StudyMed医師国家試験

全身を12Gyで照らす覚悟―造血幹細胞移植の全身放射線照射と「二次がん」の宿命

第104回医師国家試験 E問題 第21問

国試問題にチャレンジ

第104回 E問題 第21問

造血幹細胞移植における全身放射線照射で正しいのはどれか。

  1. a.単回照射する。
  2. b.白血球数は保たれる。
  3. c.生殖機能は保たれる。
  4. d.二次がんの発生率が高い。
  5. e.総線量は2Gy程度である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、造血幹細胞移植の前処置として行う全身放射線照射、いわゆるTBIについての問題だ。考えるポイントは「何のために照射するのか」「どのくらいの線量をどう分けるのか」「全身に当てると何が起こるのか」の3つ。まず、移植の前にわざわざ全身へ放射線を当てる理由から考えてみよう。
医学生医学生
白血病細胞を叩くためでしょうか。抗がん剤だけでは足りない部分を補うイメージです。
ドクタードクター
それが一つ目の目的で正解。放射線は薬が届きにくい中枢神経や精巣にも作用できるのが強みだ。ただ、目的はそれだけじゃない。同種移植で、他人の造血幹細胞を入れるときに障害になるものは何だろう。
医学生医学生
拒絶ですね。免疫学の講義で、宿主対移植片反応という言葉を習いました。
ドクタードクター
その通り。患者さん自身のリンパ球が残っていると、ドナーの幹細胞を異物として排除してしまう。だからTBIで患者さんのリンパ球を徹底的に除いて生着させる。さらに患者さん自身の造血を抑えて、移植した幹細胞が増える場所をつくる。抗腫瘍効果、免疫抑制、骨髄の空白化、この3つがTBIの目的だ。
医学生医学生
ということは、白血球数が保たれるという選択肢は逆ですね。むしろ意図的にゼロに近づけるわけですから。
ドクタードクター
まさにそう。リンパ球は放射線感受性が最も高い細胞の一つで、低い線量でも速やかに死ぬ。TBI後は白血球がほぼなくなり、ドナーの幹細胞が生着するまで重い感染症のリスクが高い期間が続く。だから無菌室での管理や感染予防が欠かせないんだ。
医学生医学生
血液内科の実習で、クリーンルームの患者さんを見学しました。あの時期がまさにそれなんですね。では線量はどれくらいなんでしょう。2Gyと聞くと少なすぎる気がします。
ドクタードクター
いい感覚だね。骨髄破壊的前処置として行う標準的なTBIは総線量12Gy程度だ。全身に一度に浴びたらおよそ4Gyで半数が亡くなるとされるから、12Gyは幹細胞を輸注しなければ生きられない線量ということになる。総線量2Gy程度というのは標準的なTBIとしては誤りだ。
医学生医学生
そんな大量を1回で当てるんですか。
ドクタードクター
そこがもう一つの落とし穴。標準的には1回2Gy、1日2回、3日間の計6回に分ける分割照射が代表的なんだ。かつては10Gy前後を1回で照射する方法もあったけれど、間質性肺炎や白内障が多かった。分割すれば、照射の合間に修復能の高い正常組織、特に肺が損傷から回復でき、腫瘍への効果は保たれる。だから単回照射も誤り。肺の線量を遮蔽で調整することもあるよ。
医学生医学生
放射線生物学の講義で習った4つのR、修復や再分布の話がここで生きてくるんですね。でも、ミニ移植では2Gyを1回、と聞いたことがあるような気がします。
ドクタードクター
よく知っているね。高齢者や臓器障害のある患者さんへの骨髄非破壊的前処置、いわゆるミニ移植では、2Gy程度の低線量TBIを用いることがある。ただしこれは生着のための免疫抑制が主な目的で、抗腫瘍効果はドナーのリンパ球によるGVL効果に頼る。標準的なTBIとは位置づけが違うから、この問題では区別して考えよう。
医学生医学生
生殖機能はどうですか。精巣を遮蔽すれば守れそうな気もしますが。
ドクタードクター
精巣は白血病細胞が潜みやすい場所でもあるから、むしろ照射の対象になる。生殖腺は放射線感受性が高く、12Gy程度のTBIでは多くの患者さんで精子形成が止まり、卵巣では早発卵巣不全に陥る。回復する例もあるけれど、多くは永続的な不妊だ。だから移植前に精子や卵子、卵巣組織の凍結保存といった妊孕性温存について説明し、希望を確認することが大切になる。生殖機能が保たれるというのも誤りだ。
医学生医学生
残るのが二次がんですね。全身に高線量を当てるのだから、発がんのリスクが上がるのは自然だと思います。
ドクタードクター
正解。放射線による発がんは確率的影響で、しきい線量がないと考えられ、線量が多いほど発生確率が上がる。TBIは全身に高線量を当てるので、移植後長期にわたって皮膚がん、口腔がん、甲状腺がん、乳がん、脳腫瘍などの固形がんが増え、年数がたつほど累積発生率は上がっていく。若いうちに照射を受けた人ほどリスクが高いんだ。
医学生医学生
確定的影響と確率的影響の区別が大事ということですね。不妊や白内障はしきい線量のある確定的影響、発がんは確率的影響、と。
ドクタードクター
その整理で完璧。最後に臨床での注意点をまとめよう。TBIの有害事象は時期で分けると覚えやすい。急性期は悪心・嘔吐、耳下腺炎、口内炎、骨髄抑制。亜急性期は間質性肺炎。晩期は不妊、白内障、甲状腺機能低下症、小児の成長障害、そして二次がんだ。移植が成功して何年もたった患者さんでも、がん検診や内分泌のフォローを続ける必要がある。
医学生医学生
移植は退院がゴールではなくて、長期フォローアップまで含めて治療なんですね。
ドクタードクター
その通り。特に小児がんや若年の白血病の患者さんは、その後の人生が長い。治療で命を救うことと、晩期合併症に向き合うことはセットだと覚えておいてほしい。

