StudyMed医師国家試験

産業医は「職場を歩く医師」―誰が何をするかで解く安全衛生管理体制

第104回医師国家試験 E問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第104回 E問題 第17問

産業医について正しいのはどれか。

  1. a.職場巡視を行う。
  2. b.労働災害の認定を行う。
  3. c.衛生委員会を設置する。
  4. d.労働基準監督署長が任命する。
  5. e.有害業務の作業環境測定を行う。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は産業医の役割を問う問題だ。ポイントは「誰が何をするのか」をきちんと分けて考えること。職場の健康を守る仕組みには、事業者、産業医、労働基準監督署長、作業環境測定士など、いろいろな立場の人が関わっている。それぞれの役割を区別できれば、迷わずに解けるよ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で労働安全衛生法は習ったんですが、登場人物が多くて混乱しがちです。産業医って、会社の中の健康管理全部を担当するイメージでした。
ドクタードクター
そう思う人は多いね。でも法律上は、体制を「整える義務」を負うのは事業者、つまり会社側なんだ。産業医は医学の専門家として、その体制の中で健康管理を実際に担う立場。まず、産業医は誰が決めると思う?
医学生医学生
国が関わる制度なので、労働基準監督署長が任命するのかと思っていました。
ドクタードクター
そこが典型的な引っかけだ。常時50人以上の労働者を使用する事業場では、事業者が産業医を選任しなければならない。選任したら遅滞なく所轄の労働基準監督署長に報告する。監督署長は報告を受ける側であって、任命する側ではないんだ。
医学生医学生
なるほど、「選任は事業者、報告先が監督署長」ですね。では衛生委員会を作るのも産業医ではないんですか。
ドクタードクター
その通り。衛生委員会も常時50人以上の事業場で事業者に設置が義務づけられていて、毎月1回以上開かれる。産業医は委員の一人として出席し、専門的な立場から意見を述べる。設置する主体ではなく、参加する立場なんだ。
医学生医学生
労働災害の認定はどうでしょう。産業医は現場をよく知っているので、関わりそうに思えますが。
ドクタードクター
意見を求められることはあっても、業務上の災害かどうかを認定して労災保険の給付を決めるのは労働基準監督署長だ。行政の判断だから、事業場に雇われている産業医が決めるわけにはいかない、と考えると納得しやすいね。
医学生医学生
有害業務の作業環境測定は、健康に直結するので産業医がやりそうですが……。
ドクタードクター
これも実施を義務づけられているのは事業者で、粉じんや有機溶剤などを扱う指定作業場の測定は、国家資格をもつ作業環境測定士や測定機関が行う。産業医はその結果を評価して、環境改善や健康管理について助言する立場なんだ。
医学生医学生
そうすると、産業医自身の職務として残るのは職場巡視ですね。
ドクタードクター
正解。産業医は原則として少なくとも毎月1回、作業場を巡視し、作業方法や衛生状態に有害のおそれがあれば、直ちに健康障害を防止する措置を講じなければならない。実際に現場を見ることで、作業姿勢や有害要因への曝露がわかり、健診結果の解釈や就業上の措置にも生きてくるんだ。なお、2017年の改正で、事業者から所定の情報が毎月提供され、事業者の同意がある場合には2か月に1回以上でもよいことになった。
医学生医学生
衛生管理者も巡視をしますよね。CBTの過去問で頻度を問われた気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。衛生管理者は毎週1回、産業医は毎月1回。この頻度の違いはセットで覚えておこう。ほかにも、常時1,000人以上、または一定の有害業務に常時500人以上が従事する事業場では専属の産業医、3,000人を超えれば2人以上の産業医が必要になる。
医学生医学生
巡視以外には、どんな仕事があるんですか。
ドクタードクター
健康診断と結果に基づく就業上の措置、長時間労働者への面接指導、ストレスチェックと高ストレス者への面接指導、健康教育や健康相談、健康障害の原因調査と再発防止などだ。必要なら事業者に勧告もでき、事業者はそれを尊重し、衛生委員会に報告する義務がある。
医学生医学生
臨床実習ではあまり見えない分野ですが、メンタル不調の復職判定なんかも産業医が関わるんですよね。
ドクタードクター
そうだね。主治医が「復職可」と判断しても、実際の業務内容に耐えられるかを職場の視点から評価するのが産業医の役割だ。将来どの科に進んでも、患者さんの診断書や就労の相談で産業医と連携する場面は必ずある。作業環境管理・作業管理・健康管理という「3管理」の考え方とあわせて、仕組みを理解しておこう。

まとめ

産業医は、常時50人以上の労働者を使用する事業場で事業者が選任し、所轄の労働基準監督署長に報告する医師であり、原則として毎月1回以上の職場巡視を行うことが職務として定められています。衛生委員会の設置や作業環境測定の実施は事業者の義務で、測定そのものは作業環境測定士などが行い、労働災害の認定は労働基準監督署長が担います。産業医はこれらの体制の中で、健康診断後の就業上の措置、長時間労働者への面接指導、ストレスチェック、衛生委員会への出席、事業者への勧告などを通じて労働者の健康を守ります。衛生管理者の巡視は毎週1回、産業医は毎月1回という頻度の違いや、専属産業医の選任基準も頻出事項です。「誰が何をするか」を整理して覚えることが、労働衛生分野の問題を確実に解き、将来の産業医との連携にも役立つ土台になります。

