点滴が入らない心停止―アドレナリンはどこから入れる?蘇生中の薬剤投与経路
第104回医師国家試験 C問題 第20問
国試問題にチャレンジ
人が倒れているとの通報で救急隊が出動した。救急隊の報告では,患者は60歳代の男性で,目立った外傷はなく,救急隊の到着時には既に心肺停止状態であった。救急救命士がバッグバルブマスクによる換気と胸骨圧迫とを行いながら搬入した。救急外来で気管挿管を行った。腹部が膨満していたため胃管を挿入したが,末梢静脈路を確保できなかった。心電図上心静止状態のため,アドレナリン投与が必要と考えられた。 アドレナリン投与の経路として最も適切なのはどれか。
- a.皮下注射
- b.筋肉注射
- c.気管内投与
- d.胃管内投与
- e.心腔内投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
心静止・PEAは電気ショックの適応がなく、心肺蘇生を続けながら早期にアドレナリン1 mgを投与し、3〜5分ごとに繰り返します。薬剤投与経路の優先順位は静脈路、骨髄路、気管内投与の順で、静脈路も骨髄路もなく気管挿管が済んでいる場合は、静脈内投与量の2〜2.5倍を希釈して気管内に投与します。心停止中は皮下・筋肉・消化管の血流がほとんどないため皮下注射・筋肉注射・胃管内投与は無効で、心腔内投与は合併症が多く推奨されません。気管内投与できる薬剤はNAVEL(ナロキソン、アトロピン、バソプレシン、アドレナリン、リドカイン)として覚えておくとよいでしょう。「血流がある場所から投与する」という原理を理解しておくことが、緊迫した蘇生現場での的確な判断につながります。
解答・解説
正解はcです
状況の整理
60歳代の男性が外傷のない状態で倒れており、救急隊到着時にはすでに心肺停止であった。バッグバルブマスクによる換気と胸骨圧迫を続けながら搬送され、救急外来で気管挿管が行われた。腹部膨満(バッグバルブマスク換気で胃に空気が入ったためと考えられる)に対して胃管も挿入されたが、末梢静脈路は確保できていない。心電図は心静止である。
設問の考え方
心静止と無脈性電気活動(PEA)は電気ショックの適応がない心停止であり、質の高い胸骨圧迫と換気を続けつつ、できるだけ早くアドレナリン(1 mg、3〜5分ごと)を投与する。問題は、薬剤投与の標準的な経路である静脈路が確保できていない点にある。 心肺蘇生中の薬剤投与経路の優先順位は、①静脈路(末梢静脈路が基本)、②骨髄路(骨髄針を脛骨近位部などに刺入する)であり、どちらも確保できないときに③気管内投与を考慮する、というのが基本的な考え方である。本問の選択肢には静脈路も骨髄路もなく、すでに気管挿管が完了しているため、気管チューブを通じた気管内投与が最も適切となる。 皮下注射・筋肉注射は心停止で末梢循環が途絶えているため薬が全身に届かず、胃管内投与は消化管からの吸収が期待できない。心腔内投与は合併症が多く、現在は行われない。
選択肢考察
- ×a. 皮下注射
心肺停止中は胸骨圧迫による血流しかなく、皮下組織の血流はほとんどないため、皮下に注射した薬剤はほとんど吸収されず心臓や全身に届かない。心肺蘇生中の投与経路としては不適切である。なお、アドレナリンの皮下注射や筋肉注射はアナフィラキシーなど循環が保たれている状況で用いられる経路である。
- ×b. 筋肉注射
皮下注射と同様に、心停止中は筋肉の血流も極めて乏しく、薬剤の吸収と中心循環への到達が期待できない。アドレナリンの筋肉注射(大腿前外側部に0.3〜0.5 mg)はアナフィラキシーの第一選択であるが、心停止に対する投与経路としては不適切である。
- ○c. 気管内投与
