血液が「ドロドロ」になると何が起こる?―過粘稠度症候群の症状を病態から読み解く
第104回医師国家試験 G問題 第17問
国試問題にチャレンジ
過粘稠度〈hyperviscosity〉症候群でみられないのはどれか。
- a.頭痛
- b.腰痛
- c.めまい
- d.視力障害
- e.悪心・嘔吐
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
過粘稠度症候群は、IgMが著増する原発性マクログロブリン血症を代表に、IgA型などの多発性骨髄腫や真性赤血球増加症、白血球うっ滞などで血液の粘稠度が上がり、微小循環が障害される病態です。症状は細い血管の多い臓器に現れ、頭痛・めまい・悪心嘔吐・意識障害などの中枢神経症状、網膜静脈のソーセージ様怒張を伴う視力障害、出血傾向、心不全が代表的です。腰痛は多発性骨髄腫の骨融解病変による症状で、過粘稠度そのものの症状ではなく、マクログロブリン血症では骨病変はまれである点も鑑別に重要です。症状がある場合は緊急の血漿交換が治療の柱で、安易な赤血球輸血は増悪を招きうるため注意が必要です。「原因疾患の症状」と「症候群そのものの症状」を病態から区別する考え方は、血液疾患に限らず多くの問題で役立ちます。
解答・解説
正解はbです
本問は、過粘稠度症候群(hyperviscosity syndrome)の病態と症状を理解しているかを問う「みられないもの」を選ぶ問題である。 過粘稠度症候群とは、血液の粘り気(粘稠度)が異常に高くなって微小循環の血流が滞り、さまざまな臓器の循環障害や出血傾向を起こす病態である。原因として最も重要なのは血漿中の単クローン性免疫グロブリン(M蛋白)の著増であり、とくに五量体で分子量が大きく(約90万)、血管内にとどまりやすいIgMが増加する原発性マクログロブリン血症(ワルデンシュトレームマクログロブリン血症)で起こりやすい。多発性骨髄腫でも、重合しやすいIgAやIgG3型のM蛋白が大量にある場合にみられる。そのほか、赤血球が著増する真性赤血球増加症や、白血球が著増する急性白血病(白血球うっ滞)なども血液の粘稠度を高める。 症状は、血流が滞りやすい細い血管の豊富な臓器に出る。代表的なのは、(1) 中枢神経症状(頭痛、めまい、耳鳴、悪心・嘔吐、意識障害、けいれん)、(2) 眼症状(視力障害。眼底で網膜静脈のソーセージ様の怒張、網膜出血、乳頭浮腫)、(3) 出血傾向(鼻出血・歯肉出血など)、(4) 循環血漿量の増加による心不全、である。 したがって、選択肢のうち循環障害で説明できる頭痛・めまい・悪心嘔吐・視力障害は「みられる」症状であり、骨病変に由来する腰痛だけが過粘稠度症候群そのものの症状ではない。
選択肢考察
- ×a. 頭痛
みられる(本問の正解ではない)。血液粘稠度の上昇により脳の微小循環が障害されて脳血流が低下し、頭痛が生じる。過粘稠度症候群の中枢神経症状として代表的なものである。
- ○b. 腰痛
みられない(本問の正解)。腰痛は、多発性骨髄腫で骨髄腫細胞が産生するサイトカインにより破骨細胞が活性化され、椎体などに骨融解や病的骨折が起こることで生じる症状である。つまり骨髄腫では腰痛と過粘稠度症候群が同時にみられることはあるが、腰痛は骨病変によるものであり、血液の粘稠度上昇による循環障害から生じる症状ではない。なお、原発性マクログロブリン血症では骨融解病変は通常みられない点も、多発性骨髄腫との鑑別上重要である。
- ×c. めまい
みられる(本問の正解ではない)。脳や内耳の循環障害によってめまいが起こる。耳鳴や難聴を伴うこともあり、いずれも過粘稠度症候群の神経症状に含まれる。
- ×d. 視力障害
みられる(本問の正解ではない)。網膜の細い血管で血流がうっ滞し、視力低下やかすみ目が生じる。眼底検査では、網膜静脈がソーセージのように数珠状に拡張・蛇行する所見、網膜出血、乳頭浮腫がみられ、進行すると網膜静脈閉塞に至る。眼底所見は過粘稠度の程度を把握するうえで有用である。
- ×e. 悪心・嘔吐
みられる(本問の正解ではない)。脳循環障害による中枢神経症状として悪心・嘔吐が生じる。重症例では意識障害、けいれん、昏睡に至ることもある。
過粘稠度症候群の原因
・M蛋白の増加: 原発性マクログロブリン血症(IgM、最も多い)、多発性骨髄腫(IgA、IgG3など) ・血球成分の増加: 真性赤血球増加症(赤血球増加)、急性・慢性白血病での著明な白血球増加(白血球うっ滞) ・その他: クリオグロブリン血症など
主な症状
1. 中枢神経症状: 頭痛、めまい、耳鳴、難聴、悪心・嘔吐、意識障害、けいれん 2. 眼症状: 視力障害、眼底の網膜静脈怒張(ソーセージ様)、網膜出血、乳頭浮腫 3. 出血傾向: 鼻出血、歯肉出血、紫斑。M蛋白が血小板表面や凝固因子に結合してその機能を妨げることによる。 4. 心不全: 循環血漿量の増加と、粘稠な血液を送り出す心臓への負荷による。
診断と治療
血清粘稠度(相対粘稠度、水を1とする。正常は約1.4〜1.8)を測定し、一般に4〜5以上で症状が出やすいとされる。症状のある場合は緊急に血漿交換(血漿アフェレシス)を行い、M蛋白を速やかに除去する。IgMは大部分が血管内に分布するため、血漿交換の効果が特に大きい。並行して原疾患に対する化学療法を行う。貧血に対して安易に赤血球輸血を行うと粘稠度がさらに上がり症状を悪化させうるため注意する。
原発性マクログロブリン血症と多発性骨髄腫の比較
・マクログロブリン血症: IgM型M蛋白、リンパ形質細胞性リンパ腫が背景。リンパ節腫脹・肝脾腫がみられやすく、骨融解病変や腎障害・高カルシウム血症はまれ。過粘稠度症候群が多い。 ・多発性骨髄腫: IgGやIgA型M蛋白(ベンス・ジョーンズ蛋白のみの型もある)。骨痛・腰痛、病的骨折、高カルシウム血症、腎障害、貧血(CRAB症状)が特徴。
POINT
・過粘稠度症候群はIgMが増加する原発性マクログロブリン血症で最も起こりやすい。 ・症状は中枢神経症状(頭痛、めまい、悪心・嘔吐、意識障害)、視力障害(網膜静脈のソーセージ様怒張)、出血傾向、心不全。 ・腰痛は多発性骨髄腫の骨病変による症状で、過粘稠度そのものの症状ではない。 ・症状のある過粘稠度症候群には血漿交換を緊急で行う。
