胎嚢だけ見えて胎芽が見えない―「まだ見えないだけ」かもしれない妊娠初期の説明術
第104回医師国家試験 C問題 第19問
国試問題にチャレンジ
28歳の女性。月経周期は30~35日型。最終月経は平成21年12月18日から5日間で,2月5日に無月経を主訴に来院した。経腟超音波検査で子宮内に胎嚢〈GS〉を認めるが,胎芽は認めない。 説明として適切でないのはどれか。
- a.「流産の可能性があります」
- b.「出血や腹痛に注意しましょう」
- c.「入院して絶対安静が必要です」
- d.「分娩予定日は次回決定しましょう」
- e.「1週間後にもう一度検査しましょう」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
妊娠週数は最終月経開始日を0週0日として数えますが、これは月経周期28日を前提としており、周期が長い女性では実際より週数が進んで計算されます。胎嚢はあるが胎芽が見えない場合、排卵が遅れた正常妊娠と稽留流産(枯死卵を含む)の両方を考え、流産の可能性を伝えつつ出血・腹痛に注意を促し、1〜2週間後に再検査して胎芽・心拍の出現や胎嚢の発育を確認します。早期流産の多くは胎芽・胎児の染色体異常が原因で安静では防げず、無症状の段階での入院や絶対安静は不要です。分娩予定日は妊娠初期の頭殿長(CRL)計測で修正・決定します。1回の所見で結論を急がず、月経歴を踏まえて経過をみる姿勢は、正常妊娠の誤った中断を防ぐうえで欠かせません。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
28歳の女性が無月経を主訴に受診した。最終月経は平成21年(2009年)12月18日開始で、受診日は2月5日である。最終月経開始日から数えると49日目にあたり、最終月経開始日を妊娠0週0日とする通常の計算では妊娠7週0日となる。 ただし、この計算は月経周期28日(月経開始から約14日目に排卵)を前提としている。本症例の月経周期は30〜35日型であり、排卵は月経開始から16〜21日目ごろと推定されるため、実際の妊娠週数は計算上より2〜7日ほど若い可能性がある(おおよそ妊娠6週前後)。さらに、その周期だけ排卵が遅れていれば、もっと若い週数であることもありうる。
超音波所見の解釈
経腟超音波検査では、胎嚢(GS:gestational sac)は妊娠4週後半〜5週ごろから、胎芽は5週後半〜6週ごろから、胎児心拍は6週後半〜7週ごろまでに確認できるのが一般的である。本症例では子宮内に胎嚢があるので子宮外妊娠は否定的であり、子宮内妊娠は成立している。一方、胎芽はまだ見えていない。 この所見から考えられるのは次の2つである。 ・排卵・受精が遅れたために実際の妊娠週数が若く、まだ胎芽が見えていないだけの正常妊娠 ・胎芽が発育しない、あるいは発育が停止した稽留流産(枯死卵を含む)
設問の考え方
現時点ではどちらとも確定できない。月経周期が不規則な女性で1回の超音波検査だけで流産と診断すると、正常妊娠を誤って流産と判断し、子宮内容除去術を行ってしまう危険がある。したがって、流産の可能性があることを説明しつつ、症状に注意させ、1〜2週間の間隔をおいて再検査し、胎芽・胎児心拍の出現や胎嚢の発育を確認するのが適切な対応である。出血も腹痛もない現段階で入院や絶対安静を指示する根拠はない。
選択肢考察
- ×a. 「流産の可能性があります」
適切な説明である。最終月経から計算すると妊娠7週0日に相当し、この時期には通常胎芽が確認できるはずである。胎芽が見えないことは稽留流産(枯死卵)の可能性を示しているため、流産の可能性があることを事前に伝えておくのは妥当である。ただし、月経周期が長く排卵が遅れた正常妊娠も否定できないため、確定的な言い方ではなく「可能性」として説明する。
- ×b. 「出血や腹痛に注意しましょう」
適切な説明である。稽留流産であれば、今後、子宮収縮が起こって進行流産に移行し、性器出血や下腹部痛が生じることがある。このような症状が出たときには次回予約を待たずにすぐ受診するよう指導しておく必要がある。
