気管から肺胞までの23回分岐―「終末」の次に「呼吸」が始まる気道の解剖学
第104回医師国家試験 E問題 第24問
国試問題にチャレンジ
気道の解剖について正しいのはどれか。
- a.気管は食道の左前方に位置している。
- b.主気管支は右の方が長い。
- c.気管支は肺静脈と伴走する。
- d.終末細気管支は呼吸細気管支に移行する。
- e.呼吸細気管支には軟骨がある。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
気道は気管から主気管支、葉気管支、区域気管支、細気管支、終末細気管支、呼吸細気管支、肺胞管、肺胞囊、肺胞へとおよそ23回分岐し、終末細気管支までがガス交換を行わない導管部、呼吸細気管支からが肺胞の開口する呼吸部です。軟骨は気管・気管支までで細気管支以下にはなく、上皮も末梢へ向かうにつれて線毛や杯細胞が減り、クラブ細胞が増えて単純化していきます。右主気管支は短く太く分岐角度が小さいため異物や誤嚥は右に多く、気管は食道の右前方に位置し、肺内で気管支と伴走するのは肺動脈で肺静脈は小葉間・区域間を走ります。これらの知識は、誤嚥性肺炎の好発部位、気管挿管の確認、肺区域切除、閉塞性肺疾患の病態理解など臨床の多くの場面の土台となります。
解答・解説
正解はdです
気道の肉眼解剖と組織学に関する基本問題である。押さえるべき論点は、(1) 縦隔内での気管と食道の位置関係、(2) 左右の主気管支の形態の違い、(3) 肺内で気管支と並走する血管、(4) 気道の分岐の順序、(5) 気道壁の構造(軟骨・線毛など)がどこまで存在するか、の5つである。 気道は、気管から始まって分岐を繰り返し、およそ23回ほどの分岐を経て肺胞に至る。このうち、ガス交換を行わず空気を運ぶだけの部分を導管部(気管~終末細気管支)、壁に肺胞が現れてガス交換に関与する部分を呼吸部(呼吸細気管支~肺胞管~肺胞囊~肺胞)という。終末細気管支は導管部の最後の部分であり、その次に呼吸細気管支が続く。この順序を理解していれば正解を選べる。 あわせて、分岐が進むにつれて壁構造が単純化していくこと(軟骨が消え、上皮が低くなり、線毛や杯細胞が減っていく)も、組織学の頻出事項として整理しておきたい。
選択肢考察
- ×a. 気管は食道の左前方に位置している。
誤り。気管は頸部から胸部にかけてほぼ正中を下行し、食道はその後方をやや左に偏って走行する。したがって、食道からみると気管は「右前方」に位置する。食道が左に偏るのは、上縦隔から後縦隔にかけて大動脈弓や心臓との位置関係の影響を受けるためである。
- ×b. 主気管支は右の方が長い。
誤り。右主気管支は約2.5 cmと短く太く、気管からの分岐角度も小さい(垂直に近い)。一方、左主気管支は約5 cmと長く細く、分岐角度が大きい。これは、心臓が正中よりやや左に位置し、左主気管支が大動脈弓の下をくぐって心臓を避けるように走行するためである。右主気管支のほうが気管の延長線に近いため、誤嚥した異物や、深く入りすぎた気管挿管チューブは右側に入りやすい。
- ×c. 気管支は肺静脈と伴走する。
誤り。肺内で気管支と並んで走行するのは肺動脈である(気管支動脈も気管支壁に沿って走る)。肺動脈は気管支とともに区域や小葉の中心部に入り込むのに対し、肺静脈は区域間や小葉間の結合組織(小葉間隔壁)を走行し、気管支・肺動脈とは離れた位置を通る。この関係は、肺区域切除で区域間の境界を同定する際の目印として肺静脈が用いられることにもつながる。
- ○d. 終末細気管支は呼吸細気管支に移行する。
正しい。気道は、気管 → 主気管支 → 葉気管支 → 区域気管支 → 細気管支 → 終末細気管支 → 呼吸細気管支 → 肺胞管 → 肺胞囊 → 肺胞の順に分岐していく。終末細気管支は空気の通り道にすぎない導管部の最終部であり、これが分岐して呼吸細気管支となる。呼吸細気管支の壁にはところどころ肺胞が袋状に開口しており、ここからガス交換を行う呼吸部が始まる。終末細気管支1本が支配する領域(呼吸細気管支以下)を細葉といい、肺の機能的単位として扱われる。
- ×e. 呼吸細気管支には軟骨がある。
誤り。軟骨は気管(馬蹄形の軟骨輪)から気管支(不整形の軟骨片)までに存在し、直径およそ1 mm以下の細気管支になると消失する。したがって、細気管支より末梢にある呼吸細気管支に軟骨はない。軟骨を持たない細気管支は平滑筋と周囲の肺組織の弾性による牽引で内腔が保たれている。また呼吸細気管支の上皮は単層立方上皮で、線毛細胞は少なく、クラブ細胞(Clara細胞)が多い。
気道の区分
導管部(ガス交換を行わない):鼻腔・咽頭・喉頭、気管、主気管支、葉気管支、区域気管支、細気管支、終末細気管支。解剖学的死腔(成人で約150 mL)に相当する。 呼吸部(ガス交換を行う):呼吸細気管支、肺胞管、肺胞囊、肺胞。
気道壁の構造の変化(中枢から末梢へ)
軟骨:気管は馬蹄形の軟骨輪(後壁は膜様部で、平滑筋である気管筋が張る)、気管支では不整形の軟骨片、細気管支以下では消失。 上皮:気管・気管支は多列線毛円柱上皮で杯細胞を含む。細気管支では単層線毛円柱~立方上皮となり杯細胞は減少し、クラブ細胞が増える。呼吸細気管支では単層立方上皮で線毛細胞はまばらになる。肺胞はⅠ型肺胞上皮細胞(ガス交換)とⅡ型肺胞上皮細胞(サーファクタント産生)からなる。 気管支腺:気管・気管支の粘膜下にあり、細気管支以下にはない。 平滑筋:細気管支で壁に占める割合が相対的に大きくなり、気道抵抗の調節に関わる。
左右主気管支の比較
右:短い(約2.5 cm)、太い、分岐角度が小さい(約25°)→ 誤嚥性肺炎や異物は右に多い。 左:長い(約5 cm)、細い、分岐角度が大きい(約45°)。 気管分岐部はおよそ第4~5胸椎の高さ(胸骨角の高さ)にある。
肺の血管
肺動脈:気管支と伴走し、小葉中心部に入る。 肺静脈:小葉間隔壁・区域間を走り、気管支と伴走しない。 気管支動脈:大動脈から起こる栄養血管で、気管支壁に沿って走る。
POINT
・気道の分岐順:気管 → 主気管支 → 葉気管支 → 区域気管支 → 細気管支 → 終末細気管支 → 呼吸細気管支 → 肺胞管 → 肺胞囊 → 肺胞。 ・終末細気管支までが導管部、呼吸細気管支からが呼吸部。 ・軟骨は気管支まで。細気管支以下(呼吸細気管支を含む)には軟骨がない。 ・右主気管支は短く太く急峻 → 異物・誤嚥は右に多い。 ・気管支と伴走するのは肺動脈、肺静脈は小葉間・区域間を走る。 ・気管は食道の右前方にある(食道はやや左寄り)。
