないことは否定の根拠にならない。既知のアレルゲンへの曝露後に血圧低下や循環不全が生じれば、それだけでアナフィラキシーと診断できる。 鑑別としては、小児の急な嘔吐と顔面蒼白をきたす腸重積、ショックの原因となる不整脈、異物、意識障害の原因としてのてんかん発作などが挙がるが、いずれも「アレルゲン摂取直後の発症」「卵アレルギーの既往」「ショックと意識障害の同時出現」をまとめて説明できない。
設問の考え方
食物アレルギーの既往がある小児が、原因食物を含む食品を食べた直後に急激な全身症状を呈したら、まずアナフィラキシーを考え、ただちにアドレナリン筋注を行う必要がある病態として認識することが大切である。
選択肢考察
- ×a. 腸重積
誤り。腸重積は口側の腸管が肛門側の腸管内に入り込む疾患で、生後3か月〜2歳前後に多い。典型的には間欠的な激しい腹痛(間欠的啼泣・不機嫌)、嘔吐、イチゴゼリー状の粘血便が三徴で、右上腹部にソーセージ様腫瘤を触れる。腹痛発作時に顔面蒼白となることはあるが、本例には腹痛や血便の記載がなく、食物摂取直後に急激にショック・意識障害に至る経過や卵アレルギーの既往との関係も説明できない。
- ×b. 不整脈
誤り。脈拍は140/分で「整」と記載されており、不整脈を示す所見はない。完全房室ブロックなどの徐脈性不整脈や心室頻拍などの頻脈性不整脈では、心拍出量低下から蒼白・意識障害・嘔吐をきたしうるが、脈の異常(著しい徐脈や不整、極端な頻拍)を伴うのが通常である。本例の頻脈はショックに対する代償反応として説明でき、また食物摂取との時間的関連や卵アレルギーの既往とも結びつかない。
- ×c. 食道異物
誤り。小児の食道異物は硬貨やボタン電池、玩具などの誤飲で起こり、流涎(よだれ)、嚥下困難、嚥下時痛、摂食拒否、嘔吐などが主な症状である。柔らかいカステラが食道異物となることは考えにくく、また食道異物のみで急激な循環不全や意識障害を起こすことは通常ない(気道の閉塞による窒息ではチアノーゼや呼吸困難が前面に出る)。
- ×d. てんかん発作
誤り。てんかん発作では、強直間代けいれん、欠神(意識の短時間の途絶)、ミオクロニー発作、脱力発作などの発作症状が中心で、発作後にもうろう状態となることはある。しかし本例にはけいれんなどの発作症状の記載がなく、四肢冷感・全身蒼白・頻脈といった循環不全の所見はてんかん発作では説明できない。食物摂取直後に発症し卵アレルギーの既往がある点もてんかんとは結びつかない。
- ○e. アナフィラキシーショック
正しい。卵摂取で蕁麻疹が出た既往(鶏卵アレルギー)があり、卵を含むカステラを食べた直後に、嘔吐(消化器症状)、全身蒼白・四肢冷感・頻脈(循環不全)、意識もうろう(脳灌流低下)が急激に出現している。IgE抗体を介した即時型(I型)アレルギー反応により、肥満細胞・好塩基球からヒスタミンなどの化学伝達物質が大量に放出され、血管拡張と血管透過性亢進による血管内容量の減少から血圧低下・ショックに至った病態と考えられる。治療の第一選択はアドレナリン0.01 mg/kgの大腿前外側部への筋肉内注射である。
アナフィラキシーとは
アレルゲンなどの侵入により、複数の臓器に全身性のアレルギー症状が急速に惹起され、生命に危機を与えうる過敏反応である。血圧低下や意識障害を伴うものをアナフィラキシーショックという。小児では食物(鶏卵、牛乳、小麦、木の実類、落花生など)が原因として最も多く、成人では薬剤、ハチ毒なども重要である。
診断の考え方(日本アレルギー学会のガイドラインに準拠)
以下のいずれかを満たす場合にアナフィラキシーの可能性が高い。 1. 皮膚・粘膜症状(蕁麻疹、瘙痒、口唇腫脹など)が急速に出現し、さらに呼吸器症状、循環器症状(血圧低下・臓器不全)、重度の消化器症状のいずれかを伴う。 2. 典型的な皮膚症状がなくても、アレルゲンの可能性が高いものへの曝露後に、血圧低下、気管支けいれん、喉頭症状のいずれかが急速に出現する。 (小児の収縮期血圧低下の目安:1〜10歳では「70 mmHg+2×年齢」未満)
主な症状
・皮膚・粘膜:蕁麻疹、紅潮、瘙痒、口唇・眼瞼浮腫 ・呼吸器:咳嗽、喘鳴、呼吸困難、嗄声、喉頭浮腫による上気道閉塞 ・循環器:血圧低下、頻脈、末梢冷感、蒼白 ・消化器:嘔吐、腹痛、下痢 ・中枢神経:不穏、意識障害
治療
1. アドレナリン筋注:0.01 mg/kg(1 mg/mLの製剤で0.01 mL/kg)を大腿前外側部に筋注。最大量は小児0.3 mg、成人0.5 mg。効果不十分なら5〜15分ごとに反復する。α1作用で血管収縮・血圧上昇、β1作用で心収縮力増強、β2作用で気管支拡張と化学伝達物質の遊離抑制をもたらす。 2. 体位:仰臥位で下肢を挙上する(嘔吐があれば顔を横に向ける)。急に立たせたり座らせたりしない。 3. 酸素投与、静脈路確保と細胞外液(生理食塩液など)の急速輸液。 4. 補助的治療:抗ヒスタミン薬(皮膚症状)、β2刺激薬吸入(気管支けいれん)、副腎皮質ステロイド(二相性反応の予防目的で用いられることがあるが効果は確立していない)。 5. 二相性反応(数時間後の症状再燃)に備えて一定時間の経過観察を行う。
再発予防
原因食物の除去(必要最小限)、アドレナリン自己注射薬(エピペン®)の処方と使用指導、保育所・学校との情報共有(生活管理指導表)。
POINT
・食物アレルギーの既往+原因食物を含む食品の摂取直後の急激な嘔吐・蒼白・四肢冷感・頻脈・意識障害 → アナフィラキシーショック。 ・カステラ、ケーキ、マヨネーズなどの加工食品には卵が含まれることに注意する。 ・皮膚症状を欠くアナフィラキシーもある。 ・第一選択治療はアドレナリン0.01 mg/kg大腿前外側部筋注(小児最大0.3 mg)。抗ヒスタミン薬やステロイドは補助にすぎない。 ・仰臥位・下肢挙上、酸素、輸液、二相性反応に備えた経過観察。
