StudyMed医師国家試験

垂れたまぶたと外を向く眼―1枚の顔写真から動眼神経麻痺を見抜く

第104回医師国家試験 E問題 第25問

国試問題にチャレンジ

第104回 E問題 第25問

写真を別に示す。  障害されている脳神経はどれか。

第104回 E問題 第25問の問題画像
  1. a.Ⅱ
  2. b.Ⅲ
  3. c.Ⅳ
  4. d.Ⅴ
  5. e.Ⅵ

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は顔写真1枚から、どの脳神経が障害されているかを読み解く問題だ。注目点は2つ、「まぶたの位置」と「黒目の向き」。この2つを外眼筋の支配神経と結びつけられるかが勝負になる。まず写真を見て、何が目に入るかな。
医学生医学生
患者さんの右眼のまぶたがかなり下がっていて、黒目が外側に寄っているように見えます。
ドクタードクター
その通り。右の上眼瞼が瞳孔の上部にかかるほど下垂していて、右眼は耳側へ偏位している、つまり外斜視だね。左眼は正常な位置にある。では、まぶたを持ち上げる筋肉は何で、どの神経が支配しているか覚えているかな。
医学生医学生
上眼瞼挙筋ですよね。解剖実習で眼窩を開けたときに見ました。でも支配神経は顔面神経だったか、少し自信がないです。
ドクタードクター
そこはよく混同されるポイントだ。顔面神経が支配するのは眼輪筋で、こちらはまぶたを「閉じる」筋肉。まぶたを「開ける」上眼瞼挙筋は動眼神経の支配なんだ。顔面神経麻痺ではむしろ目が閉じにくくなる、と対で覚えておこう。
医学生医学生
開けるのが動眼神経、閉じるのが顔面神経ですね。では黒目が外を向くのはなぜでしょうか。
ドクタードクター
外眼筋の支配を整理すると分かる。外直筋は外転神経、上斜筋は滑車神経、それ以外の上直筋・下直筋・内直筋・下斜筋はすべて動眼神経だ。「LR6 SO4、残りは3」という覚え方が有名だね。動眼神経が麻痺すると内直筋が働かなくなり、残った外直筋と上斜筋の作用が勝って、眼球は外方、しばしば外下方へ引っ張られる。
医学生医学生
なるほど、まぶたの下垂と外斜視が同じ側にそろうのは、どちらも動眼神経で説明できるからですね。答えは動眼神経です。
ドクタードクター
正解。動眼神経麻痺の典型像そのものだ。ほかの選択肢も確認しよう。視神経はどうかな。
医学生医学生
視神経は視覚を伝える感覚神経なので、障害されると視力低下や視野欠損が出ますが、まぶたや眼球の動きには関係しないと思います。
ドクタードクター
その通り。視神経障害では患側に光を当てたときに両眼の対光反射が弱まる相対的求心性瞳孔障害、いわゆるRAPDが特徴的だけれど、眼瞼下垂や斜視の原因にはならない。三叉神経も同様で、顔面の感覚や角膜反射の求心路、咀嚼筋を担う神経だから、眼位には影響しない。
医学生医学生
滑車神経と外転神経は外眼筋を動かすので、少し迷いました。
ドクタードクター
迷うのは自然だね。ただ、麻痺したときの眼位を考えると区別できる。外転神経麻痺では外直筋が働かないから、患側眼は内側に寄って内斜視になり、患側を見ると水平性の複視が強まる。今回の外斜視とは逆向きだ。
医学生医学生
滑車神経麻痺だと上斜筋が効かないので、眼が上にずれるんでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。患側眼が上斜視になり、下を見るときに複視が強まるので、階段を降りるのがつらくなる。代償として頭を健側に傾け、患側に傾けると上転が強まるのがBielschowsky頭部傾斜試験だ。どちらの神経麻痺でも眼瞼下垂は起こらない、というのが今回の決め手だね。
医学生医学生
まぶたが下がるという所見だけなら、Horner症候群や重症筋無力症も考えますよね。神経内科の実習でテンシロンの話を聞きました。
ドクタードクター
いい鑑別だ。Horner症候群の眼瞼下垂は交感神経支配のMüller筋の麻痺によるもので軽度、縮瞳を伴い、眼球運動は正常。重症筋無力症は夕方に悪化する日内変動や易疲労性が手がかりで、瞳孔は侵されない。高度の下垂と外斜視が同側にそろっていれば、まず動眼神経麻痺を考えてよい。
医学生医学生
臨床で動眼神経麻痺を見たら、次に何を確認すればいいでしょうか。
ドクタードクター
ここが一番大事な臨床ポイントだ。必ず瞳孔を見ること。動眼神経の中で瞳孔を縮める副交感神経線維は神経の表層を走っている。だから内頸動脈-後交通動脈分岐部、いわゆるIC-PCの動脈瘤のように外から圧迫されると、表層の線維が先にやられて散瞳や対光反射消失を伴いやすい。この動脈瘤は破裂するとくも膜下出血を起こすから、頭痛を伴う急性の散瞳性動眼神経麻痺は緊急でCTアンギオやMRアンギオを撮る必要がある。
医学生医学生
逆に、瞳孔が保たれている場合はどう考えるんですか。
ドクタードクター
糖尿病や高血圧による微小血管障害が多い。神経の中心部が虚血になり、表層の瞳孔線維は保たれやすいので「瞳孔回避」と呼ぶ。数か月で自然回復することが多いけれど、瞳孔が正常だからといって圧迫性病変を完全に否定できるわけではないので、慎重な経過観察が必要だ。ほかにも海綿静脈洞病変や、同側動眼神経麻痺に対側片麻痺を伴う中脳病変のWeber症候群なども原因になる。
医学生医学生
瞳孔を見るだけで緊急度が大きく変わるんですね。OSCEの脳神経診察で対光反射をチェックする意味が実感できました。
ドクタードクター
まさにそういうこと。眼の所見は外から見えるぶん、正しく解釈できれば障害部位や緊急度まで推測できる強力な情報源なんだ。

