声が聞こえる、狙われている―統合失調症を見抜く「陽性症状」の読み解き方
第104回医師国家試験 D問題 第8問
国試問題にチャレンジ
統合失調症に特徴的なのはどれか。2つ選べ。
- a.人前でスピーチをするのが怖い。
- b.自分を批判する複数の人の声が聞こえる。
- c.話題が飛び,会話はまとまりを欠き,了解不能である。
- d.外界と自分との間にベールがあり,周囲のものに実感が湧かない。
- e.家の前に立っている男性を見て,その人に狙われていると確信する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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ドクターまとめ
統合失調症の代表的な陽性症状は幻聴と妄想であり、とくに複数の声が患者を批判・噂する幻聴や、正常な知覚に理由のない特別な意味づけが確信的に結びつく妄想知覚は、Schneiderの一級症状に含まれる特異性の高い症状です。一方、人前での強い恐怖は社交不安症、外界にベールがかかったような非現実感は離人症状で、いずれも統合失調症に特異的ではありません。話題が次々と飛ぶ思考障害は、連想のつながりが追える躁状態の観念奔逸と、論理的なつながりが失われる統合失調症の滅裂思考とを区別することが重要です。患者の訴えを正確に症状名へ翻訳し、その特異性を評価する力は、精神科の問診と鑑別診断の基礎になります。
解答・解説
正解はb, eです
患者の訴えや言動を記述した文から、それがどの精神症状に当たるかを判断し、統合失調症に特徴的なものを選ぶ問題である。 統合失調症の症状は、次のように整理される。 ・陽性症状:本来ないものが現れる症状。幻覚(特に幻聴)、妄想(被害妄想、関係妄想、注察妄想など)、思考の解体(連合弛緩・滅裂思考)、させられ体験(作為体験)など。 ・陰性症状:本来あるものが失われる症状。感情の平板化、意欲低下、思考の貧困、社会的引きこもりなど。 ・認知機能障害:注意・記憶・遂行機能の低下。 特に統合失調症に特異性が高いとされるのが、Schneider(シュナイダー)の一級症状である。考想化声(自分の考えが声になって聞こえる)、対話形式の幻聴(複数の声が患者のことを話し合う)、自分の行為に口出しする(注釈する)幻聴、身体への被影響体験、思考奪取・思考吹入・考想伝播などの思考への干渉、妄想知覚、作為体験(感情・意志・行為が他者に操られると感じる)が挙げられる。 この観点から選択肢を見ると、「自分を批判する複数の人の声」は幻聴、特に複数の声が患者のことを語る形の幻聴であり、「家の前の男性を見て狙われていると確信する」は、正常な知覚に根拠のない特別な意味づけが加わった妄想知覚(内容は被害妄想)である。いずれも統合失調症の代表的な陽性症状である。他の選択肢は、社交不安症、躁状態の観念奔逸、離人症状を表す記述であり、統合失調症に特徴的とはいえない。
選択肢考察
- ×a. 人前でスピーチをするのが怖い。
誤り。他者から注目される場面(人前での発表、会食、初対面の人との会話など)で、恥をかくのではないか、否定的に評価されるのではないかと強い不安・恐怖を感じ、その場面を避けるようになるのは社交不安症(社交不安障害、かつての社会恐怖)の典型的な症状である。本人は恐怖が過剰であることをある程度自覚しており、現実検討は保たれている。赤面、発汗、動悸、手のふるえなどの身体症状を伴いやすい。治療には選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や認知行動療法が用いられる。
- ○b. 自分を批判する複数の人の声が聞こえる。
正しい。実際には誰もいないのに人の声が聞こえるのは幻聴であり、統合失調症で最も多い幻覚である。統合失調症の幻聴は、患者を非難・批判する声、命令する声、患者の行動にいちいち口を出す(注釈する)声、複数の声が患者のことを噂し合う(対話性幻聴)といった形をとることが多く、後二者はSchneiderの一級症状に含まれる。本選択肢の「自分を批判する複数の人の声」は、こうした統合失調症に典型的な幻聴の特徴をよく表している。なお、せん妄やアルコール離脱などの器質性・中毒性の病態では幻視が目立つことが多く、幻聴が中心となる点も統合失調症を示唆する。
- ×c. 話題が飛び,会話はまとまりを欠き,了解不能である。
