StudyMed医師国家試験

皆保険から後期高齢者医療まで―法律の「順番」で読み解く医療保険の歩み

第104回医師国家試験 E問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第104回 E問題 第2問

我が国の医療保険制度の変遷で正しいのはどれか。

  1. a.健康保険法の制定によって国民皆保険が実現した。
  2. b.国民健康保険法の制定によって被用者保険が始まった。
  3. c.老人医療費無料化は医療保険給付割合を10割にして実現した。
  4. d.老人保健法の制定によって75歳以上の者の医療保険が始まった。
  5. e.高齢者の医療の確保に関する法律〈高齢者医療確保法〉は老人医療費負担の世代間格差是正を目指した。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、我が国の医療保険制度がどんな法律によって、どんな順番で形づくられてきたかを問う問題だ。ポイントは「法律名」と「その法律で何が実現したか」を正しく結びつけること。年号を丸暗記するより、なぜその法律が必要になったのかという流れで押さえると迷わないよ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で年表を配られたんですが、健康保険法と国民健康保険法がどうしても混ざってしまって……。
ドクタードクター
名前が似ているからね。まず一番古いのが健康保険法で、1922年に制定され、1927年に給付が始まった。対象は工場などで雇われて働く人、つまり被用者だ。これが被用者保険、職域保険の始まりなんだ。
医学生医学生
ということは、健康保険法の時点では自営業や農家の人は入れなかったんですね。皆保険はまだ先ということですか。
ドクタードクター
その通り。だから「健康保険法で国民皆保険が実現した」という記述は誤りだ。被用者保険から漏れた人たちを受け止めたのが国民健康保険法。1938年の旧法は任意設立・任意加入だったけれど、1958年の全面改正で市町村に実施が義務づけられ、1961年に国民皆保険が達成された。
医学生医学生
じゃあ「国民健康保険法で被用者保険が始まった」というのは、順番も中身も逆になっているわけですね。
ドクタードクター
そう。国民健康保険は住んでいる地域を単位とする地域保険で、被用者保険に入っていない人が対象だ。被用者保険はそれより先に健康保険法で始まっている。次は高齢者医療の流れ。1973年に老人医療費の無料化が行われたけれど、これはどういう仕組みだったと思う?
医学生医学生
無料というくらいなので、保険の給付を10割にしたのかと思っていました。
ドクタードクター
そこがひっかけポイント。実際は老人福祉法を改正して、医療保険の給付割合は据え置いたまま、窓口で払う自己負担分を国と地方の公費で肩代わりした。保険そのものを10割給付にしたわけではないんだ。
医学生医学生
なるほど、保険の外から公費で埋めたんですね。でも無料になったら、受診が増えて医療費が膨らみそうです。
ドクタードクター
まさにそうなった。医療費が急増したことを受けて1982年に老人保健法が制定され、高齢者にも一部負担を求めるようになった。費用は各保険者からの拠出金と公費でまかなう仕組みだ。ここで注意したいのは、老人保健法は新しい医療保険を作ったわけではなく、高齢者はそれまでの保険に入ったままだったこと。しかも制定時の対象は原則70歳以上で、75歳ではない。
医学生医学生
「75歳以上の医療保険」と聞くと、後期高齢者医療制度のほうを思い浮かべます。
ドクタードクター
いい連想だね。75歳以上だけで構成する独立した医療制度を作ったのは、2008年施行の高齢者の医療の確保に関する法律、いわゆる高齢者医療確保法だ。老人保健法のもとでは、高齢者の医療費を現役世代と高齢者がそれぞれどれだけ負担しているのかが見えにくく、世代間の公平性が問題になっていた。
医学生医学生
そこで負担の割合をはっきりさせた、ということですか。
ドクタードクター
そう。後期高齢者医療制度の財源はおおむね公費5割、現役世代からの支援金4割、高齢者自身の保険料1割と示された。65〜74歳の前期高齢者については保険者間で負担を調整する仕組みも作った。こうして世代間の負担の格差を是正しようとしたので、高齢者医療確保法の記述が正解になる。
医学生医学生
健康保険法で被用者保険、国民健康保険法で皆保険、無料化は公費負担、老人保健法は財政調整、高齢者医療確保法で独立した後期高齢者医療制度、という流れですね。
ドクタードクター
完璧な整理だ。発展として、高齢者医療確保法には医療費適正化計画や、40〜74歳を対象とする特定健康診査・特定保健指導も規定されていることを覚えておこう。メタボリックシンドロームに着目した健診だね。
医学生医学生
臨床実習の内科外来で、特定健診で引っかかって紹介されてきた患者さんを見ました。あれもこの法律が根拠なんですね。
ドクタードクター
そうなんだ。もう一つ、窓口負担の原則も臨床で役立つ。小学校入学前は2割、それ以降69歳までは3割、70〜74歳は2割、75歳以上は1割で、所得によって2割や3割になる。患者さんが医療費の心配を口にしたとき、制度の全体像を知っていると説明やソーシャルワーカーへのつなぎがスムーズになるよ。