まとめ

造血幹細胞移植の前処置として行う全身放射線照射(TBI)は、抗腫瘍効果、患者リンパ球の除去による拒絶の防止、骨髄の空白化を目的とします。標準的な骨髄破壊的前処置では総線量12Gy程度を1回2Gy・1日2回・3日間に分割して照射し、分割によって肺などの正常組織障害を軽減します。照射により白血球はほぼゼロになり、生殖腺は高率に障害されて多くは永続的な不妊となるため、妊孕性温存の説明が必要です。発がんはしきい線量のない確率的影響であり、全身に高線量を当てるTBIでは移植後長期にわたり二次がんの発生率が高くなります。なお2Gy程度の低線量TBIはミニ移植で免疫抑制を主目的に用いられるもので、確定的影響と確率的影響の区別とあわせて理解しておくと、放射線治療全般の有害事象の考え方に役立ちます。

解答・解説

正解はdです

テーマ

造血幹細胞移植では、移植の前に大量の抗がん剤や放射線で患者の骨髄と腫瘍細胞を叩く「移植前処置(コンディショニング)」を行う。その一つが全身放射線照射(TBI:total body irradiation)である。本問はTBIの目的・方法(線量と分割)・有害事象を問う。

TBIの目的

1. 抗腫瘍効果:白血病などの腫瘍細胞を全身で根絶する。放射線は血流の届きにくい部位(中枢神経、精巣など)にも作用できる。 2. 免疫抑制:同種移植では、患者(レシピエント)のリンパ球を徹底的に除いて、ドナーの造血幹細胞が拒絶されないようにする(生着の促進)。 3. 骨髄の空白化:患者自身の造血を抑え、移植した幹細胞が増殖する場所をつくる。

方法

骨髄破壊的前処置として行う標準的なTBIは、総線量12Gy程度を1回2Gy、1日2回、3日間(計6回)に分けて照射する分割照射である。分割することで、腫瘍への効果を保ちつつ、修復能の高い正常組織(特に肺)の障害を減らせる。間質性肺炎を防ぐため、肺の線量を遮蔽などで調整することもある。

有害事象の考え方

全身の組織が被曝するため、急性期には悪心・嘔吐、耳下腺炎、口内炎、骨髄抑制が起こり、晩期には不妊、白内障、甲状腺機能低下症、小児の成長障害、そして二次がんが問題となる。発がんは確率的影響であり、線量が増えるほど発生確率が高まるため、高線量を全身に照射するTBIでは二次がんの発生率が高くなる。これが正解となる。

選択肢考察

  1. ×a.  単回照射する。

    標準的なTBIは分割照射である。12Gyを1回2Gyずつ1日2回・3日間に分けるスケジュールが代表的である。10Gy前後を1回で照射する方法はかつて用いられたが、間質性肺炎や白内障などの正常組織障害が多いため、分割照射が主流となった。分割すると、照射の合間に正常組織が放射線損傷を修復できる一方、腫瘍細胞への効果は保たれる。なお、骨髄非破壊的前処置(ミニ移植)では2Gy程度を1回照射することがあるが、これは標準的な全身照射とは位置づけが異なる。