誤り(本問の出題意図として)。考えが次々に湧き出て話題が次から次へと移り、全体としてまとまりを欠くのは、躁状態でみられる観念奔逸の記述として理解できる。観念奔逸では、話題の移り変わりは音の響きや語呂合わせ、周囲の刺激などをきっかけとしており、一つひとつのつながりはある程度たどれる。一方、統合失調症でみられる思考障害は連合弛緩や滅裂思考(支離滅裂)と呼ばれ、観念と観念の間の論理的なつながりそのものが失われ、会話の意味が聞き手に伝わらなくなる。「了解不能」という語は精神医学では統合失調症の症状を形容する際にも使われるため、この記述だけでは両者の区別に迷う余地があるが、「話題が飛ぶ」という表現は観念奔逸をより強く想起させる。統合失調症に特徴的な症状としては、明確な幻聴(b)と妄想知覚(e)の方が特異性が高く、本選択肢は正解に含まれない。
- ×d. 外界と自分との間にベールがあり,周囲のものに実感が湧かない。
誤り。自分と外界の間に膜やベールがあるように感じ、周囲の物事が生き生きと感じられない、現実感がないという体験は、離人症状(外界に対する現実感消失)である。自分の身体や考え・感情が自分のものでないように感じる自己の離人感も含まれる。離人症状は離人感・現実感消失症(離人症性障害)のほか、うつ病、不安症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、極度の疲労などでも幅広くみられ、統合失調症の初期に現れることもあるが、統合失調症に特異的な症状ではない。本人は「そう感じる」という自覚をもち、現実との区別はついている点が妄想とは異なる。
- ○e. 家の前に立っている男性を見て,その人に狙われていると確信する。
正しい。家の前に男性が立っているという知覚自体は正常であるが、そこに「自分が狙われている」という、了解可能な理由のない特別な意味づけが即座になされ、しかも訂正できない確信となっている。これは妄想知覚と呼ばれ、Schneiderの一級症状の一つである。内容からみれば、他者から危害を加えられると確信する被害妄想であり、周囲の出来事を自分に関係づける関係妄想の要素も含んでいる。被害妄想・関係妄想は統合失調症で最も頻度の高い妄想である。なお、妄想の成立の仕方は、何か不気味なことが起こりそうだという漠然とした感覚の妄想気分、知覚に意味が付与される妄想知覚、突然思い浮かぶ妄想着想に分けられる。妄想知覚は統合失調症に特徴的とされるが、他の精神病性障害などでみられることもある。
統合失調症の診断(DSM-5の概要)
次の5項目のうち2つ以上が1か月間(治療が成功した場合はより短い期間)の大部分で存在し、そのうち少なくとも1つは1〜3であること。 1.妄想 2.幻覚 3.まとまりのない発語(頻繁な脱線、滅裂など) 4.ひどくまとまりのない行動、または緊張病性の行動 5.陰性症状(情動表出の減少、意欲欠如) さらに、仕事・対人関係などの機能が病前より著しく低下し、前駆期や残遺期を含めて障害の持続的な徴候が少なくとも6か月間存在することが求められる。
Schneiderの一級症状
考想化声、対話性幻聴、自己の行為に口出しする幻聴、身体への被影響体験、思考奪取・思考吹入・考想伝播などの思考への干渉、妄想知覚、感情・欲動・意志の領域における作為体験(させられ体験)。
思考障害の区別
・観念奔逸(躁状態):考えが次々に湧き、話題がそれていくが、連想のつながりは追える。多弁・早口を伴う。 ・連合弛緩・滅裂思考(統合失調症):観念どうしの論理的なつながりが失われ、話の筋が理解できない。重度になると単語が脈絡なく並ぶ「言葉のサラダ」となる。 ・思考制止(うつ状態):考えが進まず、話が遅く乏しい。 ・迂遠(てんかん、認知症など):回りくどく細部にこだわるが、最終的には目的の話題に到達する。
選択肢に現れた症状と代表的な疾患
・人前での強い不安・恐怖→社交不安症 ・幻聴、妄想知覚・被害妄想→統合失調症 ・観念奔逸→双極性障害の躁状態 ・離人症状→離人感・現実感消失症、うつ病、不安症など
POINT
・統合失調症の代表的な陽性症状は幻聴と妄想(被害妄想・関係妄想)である。 ・Schneiderの一級症状:考想化声、対話性幻聴、行為に口出しする幻聴、身体的被影響体験、思考への干渉(思考奪取・吹入・考想伝播)、妄想知覚、作為体験。 ・妄想知覚:正常な知覚に、了解できない特別な意味づけ(例:狙われている)が確信的に結びつくもの。 ・観念奔逸(躁状態:連想のつながりは追える)と滅裂思考(統合失調症:論理的つながりが失われる)を区別する。 ・人前での恐怖は社交不安症、外界にベールがかかったような非現実感は離人症状であり、統合失調症に特異的ではない。
