B型にはあってC型にはないもの―対象者別に考える感染症予防の組合せ
第104回医師国家試験 G問題 第28問
国試問題にチャレンジ
組合せで誤っているのはどれか。
- a.脾臓摘出後の成人 ―― 肺炎球菌ワクチンの接種
- b.臨床実習前の医学生 ―― B型肝炎ワクチンの接種
- c.医療従事者 ―― C型肝炎免疫グロブリンの投与
- d.性暴行の被害女性 ―― 淋菌,クラミジアの検査
- e.妊婦 ―― B群レンサ球菌のスクリーニング
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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ドクターまとめ
感染症の予防策には、ワクチンによる能動免疫、免疫グロブリンによる受動免疫、スクリーニングや検査に基づく治療・予防投与があり、対象者が抱えるリスクに応じて使い分けます。B型肝炎にはワクチンとHBIGがあり、医学生を含む医療従事者は臨床実習前にワクチン接種と抗体確認を行いますが、C型肝炎にはワクチンも予防用免疫グロブリンもなく、曝露後は経過観察と感染時のDAA治療で対応します。脾摘後は莢膜保有菌、特に肺炎球菌によるOPSIを防ぐためのワクチン接種、妊婦にはGBSスクリーニングと分娩時の抗菌薬投与、性暴力被害者には淋菌・クラミジアなどのSTI検査と妊娠・心理面への包括的対応が求められます。病原体ごとに使える予防手段を正確に知っておくことは、自分自身の身を守る針刺し事故対応にも直結する重要な知識です。
解答・解説
正解はcです
本問は、感染症を起こしやすい、あるいは感染の危険にさらされやすい対象と、それぞれに行うべき予防策・検査の組合せを問う問題である。誤っている組合せを一つ選ぶ。 感染症の予防策には大きく分けて、(1)ワクチンによる能動免疫(事前に自分で抗体をつくらせる)、(2)免疫グロブリン製剤による受動免疫(出来上がった抗体を投与する)、(3)早期発見のためのスクリーニングや検査と、それに基づく治療・予防投与、がある。各選択肢の対象者がどのような感染症の危険を抱えているかを考え、その病原体に対して実際に使える予防手段が存在するかを確認するとよい。 特に重要なのは、B型肝炎とC型肝炎の違いである。B型肝炎ウイルス(HBV)にはワクチンと高力価のHBs抗体含有免疫グロブリン(HBIG)があり、曝露前にも曝露後にも予防策がとれる。これに対してC型肝炎ウイルス(HCV)は遺伝子の変異が多いことなどから、実用化されたワクチンも、発症予防に用いる免疫グロブリン製剤も存在しない。この知識があれば、誤っている組合せを判断できる。
選択肢考察
- ×a. 脾臓摘出後の成人 ―― 肺炎球菌ワクチンの接種
正しい組合せ。脾臓は血中の細菌、とくに莢膜をもつ細菌をオプソニン化(抗体や補体を付けて貪食されやすくすること)し処理するうえで重要な臓器である。脾臓を摘出すると、肺炎球菌、インフルエンザ菌b型(Hib)、髄膜炎菌などの莢膜保有菌に感染しやすくなり、急激に敗血症やDIC(播種性血管内凝固)へ進む脾摘後重症感染症(OPSI:overwhelming post-splenectomy infection)を起こすことがある。原因菌として最も多いのは肺炎球菌であり、肺炎球菌ワクチンの接種が推奨される。待機的な脾摘であれば手術の2週間以上前に接種しておくのが望ましく、Hibワクチンや髄膜炎菌ワクチンの接種も検討される。
- ×b. 臨床実習前の医学生 ―― B型肝炎ワクチンの接種
正しい組合せ。医療現場では針刺し事故などの血液曝露により、HBV、HCV、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)などに感染する危険がある。なかでもHBVは感染力が強く、HBe抗原陽性の血液による針刺しでは感染率が約30%に達するとされる。HBVには有効なワクチンがあるため、医学生を含む医療従事者は患者と接する前にB型肝炎ワクチンを接種し、HBs抗体の獲得を確認しておくことが推奨されている。通常は3回接種し、接種後にHBs抗体価を測定して陽転を確認する。医学生の臨床実習前には、B型肝炎のほか、麻疹、風疹、水痘、流行性耳下腺炎などの抗体価確認と必要なワクチン接種も求められる。
- ○c. 医療従事者 ―― C型肝炎免疫グロブリンの投与