まとめ

我が国の医療保険は、1922年の健康保険法で被用者保険が始まり、1958年に全面改正された国民健康保険法によって1961年に国民皆保険が達成されました。1973年の老人医療費無料化は保険給付を10割にしたのではなく、老人福祉法の改正により自己負担分を公費で支給する方式でした。医療費の急増を受けて1982年に老人保健法が制定され、一部負担と、拠出金・公費による財政調整の仕組みが導入されましたが、独立した保険ではなく対象も当初は70歳以上でした。2008年施行の高齢者医療確保法は75歳以上の後期高齢者医療制度を創設し、公費・現役世代の支援金・高齢者の保険料の割合を明確にして世代間の負担の公平化を目指したほか、特定健診・特定保健指導も規定しています。法律名とその役割を時系列で結びつけておくことは、試験対策だけでなく、患者さんの医療費や制度利用を支える臨床の場面でも役立ちます。

解答・解説

正解はeです

我が国の公的医療保険制度が、どの法律によってどういう順序で整えられてきたかを問う一般問題である。法律名と、その法律で何が実現したかを組み合わせて覚えているかが問われる。 流れを時系列で整理すると次のとおりである。 1. 健康保険法(1922年制定、1927年給付開始): 工場などで働く労働者を対象とした被用者保険(職域保険)が始まった。 2. 国民健康保険法(1938年に旧法制定、1958年に全面改正、1959年施行): 市町村に国民健康保険の実施を義務づけた。被用者保険に入っていない自営業者や農林漁業者なども加入することになり、1961年に国民皆保険が達成された。 3. 老人医療費の無料化(1973年): 老人福祉法を改正し、高齢者が医療保険で支払う自己負担分を公費で肩代わりした。 4. 老人保健法(1982年制定、1983年施行): 老人医療費の無料化で医療費が急増したことを受けて制定された。高齢者に一部負担を求め、費用は各保険者の拠出金と公費でまかなう仕組みに改めた。 5. 高齢者の医療の確保に関する法律(2008年施行): 老人保健法を全面改正したものである。75歳以上を対象とする独立した後期高齢者医療制度を設け、高齢者と現役世代の負担割合をはっきり定めた。 この流れに沿って各選択肢の記述を確かめると、正しいものは一つだけに絞られる。

選択肢考察

  1. ×a.  健康保険法の制定によって国民皆保険が実現した。

    誤り。健康保険法(1922年制定、1927年給付開始)は、事業所に雇われて働く人(被用者)を対象とした被用者保険の始まりである。この法律では自営業者や農林漁業者などは対象にならなかった。国民皆保険は、1958年に全面改正された国民健康保険法(1959年施行)によってすべての市町村に国民健康保険の実施が義務づけられ、1961年に達成された。

  2. ×b.  国民健康保険法の制定によって被用者保険が始まった。

    誤り。被用者保険(職域保険)は、健康保険法によって先に始まっている。国民健康保険法が定めるのは、住んでいる市町村などを単位とする地域保険であり、被用者保険に加入していない人を対象とする。つまり、国民健康保険法は被用者保険を始めた法律ではない。被用者保険から漏れていた人を受け止め、国民皆保険を完成させた法律である。

