診断はついた、次の一手は?―ショックの異所性妊娠でまず守るべきもの
第104回医師国家試験 C問題 第22問
国試問題にチャレンジ
28歳の女性。1回経妊,1回経産。激しい下腹部痛と少量の性器出血とを主訴に来院した。月経発来が2週間遅れている。脈拍100/分,整。血圧80/46 mmHg。妊娠反応は陽性であった。経腟超音波検査で子宮腔内に胎芽を認めず,付属器領域に胎嚢〈GS〉を認める。Douglas窩に大量の液体の貯留を認める。 対応としてまず行うのはどれか。
- a.輸液
- b.腹部CT
- c.骨盤部MRI
- d.子宮卵管造影
- e.2週後の来院を指示
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
妊娠反応陽性で子宮内に胎嚢がなく、子宮外に胎嚢とDouglas窩の大量液体貯留を認めれば、異所性妊娠の破裂・流産による腹腔内出血と判断できます。頻脈と低血圧を伴う場合は出血性ショックであり、「まず行う」べきは太い静脈路確保と細胞外液の急速輸液で、並行して輸血準備と緊急止血手術(卵管切除術が基本)を進めます。診断がついたショック患者にCTやMRIで時間を費やすのは危険で、子宮卵管造影は妊娠中原則禁忌です。待機療法やメトトレキサート療法は循環が安定した未破裂例に限られます。診断名よりもまず全身状態を評価し、救命処置を優先するという考え方は、救急・産婦人科診療に共通する基本原則です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・28歳、1回経妊1回経産の生殖年齢女性 ・激しい下腹部痛と少量の性器出血 ・月経が2週間遅れ、妊娠反応陽性 → 妊娠が成立している ・脈拍100/分(頻脈)、血圧80/46 mmHg(収縮期90 mmHg未満の低血圧) ・経腟超音波で子宮腔内に胎芽がなく、付属器領域に胎嚢(GS:gestational sac)を認める → 異所性妊娠(子宮外妊娠) ・Douglas窩(直腸子宮窩)に大量の液体貯留 → 腹腔内出血
診断
妊娠反応陽性で子宮内に胎嚢がなく、子宮外に胎嚢を確認できているので、異所性妊娠はほぼ確定である。部位としては最も頻度の高い卵管妊娠が考えやすい。Douglas窩の大量の液体は破裂・流産に伴う腹腔内出血と解釈でき、頻脈と低血圧を伴っていることから、すでに出血性ショック(循環血液量減少性ショック)に陥っていると判断する。
設問の考え方
「まず行うのはどれか」と問われたら、診断の精密化よりも生命を守る処置を優先する。本例は診断がついており、しかも循環が破綻しかけている。したがって最初にすべきは太い静脈路を確保して細胞外液(乳酸リンゲル液や生理食塩液など)を急速に輸液し、循環血液量を補うことである。並行して血液型・交差適合試験を行って輸血を準備し、止血のための緊急手術(多くは腹腔鏡下または開腹による卵管切除術)へ速やかにつなげる。時間を要する画像検査や、帰宅させて経過をみる対応は、救命の機会を失わせる。
選択肢考察
- ○a. 輸液
頻脈(100/分)と収縮期血圧80 mmHgの低血圧があり、Douglas窩の大量液体貯留と合わせて腹腔内出血による出血性ショックの状態である。ショックの初期対応の基本は静脈路確保と細胞外液の急速輸液による循環の維持であり、最初に行うべき処置である。輸液は根本治療ではないため、同時に輸血の準備(血液型・交差適合試験)と緊急止血手術の手配を進める。
- ×b. 腹部CT