静脈路も骨髄路も確保できず、気管挿管がされている場合には、気管チューブから薬剤を投与し、肺胞から吸収させる方法がとれる。本問ではすでに気管挿管が行われており、選択肢の中で最も適切な経路である。気管内投与では吸収が不確実なため、静脈内投与量の2〜2.5倍量を生理食塩水や蒸留水で5〜10 mL程度に希釈して注入し、その後数回換気して薬剤を肺内に行き渡らせる。気管内投与が可能な薬剤としてアドレナリンのほか、リドカイン、アトロピン、ナロキソン、バソプレシンが知られる。ただし吸収が不確実で至適用量も確立していないため、現行のガイドラインでは静脈路・骨髄路が優先され、気管内投与はそれらが確保できない場合の代替手段という位置づけである。
- ×d. 胃管内投与
心停止中は消化管の血流もほとんどなく、消化管からの吸収は期待できない。さらにアドレナリンは経口投与すると消化管や肝臓で速やかに分解されるため、平常時でも経口・経胃管的に投与して全身作用を得ることはできない。心肺蘇生中の投与経路として用いられることはない。
- ×e. 心腔内投与
胸壁から心腔内に直接針を刺して薬剤を注入する方法で、かつては行われていたが、現在は推奨されていない。胸骨圧迫の中断が必要になるうえ、冠動脈損傷、心タンポナーデ、気胸、心筋内注入による難治性不整脈などの重篤な合併症を起こしうるためである。静脈路・骨髄路・気管内投与といったより安全な経路があり、心腔内投与を選ぶ理由はない。
心停止のアルゴリズムの要点
心停止の心電図波形は、電気ショックの適応がある心室細動(VF)・無脈性心室頻拍(無脈性VT)と、適応がない心静止・無脈性電気活動(PEA)に分けられる。 ・VF/無脈性VT:直ちに電気ショックを行い、2分ごとに胸骨圧迫を中心とした心肺蘇生とリズムチェックを繰り返す。電気ショックが無効なときにアドレナリンを投与し、さらに抗不整脈薬(アミオダロン、リドカイン)を考慮する。 ・心静止/PEA:電気ショックは行わない。心肺蘇生を続けながらできるだけ早くアドレナリンを投与し、原因検索(低酸素、循環血液量減少、高/低カリウム血症、アシドーシス、低体温、緊張性気胸、心タンポナーデ、毒物・薬物、肺血栓塞栓症、冠動脈血栓症など)と治療を行う。 ・アドレナリンは成人で1回1 mgを静脈内(または骨髄内)投与し、3〜5分ごとに繰り返す。
薬剤投与経路の優先順位
①静脈路:末梢静脈路が第一選択。胸骨圧迫を中断せずに確保でき、投与後は生理食塩水20 mL程度で後押しし、腕を挙上して中心循環への到達を早める。 ②骨髄路:静脈路確保が困難なときに選択する。骨髄腔は虚脱しない静脈叢と交通しており、静脈路とほぼ同等の効果が期待できる。成人・小児ともに使用でき、脛骨近位部、上腕骨近位部などが穿刺部位となる。 ③気管内投与:静脈路・骨髄路とも確保できないときの代替手段。静脈内投与量の2〜2.5倍を希釈して投与する。吸収が不安定で効果が劣ると考えられているため、優先度は低い。
気管内投与が可能な薬剤
ナロキソン、アトロピン、バソプレシン、アドレナリン、リドカインの5剤が代表的で、頭文字をとって「NAVEL」と覚える。炭酸水素ナトリウムやカルシウム製剤などは気道粘膜を傷害するため気管内に投与してはならない。
バッグバルブマスク換気と胃膨満
マスク換気では、送気圧が高すぎたり気道確保が不十分だったりすると空気が食道から胃へ流入し、胃が膨満する。胃膨満は横隔膜を押し上げて換気を妨げ、嘔吐・誤嚥の原因ともなるため、気管挿管後に胃管を挿入して減圧する。
POINT
・心静止・PEAは電気ショックの適応がなく、心肺蘇生を継続しつつ早期にアドレナリン1 mgを投与し、3〜5分ごとに繰り返す。 ・薬剤投与経路の優先順位は、静脈路→骨髄路→気管内投与である。 ・気管内投与は静脈内投与量の2〜2.5倍を希釈して投与する。投与可能な薬剤はNAVEL(ナロキソン、アトロピン、バソプレシン、アドレナリン、リドカイン)。 ・心停止中の皮下注射・筋肉注射・胃管内投与は吸収されず無効であり、心腔内投与は合併症が多く推奨されない。
