StudyMed医師国家試験

放射線被曝の「早い症状」と「遅い症状」―白内障はなぜ早期に来ないのか

第104回医師国家試験 G問題 第37問

国試問題にチャレンジ

第104回 G問題 第37問

放射線の全身被曝で早期にみられないのはどれか。

  1. a.悪心
  2. b.倦怠感
  3. c.白内障
  4. d.皮膚炎
  5. e.リンパ球数減少

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、放射線の全身被曝による身体的影響を「いつ現れるか」で整理する問題だ。早期(急性)障害と晩期(晩発)障害の違いを、どの細胞が傷つくのかという視点で考えるのがポイントになる。まず、放射線に弱い細胞にはどんな特徴があるかな。
医学生医学生
基礎医学の放射線の講義で、ベルゴニー・トリボンドーの法則を習いました。分裂が盛んで未分化な細胞ほど感受性が高い、でしたよね。
ドクタードクター
その通り。骨髄の造血細胞、腸管上皮、皮膚の基底細胞、精巣の精原細胞などは盛んに分裂しているから、被曝すると比較的すぐに障害が表に出る。これが早期障害の基本的なしくみだ。全身に一度に大量の放射線を浴びると急性放射線症候群になるけれど、最初に何が起こるか知っているかな。
医学生医学生
吐き気が最初に出ると聞いたことがあります。でも、なぜ放射線で吐き気が出るのかがいまひとつ分かりません。
ドクタードクター
機序の詳細はまだ完全には解明されていないけれど、被曝後数時間以内に悪心・嘔吐、倦怠感、食欲不振などの前駆症状が出るのが典型的だ。目安としておよそ1Gy以上の全身被曝で起こりうるとされ、症状が出るまでの時間が短いほど線量が多いと推定される。つまり初期の線量評価の手がかりにもなるんだ。
医学生医学生
放射線治療科の臨床実習で、照射中の患者さんが二日酔いのようにだるいと話していました。あれも同じものですか。
ドクタードクター
よく観察していたね。それは放射線宿酔と呼ばれるもので、悪心や倦怠感、食欲不振が二日酔いに似た形で現れる。だから悪心も倦怠感も早期にみられる症状だ。次に血液はどうだろう。
医学生医学生
骨髄が傷つくので、白血球や血小板が減るのは分かります。ただリンパ球は成熟した細胞なので、法則からすると減りにくいのではと思ってしまいます。
ドクタードクター
そこが有名な例外なんだ。リンパ球は分化した細胞なのに放射線感受性が極めて高く、分裂していなくてもアポトーシスを起こす。そのため全身被曝後、末梢血のリンパ球数は数時間〜48時間以内に速やかに減少する。顆粒球や血小板はその後1〜数週間かけて減っていく。リンパ球の減り方は線量推定にも使われるよ。
医学生医学生
リンパ球減少はむしろ最も早い血液所見なんですね。皮膚炎はどうでしょう。
ドクタードクター
皮膚の基底細胞も分裂が盛んだから、数Gy以上を一度に浴びると数時間〜数日で一過性の初期紅斑が出て、2〜3週間で主紅斑や脱毛、高線量なら落屑や水疱、潰瘍まで進む。放射線治療でも照射野の皮膚炎は治療中に起こる代表的な急性有害事象だ。これも早期障害だね。
医学生医学生
となると残るのは白内障です。水晶体は放射線に弱いと聞きますが、早期には出ないのですか。
ドクタードクター
そう、白内障が正解だ。水晶体の赤道部にある上皮細胞が傷つき、異常な線維細胞が後方へ移動して後嚢下に混濁をつくる。ただ水晶体の細胞はゆっくりとしか入れ替わらないので、発症までに通常数年の潜伏期がある。線量が多いほど潜伏期は短くなるけれど、典型的には晩期障害に分類されるんだ。
医学生医学生
「放射線に弱い」ことと「すぐ症状が出る」ことは別、ということですね。細胞の入れ替わりの速さで時期が決まると。
ドクタードクター
まさにその理解が大切だ。晩期障害には白内障のほか、肺線維症、腎障害、腸管狭窄、甲状腺機能低下症、皮膚萎縮、発癌などがある。血管障害や線維化が長い時間をかけて進むものが多い。
医学生医学生
CBTの勉強で、確定的影響と確率的影響の分類も出てきました。白内障はどちらでしたか。
ドクタードクター
白内障は、しきい線量を超えると発生し、線量が増えるほど重くなる確定的影響(組織反応)だ。一方、発癌や遺伝的影響はしきい線量がないと仮定される確率的影響になる。白内障は「晩期障害」でありながら「確定的影響」という点が混同されやすいので注意したい。
医学生医学生
晩期だから確率的影響、と思い込みそうでした。時期の分類と影響の種類の分類は別の軸なんですね。
ドクタードクター
その通り。臨床的な話もしておこう。国際放射線防護委員会は2011年に水晶体のしきい線量を約0.5Gyへ引き下げ、それに伴って水晶体の等価線量限度も引き下げられた。IVRや透視を多用する医療従事者では、防護眼鏡の着用や線量管理がとても重要になっているんだ。
医学生医学生
将来カテーテル室に入るときは、自分の目を守ることも意識します。

