StudyMed医師国家試験

「肺炎じゃないか心配で」―患者の一言に宿る解釈モデルを見抜く

第104回医師国家試験 F問題 第26問(連問)

国試問題にチャレンジ

第104回 F問題 第26問

連問の共通文

 総合外来における医師と患者の会話を示す。 医師:「今日はどうされましたか」

患者:「①咳が続くんです」 医師:「そうですか。では,症状について詳しく教えていただけますか」 患者:「5日前にのどが痛くて微熱があり,翌日から咳が出るようになりました。②市販の風邪薬を飲んで様子をみていたら,2日後には熱も下がり,のどの痛みも治まったので③昨日から仕事には出ているのですが,咳はずっと続いています」 医師:「なるほど。それでどうなりましたか」 患者:「④昼はそれほどつらくはないのですが,夜になると少し咳が増える気がします。ちょっと長いので,⑤もしかして肺炎にでもなっているのではないかと心配で今日病院にきました」 下線部で患者の解釈モデルを表しているのはどれか。

  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は医療面接の問題だ。会話の中の下線部が、それぞれ病歴のどんな要素にあたるのかを分類できるかがポイントになる。キーワードは「解釈モデル」。まず、この言葉をどう理解しているかな。
医学生医学生
患者さんが自分の病気をどう考えているか、でしょうか。OSCEの医療面接で「ご自身では何が原因だと思われますか」と聞くように練習しました。
ドクタードクター
いいね、その質問がまさに解釈モデルを引き出すための問いだ。解釈モデルは医療人類学者のクラインマンが提唱した概念で、患者さんが病気の原因、どんな病気だと思うか、どれくらい重いか、これからどうなるかといったことを、自分なりにどう理解しているかを指す。大事なのは、医学的に正しいかどうかは問わないということだ。
医学生医学生
間違った理解でも解釈モデルになるんですね。
ドクタードクター
そう。むしろ医師の見立てとずれていることが多いからこそ、把握する意味がある。では下線部を順に見ていこう。最初の「咳が続くんです」は?
医学生医学生
受診理由そのものなので主訴ですね。困っている事実を述べているだけで、原因をどう考えているかは入っていません。
ドクタードクター
その通り。次の、市販の風邪薬を飲んで2日後に熱やのどの痛みが治まったという部分は?
医学生医学生
現病歴の経過と、自分で薬を飲んだという対処ですね。少し患者さんの考えが入っているようにも見えますが……。
ドクタードクター
「風邪薬を飲んだ」から風邪だと思っていたのでは、と深読みしたくなる気持ちは分かる。でもここで語られているのは、何をして、どうなったかという事実だ。セルフケアや受療行動として病歴に記録する情報だね。では、昨日から仕事に出ているという部分は?
医学生医学生
症状が生活にどれくらい影響しているか、ですね。仕事に行けているなら、それほど重くないと評価できそうです。
ドクタードクター
よく読めている。病状の評価には役立つけれど、患者さんの病気のとらえ方ではない。次の、昼より夜に咳が増える気がするという部分はどうかな。
医学生医学生
症状の日内変動です。呼吸器内科の実習で、夜間に悪化する咳は咳喘息や後鼻漏を考えると教わりました。
ドクタードクター
そう、鑑別に役立つ大切な情報だ。でもこれも患者さんが体験した症状の性状で、事実の陳述にあたる。そして最後、長引いているので肺炎になっているのではないかと心配で受診した、という部分。
医学生医学生
これは患者さん自身が「肺炎ではないか」と原因を推測しているので、解釈モデルですね。
ドクタードクター
正解。咳が長いという体験から、自分なりに病気を推測している。この一文には「心配」という感情と、それが今日受診した動機であることも表れているんだ。
医学生医学生
解釈と感情が一つの発言にまとまっているんですね。医学的には風邪の後の咳が残っているだけかもしれないのに。
ドクタードクター
経過としては感染後咳嗽や急性気管支炎が考えやすいけれど、この会話だけでは確定できないし、問題もそこは問うていない。ただ、もし診察して肺炎ではなさそうだと判断したなら、「肺炎ではないかと心配されていたんですね」とまず受け止めたうえで、なぜそう考えられるかを説明するのが大切だ。頭ごなしに否定すると、患者さんは不安が解消されないまま帰ることになる。
医学生医学生
解釈モデルを知っておくと、説明の焦点を合わせられるということですね。
ドクタードクター
その通り。患者さんの視点を引き出す枠組みとして、解釈・感情・影響・期待の4つ、英語の頭文字でFIFEと呼ばれるものがある。今回の会話では、肺炎の心配に解釈と感情が、仕事に出ているという話に生活への影響が表れている。期待、つまり医師に何をしてほしいかはまだ語られていないから、「今日はどんなことをご希望ですか」と聞いてみるといい。
医学生医学生
レントゲンを撮ってほしいのか、薬がほしいのか、そこまで聞けると納得してもらいやすそうです。
ドクタードクター
そう。医師が見る疾患と、患者さんが体験する病いの両方を意識して面接すると、説明への納得や治療への協力、つまりアドヒアランスも得やすくなる。医療面接は、事実を集めるだけでなく、患者さんの考えを理解する場でもあるんだ。

