消化管で放射線に一番弱いのはどこ?―陰窩の幹細胞が教えるBergonié-Tribondeauの法則
第104回医師国家試験 E問題 第11問
国試問題にチャレンジ
正常組織で放射線感受性が最も高いのはどれか。
- a.下咽頭
- b.食道
- c.胃
- d.小腸
- e.直腸
対話形式の解説
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ドクターまとめ
放射線感受性はBergonié-Tribondeauの法則に従い、分裂が盛んで未分化な細胞ほど高くなります。消化管では、陰窩の幹細胞が速いサイクルで分裂して数日ごとに絨毛上皮を入れ替える小腸が最も感受性が高く、照射早期から絨毛の萎縮と下痢が生じます。下咽頭・食道の扁平上皮や胃・直腸の円柱上皮も粘膜炎を起こしますが、感受性は中等度で耐容線量は小腸より高いです。全身被ばくでは約10 Gy以上で小腸障害による致死的な消化管症候群が起こり、腹部・骨盤照射では小腸線量の低減が治療計画の要となります。原理から感受性を説明できると、放射線治療の有害事象や被ばく医療の理解にもつながります。
解答・解説
正解はdです
【テーマ】消化管の各部位の放射線感受性の違いを問う問題である。
放射線感受性を決める原則
細胞の放射線感受性については、Bergonié-Tribondeau(ベルゴニー・トリボンドー)の法則が基本となる。すなわち、(1) 細胞分裂の頻度が高いほど、(2) 将来行う分裂の回数が多いほど、(3) 形態・機能が未分化であるほど、放射線感受性は高い。放射線はDNAを損傷し、損傷を抱えた細胞は主に次の分裂時に死ぬ(分裂死)ため、盛んに分裂する細胞ほど影響を受けやすい。
消化管への当てはめ
消化管の粘膜上皮はいずれも入れ替わりの速い組織だが、その中でも小腸は、陰窩(クリプト:絨毛の根元にある腺管状のくぼみ)の幹細胞が非常に速いサイクルで分裂し、数日ごとに絨毛の上皮をまるごと入れ替えている。この幹細胞が照射で失われると上皮の補充が止まり、絨毛が萎縮・脱落する。そのため小腸は消化管の中で最も放射線感受性が高く、骨盤・腹部照射では早期から下痢が起こり、全身被ばくでは消化管障害(消化管症候群)が致死的となる。 一方、下咽頭・食道の重層扁平上皮や、胃・直腸の円柱上皮も放射線粘膜炎を起こすが、感受性は小腸より低く、中等度に分類される。
選択肢考察
- ×a. 下咽頭
下咽頭の粘膜は重層扁平上皮で、基底層の細胞が分裂して表層へ移動する。放射線感受性は中等度で、頭頸部癌の照射中には粘膜炎(咽頭痛、嚥下痛)を生じるが、小腸ほど感受性は高くない。
- ×b. 食道
食道の粘膜も重層扁平上皮であり、放射線感受性は中等度である。肺癌・食道癌などの胸部照射中に放射線食道炎(嚥下時のつかえ感・痛み)を起こし、晩期には狭窄をきたすことがあるが、小腸に比べ耐容線量は高い。
- ×c. 胃
胃の粘膜は単層円柱上皮で、放射線感受性は中等度である。照射で悪心・嘔吐、胃炎、潰瘍を起こしうるが、陰窩幹細胞の分裂が極めて速い小腸ほどの感受性はない。
- ○d. 小腸
小腸は陰窩の幹細胞が活発に分裂し、上皮が数日で入れ替わる組織であり、Bergonié-Tribondeauの法則から消化管で最も放射線感受性が高い。幹細胞が障害されると絨毛の上皮が補充されず、吸収障害と下痢が早期に出現する。全身に高線量(おおむね10 Gy前後以上)を被ばくすると、数日〜2週間ほどで消化管症候群(激しい下痢、脱水、腸管からの感染・出血)を起こし、致死的となる。腹部・骨盤の放射線治療では小腸への線量を抑えることが治療計画上の重要な課題である。
- ×e. 直腸
直腸の粘膜は円柱上皮で、放射線感受性は中等度である。前立腺癌・子宮頸癌などの骨盤照射で放射線直腸炎(急性期のしぶり腹、晩期の直腸出血)がみられるが、耐容線量は小腸より高い。
正常組織の放射線感受性の目安
高い:リンパ球(リンパ組織)、骨髄(造血組織)、生殖腺(精原細胞、卵母細胞)、小腸上皮、水晶体上皮 中等度:皮膚、口腔・咽頭・食道の粘膜、胃・大腸の粘膜、毛嚢、血管内皮、成長期の軟骨・骨 低い:筋肉、神経細胞、成熟した骨、結合組織 なお末梢血リンパ球は分裂しない成熟細胞だが、例外的に感受性が極めて高く、アポトーシスを起こしやすい。
急性放射線症候群(全身被ばく)の線量との関係(目安)
・約1 Gy以上:造血障害(リンパ球減少が最も早い) ・約10 Gy以上:消化管障害(小腸陰窩幹細胞の死による) ・数十Gy以上:中枢神経・心血管障害 感受性の高い組織ほど低い線量で障害が現れる、という順に並んでいる。
急性障害と晩期障害
急性障害は照射中〜終了後数週間に、分裂の速い組織(小腸・皮膚・粘膜・骨髄)に生じ、多くは回復する。晩期障害は数か月〜年単位で、血管障害や線維化を背景に生じ(腸管狭窄・潰瘍・瘻孔、放射線直腸炎による出血など)、不可逆的なことが多い。
POINT
・Bergonié-Tribondeauの法則:分裂が盛ん、未分化な細胞ほど放射線感受性が高い。 ・消化管では小腸(陰窩幹細胞)が最も感受性が高く、照射早期から下痢が生じる。 ・食道・下咽頭(扁平上皮)、胃・直腸(円柱上皮)は中等度。 ・全身被ばくでは、約10 Gy以上で小腸障害による消化管症候群が起こる。
