StudyMed医師国家試験

幻聴と被害妄想を「数値」でとらえる―心理検査の目的を見分ける精神科の基本

第104回医師国家試験 B問題 第41問

国試問題にチャレンジ

第104回 B問題 第41問

20歳の女性。言動の異常を心配した両親に伴われて来院した。家族によれば,「家の前の道路を通る人から悪口を言われている」,「盗聴されている」と言って騒ぎ,自宅に閉じこもり,昼夜は逆転し興奮をきたすという。  診断に有用な検査はどれか。

  1. a.状態特性不安検査〈STAI〉
  2. b.田中・Binet式知能検査
  3. c.Minnesota多面人格検査〈MMPI〉
  4. d.ウィスコンシンカードソーティングテスト〈WCST〉
  5. e.簡易精神症状評価尺度[Brief Psychiatric Rating Scale〈BPRS〉]

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、若い女性に急に現れた言動の異常から病態を考え、その評価に役立つ検査を選ぶ問題だ。ポイントは2つ。まず症状を精神医学の用語に置き換えてどんな病態かを見立てること。次に、選択肢に並ぶ心理検査が「何を測る道具なのか」を区別すること。まず、通行人から悪口を言われる、盗聴されているという訴えは、どう解釈できるかな。
医学生医学生
実際にはない声が聞こえている幻聴か、他人のふるまいを自分に向けられたものと受け取る関係妄想・被害妄想だと思います。
ドクタードクター
そうだね。自分を批判する声の幻聴と被害妄想。いわゆる陽性症状だ。そこに引きこもり、昼夜逆転、興奮が加わり、本人ではなく家族が心配して連れてきている。この最後の点は何を示すと思う?
医学生医学生
本人は困っていないということなので、病識が乏しいということでしょうか。
ドクタードクター
その通り。好発年齢である20歳前後で、幻聴と被害妄想が中心、病識が乏しい。まず統合失調症をはじめとする精神病性障害を考える状況だ。
医学生医学生
精神科の臨床実習で、統合失調症の診断には決め手になる検査がないと教わりました。そうすると「診断に有用な検査」って何を選べばいいのか迷います。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。統合失調症の診断は、DSM-5やICD-11の基準に照らした面接と経過観察による臨床診断で、それだけで確定できる検査はない。だからこの設問は、精神病症状の種類と重症度を系統的に把握して診断の助けにする評価尺度を選べ、と読むのが妥当なんだ。その条件に合うのが、簡易精神症状評価尺度、つまりBPRSだよ。
医学生医学生
BPRSは自己記入式の質問紙ですか。
ドクタードクター
そこはよく誤解されるけれど、医師などの検者が面接で評価する尺度なんだ。18項目を7段階で評定して、幻覚、猜疑心、不自然な思考内容、概念の統合障害、興奮、情動の平板化などを含んでいる。今回の患者さんの症状をそのまま項目に落とし込んで数値化できるし、治療効果の判定にも広く使われている。興奮していて質問紙に答えるのが難しい急性期の患者さんでも評価できるのも利点だね。
医学生医学生
状態特性不安検査は、名前のとおり不安を測る検査ですよね。
ドクタードクター
そう。その時点の一時的な不安である状態不安と、性格的に不安を感じやすい傾向である特性不安を分けて評価する自己記入式の質問紙だ。不安障害やストレス反応の評価には使うけれど、幻覚や妄想は扱えない。
医学生医学生
田中・Binet式知能検査は、小児科実習で発達の評価に使っているのを見ました。
ドクタードクター
主に幼児・児童の知的発達をみる検査で、精神年齢からIQを出すのが特徴だ。成人ならWAISが一般的だね。いずれにしても知能を測るもので、精神病症状の評価には向かない。
医学生医学生
MMPIには統合失調症の尺度があると心理学の講義で習いました。それなら使えそうな気もするんですが。
ドクタードクター
迷いやすいポイントだね。確かに臨床尺度の中に統合失調症傾向をみるものはあるけれど、MMPIはあくまで人格傾向を多面的にとらえる質問紙法の人格検査だ。しかも500問を超える項目に答える必要がある。幻覚・妄想で興奮している急性期の人には協力が得にくく、回答の信頼性も落ちる。この場面で選ぶ検査ではないんだ。
医学生医学生
ウィスコンシンカードソーティングテストは、統合失調症で成績が下がるんじゃなかったでしょうか。
ドクタードクター
よく勉強しているね。WCSTはカードを検者が告げない規則で分類させ、途中で規則が変わったときに切り替えられるかをみる、前頭葉の遂行機能の検査だ。統合失調症では成績が低下することが知られているけれど、それは認知機能障害の評価。陽性症状をとらえたり、診断の補助にしたりする目的では有用性が低い。
医学生医学生
整理すると、不安ならSTAI、知能なら田中・Binet、人格ならMMPI、遂行機能ならWCST、精神病症状ならBPRS、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。精神病症状の評価尺度にはもう一つ、陽性・陰性症状評価尺度のPANSSもあるから、BPRSとセットで覚えておこう。それから臨床で大事なのは、統合失調症と決めつける前に器質性・物質性の原因を除外すること。甲状腺機能異常、てんかん、覚醒剤などの薬物、そして若い女性なら抗NMDA受容体脳炎も忘れてはいけない。血液検査、頭部MRI、脳波をあわせて行うんだ。
医学生医学生
脳炎で精神症状から始まる症例があるというのは、神経内科の講義でも強調されていました。
ドクタードクター
そう、精神症状で受診しても身体の病気が隠れていることがある。症状を正確に評価し、身体疾患を除外し、経過を追って診断する。この流れを身につけておけば、実際の外来でも迷わないはずだよ。

