「抜きたいものは薄く、補いたいものは濃く」―透析液の設計図から読み解く血液透析
第104回医師国家試験 G問題 第16問
国試問題にチャレンジ
血液透析について正しいのはどれか。
- a.浸透圧の差で除水をする。
- b.透析後に血液重炭酸イオン濃度は低下する。
- c.カリウムよりもクレアチニンの方が除去されやすい。
- d.透析液イオン化カルシウム濃度は正常~高値に設定する。
- e.透析時の不均衡症候群は血漿浸透圧の上昇によって発現する。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
血液透析では、溶質は半透膜を介した拡散(濃度差)で、水は限外濾過(圧力差)で移動し、浸透圧差で除水するのは腹膜透析です。透析液は「除きたい物質は含めないか低く、補いたい物質は正常〜やや高め」に設計されており、カリウムは低め、重炭酸イオンとイオン化カルシウムは正常〜やや高めに設定されるため、透析後は重炭酸イオンが上昇し、低カルシウム血症の是正とカルシウム喪失の防止が図られます。拡散は分子量が小さいほど効率がよく、カリウムはクレアチニンより除去されやすいため、高カリウム血症は緊急透析の適応となります。不均衡症候群は血漿浸透圧の急激な低下によって脳との浸透圧較差が生じ、脳浮腫をきたす病態で、導入期の緩やかな透析で予防します。透析の原理を理解することは、透析液組成の意味や合併症の成り立ちを筋道立てて説明する力につながります。
解答・解説
正解はdです
本問は、血液透析(HD: hemodialysis)で「何が・どのような原理で・どちらの方向に」移動するのかを理解しているかを問う問題である。 血液透析では、半透膜(ダイアライザーの中空糸膜)を隔てて血液と透析液を反対方向に流し、次の2つの原理で物質と水を移動させる。 (1) 拡散: 膜の両側の濃度差に従って、溶質が濃い側から薄い側へ移動する。尿素・クレアチニン・カリウムなど血中に多い物質は透析液側へ除去され、重炭酸イオンやカルシウムのように透析液に多めに含まれる物質は血液側へ補充される。分子量の小さい物質ほど拡散しやすく、効率よく移動する。 (2) 限外濾過: 膜の両側の圧力差(膜間圧力差、TMP: transmembrane pressure)によって水を血液側から透析液側へ押し出す。これが「除水」であり、透析液側に陰圧をかけることなどで除水量を調節する。 この原理をふまえれば、除水の仕組み、酸塩基平衡の是正の方向、溶質の除去されやすさ、透析液組成の設定意図、不均衡症候群の成因をそれぞれ判断できる。透析液の組成は「血液から除きたい物質は含めないか低くし、補いたい物質は正常〜やや高めにする」という発想で設計されている、と理解するとよい。
選択肢考察
- ×a. 浸透圧の差で除水をする。
誤り。血液透析の除水は限外濾過(ultrafiltration)、すなわち膜の両側の圧力差によって行う。血液側にかかる静水圧に加えて透析液側に陰圧をかけることで膜間圧力差をつくり、その大きさで除水量を調節している。浸透圧の差を利用して除水するのは腹膜透析であり、透析液に高濃度のブドウ糖(またはイコデキストリン)を含ませて浸透圧を高くし、腹膜を介して体内の水分を透析液側へ引き込む。
- ×b. 透析後に血液重炭酸イオン濃度は低下する。
誤り。腎不全では酸(水素イオン)の排泄が障害されるため代謝性アシドーシスとなり、血中の重炭酸イオン(HCO3⁻)濃度は低下している。これを是正するため、透析液の重炭酸イオン濃度は血中の正常値(約24 mEq/L)と同等かやや高めに設定されている。その結果、透析中に重炭酸イオンは拡散によって透析液から血液側へ移動し、透析後の血中重炭酸イオン濃度は上昇する(アシドーシスが改善する)。
- ×c. カリウムよりもクレアチニンの方が除去されやすい。
誤り。拡散による除去効率は分子量が小さいほど高い。カリウムの原子量は約39、クレアチニンの分子量は約113であり、カリウムのほうが小さく除去されやすい。さらに、透析液のカリウム濃度は約2 mEq/L前後と低く設定され、クレアチニンは透析液に含まれないが、いずれも濃度差に従って血液から除かれる。血液透析は高カリウム血症を速やかに是正できる治療であり、薬物治療で改善しない高カリウム血症が緊急透析の適応となるのはこのためである。