解答・解説

正解はaです

産業医は、労働安全衛生法に基づき、事業場で働く労働者の健康管理などを担う医師である。本問は、産業医の職務と、事業者(会社)・労働基準監督署長・作業環境測定士など他の主体の役割とを区別できるかを問うている。 整理のポイントは「誰が何をするか」である。 ・事業者: 産業医を選任する、衛生委員会を設置する、作業環境測定を実施させるなど、安全衛生管理体制を整える義務を負う。 ・産業医: 医学的専門知識に基づき、健康診断や面接指導、職場巡視、健康障害の原因調査と再発防止、衛生委員会への参加、事業者への勧告などを行う。 ・労働基準監督署長: 産業医の選任報告を受ける、労働災害(業務上の災害)かどうかを判断して労災保険の給付を決定するなど、行政の立場で関わる。 ・作業環境測定士: 有害物質や騒音などの作業環境測定を実際に行う国家資格者。 この区別に当てはめると、産業医自身の職務として正しいのは職場巡視(a)のみである。

選択肢考察

  1. ○a.  職場巡視を行う。

    労働安全衛生規則により、産業医は少なくとも毎月1回作業場等を巡視し、作業方法や衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに労働者の健康障害を防止するための措置を講じなければならないと定められている。職場を実際に見ることで、作業環境や作業姿勢、有害要因への曝露などを把握し、健康管理に役立てる。なお、2017年の改正により、事業者から衛生管理者の巡視結果などの所定の情報が毎月提供され、事業者の同意がある場合には、巡視の頻度を2か月に1回以上とすることも認められている。

  2. ×b.  労働災害の認定を行う。

    労働災害であるか(業務上の事由による負傷・疾病か)の認定は、労働者からの労災保険給付の請求を受けて、労働基準監督署長が調査のうえ行う。産業医は職場の医学的な状況について意見を述べることはあっても、認定を行う権限はもたない。

  3. ×c.  衛生委員会を設置する。

    衛生委員会は、常時50人以上の労働者を使用する事業場で、事業者に設置が義務づけられている。毎月1回以上開催し、労働者の健康障害防止や健康の保持増進などについて調査審議する。産業医は委員の一人として参加し、専門的な立場から意見を述べるが、委員会を設置する主体ではない。

  4. ×d.  労働基準監督署長が任命する。

    産業医は、常時50人以上の労働者を使用する事業場において、事業者が選任しなければならない。選任すべき事由が生じてから14日以内に選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署長に選任報告書を提出する。労働基準監督署長は報告を受ける立場であり、任命するのではない。

  5. ×e.  有害業務の作業環境測定を行う。

    作業環境測定は、有害物質(粉じん、有機溶剤、特定化学物質、鉛など)や騒音などを扱う作業場について、事業者に実施が義務づけられているものである。指定作業場の測定は国家資格をもつ作業環境測定士(または作業環境測定機関)が行う。産業医は測定結果を評価し、作業環境の改善や健康管理について助言する立場にあり、測定そのものを行う義務は定められていない。

産業医の選任基準(労働安全衛生法・同施行令・規則)

・常時50人以上の労働者を使用する事業場: 産業医を1人以上選任する(50人未満の事業場は努力義務で、地域産業保健センターなどを活用できる)。 ・常時1,000人以上、または一定の有害業務に常時500人以上が従事する事業場: 専属の産業医を選任する。 ・常時3,000人を超える事業場: 産業医を2人以上選任する。 ・産業医となるには、医師であることに加え、厚生労働大臣が定める研修の修了や労働衛生コンサルタント試験(保健衛生区分)の合格などの要件を満たす必要がある。

産業医の主な職務

・健康診断の実施とその結果に基づく就業上の措置に関すること ・長時間労働者に対する面接指導、ストレスチェックの実施と高ストレス者への面接指導 ・作業環境の維持管理、作業の管理に関すること ・健康教育、健康相談、健康の保持増進のための措置 ・衛生教育 ・労働者の健康障害の原因調査と再発防止のための措置 ・職場巡視(原則として毎月1回以上) ・衛生委員会への出席 ・必要に応じた事業者への勧告(事業者は勧告を尊重し、衛生委員会に報告する義務がある)

安全衛生管理体制の主な登場人物

総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者(50人以上で選任、毎週1回の職場巡視)、産業医、安全委員会・衛生委員会(または両者を合わせた安全衛生委員会)。衛生管理者の巡視は毎週1回、産業医の巡視は毎月1回という頻度の違いもよく問われる。

作業環境管理・作業管理・健康管理

労働衛生の基本となる「3管理」であり、作業環境測定は作業環境管理の中心となる手段である。これに総括管理と労働衛生教育を加えて「5管理」ともいう。

POINT

・産業医は常時50人以上の労働者を使用する事業場で、事業者が選任し労働基準監督署長に報告する。 ・産業医の職場巡視は原則毎月1回以上(衛生管理者は毎週1回)。 ・衛生委員会の設置は事業者の義務(50人以上)。 ・労災の認定は労働基準監督署長。 ・作業環境測定は事業者の義務で、作業環境測定士が行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。