数字の洪水に惑わされない―罹患率は「新しく発症した人」だけを数える
第104回医師国家試験 G問題 第68問
国試問題にチャレンジ
都市Aは人口50万人で,疾患Bの登録事業を実施している。2008年の初めの時点での疾患Bの患者数は120人,2008年に疾患Bが新たに発症したのは40人,疾患Bが治癒したのは20人,疾患Bで死亡したのは30人であった。 都市Aにおける2008年の疾患Bの罹患率(人口10万対)はどれか。
- a.4
- b.6
- c.8
- d.20
- e.24
- f.32
- g.50
対話形式の解説
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ドクターまとめ
罹患率は一定期間に新たに発症した人数を観察集団の人口で割った指標で、本問では新規発症40人を人口50万人で割り、人口10万対8となります。期首の患者数は時点有病率、期首患者と新規発症の合計は期間有病率、死亡数は死因別死亡率の計算に使う数値であり、罹患率には含めません。厳密には分母はリスク人口や年央人口を用い、定常状態では有病率≒罹患率×平均有病期間という関係が成り立ちます。罹患率は発症リスクや危険因子の検討に、有病率は医療需要の把握に用いられるため、両者の違いを正しく理解することは疫学研究の読解や地域医療の計画に欠かせません。分子と分母を定義どおりに確認する習慣が、公衆衛生の計算問題を確実に解く鍵になります。
解答・解説
正解はcです
問われていること
疫学の基本指標である罹患率(incidence rate)を、与えられたデータから正しく選び出して計算できるかを問う問題である。問題文には期首の患者数・新規発症数・治癒数・死亡数と多くの数値が並ぶが、罹患率の計算に使うのは「観察期間中に新たに発症した人数」と「その集団の人口」だけである。
データの整理
・都市Aの人口:50万人 ・2008年初めの時点の患者数:120人(すでに病気を持っている人。有病者) ・2008年中の新規発症:40人 ・2008年中の治癒:20人、死亡:30人(期首の患者と新規発症者を合わせた最大160人の中から生じたもの)
計算
罹患率=一定期間内の新規発症数÷観察集団の人口(×基準人口) =40人÷500,000人×100,000 =40÷5 =8(人口10万対) 厳密には、分母は「その病気にかかる可能性のある人(リスク人口)」であり、すでに罹患している120人は除くべきだが、50万人に対して120人はごくわずかで、結果にはほとんど影響しない。また年の途中で人口が変動する場合は年央人口(7月1日現在の人口)を用いるのが通例であるが、本問では人口50万人をそのまま用いればよい。 期首の患者数(120人)、治癒数(20人)、死亡数(30人)は罹患率には関係しない数値であり、有病率・死亡率など別の指標を計算させる誤答へ誘導するための情報である。
選択肢考察
- ×a. 4
治癒した20人を人口10万対に換算した値(20÷5=4)である。治癒数は病気が終わった人の数であり、新たに病気になった人の数ではないので、罹患率の計算には用いない。
- ×b. 6
疾患Bによる死亡30人を人口10万対に換算した値(30÷5=6)であり、これは疾患Bの死亡率(死因別死亡率、人口10万対)に相当する。罹患率とは別の指標である。
- ○c. 8
罹患率は期間中の新規発症数を人口で割って求める。2008年の新規発症は40人、人口は50万人なので、40÷500,000×100,000=8(人口10万対)となる。期首の患者数・治癒数・死亡数は計算に含めない。
- ×d. 20
新規発症数40人を用いて人口10万対に換算すると8であり、20にはならない。例えば年末時点の有病者数(120+40-20-30=110人)で計算しても22となり、20はいずれの妥当な指標にも一致しない。罹患率としては誤りである。
- ×e. 24
2008年初めの患者数120人を人口10万対に換算した値(120÷5=24)であり、年初時点の時点有病率に相当する。有病率は「ある時点で病気を持っている人の割合」であり、新たな発症の頻度を示す罹患率とは異なる。
- ×f. 32
期首の患者120人に新規発症40人を加えた160人を人口10万対に換算した値(160÷5=32)であり、2008年の1年間に一度でも疾患Bを有していた人の割合、すなわち期間有病率に相当する。罹患率ではない。
- ×g. 50
新規発症数40人と人口50万人から求められる値は8であり、50にはならない。問題文中のどの数値を組み合わせても、罹患率として50を得る妥当な計算は成り立たない。
罹患率と有病率
・罹患率(incidence rate):一定期間(通常1年)に新たに発症した人数を、その期間の観察集団の人口(本来はリスク人口、あるいは観察人年)で割ったもの。病気の「発生の速さ・起こりやすさ」を示し、危険因子の検討(コホート研究など)に用いられる。 ・有病率(prevalence):ある集団の中で、病気を持っている人の割合。ある一時点で見る時点有病率と、一定期間内に一度でも病気を持っていた人の割合を見る期間有病率がある。医療需要や疾病負担の把握に用いられる。
罹患率・有病率・有病期間の関係
集団が安定した状態(定常状態)で、有病率が小さいとき、 有病率 ≒ 罹患率 × 平均有病期間 が成り立つ。たとえば治療の進歩で死亡が減り有病期間が延びると、罹患率が変わらなくても有病率は上昇する。逆に、急性で短期間に治癒する疾患(感冒など)は罹患率が高くても有病率は低い。
関連する指標
・死亡率(粗死亡率・死因別死亡率):一定期間の死亡数÷人口(人口10万対など)。本問では疾患Bの死亡率は30÷5=6(人口10万対)となる。 ・致命率(致死率):その疾患にかかった人のうち、その疾患で死亡した人の割合。分母が人口全体ではなく患者である点で死亡率と異なる。 ・累積罹患率(リスク):観察開始時に疾患のない人のうち、期間中に発症した人の割合。人年法を用いる罹患率(incidence density)と区別されることがある。
POINT
・罹患率=期間中の新規発症数÷人口(本問:40÷50万×10万=8) ・有病率=ある時点(または期間)に病気を持っている人の数÷人口 ・期首の患者数、治癒数、死亡数は罹患率の計算に使わない(ひっかけの数値) ・有病率 ≒ 罹患率 × 平均有病期間 ・死亡率は分母が人口、致命率は分母が患者数