- ○c. 「入院して絶対安静が必要です」
適切でない説明であり、これが正解である。現時点では正常妊娠の可能性が十分にあり、性器出血や腹痛などの切迫流産を示す症状もない。入院や絶対安静を指示する根拠はない。また、妊娠初期の流産の多くは胎芽・胎児側の染色体異常が原因であり、仮に稽留流産であったとしても安静によって流産を防ぐことはできない。切迫流産に対しても、安静が流産を予防するという明確なエビデンスは乏しい。不要な入院は患者の身体的・精神的・経済的負担を増やすだけである。
- ×d. 「分娩予定日は次回決定しましょう」
適切な説明である。月経周期が30〜35日と長いため、最終月経から計算した予定日は実際より早くずれている可能性がある。そのため、分娩予定日は超音波検査で胎芽(胎児)を確認し、頭殿長(CRL:crown-rump length)を計測して修正・決定するのがよい。CRLによる妊娠週数の推定は妊娠8〜11週ごろに最も精度が高い。次回受診時に胎芽と心拍が確認できれば正常妊娠と判断でき、予定日の決定も可能となる。
- ×e. 「1週間後にもう一度検査しましょう」
適切な説明である。正常妊娠か稽留流産かを1回の検査で判断することはできないため、1週間程度おいて再度経腟超音波検査を行い、胎嚢の発育、卵黄嚢・胎芽・胎児心拍の出現を確認する。再検査でも胎芽や心拍が確認できず胎嚢の発育もみられなければ、稽留流産の可能性が高まる。慌てて処置を行わず経過をみることで、正常妊娠を流産と誤診するのを避けられる。
妊娠週数の数え方
妊娠週数は最終月経開始日を0週0日として数える。月経周期28日の女性では、排卵・受精は妊娠2週0日ごろにあたる。月経周期がこれより長い女性では排卵が遅れるため、最終月経から計算した週数は実際より進んで見える。そのため妊娠初期に超音波で胎児の大きさを測り、予定日を修正する。分娩予定日は妊娠40週0日であり、ネーゲレ概算法(最終月経の月に9を加えるか3を引き、日に7を加える)でもおおよそ求められる。
妊娠初期の経腟超音波所見の目安
・胎嚢:妊娠4週後半〜5週ごろから確認できる ・卵黄嚢:妊娠5週ごろから確認できる ・胎芽:妊娠5週後半〜6週ごろから確認できる ・胎児心拍:妊娠6週後半〜7週ごろまでに確認できる 血中hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)がおおむね1,000〜2,000 IU/L以上になると、経腟超音波検査で子宮内の胎嚢が見えるようになる。hCGが十分に高いのに子宮内に胎嚢がみられない場合は、異所性妊娠(子宮外妊娠)を疑う。
流産の分類
流産とは妊娠22週未満の妊娠の終結をいい、妊娠12週未満の早期流産が大部分を占める。早期流産の主な原因は胎芽・胎児の染色体異常である。 ・切迫流産:性器出血などがあるが、胎児は生存し子宮口は閉じている。流産に至らず妊娠が継続しうる状態 ・進行流産:子宮口が開大し、流産が進行している状態 ・完全流産/不全流産:子宮内容が完全に排出されたもの/一部が子宮内に残っているもの ・稽留流産:胎芽・胎児が子宮内で死亡しているが、出血や腹痛などの症状がなく子宮内にとどまっている状態。胎芽が形成されない枯死卵も含む
稽留流産の診断
稽留流産は1回の検査で診断するのではなく、時間をおいた複数回の超音波検査で診断する。胎嚢が十分に大きいのに胎芽が見えない、前回検査で胎嚢を確認してから一定期間後も胎芽・心拍が出現しない、一度確認された心拍が消失した、などの所見を根拠とする。月経周期が不順な女性では特に、週数の推定誤差を考慮して慎重に判断する。
POINT
・最終月経からの妊娠週数は、月経周期が長い女性では実際より進んで計算される。 ・胎嚢はあるが胎芽が見えない場合、排卵が遅れた正常妊娠と稽留流産の両方を考え、1〜2週間後に再検査する。 ・経腟超音波で胎嚢は4週後半〜5週、胎児心拍は6週後半〜7週ごろまでに確認される。 ・早期流産の多くは染色体異常が原因で、安静で予防できるものではない。無症状の段階での入院・絶対安静は不要である。 ・分娩予定日は、妊娠初期の頭殿長(CRL)計測により修正・決定する。
