StudyMed医師国家試験

脳出血は「個人因子」ではない―ICFで読み解く、ひとりの患者の生活の全体像

第104回医師国家試験 G問題 第48問

国試問題にチャレンジ

第104回 G問題 第48問

53歳の男性。会社員。連日深夜まで働いていたが,1か月前に脳出血をきたし片麻痺を生じた。歩行が困難である。一時は気が滅入りがちであったが,妻の励ましもあり現在は意欲的にリハビリテーションに取り組んでいる。仕事は休職している。  この患者の状態と対応する国際生活機能分類〈ICF〉の項目の組合せで誤っているのはどれか。

  1. a.休職 ―― 参加制約
  2. b.脳出血 ―― 個人因子
  3. c.片麻痺 ―― 機能障害
  4. d.歩行困難 ―― 活動制限
  5. e.配偶者の存在 ―― 環境因子

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、国際生活機能分類、いわゆるICFの構成要素に患者さんの状態を当てはめる問題だ。ポイントは、病気そのもの、身体の働き、日常の行為、社会での役割、そして背景にある環境と個人の特徴を、それぞれ正しい箱に仕分けられるかどうか。まずICFとは何か、覚えているかな。
医学生医学生
WHOが作った障害の分類ですよね。公衆衛生の講義で、昔のICIDHから改訂されたと習いました。
ドクタードクター
そう、2001年にWHOが採択したものだ。ICIDHは疾病から機能障害、能力障害、社会的不利へと一方向に進むマイナス面だけのモデルだった。ICFは生活機能というプラスの面から人を捉え、各要素が双方向に影響し合う相互作用モデルになっている。障害のある人だけでなく、すべての人が対象なんだ。
医学生医学生
構成要素は、健康状態、心身機能・身体構造、活動、参加、それに背景因子でしたっけ。
ドクタードクター
完璧だ。背景因子はさらに環境因子と個人因子に分かれる。そして生活機能の3つのレベルには、それぞれ否定的な側面がある。心身機能・身体構造の問題が機能障害、活動の問題が活動制限、参加の問題が参加制約だ。では、片麻痺はどこに入るかな。
医学生医学生
脳出血で運動機能が損なわれた状態なので、機能障害です。
ドクタードクター
正しい。じゃあ歩行困難は?片麻痺と同じ機能障害だと思う人も多いんだけど。
医学生医学生
うーん、たしかに麻痺のせいで歩けないので、機能障害と迷います。でも歩くという行為ができないという意味では活動制限でしょうか。
ドクタードクター
その考え方でいい。活動とは、歩く、食べる、着替えるといった個人が課題や行為を遂行することだ。片麻痺という機能障害の結果として、歩行という活動が制限されている、という関係になる。次に休職は?
医学生医学生
会社員として職場で役割を果たせなくなっているので、社会への関わりの問題、つまり参加制約ですね。
ドクタードクター
その通り。ICIDHでいう社会的不利がICFの参加制約、能力障害が活動制限に対応すると覚えておくとよい。では、励ましてくれる妻の存在は?
医学生医学生
背景因子ですよね。妻はこの人自身の特徴ではないので、個人因子ではなく環境因子だと思います。
ドクタードクター
よく区別できているね。環境因子には建物や福祉用具のような物的環境だけでなく、家族や友人といった人的環境、周囲の態度、制度やサービスも含まれる。この例では妻の励ましがリハビリの意欲を高めていて、促進因子として働いているわけだ。
医学生医学生
そうなると、残る脳出血が個人因子というのはおかしいですね。脳出血は病気そのものなので、健康状態に入るはずです。
ドクタードクター
正解。疾患、変調、傷害はすべて健康状態だ。個人因子は、健康状態以外のその人固有の背景のこと。年齢、性別、職業、生活歴、ライフスタイル、性格などがそうだ。この方なら、53歳、男性、会社員、連日深夜まで働いていた生活、意欲的に取り組む性格などが個人因子に当たる。
医学生医学生
深夜まで働いていたことは脳出血の原因にも関係しそうなので、個人因子と健康状態が結びついている感じですね。
ドクタードクター
鋭いね。まさにそれが相互作用モデルの考え方だ。矢印は双方向で、個人因子が健康状態に影響することもあれば、環境因子を整えることで活動や参加が改善することもある。たとえば同じ片麻痺でも、手すりや車椅子、家族の支援があれば生活の幅はずいぶん変わる。
医学生医学生
臨床実習でリハビリテーション科を回ったとき、カンファレンスで家屋改修や復職支援まで話し合っていたのを思い出しました。
ドクタードクター
それがICFの実践だね。もう一つ知っておくといいのは、環境因子には詳細な分類コードがあるけれど、個人因子は社会的・文化的な差が大きいためコードが設けられていないこと。それと、背景因子は促進因子にも阻害因子にもなりうる。家族の存在も、関わり方によっては負担になることがあるんだ。
医学生医学生
機能障害だけを見るのではなく、その人の生活や役割全体を見て支援を考える枠組みなんですね。
ドクタードクター
その通り。脳卒中後のリハビリでも、麻痺の回復だけでなく復職や家庭での役割という参加の目標を共有することが、チーム医療の出発点になるよ。

