歩くと痛み、休むと治る―閉塞性動脈硬化症の症状は「虚血」ですべて説明できる
第104回医師国家試験 E問題 第22問
国試問題にチャレンジ
閉塞性動脈硬化症の間欠性跛行でみられないのはどれか。
- a.疼痛
- b.感覚障害
- c.筋力低下
- d.末梢冷感
- e.腱反射亢進
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
閉塞性動脈硬化症の間欠性跛行は、歩行で筋の酸素需要が増えたときに狭窄した動脈からの血流が追いつかず、筋や末梢神経が一時的に虚血になることで生じます。そのため疼痛、筋力低下、しびれなどの感覚障害、末梢冷感や皮膚蒼白、足背動脈の拍動減弱はいずれも虚血で説明できる症状ですが、上位運動ニューロン障害の徴候である腱反射亢進はみられません。鑑別となる腰部脊柱管狭窄症の神経性跛行では前屈や座位で症状が軽快し腱反射はむしろ低下することが多く、腱反射亢進を伴う跛行では脊髄性の障害を考えます。重症度はFontaine分類で整理し、ABI 0.90以下が診断の目安となります。閉塞性動脈硬化症は全身の動脈硬化の部分症であり、冠動脈疾患や脳血管疾患の合併を念頭に危険因子を管理する視点が、症候の理解とともに臨床で重要です。
解答・解説
正解はeです
閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans:ASO)は、動脈硬化によって主に下肢の動脈が狭窄・閉塞し、その末梢が虚血に陥る疾患である。現在は末梢動脈疾患(peripheral arterial disease:PAD)の代表として扱われることが多い。 間欠性跛行とは、一定の距離を歩くと下肢(主にふくらはぎ)に痛みやだるさが出て歩けなくなり、少し立ち止まって休むと再び歩けるようになる症状である。ASOでは、安静時には狭窄した動脈からの血流でなんとか足りていても、歩行で筋肉の酸素需要が増えると供給が追いつかなくなり、筋や末梢神経が一時的な虚血状態になる。これが血管性間欠性跛行の本態である。 したがって、ASOでみられる症候は「虚血による組織の機能障害」として理解できる。筋が虚血になれば痛みや脱力(筋力低下)が生じ、末梢神経が虚血になればしびれなどの感覚障害が生じ、皮膚血流が落ちれば冷感や皮膚の蒼白が生じる。一方、腱反射の亢進は、脳や脊髄などの上位運動ニューロンが障害されたときにみられる徴候であり、下肢の末梢動脈の虚血という病態からは説明できない。この「病態から説明できるかどうか」という視点で各選択肢を検討すればよい。
選択肢考察
- ×a. 疼痛
みられる。歩行時に下肢の筋で酸素需要が血流供給を上回ると、嫌気性代謝による乳酸などの代謝産物が蓄積し、筋に痛みや締めつけ感が生じる。これが間欠性跛行の中心となる症状であり、狭窄部位より末梢の筋(大腿動脈~膝窩動脈の病変ならふくらはぎ、大動脈~腸骨動脈の病変なら殿部や大腿部)に出現しやすい。さらに虚血が進行すると、歩かなくても痛む安静時疼痛(Fontaine分類Ⅲ度)に至る。
- ×b. 感覚障害
みられる。末梢神経も血流によって栄養されているため、虚血によってしびれや感覚の鈍さといった感覚障害が生じる。しびれや冷感は、Fontaine分類では最も軽いⅠ度の症状として位置づけられている。感覚障害があることだけでは神経性の跛行と区別できない点に注意する。
- ×c. 筋力低下
みられる。歩行負荷で筋が虚血に陥ると、痛みとともに脱力感や下肢の力の入りにくさが生じ、歩行継続が困難になる。Fontaine分類の項目としては明記されていないが、虚血による筋機能の低下として病態上当然に生じうる症状であり、慢性的な虚血では筋萎縮を伴うこともある。
- ×d. 末梢冷感
みられる。狭窄・閉塞部より末梢の皮膚血流が低下するため、足趾や足部に冷感を自覚し、触診でも患側の皮膚温低下を認める。冷感はFontaine分類Ⅰ度に含まれる初期症状であり、あわせて皮膚の蒼白、足背動脈・後脛骨動脈の拍動減弱~消失、下肢挙上での蒼白化などもASOの重要な所見である。
- ○e. 腱反射亢進
みられない。腱反射亢進は、大脳・脳幹・脊髄の錐体路(上位運動ニューロン)障害で出現する徴候である。ASOは末梢の動脈の病気であり、中枢神経を障害する病態ではないため、腱反射亢進は生じない。なお、間欠性跛行を来す他の原因として神経性間欠性跛行(腰部脊柱管狭窄症など)があるが、こちらでは馬尾・神経根の障害によってアキレス腱反射などはむしろ低下することが多い。腱反射の亢進を伴う跛行をみた場合は、胸髄や頸髄の病変による脊髄性間欠性跛行など中枢側の障害を考える必要がある。
Fontaine分類(ASOの重症度分類)
Ⅰ度:冷感、しびれ、皮膚色調の変化(蒼白) Ⅱ度:間欠性跛行 Ⅲ度:安静時疼痛 Ⅳ度:潰瘍・壊疽 Ⅲ度以上は包括的高度慢性下肢虚血(CLTI、かつての重症下肢虚血:CLI)に相当し、下肢切断のリスクが高い。
血管性間欠性跛行と神経性間欠性跛行の鑑別
血管性(ASOなど):休息は立ち止まるだけで回復する。姿勢の影響を受けない。足背動脈などの拍動が減弱・消失する。足関節上腕血圧比(ankle-brachial index:ABI)が低下する(0.90以下で異常)。 神経性(腰部脊柱管狭窄症など):前かがみや座位で休むと回復し、立ったままでは回復しにくい。自転車こぎのような前屈姿勢の運動は可能なことが多い。足背動脈の拍動は保たれる。しびれなどの感覚障害や腱反射低下など、神経根・馬尾の症状を伴う。
ASOの背景と全身管理
ASOは50歳以上の男性に多く、喫煙、糖尿病、高血圧、脂質異常症、慢性腎臓病などの動脈硬化危険因子を背景に発症する。下肢病変は腹部大動脈末梢から腸骨動脈、浅大腿動脈に好発する。全身の動脈硬化の一部分症として生じるため、冠動脈疾患や脳血管疾患を高率に合併し、生命予後はこれらの心血管イベントに大きく左右される。下肢だけでなく全身の血管病変の評価と危険因子の管理(禁煙、抗血小板薬、スタチンなど)が重要である。
POINT
・ASOの症状は「虚血」で説明できる:疼痛、しびれなどの感覚障害、筋力低下、冷感、皮膚蒼白、動脈拍動の減弱。 ・腱反射亢進は上位運動ニューロン障害の徴候であり、末梢動脈疾患であるASOではみられない。 ・Fontaine分類:Ⅰ度 冷感・しびれ、Ⅱ度 間欠性跛行、Ⅲ度 安静時疼痛、Ⅳ度 潰瘍・壊疽。 ・血管性跛行は立ち止まるだけで回復し、神経性跛行(腰部脊柱管狭窄症)は前屈・座位で回復する。 ・ASOは全身の動脈硬化の部分症であり、冠動脈疾患・脳血管疾患の合併に注意する。