  3. ×c.  老人医療費無料化は医療保険給付割合を10割にして実現した。

    誤り。1973年の老人医療費無料化は、老人福祉法の改正による老人医療費支給制度として行われた。対象は原則70歳以上(寝たきりなどの場合は65歳以上)である。医療保険の給付割合は据え置いたまま、窓口で払う自己負担分を国と地方公共団体の公費で支給する仕組みであった。医療保険そのものの給付割合を10割に引き上げたわけではない。

  4. ×d.  老人保健法の制定によって75歳以上の者の医療保険が始まった。

    誤り。理由は2つある。第一に、老人保健法(1982年制定)は新しい医療保険を作った法律ではない。高齢者はそれまでどおり各医療保険に加入したままで、医療の費用は各保険者からの拠出金と公費でまかなう財政調整の仕組みであった。第二に、制定時の対象は70歳以上(寝たきりなどの場合は65歳以上)であった。2002年の改正で対象年齢が段階的に75歳へ引き上げられたが、制定時は75歳ではない。75歳以上の者だけで構成する独立した医療保険(後期高齢者医療制度)を作ったのは、2008年施行の高齢者の医療の確保に関する法律である。

  5. ○e.  高齢者の医療の確保に関する法律〈高齢者医療確保法〉は老人医療費負担の世代間格差是正を目指した。

    正しい。老人保健法のもとでは、高齢者の医療費を現役世代と高齢者がそれぞれどれだけ負担しているのかが分かりにくく、世代間の公平性が問題になっていた。高齢者の医療の確保に関する法律(2008年4月施行)は、75歳以上を対象とする独立した後期高齢者医療制度を作った。その財源は、おおむね公費5割、現役世代からの支援金4割、高齢者自身の保険料1割とされ、世代間の負担の割合がはっきり示された。65〜74歳の前期高齢者については、保険者の間で医療費の負担を調整する仕組みを設けた。これらによって、老人医療費の負担を現役世代と高齢者の間で公平に分け合うこと(世代間の格差の是正)を目指した。あわせて、医療費の適正化計画や、40〜74歳を対象とする特定健康診査・特定保健指導も規定している。

我が国の公的医療保険の体系

・被用者保険(職域保険): 健康保険(全国健康保険協会管掌健康保険〈協会けんぽ〉、組合管掌健康保険)、船員保険、各種共済組合(国家公務員・地方公務員・私立学校教職員)。 ・地域保険: 国民健康保険(市町村・都道府県が運営するもの、国民健康保険組合)。自営業者、農林漁業者、無職者、退職者などが加入する。 ・後期高齢者医療制度: 75歳以上(一定の障害があれば65歳以上)が対象。都道府県単位の後期高齢者医療広域連合が運営する。

年表

・1922年: 健康保険法の制定(1927年に給付開始) ・1938年: 国民健康保険法(旧法)の制定。このときは任意設立・任意加入であった。 ・1958年: 国民健康保険法の全面改正(1959年施行)。市町村に実施が義務づけられた。 ・1961年: 国民皆保険の達成 ・1973年: 老人医療費の無料化(老人福祉法の改正) ・1982年: 老人保健法の制定(1983年施行)。一部負担が導入され、健康診査などの保健事業も始まった。 ・2000年: 介護保険法の施行 ・2008年: 高齢者の医療の確保に関する法律の施行。後期高齢者医療制度と特定健診・特定保健指導が始まった。

医療機関の窓口での自己負担割合(原則)

・小学校入学前: 2割 ・小学校入学後〜69歳: 3割 ・70〜74歳: 2割(現役並み所得者は3割) ・75歳以上: 1割(一定以上の所得者は2割、現役並み所得者は3割)

POINT

・健康保険法(1922年)で被用者保険が始まり、国民健康保険法(1958年改正、1959年施行)で1961年に国民皆保険が達成された。 ・老人医療費の無料化(1973年)は、自己負担分を公費で支給する方式であり、保険の給付割合を10割にしたのではない。 ・老人保健法(1982年)は独立した保険ではなく、拠出金と公費による財政調整の仕組みである。対象は当初70歳以上であった。 ・高齢者の医療の確保に関する法律(2008年)は、75歳以上の後期高齢者医療制度を創設し、世代間の負担の明確化と公平化を図った。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。