まとめ

放射線の全身被曝による身体的影響は、数週間〜数か月以内に現れる早期障害と、数か月〜数年以上を経て現れる晩期障害に分けられます。早期障害は分裂の盛んな組織の障害によるもので、悪心・嘔吐・倦怠感などの前駆症状(放射線宿酔)、最も早い血液所見であるリンパ球数減少、皮膚炎・脱毛、消化管障害などがみられます。白内障は水晶体上皮の障害により通常数年の潜伏期を経て発症する晩期障害で、しきい線量をもつ確定的影響に分類され、2011年にICRPがしきい線量を約0.5Gyへ引き下げました。時期による分類と確定的・確率的影響の分類を別の軸として整理しておくことは、被曝事故時の対応や医療従事者の放射線防護を考えるうえでの基盤になります。

解答・解説

正解はcです

放射線による身体的影響は、症状が現れるまでの時期によって、被曝後数週間〜数か月以内に現れる早期(急性)障害と、数か月〜数年以上たってから現れる晩期(晩発)障害に分けられる。 早期障害は、細胞分裂が盛んな組織(骨髄の造血細胞、リンパ球、腸管上皮、皮膚の基底細胞、精巣の精原細胞など)が放射線で傷害されることで起こる。全身に一度に大量の放射線を浴びた場合には急性放射線症候群(ARS)を生じ、被曝後数時間以内の悪心・嘔吐・倦怠感などの前駆症状に始まり、線量に応じて造血障害、消化管障害、皮膚障害などが現れる。 一方、晩期障害は、細胞の入れ替わりがゆっくりな組織の障害や、血管の障害・線維化によって長い潜伏期ののちに生じるもので、白内障、肺線維症、腎障害、発癌などが代表である。 本問では、悪心・倦怠感(前駆症状)、皮膚炎(皮膚障害)、リンパ球数減少(造血障害の初期所見)はいずれも早期にみられる。白内障は水晶体の上皮細胞の障害によって長い潜伏期ののちに生じる晩期障害であり、早期にはみられない。

選択肢考察

  1. ×a.  悪心

    悪心・嘔吐は急性放射線症候群の前駆症状の代表であり、およそ1Gy以上の全身被曝で出現しうる。被曝から症状が出るまでの時間が短いほど被曝線量が大きいと推定され、初期の線量評価の手がかりとなる。また放射線治療中にみられる宿酔(放射線宿酔:悪心、食欲不振、倦怠感などの二日酔いに似た症状)の症状でもある。早期にみられる。

  2. ×b.  倦怠感

    倦怠感も悪心・嘔吐、食欲不振、発熱などとともに急性放射線症候群の前駆期にみられる症状であり、放射線宿酔の症状でもある。被曝後数時間〜数日のうちに出現する。早期にみられる。