誤った組合せであり、これが正解である。C型肝炎には、実用化されたワクチンも、感染予防や発症予防に使える免疫グロブリン製剤も存在しない。したがって、医療従事者にC型肝炎免疫グロブリンを投与するという予防策はない。HCV陽性血液への曝露(針刺し事故など)が起きた場合は、直ちに流水で傷口を洗浄し、曝露直後の本人のHCV抗体・肝機能を基準値として測定したうえで、その後HCV RNAやHCV抗体、AST・ALTを経時的に追跡する。感染が判明した場合には、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)による治療で高率にウイルス排除が期待できる。なお、針刺し事故で免疫グロブリンを用いる代表例はB型肝炎であり、HBs抗体陰性の職員がHBs抗原陽性の血液に曝露した場合には、できるだけ早く(48時間以内が目安)HBIGを投与し、同時にB型肝炎ワクチンを接種する。
- ×d. 性暴行の被害女性 ―― 淋菌,クラミジアの検査
正しい組合せ。性暴力の被害者は性感染症(STI)に感染した可能性があるため、淋菌やクラミジア・トラコマチスの検査を行う。あわせて梅毒、HIV、B型肝炎、トリコモナスなどの検査を行い、必要に応じて抗菌薬の予防投与やHBV・HIVの曝露後予防を検討する。さらに、妊娠の可能性に対する妊娠検査や緊急避妊、外傷の診察と記録、証拠の採取、心理的ケア(急性ストレス障害や心的外傷後ストレス障害への配慮)、支援機関との連携なども重要である。初診時の検査は被害前からの感染の有無を確認する意味もあり、潜伏期間を考慮して一定期間後に再検査を行う。
- ×e. 妊婦 ―― B群レンサ球菌のスクリーニング
正しい組合せ。B群レンサ球菌(GBS:group B Streptococcus、Streptococcus agalactiae)は健康な女性の腟や直腸にもしばしば常在する。分娩時に産道を通る際に新生児へ垂直感染すると、新生児の敗血症、肺炎、髄膜炎の原因となり、重篤な経過をとることがある。このため妊娠後期(わが国の診療ガイドラインでは妊娠35〜37週頃)に腟入口部と肛門周囲の培養検査でスクリーニングを行い、陽性であれば分娩時(陣痛開始時や破水時)からペニシリン系抗菌薬(アンピシリンなど)を静脈内投与して母子感染を予防する。
主な感染症の予防手段の整理
・B型肝炎:ワクチンあり(曝露前予防)。曝露後はHBIG+ワクチン。HBs抗原陽性母体からの出生児にも、出生直後のHBIGとワクチン接種で母子感染を予防する。 ・C型肝炎:ワクチンも予防用免疫グロブリンもない。曝露後は経過観察を行い、感染が判明すればDAAで治療する。 ・HIV:ワクチンはない。曝露後はできるだけ早く(2時間以内が望ましく、遅くとも72時間以内)抗HIV薬による曝露後予防内服(PEP)を開始する。
針刺し事故時の基本対応
1. 直ちに流水と石けんで傷口を十分に洗う。 2. 事故を報告し、患者(感染源)のHBs抗原、HCV抗体、HIV抗体などを確認する。 3. 曝露した職員のベースラインの検査を行う。 4. 感染源の状況に応じ、HBIG・ワクチン、抗HIV薬の予防内服などを行い、定期的に追跡検査を行う。
脾摘後の感染予防
脾摘後は莢膜保有菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌b型、髄膜炎菌)によるOPSIのリスクが生涯続き、発症すると死亡率が高い。ワクチン接種のほか、発熱時には早期に受診し抗菌薬治療を受けるよう患者教育を行うことが重要である。
周産期のスクリーニングの例
妊婦健診では、B型肝炎(HBs抗原)、C型肝炎(HCV抗体)、HIV、梅毒、風疹抗体、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)抗体、性器クラミジア、GBSなどのスクリーニングが行われ、母子感染の予防に生かされる。
POINT
・C型肝炎にはワクチンも予防用免疫グロブリンもない。針刺し事故で免疫グロブリン(HBIG)を用いるのはB型肝炎である。 ・医療従事者・医学生は臨床実習前にB型肝炎ワクチンを接種し、HBs抗体の獲得を確認する。 ・脾摘後は莢膜保有菌(とくに肺炎球菌)による重症感染症(OPSI)に注意し、肺炎球菌ワクチンを接種する。 ・GBSは妊娠後期にスクリーニングし、陽性なら分娩時にペニシリン系抗菌薬を静注して新生児感染を予防する。 ・性暴力被害者には淋菌・クラミジアなどのSTI検査、妊娠への対応、心理的ケアを行う。