まとめ

眼瞼下垂と眼球の外(下)方偏位が同側にそろっていれば、動眼神経(第Ⅲ脳神経)麻痺を考えます。動眼神経は上眼瞼挙筋と、外直筋(外転神経)・上斜筋(滑車神経)を除く外眼筋、さらに瞳孔括約筋を支配するため、麻痺すると開瞼できず、拮抗筋に引かれて眼球が外方へ偏位します。外転神経麻痺は内斜視、滑車神経麻痺は上斜視と代償頭位が特徴で、いずれも眼瞼下垂は伴わず、視神経や三叉神経は眼位に関与しません。臨床では瞳孔所見が重要で、散瞳を伴えばIC-PC動脈瘤などの圧迫性病変を疑って緊急精査し、瞳孔が保たれていれば糖尿病などの微小血管障害が多いと考えます。外眼筋の支配神経を眼位の異常と結びつけて理解することは、脳神経診察と緊急疾患の見逃し防止の基本となります。

解答・解説

正解はbです

写真の所見

正面視の写真で、患者の右眼(写真では向かって左側)に眼瞼下垂があり、上眼瞼が瞳孔の上部にかかるほど下がっている。さらに右眼は正面を向かず、外側(耳側)へ偏位している(外斜視)。左眼は正常な位置にある。

所見から障害神経を考える

眼瞼を持ち上げる上眼瞼挙筋と、眼球を内側に向ける内直筋は、いずれも動眼神経(第Ⅲ脳神経)の支配である。動眼神経が麻痺すると、上眼瞼挙筋が働かずに眼瞼下垂が起こり、内直筋・上直筋・下直筋・下斜筋が働かなくなる結果、麻痺していない外直筋(外転神経支配)と上斜筋(滑車神経支配)の作用が優位となって、眼球は外方(しばしば外下方)へ偏位する。「眼瞼下垂+外斜視(外下方偏位)」の組み合わせは動眼神経麻痺の典型像である。 これに加えて、動眼神経には瞳孔を縮める副交感神経線維(瞳孔括約筋・毛様体筋へ)が含まれるため、障害の仕方によっては散瞳や対光反射の消失を伴う。瞳孔所見の有無は原因の推定に重要である(supplement参照)。 眼瞼下垂だけならHorner症候群や重症筋無力症も鑑別に挙がるが、Horner症候群の眼瞼下垂は軽度で眼球運動障害を伴わず、重症筋無力症では日内変動・易疲労性がみられる。本問のように眼瞼下垂と眼球の外方偏位が同側に揃っている場合は、まず動眼神経麻痺を考える。

選択肢考察

  1. ×a.  Ⅱ

    誤り。第Ⅱ脳神経は視神経であり、視覚情報を伝える感覚神経である。障害されると視力低下・失明、視野欠損、患側への光刺激で両眼の対光反射が減弱する相対的求心性瞳孔障害(RAPD)などを生じるが、眼瞼や外眼筋は支配しないため、眼瞼下垂や眼位異常(斜視)の原因にはならない。

