StudyMed医師国家試験

ためる膀胱、出す膀胱―「蓄尿は交感、排尿は副交感」で読み解く下部尿路の基本

第104回医師国家試験 E問題 第28問

国試問題にチャレンジ

第104回 E問題 第28問

膀胱について正しいのはどれか。

  1. a.膀胱粘膜は扁平上皮である。
  2. b.膀胱壁内尿管は膀胱壁に垂直である。
  3. c.正常排尿時には副交感神経が興奮する。
  4. d.成人男性の膀胱容量は800 mL以上である。
  5. e.膀胱内圧は尿の貯留量に比例して上昇する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は膀胱の解剖と生理を幅広く問う問題だ。粘膜の上皮、尿管の入り方、神経支配、容量、内圧という5つの論点が並んでいる。膀胱は「尿をためる」と「尿を出す」という正反対の仕事を担う臓器だ、という視点で一つずつ見ていこう。
医学生医学生
神経支配は、自律神経の講義で「排尿は副交感」と習った気がします。
ドクタードクター
その記憶は正しいよ。排尿のときは仙髄S2〜S4から出る副交感神経、つまり骨盤神経が興奮して、アセチルコリンがムスカリン受容体、主にM3を介して排尿筋を収縮させる。同時に交感神経と陰部神経の活動が抑えられ、内・外尿道括約筋がゆるんで尿が出ていく。これが正解の記述だ。
医学生医学生
逆に、ためるときは交感神経が働くんですね。
ドクタードクター
そう。蓄尿期は下腹神経、T10〜L2の交感神経が優位になる。排尿筋はβ3受容体を介して弛緩し、膀胱頸部と内尿道括約筋はα1受容体を介して収縮する。そこに体性神経の陰部神経が外尿道括約筋を締めて、漏れを防いでいるんだ。
医学生医学生
受容体まで整理すると、薬の作用もつながりそうです。抗コリン薬で尿閉になるのは、排尿筋が縮めなくなるからですか。
ドクタードクター
その通り。だから前立腺肥大症の高齢者に抗コリン作用のある薬を使うときは注意が必要なんだ。では上皮の話に移ろう。膀胱の粘膜は何上皮かな。
医学生医学生
組織学実習で見たのは移行上皮でした。扁平上皮ではないですよね。
ドクタードクター
正解。移行上皮、つまり尿路上皮は、腎盂から尿管、膀胱、尿道近位部までを覆っている。空のときは細胞が何層にも重なって厚く、尿がたまって引き伸ばされると層が薄く扁平に近づく。伸び縮みに適した上皮なんだ。
医学生医学生
伸ばされると扁平っぽく見えるから、ひっかけになっているんですね。だから膀胱癌もほとんどが尿路上皮癌になるわけですか。
ドクタードクター
そう。ただ、ビルハルツ住血吸虫症や長期留置カテーテル、膀胱結石などの慢性刺激で扁平上皮化生が起こり、扁平上皮癌が出ることもある。次は尿管の入り方だ。尿管は膀胱壁にどう入っていると思う?
医学生医学生
まっすぐ垂直に入るほうが、尿がスムーズに流れそうな気がしますが……。
ドクタードクター
そう考えたくなるけど、実際は斜めに貫いて、粘膜下をしばらく走ってから尿管口に開いている。膀胱に尿がたまって内圧が上がると、この斜めの壁内尿管が押しつぶされて弁のように閉じ、逆流を防ぐんだ。垂直に近かったり短かったりすると、この仕組みが働かずに膀胱尿管逆流が起こる。
医学生医学生
小児科の実習で、尿路感染を繰り返す子が排尿時膀胱尿道造影を受けていました。あれがその逆流を調べる検査だったんですね。
ドクタードクター
よく結びつけたね。逆流性腎症で腎瘢痕を残すこともあるから、小児の反復性尿路感染では大事な検査だ。続いて容量。成人の正常な膀胱容量はどのくらいだろう。
医学生医学生
800 mLはさすがに多すぎる気がします。300〜500 mLくらいでしょうか。
ドクタードクター
その感覚で合っている。初発尿意はおよそ150〜250 mL、強い尿意は300〜500 mL前後で起こる。800 mL以上もためられるとしたら、神経因性膀胱の低活動膀胱や下部尿路閉塞による慢性尿閉で、膀胱が過伸展している状態を考えるべきだね。
医学生医学生
最後の内圧の記述は、ためればためるほど圧が上がる、というのは直感的には正しそうに思えます。
ドクタードクター
そこも落とし穴だ。膀胱はコンプライアンスが高く、尿がたまる間は排尿筋が弛緩して内腔が広がるから、内圧はほとんど上がらず低いまま保たれる。限界に近づいてはじめて急に立ち上がる。だから膀胱内圧測定の曲線は比例の直線ではなく、平坦な部分のあとに急上昇する形になるんだ。
医学生医学生
内圧が低く保たれるからこそ、腎臓側に圧がかからずに済むということですね。
ドクタードクター
鋭いね。逆に、蓄尿中に内圧が上がりやすい低コンプライアンス膀胱は、水腎症など上部尿路障害の危険因子になる。臨床につなげておくと、過活動膀胱には抗コリン薬やミラベグロンなどのβ3作動薬、前立腺肥大症の排尿障害にはタムスロシンなどのα1遮断薬、低活動膀胱にはベタネコールなどのコリン作動薬が使われる。どれも今日整理した受容体の知識で理屈がわかるはずだ。
医学生医学生
神経支配と受容体を押さえておけば、薬理もまとめて覚えられそうです。

