StudyMed医師国家試験

「同意なし」「週ごと」「全数か定点か」―感染症サーベイランスの仕組みを読み解く

第104回医師国家試験 E問題 第23問

国試問題にチャレンジ

第104回 E問題 第23問

 感染症発生動向調査事業〈サーベイランス〉で正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.患者発生時の防疫を目的とする。
  2. b.発生情報は患者本人の同意を得て収集される。
  3. c.1~4類感染症には全数把握と定点把握とがある。
  4. d.2~5類感染症は疑似症も収集される。
  5. e.発生情報は週ごとに公表される。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は感染症発生動向調査事業、いわゆる感染症サーベイランスの制度問題だ。着眼点は3つ。情報をどうやって集めるのか、類型ごとに全数把握か定点把握か、そして集めた情報をどのくらいの間隔で還元するのか。まずは事業の全体像から考えてみよう。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、感染症法に基づいて医師が保健所に届け出る仕組みだと習いました。
ドクタードクター
その通り。医師や指定された医療機関からの届出が保健所に集まり、都道府県の地方感染症情報センター、そして国の中央感染症情報センターへと集約される。分析結果は国民や医療機関に還元され、発生予防とまん延防止に役立てられる。つまり「把握・分析・還元」を継続的に回す事業なんだ。
医学生医学生
そうすると、目的が「患者発生時の防疫」というのは正しいと考えていいでしょうか。
ドクタードクター
ここは少し丁寧に考えたい。サーベイランスの本質は発生動向を継続的に把握して還元することで、消毒や就業制限といった個々の防疫措置そのものではない。ただ、得られた情報は積極的疫学調査や接触者対応など、患者が出たときの感染拡大防止策を講じる土台になる。感染症法の目的に沿った事業だから、「防疫を目的とする」という記述は趣旨に合うと判断される。表現としてはやや曖昧で、迷った人が多かった選択肢だと思うよ。
医学生医学生
届出には患者さんの同意が必要ですよね。個人情報を保健所に送るわけですし。
ドクタードクター
そこがよくある誤解だ。感染症法に基づく届出は医師の法的義務で、患者本人の同意は要件になっていない。感染拡大を防ぐという公衆衛生上の利益が優先されるからだ。その代わり、届出情報は個人情報として厳格に扱われ、公表されるのは個人が特定されない集計情報に限られる。
医学生医学生
臨床実習の感染症内科で、結核の患者さんの発生届を指導医の先生がその日のうちに書いていたのを思い出しました。同意書は取っていなかったです。
ドクタードクター
まさにそれが実際の運用だね。では次に全数把握と定点把握。1~4類感染症はどちらだと思う?
医学生医学生
インフルエンザみたいに定点で集める病気もあったので、1~4類にも両方あるのかと思っていました。
ドクタードクター
インフルエンザは5類なんだ。1~4類はすべて全数把握で、診断した医師は全例を直ちに届け出る。全数把握と定点把握が混在しているのは5類だけ。5類の全数把握疾患には後天性免疫不全症候群、梅毒、麻疹、風疹などがあり、原則7日以内、麻疹や風疹などは直ちに届け出る。定点把握疾患はインフルエンザ、感染性胃腸炎、手足口病などで、指定届出機関が週単位または月単位で報告する。
医学生医学生
疑似症はどうでしょう。2~5類すべてで集めるなら漏れが少なそうですが。
ドクタードクター
疑似症患者を患者とみなして届出対象にするのは、1類感染症の全疾患と、2類のうち政令で定められた結核、SARS、MERS、鳥インフルエンザH5N1・H7N9などに限られる。3~5類では原則として確定例が対象だから、「2~5類で疑似症も収集」は広すぎるんだ。重篤で広がると危険な類型ほど、確定を待たずに動けるようにしてある、と理解するといい。
医学生医学生
最後の、発生情報が週ごとに公表されるというのは、ニュースで「今週のインフルエンザ定点当たり報告数」と聞くのと同じ話ですね。
ドクタードクター
そう。全数把握・定点把握の情報は原則として月曜から日曜までの週単位で集計・分析され、感染症週報、IDWRとして公表される。ただし性感染症定点の疾患や薬剤耐性菌感染症など、一部は月単位で集計される例外がある。
医学生医学生
整理すると、届出は義務で同意不要、1~4類は全数把握、疑似症は1類と2類の一部、公表は週単位、目的は発生予防とまん延防止ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展として定点の種類も押さえておこう。小児科定点では手足口病や水痘、ヘルパンギーナ、眼科定点では流行性角結膜炎、性感染症定点では性器クラミジア感染症などを月報で、基幹定点ではマイコプラズマ肺炎や薬剤耐性菌感染症を把握する。定点は全国の一部の医療機関から報告を受けるから、絶対数ではなく「定点当たり報告数」で流行の推移を見るのがポイントだ。
医学生医学生
実際に働き始めたら、どの病気をいつまでに届けるのか迷いそうです。
ドクタードクター
臨床では、1~4類と5類の全数把握疾患は自分が診断したら届出義務が生じる、ということをまず意識してほしい。麻疹や結核を見逃さず、直ちに届けることが地域での接触者調査の出発点になる。迷ったら保健所に相談すればいいし、届出基準は厚生労働省の資料で確認できる。サーベイランスは、一人ひとりの医師の届出があって初めて成り立つ仕組みなんだ。