- ○d. 透析液イオン化カルシウム濃度は正常~高値に設定する。
正しい。腎不全では、活性型ビタミンD(1,25-ジヒドロキシビタミンD)の産生低下による腸管からのカルシウム吸収低下や、高リン血症のため、低カルシウム血症に傾きやすい。これを放置すると二次性副甲状腺機能亢進症や骨病変(CKD-MBD: 慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常)が進行する。カルシウムの透析膜での移動は、主としてアルブミンと結合していないイオン化カルシウムの濃度差に依存するため、透析液のカルシウム濃度をおよそ2.5〜3.0 mEq/L と血中のイオン化カルシウム濃度(約2.3〜2.5 mEq/L)と同等かやや高めにして、透析中にカルシウムが失われず、むしろ補充されるようにしている。なお近年は、カルシウム含有リン吸着薬や活性型ビタミンD製剤の併用による高カルシウム血症・血管石灰化を避けるため、2.5〜2.75 mEq/L程度の比較的低めの濃度も多く用いられている。
- ×e. 透析時の不均衡症候群は血漿浸透圧の上昇によって発現する。
誤り。不均衡症候群(透析不均衡症候群)は、透析によって血液中の尿素などの溶質が急速に除去され、血漿浸透圧が「低下」することで生じる。脳内(脳脊髄液・脳細胞内)の尿素は血液−脳関門があるため血液ほど速やかには減らず、脳側の浸透圧が相対的に高くなる。その結果、水が血液から脳組織へ移動して脳浮腫が起こり、頭痛、悪心・嘔吐、血圧変動、意識障害、けいれんなどを呈する。透析導入初期、特に高度の高窒素血症がある患者で起こりやすく、導入期には短時間・低血流量の透析から始めて溶質を緩やかに除去することで予防する。
血液透析と腹膜透析の比較
・血液透析: 人工の半透膜(ダイアライザー)を使用。溶質除去は拡散、除水は限外濾過(圧力差)。通常、週3回・1回4時間程度。バスキュラーアクセス(内シャントなど)が必要。 ・腹膜透析: 自分の腹膜を半透膜として使用。溶質除去は拡散、除水は透析液のブドウ糖などによる浸透圧差。毎日在宅で行い、残存腎機能が保たれやすい。長期施行では被嚢性腹膜硬化症に注意する。
透析液組成の考え方(おおよその値)
・ナトリウム: 約135〜140 mEq/L(血中とほぼ同等) ・カリウム: 約2.0 mEq/L(低め → 高カリウム血症を是正) ・カルシウム: 約2.5〜3.0 mEq/L(正常〜やや高め → 低カルシウム血症を是正、カルシウムの喪失を防ぐ) ・マグネシウム: 約1.0 mEq/L ・重炭酸イオン: 約25〜35 mEq/L(やや高め → 代謝性アシドーシスを是正) ・ブドウ糖: 約100〜150 mg/dL(低血糖予防) ・尿素・クレアチニン・リン: 含まない(除去したい物質)
溶質の除去されやすさ
小分子(尿素 分子量60、クレアチニン 約113、カリウム 約39など)は拡散で除去されやすい。β2ミクログロブリン(約11,800)などの中分子量物質は通常の拡散では除去されにくく、高性能膜の使用や血液濾過透析(HDF)で除去効率を高める。β2ミクログロブリンの蓄積は透析アミロイドーシス(手根管症候群など)の原因となる。アルブミンなどの蛋白と結合した物質も除去されにくい。
血液中カルシウムの存在様式
血清カルシウムの約半分はイオン化カルシウム、約40%はアルブミンなどの蛋白と結合、残りは陰イオンと複合体を形成している。膜を通過できるのは蛋白と結合していない分画である。
POINT
・溶質除去は拡散(濃度差)、除水は限外濾過(圧力差)。浸透圧差で除水するのは腹膜透析。 ・透析後は重炭酸イオンが上昇し、代謝性アシドーシスが改善する。 ・分子量が小さいほど除去されやすい(カリウム>クレアチニン)。 ・透析液のカルシウムは正常〜やや高め、カリウムは低め、重炭酸はやや高めに設定。 ・不均衡症候群は血漿浸透圧の急激な低下 → 脳との浸透圧較差 → 脳浮腫で起こる。
