StudyMed医師国家試験

「熟練」はサイクルに入らない―PDCAで回す医療の質改善

第104回医師国家試験 H問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第104回 H問題 第10問

PDCAサイクル〈デミングサイクル〉に含まれないのはどれか。

  1. a.計画
  2. b.実行
  3. c.熟練
  4. d.評価
  5. e.改善

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、医療の質管理の基本となるPDCAサイクルの問題だ。4つの段階がそれぞれ何の頭文字かを思い出せれば、すぐに解ける。ただ、せっかくなので、なぜこのサイクルが医療現場で重視されるのかまで一緒に考えてみよう。
医学生医学生
Plan、Do、Check、Actですよね。公衆衛生の講義で、品質管理の話として習いました。
ドクタードクター
その通り。Planが計画、Doが実行、Checkが評価、Actが改善だ。選択肢を見ると、計画・実行・評価・改善の4つはそのまま当てはまる。残る「熟練」はどの段階にも当たらないから、これが正解になる。
医学生医学生
「熟練」は、経験を積んでうまくなる、という意味ですよね。サイクルを何度も回せば上達する気もしますが……。
ドクタードクター
いいところに引っかかったね。でも、PDCAの考え方はむしろその逆なんだ。個人の経験や勘に頼るのではなく、計画を立て、結果を検証し、改善策を次の計画に組み込む。この流れを「仕組み」として繰り返すことで、組織全体の質を高める。だから熟練はサイクルの構成要素ではないんだ。
医学生医学生
なるほど。ベテランの先生がいなくなっても質が落ちないようにする、という発想ですか。
ドクタードクター
まさにそう。では各段階をもう少し詳しく見よう。計画の段階では現状を把握して問題点を見つけ、目標を立てる。このとき、目標はできるだけ数値など測れる形にしておくのがコツだ。
医学生医学生
「頑張って減らす」ではなく「転倒件数を半年で何割減らす」のように決めるわけですね。
ドクタードクター
そう。そうしないと後で評価ができないからね。実行の段階では計画どおりに取り組むと同時に、やったことやデータを記録しておく。評価の段階では、その結果を目標と比べて、うまくいった点といかなかった点、そしてその原因を分析する。
医学生医学生
臨床実習の感染対策の勉強会で、病棟ごとの手指衛生の遵守率がグラフで掲示されていました。あれが評価の段階でしょうか。
ドクタードクター
よく見ていたね。遵守率のモニタリングは典型的な評価だ。そして改善の段階では、うまくいった方法は標準化して定着させ、問題点には対策を打つ。たとえば手指消毒剤の置き場所を見直したり、教育をやり直したりする。その改善策を次の計画に反映させることで、サイクルがまた回り始める。
医学生医学生
1周で終わりではなく、ぐるぐる回し続けるのが大事なんですね。
ドクタードクター
そう。らせん階段を上るように少しずつ質が上がっていくイメージだ。ちなみに、なぜデミングサイクルとも呼ばれるか知っているかな。
医学生医学生
Demingという人の名前でしょうか。
ドクタードクター
正解。統計的品質管理を広めたW. Edwards Demingの名前に由来する。もとは統計学者Shewhartが示した品質管理のサイクルにさかのぼり、戦後の日本の製造業でQC活動として定着した。Deming自身は後にCheckをStudyに置き換えたPDSAサイクルを提唱していて、医療の質改善では小さな試行を素早く繰り返すPDSAもよく使われるんだ。
医学生医学生
医療安全の講義で、インシデントレポートは犯人捜しではなく再発防止のためだと教わりました。それもPDCAにつながっていますか。
ドクタードクター
まさにつながっている。報告を集めて分析するのが評価、再発防止策を立てて実施するのが改善と次の計画・実行、その効果をまた検証する。病院機能評価やクリニカルパスの見直し、特定健診・特定保健指導や健康日本21のような地域の保健事業も、同じ考え方で運営されている。関連して、確立した方法を維持するためのSDCAサイクル、変化の速い状況で素早く判断するためのOODAループという手法もあるので、名前だけでも知っておくといい。
医学生医学生
研修医になったら、自分の病棟の取り組みがどの段階にあるのかを意識してみます。
ドクタードクター
それが一番の勉強になるよ。質の改善は管理者だけの仕事ではなく、現場の一人ひとりが関わるものだからね。