  2. ○b.  Ⅲ

    正しい。第Ⅲ脳神経は動眼神経である。上眼窩裂から眼窩に入って上枝と下枝に分かれ、上枝は上眼瞼挙筋と上直筋、下枝は内直筋・下直筋・下斜筋を支配する。さらに下枝から毛様体神経節を経る副交感神経線維が瞳孔括約筋と毛様体筋に分布する。動眼神経麻痺では、上眼瞼挙筋の麻痺による眼瞼下垂と、内直筋などの麻痺で外直筋・上斜筋の作用が相対的に優位になることによる眼球の外(下)方偏位がみられる。写真の右眼の所見はこれに一致する。

  3. ×c.  Ⅳ

    誤り。第Ⅳ脳神経は滑車神経であり、上斜筋のみを支配する。上斜筋は眼球を下転(特に内転位での下転)・内旋させる。麻痺すると患側眼が上方に偏位し(上斜視)、下方視で垂直性・回旋性の複視が強まるため、階段を降りる動作や読書がしにくくなる。複視を避けるために頭を健側に傾ける代償頭位をとり、頭を患側に傾けると患側眼の上転が増強する(Bielschowsky頭部傾斜試験陽性)。眼瞼下垂は生じない。

  4. ×d.  Ⅴ

    誤り。第Ⅴ脳神経は三叉神経であり、感覚枝は顔面の大部分の皮膚、角膜、口腔・鼻腔粘膜の感覚を、運動枝は咀嚼筋(咬筋・側頭筋・内側および外側翼突筋)を支配する。障害では顔面の感覚低下、角膜反射の消失(求心路の障害)、咀嚼力の低下などがみられるが、外眼筋や上眼瞼挙筋は支配しないため、眼瞼下垂や斜視は生じない。

  5. ×e.  Ⅵ

    誤り。第Ⅵ脳神経は外転神経であり、外直筋を支配して眼球を外側へ向ける。麻痺すると患側眼の外転が障害されて内斜視となり、患側を見たときに水平性の複視が強くなる。本問の写真では右眼がむしろ外側へ偏位しており、外転神経麻痺とは逆の所見である。また外転神経麻痺で眼瞼下垂は生じない。

外眼筋と支配神経

動眼神経(Ⅲ):上直筋(上転)、下直筋(下転)、内直筋(内転)、下斜筋(外転位からの上転・外旋)、上眼瞼挙筋(開瞼)、瞳孔括約筋・毛様体筋(副交感:縮瞳・調節) 滑車神経(Ⅳ):上斜筋(内転位での下転・内旋) 外転神経(Ⅵ):外直筋(外転) 覚え方として「LR6 SO4、残りは3」が知られている。

動眼神経麻痺の原因と瞳孔所見

動眼神経の中で瞳孔を支配する副交感神経線維は、神経の表層(上内側)を走行している。 ・外からの圧迫(内頸動脈-後交通動脈分岐部〈IC-PC〉動脈瘤、鉤ヘルニアなど):表層の線維が先に障害されるため、散瞳・対光反射消失を伴いやすい(瞳孔障害を伴う動眼神経麻痺)。IC-PC動脈瘤は破裂するとくも膜下出血を起こすため、頭痛を伴う急性の動眼神経麻痺は緊急の画像検査(CTアンギオグラフィ、MRアンギオグラフィなど)が必要である。 ・神経内部の微小血管障害(糖尿病、高血圧など):神経の中心部が虚血に陥り、表層の瞳孔線維は保たれやすいため、瞳孔は正常なことが多い(瞳孔回避)。数か月で自然回復することが多い。 ・その他:海綿静脈洞病変、Tolosa-Hunt症候群、中脳病変(Weber症候群:同側動眼神経麻痺+対側片麻痺)なども原因となる。

眼瞼下垂の主な鑑別

動眼神経麻痺:高度の下垂、外斜視、しばしば散瞳。 Horner症候群(交感神経障害):軽度の下垂(瞼板筋〈Müller筋〉の麻痺)、縮瞳、顔面の発汗低下。眼球運動は正常。 重症筋無力症:日内変動・易疲労性のある下垂、複視。瞳孔は正常。 腱膜性(加齢性)眼瞼下垂:眼球運動・瞳孔ともに正常。

POINT

・眼瞼下垂+眼球の外(下)方偏位 → 動眼神経(Ⅲ)麻痺。 ・動眼神経は上眼瞼挙筋、上直筋、下直筋、内直筋、下斜筋と瞳孔括約筋・毛様体筋を支配する。外直筋はⅥ、上斜筋はⅣ。 ・散瞳を伴う動眼神経麻痺 → IC-PC動脈瘤による圧迫をまず疑い、緊急で精査する。 ・瞳孔が保たれる動眼神経麻痺 → 糖尿病などの微小血管障害が多い。 ・滑車神経麻痺は上斜視と代償頭位(健側への頭部傾斜)、外転神経麻痺は内斜視と外転障害。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。