病歴、妊娠反応、経腟超音波所見から異所性妊娠破裂による腹腔内出血という診断はすでについており、CTで新たに得られる情報は治療方針を変えない。ショック状態の患者を検査室へ移動させ撮影に時間を費やすことは危険である。また妊娠初期の放射線被曝も避けたい。
- ×c. 骨盤部MRI
MRIは被曝がなく骨盤内臓器の評価に優れるが、撮影に時間がかかり、撮影中は患者の監視や急変時の対応も難しい。循環動態が不安定な患者に最初に行う検査ではない。全身状態が安定し、診断が不確かな場合に限って考慮される検査である。
- ×d. 子宮卵管造影
子宮卵管造影(HSG)は子宮腔と卵管に造影剤を注入して通過性や形態をみる検査で、主に不妊症の評価に用いる。妊娠中は原則として禁忌であり、異所性妊娠では注入圧により出血を助長するおそれもある。急性期の診断・治療に役立つ検査ではない。
- ×e. 2週後の来院を指示
腹腔内出血によるショック状態であり、放置すれば出血が続いて死亡しうる。外来での経過観察は論外で、直ちに救命処置と手術が必要である。なお、全身状態が安定し出血所見のない未破裂の異所性妊娠や、部位が確定しない妊娠(PUL:pregnancy of unknown location)では、血中hCGの推移を追う待機的管理が選択されることもあるが、本例はそれに該当しない。
異所性妊娠(子宮外妊娠)の概要
受精卵が子宮体部内膜以外の部位に着床した状態である。約95%以上が卵管妊娠で、中でも卵管膨大部が最多である。その他、卵巣妊娠、腹膜妊娠、頸管妊娠、帝王切開瘢痕部妊娠などがある。危険因子として、骨盤内炎症性疾患(クラミジア感染など)、異所性妊娠の既往、卵管手術の既往、生殖補助医療、子宮内避妊器具(IUD)使用中の妊娠、喫煙などが挙げられる。
症状と経過
無月経、不正性器出血、下腹部痛が三徴とされる。未破裂のうちは無症状のこともあるが、卵管流産・卵管破裂を起こすと腹腔内出血をきたし、急激な下腹部痛、肩への放散痛(横隔膜刺激)、ショックを呈する。
診断
・妊娠反応陽性+経腟超音波で子宮内に胎嚢を認めないことが出発点となる。 ・正常妊娠なら、血中hCGがおおむね1,000〜2,000 IU/L程度に達すれば経腟超音波で子宮内胎嚢が見えるはずとされる(discriminatory zone)。この値を超えても子宮内に胎嚢がなければ異所性妊娠を強く疑う。 ・子宮外の胎嚢や胎児心拍の確認、Douglas窩の液体(エコーフリースペース)の貯留が参考となる。Douglas窩穿刺で凝固しない血液が吸引されれば腹腔内出血を示す。 ・鑑別として、黄体出血(妊娠反応は通常陰性)、卵巣腫瘍茎捻転、急性虫垂炎、流産などがある。
治療
・循環不安定・腹腔内大量出血:輸液・輸血で循環を支えつつ緊急手術(卵管切除術が基本。腹腔鏡下手術が広く行われるが、状態により開腹)。 ・循環安定・未破裂:腹腔鏡下手術(卵管切除術または妊孕性温存目的の卵管線状切開術)、条件を満たせばメトトレキサート(MTX)全身投与、hCGが低値で下降傾向なら待機療法。 ・卵管温存やMTX治療を行った場合は、絨毛組織の遺残(存続異所性妊娠)を見逃さないよう、hCGが陰性化するまで追跡する。
POINT
・妊娠反応陽性+子宮内に胎嚢なし+子宮外の胎嚢+Douglas窩液体貯留 → 異所性妊娠破裂による腹腔内出血 ・頻脈と低血圧はショックのサイン。「まず行う」のは静脈路確保と急速輸液 ・輸液と並行して輸血準備と緊急手術(卵管切除術)を進める ・診断がついたショック患者に時間のかかる画像検査は不要。子宮卵管造影は妊娠中禁忌 ・待機療法やMTX療法は循環動態が安定した未破裂例に限られる
