右が大きく、左は静か―心エコーで読み解く心房中隔欠損症の血行動態
第104回医師国家試験 D問題 第26問
国試問題にチャレンジ
8歳の女児。学校の健康診断で心雑音を指摘され来院した。自覚症状はない。四腔断面心エコー図(A)(B)を別に示す。 みられるのはどれか。2つ選べ。

- a.左房拡大
- b.右室拡大
- c.左室拡大
- d.僧帽弁逆流
- e.心房内左右短絡
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
学童期に無症状で健診の心雑音から見つかる先天性心疾患の代表が心房中隔欠損症で、女性に多い疾患です。左房圧がやや高く右室が拡張しやすいため心房レベルで左→右短絡が生じ、短絡血は右房→右室→肺→左房と回るので右房・右室が容量負荷で拡大し、左室は拡大せず、左房も血液が右房へ抜けるため通常は拡大しません。聴診では相対的肺動脈弁狭窄による胸骨左縁第2肋間の収縮期駆出性雑音とII音の固定性分裂が特徴で、心電図では不完全右脚ブロックや右軸偏位がみられます。肺体血流比1.5以上や右心系容量負荷があればカテーテル閉鎖や外科的閉鎖を検討します。短絡の位置から血液の循環ループを描き、負荷のかかる心腔を導く考え方は、心室中隔欠損症や動脈管開存症との鑑別にもそのまま応用できます。
解答・解説
正解はb, eです
所見の整理
・8歳女児、自覚症状なし、学校健診で心雑音を指摘:学童期まで無症状で経過し、健診で初めて見つかる先天性心疾患としては、心房中隔欠損症(ASD:atrial septal defect)が代表的である。そのほか軽症の肺動脈弁狭窄症や大動脈弁狭窄症、大動脈縮窄症、小さな心室中隔欠損症なども鑑別に挙がる。 ・四腔断面心エコー図(心尖部から左右の心房・心室を同時に描出する断面):(A)では右房と右室が大きく、左房・左室と比べて右心系の拡大が目立つ。心房中隔の中央部に途絶(欠損孔)がみられる。(B)のカラードプラでは、この欠損孔を通って左房から右房へ流れ込む短絡血流が描出されている。
診断に至る流れ
心房中隔に欠損孔があり、心房レベルで左→右短絡を認め、右房・右室が拡大していることから、ASD(部位からは二次孔型が最も考えやすい)と診断できる。ASDは女性に2〜3倍多く、本例が女児である点も合致する。
設問の考え方:ASDの血行動態
通常、左房圧は右房圧よりやや高く、さらに右室は左室より壁が薄く拡張しやすい(コンプライアンスが高い)ため、心房間の欠損孔を通して血液は左房から右房へ流れる。短絡した血液は右房→右室→肺動脈→肺→左房→(欠損孔)→右房と循環するため、容量負荷がかかるのは「右房・右室・肺動脈・肺静脈」であり、短絡血は左室を通らない。したがって、右房・右室は拡大するが、左室は拡大しない。左房も短絡血を受け取るものの、欠損孔から直ちに右房へ抜けるため圧・容量が逃げ、通常は拡大しない。この点が、左室容量負荷をきたす心室中隔欠損症や動脈管開存症との大きな違いである。
選択肢考察
- ×a. 左房拡大
みられない。画像では左房は右房より小さく、拡大していない。ASDでは左房に戻った血液が欠損孔を通してすぐに右房へ流出するため、左房には圧・容量の負荷がたまりにくい。拡大するのは右房である。左房拡大は僧帽弁狭窄症・僧帽弁閉鎖不全症や、左→右短絡が心室・大血管レベルで起こる心室中隔欠損症(VSD)、動脈管開存症(PDA)などでみられる。
- ○b. 右室拡大