まとめ

膀胱は蓄尿と排尿という相反する機能をもち、蓄尿期には交感神経(下腹神経)がβ3受容体を介して排尿筋を弛緩させα1受容体を介して内尿道括約筋を収縮させ、排尿期には副交感神経(骨盤神経)がM3受容体を介して排尿筋を収縮させます。膀胱粘膜は伸縮に適した移行上皮(尿路上皮)で、尿管は膀胱壁を斜めに貫くことで膀胱尿管逆流を防いでいます。正常な膀胱容量は約300〜500 mLで、高いコンプライアンスにより蓄尿中の内圧はほぼ一定に保たれ、限界付近で急上昇します。過活動膀胱や前立腺肥大症、低活動膀胱の治療薬はこの神経支配と受容体の知識で理解できるため、下部尿路の基本生理は薬理や臨床判断の土台として重要です。

解答・解説

正解はcです

テーマ

膀胱の基本的な解剖(粘膜上皮、尿管の膀胱への入り方)と生理(蓄尿・排尿の神経支配、膀胱容量、膀胱内圧と容量の関係)を問う問題である。

考え方

膀胱は「尿をためる(蓄尿)」と「尿を出す(排尿)」という相反する2つの機能を担う。 ・蓄尿期:交感神経(下腹神経、T10〜L2)が優位となり、排尿筋(膀胱平滑筋)はβ3受容体を介して弛緩し、膀胱頸部・内尿道括約筋はα1受容体を介して収縮する。さらに体性神経である陰部神経(S2〜S4)が外尿道括約筋(横紋筋)を収縮させ、尿の漏れを防ぐ。 ・排尿期:橋排尿中枢からの指令により、副交感神経(骨盤神経、S2〜S4)が興奮し、アセチルコリンがムスカリン受容体(主にM3)に作用して排尿筋が収縮する。同時に交感神経と陰部神経の活動が抑えられ、内・外尿道括約筋が弛緩して尿が排出される。 この「蓄尿=交感神経、排尿=副交感神経」という基本を押さえていれば正解を選べる。そのほか、膀胱は伸展しても内圧がほとんど上がらない(コンプライアンスが高い)臓器であること、尿管が膀胱壁を斜めに貫いて逆流を防いでいることも、膀胱生理の重要な基礎事項である。

選択肢考察

  1. ×a.  膀胱粘膜は扁平上皮である。

    膀胱粘膜は移行上皮(尿路上皮)である。移行上皮は腎盂から尿管、膀胱、尿道の近位部までを覆い、膀胱が空のときは細胞が何層にも重なって厚く、充満して伸展されると層が薄く扁平に近づくという、伸縮に適した構造をもつ。そのため膀胱癌の大部分は尿路上皮癌である。ただし、慢性の刺激(ビルハルツ住血吸虫症、長期留置カテーテル、膀胱結石など)で扁平上皮化生が生じ、扁平上皮癌が発生することはある。