まとめ

PDCAサイクル(デミングサイクル)は、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)の4段階を繰り返し、業務の質を継続的に高める管理手法です。「熟練」はどの段階にも当たらず、個人の経験や勘に頼らず検証と改善を仕組みとして回す点がこの手法の本質です。目標を測れる形で設定し、実行内容を記録し、結果を検証して改善策を次の計画へつなげることで、質がらせん状に向上していきます。医療では医療安全、院内感染対策、病院機能評価、地域の保健事業などで広く用いられ、PDSAサイクルやSDCAサイクルといった関連手法もあります。現場の取り組みをPDCAの枠組みで捉える視点は、チーム医療で質の改善に参加するための基礎となります。

解答・解説

正解はcです

PDCAサイクルは、業務の質を継続的に高めるための管理手法である。次の4段階の英語の頭文字をとって名付けられている。 ・P(Plan): 計画 ・D(Do): 実行 ・C(Check): 評価(点検) ・A(Act): 改善(処置) Aの段階で得られた改善策を次のPに反映させ、4段階を何度も回し続ける。そうすることで、らせん階段を上るように質が少しずつ高まっていく。 もともとは製造業の品質管理の手法として広まった。統計的品質管理の普及に貢献したW. Edwards Demingの名から、デミングサイクルとも呼ばれる。医療の分野でも、医療安全対策、感染対策、病院の機能評価、診療の質の改善、地域の保健事業の運営など、さまざまな場面で使われている。 本問では、4段階の日本語訳である計画・実行・評価・改善がそれぞれP・D・C・Aに当たる。「熟練」はどの段階にも当たらない。

選択肢考察

  1. ×a.  計画

    Plan(計画)に当たり、サイクルの第1段階である。現状を把握して問題点を見つけ出し、目標を設定する。そして、それを達成するための具体的な方法や手順を定める。目標は、後で評価しやすいように、できるだけ数値などの測れる形で立てることが望ましい。

  2. ×b.  実行

    Do(実行、実施)に当たり、第2段階である。計画に沿って実際に取り組みを行う。次の評価の段階で結果を検証できるように、実行した内容や得られたデータを記録しておくことが重要である。

  3. ○c.  熟練

    「熟練」は、経験を積んで技能が身につくことを指す言葉である。PDCAサイクルの4段階(計画・実行・評価・改善)のいずれにも当たらない。PDCAサイクルは、個人の経験や勘に頼らず、計画と結果の検証を仕組みとして繰り返すことで組織的に質を高める考え方である。その意味でも、熟練はこのサイクルの構成要素ではない。

  4. ×d.  評価

    Check(評価、点検)に当たり、第3段階である。実行した結果を計画や目標と比べ、うまくいった点とうまくいかなかった点、そしてその原因を分析する。医療現場では、インシデント報告の集計や、診療の質を表す指標(クオリティ・インディケーター)の測定などがこの段階に当たる。

  5. ×e.  改善

    Act(改善、処置)に当たり、第4段階である。評価の結果をもとに、うまくいった方法は標準化して定着させ、問題点には対策を講じる。ここで得られた改善策を次の計画に反映させることで、サイクルが回り続ける。

PDCAサイクルの成り立ち

PDCAサイクルのもとになる考え方は、統計学者W. A. Shewhartが示した品質管理のサイクルにさかのぼる。Demingがこれを日本などで広め、第二次世界大戦後の日本の製造業で品質管理(QC)活動の手法として定着した。Deming自身は後年、Check(点検)の代わりにStudy(学習・検討)を用いたPDSAサイクルを提唱した。医療の質改善の分野では、小規模な試行を繰り返すPDSAサイクルもよく用いられる。

医療での活用例

・医療安全: インシデント・アクシデント報告を分析し、再発防止策を立てて実施し、その効果を検証する ・院内感染対策: 手指衛生の遵守率を監視し、教育や物品の配置を見直す ・病院機能評価、クリニカルパスの見直し ・保健事業: 特定健康診査・特定保健指導、健康日本21など、地域の保健活動の計画と評価

関連する管理手法

・SDCAサイクル: Standardize(標準化)-Do-Check-Act。PDCAで確立した方法を維持するために回す ・OODAループ: Observe(観察)-Orient(状況判断)-Decide(意思決定)-Act(行動)。状況が素早く変わる場面での意思決定に用いる

POINT

・PDCAサイクル=Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善) ・デミングサイクルとも呼ばれる。品質管理から生まれ、医療安全や感染対策などで継続的な質の改善に用いられる ・Actで得た改善策を次のPlanにつなげ、サイクルを繰り返し回すことが重要である ・「熟練」はPDCAサイクルに含まれない

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。