まとめ

国際生活機能分類(ICF)は、健康状態、生活機能の3レベル(心身機能・身体構造、活動、参加)、背景因子(環境因子・個人因子)から成り、各要素が双方向に影響し合う相互作用モデルです。脳出血のような疾患は健康状態に分類され、個人因子ではありません。片麻痺は機能障害、歩行困難は活動制限、休職は参加制約、家族の支えは人的環境としての環境因子、そして年齢・性別・職業・生活歴・性格などが個人因子に当たります。ICIDHの能力障害は活動制限、社会的不利は参加制約に対応し、環境を整えることで活動や参加が改善しうる点がICFの大きな特徴です。患者を病気や麻痺だけでなく生活と役割の全体から捉えるこの枠組みは、リハビリテーションや多職種連携の共通言語として臨床で欠かせません。

解答・解説

正解はbです

問われているテーマ

国際生活機能分類(ICF:International Classification of Functioning, Disability and Health)は、2001年に世界保健機関(WHO)が採択した、人の「生きることの全体像」を表すための共通言語である。1980年の国際障害分類(ICIDH)が「疾病→機能障害→能力障害→社会的不利」という一方向のマイナス面のみのモデルであったのに対し、ICFは中立的・肯定的な用語を用い、各要素が互いに影響し合う双方向のモデルとして構成されている。

ICFの構成要素

・健康状態:疾患、変調、傷害など(例:脳出血) ・生活機能(3つのレベル)と、その否定的側面(障害)  心身機能・身体構造 ⇔ 機能障害(構造障害を含む)  活動(個人が課題や行為を遂行すること)⇔ 活動制限  参加(生活・人生場面への関わり)⇔ 参加制約 ・背景因子  環境因子:物的環境(建物、福祉用具など)、人的環境(家族、友人など)、社会的な態度、制度・サービス  個人因子:年齢、性別、生活歴、職業、ライフスタイル、性格、価値観など、その人固有の特徴

設問の考え方

本例の各事象を上の枠組みに当てはめると、脳出血は「健康状態」、片麻痺は「機能障害」、歩行困難は「活動制限」、休職は「参加制約」、妻の存在と励ましは「環境因子」となる。53歳・男性・会社員であることや、深夜まで働いていた生活歴、意欲的に取り組む性格などは「個人因子」に当たる。脳出血を個人因子とする組合せが誤りである。

選択肢考察

  1. ×a.  休職 ―― 参加制約

    参加とは、仕事・家庭生活・地域活動など社会や人生の場面に関わることを指す。休職は、会社員として職場で役割を果たすという社会参加ができなくなっている状態であり、参加制約に当たる。組合せは正しい。

  2. ○b.  脳出血 ―― 個人因子

    脳出血は疾患そのものであり、ICFでは生活機能に影響を及ぼす「健康状態」に分類される。個人因子とは、健康状態以外のその人固有の背景(年齢、性別、職業、生活歴、ライフスタイル、性格、困難への対処の仕方など)をいう。本例でいえば「53歳」「男性」「会社員」「連日深夜まで働く生活」などが個人因子に当たる。したがってこの組合せは誤りであり、本問の正解となる。

  3. ×c.  片麻痺 ―― 機能障害

    心身機能・身体構造は、身体の生理的・心理的機能と解剖学的部位を指す。脳出血により運動機能が損なわれて生じた片麻痺は、心身機能の問題、すなわち機能障害に当たる。組合せは正しい。

  4. ×d.  歩行困難 ―― 活動制限

    活動とは、歩く、食べる、着替えるなど個人が課題や行為を遂行することである。歩行が困難な状態は、個人の行為の遂行に困難がある状態であり、活動制限に当たる。片麻痺(機能障害)の結果として歩行(活動)が制限されている、という関係を理解しておくとよい。組合せは正しい。

  5. ×e.  配偶者の存在 ―― 環境因子

    環境因子には、建物・道路・福祉用具などの物的環境だけでなく、家族・友人・介護者などの人的環境、周囲の人々の態度、社会制度やサービスも含まれる。励ましてくれる妻の存在は人的環境であり、本例ではリハビリテーションへの意欲を高める促進因子として働いている。組合せは正しい。

ICFの特徴

・障害のある人だけでなく、すべての人を対象とする分類である。 ・生活機能というプラスの面から捉え、その否定的側面として障害を位置づける。 ・健康状態、生活機能の3レベル、背景因子(環境因子・個人因子)の各要素が双方向の矢印で結ばれ、相互に影響し合う(相互作用モデル)。例えば、機能障害が同じでも、環境因子(手すり、車椅子、家族の支援)を整えることで活動や参加を改善できる。 ・背景因子は、生活機能を高める「促進因子」にも、妨げる「阻害因子」にもなりうる。 ・環境因子は詳細に分類コード化されているが、個人因子は社会的・文化的な差が大きいため分類コードは設けられていない。

ICIDH(1980年)との対応

・機能障害(impairment)→ ICFでも機能障害(心身機能・身体構造の問題) ・能力障害(disability)→ ICFの活動制限 ・社会的不利(handicap)→ ICFの参加制約 ICIDHは疾病から社会的不利へ一方向に進むモデルで、環境の影響が考慮されていない点が批判され、ICFへ改訂された。

本例の整理

・健康状態:脳出血 ・機能障害:片麻痺 ・活動制限:歩行困難 ・参加制約:休職 ・環境因子:妻の存在と励まし(促進因子) ・個人因子:53歳、男性、会社員、長時間労働の生活歴、意欲的な性格など

POINT

・ICFは「健康状態」「心身機能・身体構造/活動/参加」「環境因子・個人因子」で構成される相互作用モデル。 ・疾患名(脳出血など)は健康状態であり、個人因子ではない。 ・片麻痺=機能障害、歩行困難=活動制限、休職=参加制約。 ・家族など人的環境は環境因子、年齢・性別・職業・性格などは個人因子。 ・ICIDHの能力障害→活動制限、社会的不利→参加制約に対応する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。