まとめ

解釈モデルとは、患者が自分の症状や病気の原因・性質・重症度・見通しをどう考えているかという理解の枠組みで、医学的な正しさは問いません。主訴、経過、セルフケアや受療行動、生活への影響、症状の性状は事実の陳述であり、「肺炎ではないかと心配」のように原因を推測する発言こそが解釈モデルにあたります。こうした発言には不安という感情や受診動機も重なっていることが多く、解釈・感情・影響・期待(FIFE)を意識して開かれた質問で引き出すことが大切です。患者の解釈を否定せずに受け止め、その不安に焦点を合わせて説明することで、納得とアドヒアランスが得られやすくなり、患者中心の医療面接の基本となります。

解答・解説

正解はeです

会話の整理

患者は5日前に咽頭痛と微熱で発症し、翌日から咳が出始めた。市販の総合感冒薬で様子をみたところ2日後には解熱し、咽頭痛も消えたため昨日から出勤しているが、咳だけが残っている。咳は日中よりも夜間にやや増える印象がある。そして「長引いているので肺炎になっているのではないか」と心配して受診した。経過としては、上気道炎(いわゆる風邪)の後に咳が残る感染後咳嗽や急性気管支炎が考えやすいが、この会話だけで診断を確定することはできず、本問も診断そのものを問うてはいない。

設問の考え方

問われているのは、下線部のうちどれが「解釈モデル」にあたるかである。解釈モデル(explanatory model)とは、患者が自分の病気や症状について抱いている考え方、すなわち「何が原因か」「どんな病気だと思うか」「どうなってしまうのか」といった患者自身の理解・解釈を指す。医学的に正しいかどうかは問わない。 下線部を見ると、①は主訴、②と③はこれまでの経過と対処(受療行動・生活状況)、④は症状の性状(日内変動)であり、いずれも患者が体験した事実の陳述である。これに対し⑤だけが、症状の原因について患者自身が「肺炎ではないか」と推測し、その結果として不安を抱いている内容であり、解釈モデルに該当する。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    「咳が続く」は受診理由となった主な症状、すなわち主訴である。患者が困っている事実を述べたもので、その原因をどう考えているかは含まれていないため、解釈モデルではない。

  2. ×b.  ②

    市販の風邪薬を服用し、2日後に解熱して咽頭痛も治まったという内容は、現病歴の経過と患者が自分で行った対処(セルフケア)の記述である。事実の陳述であり、病気の原因に関する患者の考えではないので解釈モデルではない。

  3. ×c.  ③

    昨日から仕事に出ているという内容は、症状が日常生活・社会生活にどの程度影響しているかを示す情報である。病状の評価には役立つが、患者が病気をどう解釈しているかを示すものではなく、解釈モデルではない。

  4. ×d.  ④

    日中はそれほどつらくなく夜間に咳が増えるという内容は、症状の時間的特徴(日内変動)であり、病歴聴取で確認すべき症状の性状にあたる。夜間に増悪する咳は咳喘息や後鼻漏などの鑑別にも役立つ情報だが、患者の解釈ではなく事実の陳述であるため解釈モデルではない。

  5. ○e.  ⑤

    咳が長引いていることから、患者は自分なりに「肺炎になっているのではないか」と症状の原因を推測し、それを心配して受診している。これは患者自身の病気のとらえ方そのものであり、解釈モデルにあたる。あわせて、この発言には患者の不安(感情)と受診動機も表れている。

解釈モデルとは

解釈モデルは医療人類学者クラインマン(A. Kleinman)が提唱した概念で、患者やその家族が病気について抱く理解の枠組みをいう。代表的には、病気の原因、なぜ今発症したのか、どのような病態だと思うか、重症度や今後の見通し、どのような治療を望むか、といった内容が含まれる。医師の医学的な説明(疾患 disease の視点)と、患者の体験としての病い(illness の視点)はしばしば食い違うため、解釈モデルを把握することで説明のずれや不安を解消し、治療への納得や協力(アドヒアランス)を得やすくなる。

患者中心の医療面接で確認する要素

患者の視点を引き出す枠組みとして、解釈(患者が何の病気だと思っているか)、感情(何を心配・恐れているか)、影響(生活や仕事への支障)、期待(医師に何をしてほしいか)がよく用いられる。英語の頭文字をとって FIFE(Feelings, Ideas, Function, Expectations)とも呼ばれる。本問の会話では、⑤に解釈(肺炎ではないか)と感情(心配)が、③に生活への影響(仕事には出ている)が表れている。

解釈モデルの引き出し方

患者から自発的に語られない場合は、「ご自身では何が原因だと思われますか」「何か気になっている病気はありますか」などと開かれた質問で尋ねる。語られた解釈は否定せず、まず受け止めることが大切である(次問の論点)。

医療面接の基本構成

導入(挨拶・自己紹介・本人確認)→ 開かれた質問で主訴と現病歴を聴く → 解釈モデル・受療行動・心理社会的背景の確認 → 既往歴・家族歴・生活歴など → 要約と確認 → 締めくくり、という流れが基本である。

POINT

・解釈モデル=患者が自分の症状・病気の原因や性質をどう考えているか(医学的な正しさは問わない) ・主訴、経過、受療行動、生活への影響、症状の性状は「事実の陳述」であり解釈モデルとは区別する ・「〜ではないかと心配」という発言は解釈モデルと感情(不安)を同時に示すことが多い ・解釈・感情・影響・期待(FIFE)を意識して患者の視点を引き出す

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。