  2. ×b.  膀胱壁内尿管は膀胱壁に垂直である。

    尿管は膀胱壁を斜めに貫いて走り、粘膜下をしばらく通ってから尿管口に開く。膀胱に尿がたまって内圧が高まると、この斜走する壁内尿管が膀胱壁に押しつぶされて弁のように閉じ、膀胱尿管逆流(VUR)を防ぐ。壁内尿管が短い、あるいは垂直に近い走行であるとこの逆流防止機構が働かず、先天性(原発性)VURの原因となる。

  3. ○c.  正常排尿時には副交感神経が興奮する。

    排尿時には仙髄(S2〜S4)から出る副交感神経である骨盤神経が興奮し、アセチルコリンがムスカリン受容体(M3)を介して排尿筋を収縮させる。同時に交感神経(下腹神経)と陰部神経の活動が抑制されて内・外尿道括約筋が弛緩し、尿が排出される。抗コリン薬で排尿困難や尿閉が起こるのは、この副交感神経による排尿筋収縮が妨げられるためである。

  4. ×d.  成人男性の膀胱容量は800 mL以上である。

    成人の正常な膀胱容量は約300〜500 mL程度であり、1回の排尿量もおおむねこの範囲に収まる。初発尿意はおよそ150〜250 mL、強い尿意は300〜500 mL前後で生じる。800 mL以上もの容量があるのは正常ではなく、神経因性膀胱(低活動膀胱)や下部尿路閉塞による慢性尿閉などで膀胱が過伸展した状態を考える。

  5. ×e.  膀胱内圧は尿の貯留量に比例して上昇する。

    膀胱は伸展性(コンプライアンス)が高く、尿がたまっていく間、排尿筋が弛緩して内腔が広がるため、内圧はほとんど上昇せず低いまま保たれる。容量が膀胱の許容量に近づくと内圧は急に立ち上がる。このため膀胱内圧容量曲線(シストメトリー)は比例関係の直線ではなく、平坦な部分のあとに急上昇する形となる。貯留量に比例するという記述は誤りである。なお、蓄尿中に内圧が上昇しやすい低コンプライアンス膀胱は、上部尿路障害の危険因子となる。

下部尿路の神経支配

・交感神経:下腹神経(T10〜L2)。蓄尿に働く。排尿筋弛緩(β3受容体)、膀胱頸部・内尿道括約筋収縮(α1受容体)。 ・副交感神経:骨盤神経(S2〜S4)。排尿に働く。排尿筋収縮(M3受容体)。 ・体性神経:陰部神経(S2〜S4、Onuf核)。外尿道括約筋(随意筋)を収縮。 ・中枢:橋排尿中枢が蓄尿と排尿の切り替えを行い、大脳(前頭葉)がこれを抑制的に制御する。

関連する薬物

・過活動膀胱:抗コリン薬(ムスカリン受容体拮抗薬)、β3作動薬(ミラベグロン、ビベグロン)。 ・前立腺肥大症の排尿障害:α1遮断薬(タムスロシン、シロドシンなど)、PDE5阻害薬、5α還元酵素阻害薬。 ・低活動膀胱:コリン作動薬(ベタネコール)、コリンエステラーゼ阻害薬(ジスチグミン)。

膀胱尿管逆流(VUR)

壁内尿管の長さが不十分であったり走行が垂直に近かったりすると、逆流防止の弁機構が働かず、尿が膀胱から尿管・腎盂へ逆流する。小児の反復性尿路感染症や腎瘢痕(逆流性腎症)の原因となり、排尿時膀胱尿道造影(VCUG)で診断する。

移行上皮(尿路上皮)

腎杯・腎盂・尿管・膀胱・尿道近位部を覆う。尿路上皮癌は多発・再発しやすい(field change)。

POINT

・膀胱粘膜は移行上皮(尿路上皮)。 ・壁内尿管は膀胱壁を斜めに貫き、逆流を防止する。 ・蓄尿=交感神経(下腹神経)、排尿=副交感神経(骨盤神経)、外尿道括約筋=陰部神経。 ・正常膀胱容量は約300〜500 mL。 ・膀胱内圧は蓄尿中ほぼ一定に保たれ、容量の限界付近で急上昇する(比例しない)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。