まとめ

感染症発生動向調査事業(サーベイランス)は感染症法に基づき、医師などの届出から発生状況を継続的に把握・分析し、国民や医療機関に還元して発生予防とまん延防止に役立てる事業で、患者発生時の防疫の基盤となります。届出は医師の法的義務であり患者本人の同意は不要で、公表は個人が特定されない集計情報として、原則週単位(感染症週報)で行われます。1~4類感染症はすべて全数把握で直ちに届け出、全数把握と定点把握が混在するのは5類感染症です。疑似症患者を届出対象とするのは1類感染症と、結核・SARS・MERS・鳥インフルエンザ(H5N1・H7N9)など2類の一部に限られます。類型ごとの届出ルールを理解しておくことは、診断した医師が担う公衆衛生上の役割を果たすための基本です。

解答・解説

正解はa, eです

※この問題は、厚生労働省の発表により採点対象から除外されています。

感染症発生動向調査事業(感染症サーベイランス)は、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)に基づいて全国で行われている事業である。医師などからの届出によって感染症の発生状況を継続的に集め、分析し、その結果を国民や医療関係者に速やかに還元することで、感染症の発生予防とまん延防止に役立てることを目的としている。 本問を解くには、次の3点を整理しておく必要がある。 1つ目は、情報の集め方(届出)の仕組みである。感染症法に基づく届出は法的義務であり、公衆衛生上の必要性から患者本人の同意を要件としていない。 2つ目は、全数把握と定点把握の区別である。1~4類感染症はすべて全数把握であり、全数把握と定点把握が混在しているのは5類感染症である。 3つ目は、疑似症の扱いである。疑似症患者を患者とみなして届出の対象とするのは、1類感染症全般と、2類感染症のうち政令で定められた一部の疾患などに限られる。 そのうえで、集められた情報は週単位で集計・公表されるという運用を知っていれば、正解を選ぶことができる。 なお、本問は採点対象から除外された。内容の細かさから受験生にとって難易度が高すぎると判断されたと考えられる。また、選択肢aの「患者発生時の防疫」という表現は、流行状況の把握と情報提供を主眼とするサーベイランスの目的を表す言い回しとしてはやや曖昧であり、このことも判断を難しくしたと考えられる。

選択肢考察

  1. ○a.  患者発生時の防疫を目的とする。

    正しい。サーベイランスで得られた発生情報は、患者が出たときの感染拡大防止策(積極的疫学調査、接触者への対応、消毒、就業制限など)を講じる基礎となる。感染症の発生予防とまん延防止という感染症法の目的に沿った事業であり、防疫を目的とするという記述は趣旨に合致する。ただし、サーベイランスの本質は「発生動向を継続的に把握し、分析結果を還元すること」であり、個々の防疫措置そのものではない点は理解しておく。