  3. ○c.  白内障

    放射線白内障は、水晶体の赤道部にある上皮細胞が傷害され、異常な線維細胞が後方へ移動して後嚢下に混濁を形成することで生じる。水晶体の細胞の入れ替わりはゆっくりであるため、被曝から発症まで通常数年(線量が多いほど短く、少ないほど長い)の潜伏期があり、晩期(晩発)障害に分類される。一定の線量(しきい線量)を超えると発生する確定的影響(組織反応)であり、国際放射線防護委員会(ICRP)は2011年にしきい線量を約0.5Gyへ引き下げ、それに伴い水晶体の等価線量限度も引き下げられた。早期にはみられないので、本肢が該当する。

  4. ×d.  皮膚炎

    皮膚の基底細胞は分裂が盛んなため放射線に感受性が高い。一度に数Gy以上の被曝を受けると、数時間〜数日で一過性の初期紅斑が出現し、その後2〜3週間で主紅斑、脱毛、さらに高線量では乾性・湿性落屑、水疱、潰瘍が生じる。放射線治療においても照射野の皮膚炎は治療中〜治療直後に起こる代表的な急性有害事象である。早期にみられる。(なお、皮膚の萎縮・毛細血管拡張・潰瘍などの慢性変化は晩期障害として生じる。)

  5. ×e.  リンパ球数減少

    リンパ球は体内で最も放射線感受性の高い細胞の一つであり、分裂していない成熟リンパ球でも放射線でアポトーシス(細胞死)を起こす。そのため全身被曝後、末梢血リンパ球数は数時間〜48時間以内に速やかに減少し、減少の程度は被曝線量の推定に用いられる。その後、顆粒球・血小板が1〜数週間かけて減少していく(造血障害)。早期にみられる。

放射線による身体的影響の時期別分類

・早期(急性)障害:数週間〜数か月以内に出現 放射線宿酔(悪心・嘔吐・食欲不振・倦怠感)、造血障害(リンパ球減少→顆粒球減少・血小板減少)、消化管障害(下痢・下血)、皮膚・粘膜障害(紅斑・脱毛・落屑・粘膜炎)、一時的な不妊、放射線肺臓炎(照射後1〜3か月ごろ)など ・晩期(晩発)障害:数か月〜数年以上たって出現 白内障、肺線維症、腎障害(放射線腎症)、腸管狭窄・潰瘍、骨壊死、甲状腺機能低下症、皮膚萎縮、永久不妊、発癌(白血病・固形癌)など

確定的影響(組織反応)と確率的影響

・確定的影響:しきい線量があり、それを超えると発生し、線量が増えるほど重症になる。急性障害の大部分と、白内障・不妊などが含まれる。 ・確率的影響:しきい線量はないと仮定され、線量が増えるほど発生確率が高まる(重症度は線量によらない)。発癌と遺伝的影響が該当する。 ・白内障は「晩期障害」かつ「確定的影響」である点に注意する。

急性放射線症候群(ARS)の経過と病型

・経過:前駆期(数時間〜2日、悪心・嘔吐・倦怠感など)→潜伏期(見かけ上症状が落ち着く)→発症期(各臓器障害が顕在化)→回復期または死亡 ・病型(線量が増える順):造血器障害(骨髄障害)→消化管障害→神経・血管障害(中枢神経障害)。高線量ほど潜伏期が短く、重篤になる。

ベルゴニー・トリボンドーの法則

細胞分裂の頻度が高いもの、将来行う分裂回数が多いもの、形態・機能が未分化なものほど放射線感受性が高い。リンパ球は例外的に、分化した細胞でありながら感受性が極めて高い。

POINT

・全身被曝の早期障害:悪心・嘔吐・倦怠感(前駆症状)、リンパ球減少(最も早い血液所見)、皮膚炎・脱毛、下痢 ・晩期障害:白内障、肺線維症、腎障害、発癌など ・白内障は晩期障害であり、確定的影響(組織反応)に分類される ・リンパ球数の減少速度は被曝線量の推定に役立つ

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。