みられる。心房レベルで左→右短絡が生じると、右房に流入した余分な血液がそのまま右室に送られ、右室には容量負荷(拡張期負荷)がかかる。画像でも右室は左室より大きく描出されている。右室拡大により心室中隔が拡張期に左室側へ押され、心室中隔の奇異性運動(収縮期に中隔が右室側へ動く)がみられることもある。心電図では不完全右脚ブロックや右軸偏位として現れる。
- ×c. 左室拡大
みられない。ASDの短絡血は右房→右室→肺→左房→右房と回り、左室を通過しないため、左室には容量負荷がかからない。画像でも左室は右室より小さい。左室拡大をきたす左→右短絡疾患はVSDやPDAであり、短絡が心房レベルか心室・大血管レベルかで負荷のかかる心腔が異なる点を押さえておく。
- ×d. 僧帽弁逆流
みられない。(B)のカラードプラで描出されているのは心房中隔の欠損孔を通過する短絡血流であり、左室から左房へ向かう逆流ジェットは認めない。なお、心内膜床欠損症(房室中隔欠損症)に含まれる一次孔型ASDでは僧帽弁前尖の裂隙(cleft)による僧帽弁逆流を伴うことがあるが、本例は心房中隔中央部の欠損であり、そのような所見はない。
- ○e. 心房内左右短絡
みられる。(B)のカラードプラで、心房中隔の欠損孔を通って左房から右房へ流入する短絡血流が描出されている。左房圧が右房圧より高く、右室が左室よりも拡張しやすいため、心房間の短絡は左→右方向となる。これがASDの基本病態であり、右心系の容量負荷と肺血流増加の原因となる。
心房中隔欠損症(ASD)の概要
・先天性心疾患の約1割を占め、成人で見つかる先天性心疾患としては最も多い。女性に多い(男女比約1:2〜3)。 ・病型:二次孔型(卵円窩付近、最多)、一次孔型(房室弁直上、心内膜床欠損症の部分型)、静脈洞型(上大静脈付近、部分肺静脈還流異常を合併しやすい)、冠静脈洞型。
症状と経過
小児期はほとんど無症状で、学校健診の心雑音や心電図異常で発見されることが多い。放置すると成人期以降に労作時息切れ、心房細動・心房粗動などの上室性不整脈、右心不全、まれに肺高血圧の進行による短絡の逆転(Eisenmenger症候群)をきたす。
身体所見
・胸骨左縁第2肋間の収縮期駆出性雑音:欠損孔そのものではなく、肺動脈弁を通過する血流量が増えることによる相対的肺動脈弁狭窄の雑音である。 ・II音の固定性分裂:右室の拍出量増加で肺動脈弁の閉鎖が遅れ、呼吸による変動がなくなる。 ・短絡量が多いと胸骨左縁下部で三尖弁の相対的狭窄による拡張期ランブルを聴取する。
検査
・心電図:不完全右脚ブロック(rSR'型)、右軸偏位(一次孔型では左軸偏位)。 ・胸部X線:右房・右室拡大、肺動脈主幹部の拡大、肺血管陰影の増強。 ・心エコー:欠損孔の描出、カラードプラでの左→右短絡、右房・右室拡大、心室中隔の奇異性運動。 ・心臓カテーテル検査:右房での酸素飽和度の上昇(step up)、肺体血流比(Qp/Qs)の評価。
治療
肺体血流比が1.5以上、または右心系の容量負荷所見があれば閉鎖術の適応となる。二次孔型で形態が適していればカテーテルによる閉鎖栓(Amplatzer閉鎖栓など)での治療が可能であり、それ以外は外科的パッチ閉鎖を行う。
左→右短絡疾患の負荷部位の比較
・ASD:右房・右室の容量負荷(左室は負荷なし) ・VSD:左房・左室の容量負荷(肺高血圧を伴えば右室にも負荷) ・PDA:左房・左室の容量負荷、大動脈起始部も拡大
POINT
・学童期に無症状で健診の心雑音から見つかる先天性心疾患 → 心房中隔欠損症(女性に多い)。 ・ASDは心房レベルの左→右短絡で、右房・右室が容量負荷により拡大する。左房・左室は拡大しない。 ・VSD・PDAでは左房・左室が拡大する点と対比して覚える。 ・聴診:胸骨左縁第2肋間の収縮期駆出性雑音(相対的肺動脈弁狭窄)とII音の固定性分裂。