  2. ×b.  白血球数は保たれる。

    TBIは造血細胞を強く障害するため、白血球数は著しく減少する。特にリンパ球は放射線感受性が最も高い細胞の一つで、低い線量でも速やかに死滅する。TBIの目的の一つは患者のリンパ球を根絶して移植片の拒絶を防ぐことであり、白血球が保たれるのではなく、意図的にほぼゼロにする。ドナーの幹細胞が生着して白血球が回復するまでの期間は、重い感染症のリスクが高く、感染予防策が必要となる。

  3. ×c.  生殖機能は保たれる。

    生殖腺は放射線感受性が高く、12Gy程度のTBIではほとんどの患者で生殖機能が障害される。精巣では精子形成が停止して無精子症になり、卵巣では卵胞が失われて早発卵巣不全(早期閉経)に陥る。回復する例もあるが多くは永続的な不妊となる。このため、移植前に精子や卵子・卵巣組織の凍結保存など妊孕性温存について説明し、希望を確認することが求められる。

  4. ○d.  二次がんの発生率が高い。

    放射線による発がんは確率的影響であり、しきい線量がなく、線量が大きいほど発生する確率が高くなると考えられている。TBIは全身に高線量を照射するため、移植後長期にわたって二次がんのリスクが上昇する。皮膚がん、口腔がん、甲状腺がん、乳がん、脳腫瘍などの固形がんが多く、移植から年数がたつほど累積発生率が増える。若年で照射を受けた人ほどリスクが高い。そのため移植後は長期にわたるがん検診などのフォローアップが必要である。

  5. ×e.  総線量は2Gy程度である。

    骨髄破壊的前処置として行う標準的なTBIの総線量は12Gy程度である。全身に照射した場合、およそ4Gyで半数が死亡するとされるほどの線量であり、造血幹細胞の輸注がなければ生存できない。2Gy程度の低線量TBIは、高齢者や臓器障害のある患者に対する骨髄非破壊的前処置(ミニ移植)で免疫抑制を主目的に用いられるもので、標準的なTBIの線量ではない。

造血幹細胞移植の概要

・自家移植:あらかじめ採取・凍結保存した患者自身の造血幹細胞を、大量化学療法の後に戻す。大量の抗がん剤による骨髄障害からの回復を助けるのが目的で、拒絶や移植片対宿主病(GVHD)は起こらない。悪性リンパ腫や多発性骨髄腫などで用いる。 ・同種移植:HLA(ヒト白血球抗原)の適合したドナーの造血幹細胞を移植する。前処置による抗腫瘍効果に加え、ドナーのリンパ球が残存する腫瘍細胞を攻撃する移植片対白血病(GVL:graft-versus-leukemia)効果が期待できる。一方で、ドナーのリンパ球が患者の正常組織を攻撃するGVHDが起こりうるため、移植後に免疫抑制薬で予防する。

前処置の種類

・骨髄破壊的前処置:TBI 12Gy+シクロホスファミド大量療法、ブスルファン+シクロホスファミドなど。抗腫瘍効果が強いが、毒性も強い。 ・骨髄非破壊的前処置(強度減弱前処置、いわゆるミニ移植):フルダラビンなどの免疫抑制作用の強い薬剤や低線量TBI(2Gy程度)を用い、生着に必要な免疫抑制を主目的とする。抗腫瘍効果の多くをGVL効果に頼り、高齢者や合併症のある患者にも移植が可能になった。

TBIの主な有害事象

・急性期:悪心・嘔吐、下痢、耳下腺炎、口内炎、皮膚紅斑、骨髄抑制。 ・亜急性期:間質性肺炎(肺の線量が関係する)。 ・晩期:不妊・性腺機能低下、白内障、甲状腺機能低下症、小児の成長障害、二次がん。

放射線の影響の分類

・確定的影響(組織反応):しきい線量があり、それを超えると線量に応じて重症度が増す。例:骨髄抑制、不妊、白内障、脱毛。 ・確率的影響:しきい線量がないと仮定され、線量に応じて発生確率が増す。例:発がん、遺伝的影響。

POINT

・TBIの目的:抗腫瘍効果、レシピエントの免疫抑制(拒絶の防止)、骨髄の空白化。 ・標準的なTBI:総線量12Gy程度、1回2Gy・1日2回・3日間の分割照射。 ・リンパ球は放射線感受性が非常に高く、TBIで白血球はほぼゼロになる。 ・12Gyでは多くが永続的な不妊となるため、妊孕性温存の説明が必要。 ・発がんは確率的影響(しきい値なし)で、TBI後は二次がんが増える。 ・低線量TBI(2Gy程度)は骨髄非破壊的前処置で用いられる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。