  2. ×b.  発生情報は患者本人の同意を得て収集される。

    誤り。感染症法に基づく届出は医師の法的義務であり、患者本人の同意を得ることは要件とされていない。感染症の拡大防止という公衆衛生上の利益が優先されるためである。一方で、届出情報は個人情報として厳格に扱われ、公表されるのは個人が特定されない集計情報である。

  3. ×c.  1~4類感染症には全数把握と定点把握とがある。

    誤り。1~4類感染症はすべて全数把握対象であり、診断した医師は全例を届け出る(1~4類は直ちに届出)。全数把握と定点把握の両方があるのは5類感染症である。5類の全数把握疾患(例:後天性免疫不全症候群、梅毒、麻疹、風疹など)は原則7日以内(麻疹・風疹などは直ちに)、定点把握疾患(例:インフルエンザ、感染性胃腸炎、手足口病など)は指定届出機関(定点医療機関)が週単位または月単位で届け出る。

  4. ×d.  2~5類感染症は疑似症も収集される。

    誤り。疑似症患者(症状などからその感染症が強く疑われるが、確定診断に至っていない者)を届出対象とするのは、1類感染症の全疾患と、2類感染症のうち政令で定められた疾患(結核、重症急性呼吸器症候群〈SARS〉、中東呼吸器症候群〈MERS〉、鳥インフルエンザ〈H5N1・H7N9〉)などに限られる。2~5類感染症全般で疑似症が収集されるわけではなく、3~5類感染症では原則として確定例が届出対象となる。

  5. ○e.  発生情報は週ごとに公表される。

    正しい。全数把握対象疾患・定点把握対象疾患の情報は、原則として週単位(月曜日から日曜日)で集計・分析され、感染症週報(Infectious Diseases Weekly Report:IDWR)などとして公表される。ただし、性感染症や薬剤耐性菌感染症など一部の定点把握疾患は月単位で報告・集計される。

感染症法の類型と届出(概要)

1類感染症:エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱。全数把握・直ちに届出。疑似症患者も患者とみなす。 2類感染症:急性灰白髄炎、結核、ジフテリア、SARS、MERS、鳥インフルエンザ(H5N1・H7N9)。全数把握・直ちに届出。結核・SARS・MERS・鳥インフルエンザ(H5N1・H7N9)は疑似症患者も患者とみなす。 3類感染症:コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス。全数把握・直ちに届出。 4類感染症:E型肝炎、A型肝炎、狂犬病、マラリア、デング熱など多数。全数把握・直ちに届出。 5類感染症:全数把握疾患(原則7日以内、麻疹・風疹・侵襲性髄膜炎菌感染症は直ちに)と、定点把握疾患(指定届出機関が週または月単位)に分かれる。

定点把握の種類(例)

小児科定点(手足口病、水痘、ヘルパンギーナなど)、インフルエンザ/COVID-19定点、眼科定点(流行性角結膜炎など)、性感染症定点(性器クラミジア感染症など、月報)、基幹定点(マイコプラズマ肺炎、薬剤耐性菌感染症など)がある。

サーベイランスの流れ

医師・指定届出機関 → 保健所 → 都道府県等(地方感染症情報センター)→ 国(中央感染症情報センター)へと情報が集約され、分析結果が週報などで国民・医療機関に還元される。

POINT

・感染症サーベイランスは感染症法に基づき、発生動向を把握・分析・公表して発生予防とまん延防止に役立てる事業である。 ・届出は医師の法的義務であり、患者の同意は不要。 ・1~4類感染症は全数把握(直ちに届出)。全数把握と定点把握が混在するのは5類感染症。 ・疑似症患者も届出対象となるのは、1類感染症と2類の一部(結核、SARS、MERS、鳥インフルエンザH5N1・H7N9)など。 ・発生情報は原則として週単位で集計・公表される(一部の定点疾患は月単位)。 ・本問は採点対象から除外された。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。