まとめ

若年者に幻聴や被害妄想などの陽性症状が出現し、病識が乏しい場合は、まず統合失調症をはじめとする精神病性障害を考えます。統合失調症は面接と経過に基づく臨床診断であり、確定診断のための検査はないため、精神病症状を検者が系統的に評価する尺度であるBPRS(簡易精神症状評価尺度)が診断の補助として役立ちます。STAIは不安、田中・Binet式は知能、MMPIは人格傾向、WCSTは前頭葉の遂行機能を測る検査であり、精神病症状そのものは評価できません。実臨床では甲状腺疾患、てんかん、薬物、抗NMDA受容体脳炎などの器質性・物質性の原因を、血液検査や頭部MRI、脳波で除外することも欠かせません。心理検査を「何を測る道具か」で整理しておくことは、国試対策だけでなく、精神科診療で適切な評価を選ぶための基礎になります。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・20歳の女性。統合失調症の好発年齢(思春期〜30歳代前半)にあたる。 ・「家の前の道路を通る人から悪口を言われている」:実在しない声が聞こえる幻聴(とくに自分を批判する内容の声)、あるいは他人の言動を自分に向けたものと受け取る関係妄想・被害妄想と考えられる。 ・「盗聴されている」:被害妄想。統合失調症でよくみられる、自分の考えや生活が他者に監視・干渉されているという体験に通じる。 ・自宅に閉じこもる、昼夜逆転、興奮:社会的な引きこもり、生活リズムの乱れ、精神運動興奮。 ・本人ではなく家族が心配して受診させている。病識の乏しさがうかがえる。

診断の考え方

幻聴と被害妄想を中心とする陽性症状が若年で出現しており、統合失調症をはじめとする精神病性障害がまず疑われる。統合失調症の診断は、DSM-5やICD-11などの診断基準に基づき、面接と経過観察によって臨床的に行う。単独で診断を確定できる検査は存在しない。そのため設問の「診断に有用な検査」とは、精神病症状の種類と重症度を系統的に把握し、診断の補助とする評価尺度を指すと読むのが妥当である。 選択肢の中では、幻覚、猜疑心、思考の解体、興奮など精神病の症状を網羅的に評価するBPRS(簡易精神症状評価尺度)が、本例に最もふさわしい。その他の選択肢は、それぞれ不安、知能、人格傾向、実行機能を測る検査であり、精神病症状そのものを評価するものではない。 なお実臨床では、甲状腺機能異常、脳炎(若年女性では抗NMDA受容体脳炎など)、てんかん、薬物(覚醒剤など)による精神病といった器質性・物質性の原因を除外する必要がある。そのため、血液検査、頭部MRI、脳波などもあわせて行う。

選択肢考察

  1. ×a.  状態特性不安検査〈STAI〉

    STAI(State-Trait Anxiety Inventory)は、不安の程度を測る自己記入式の質問紙である。その時点での一時的な不安である「状態不安」と、性格として持続的に不安を感じやすい傾向である「特性不安」を分けて評価する(各20項目、計40項目)。不安障害やストレス反応の評価に用いるもので、幻覚・妄想などの精神病症状は評価できない。

  2. ×b.  田中・Binet式知能検査

    Binet式知能検査を日本向けに改訂した知能検査で、主に幼児・児童の知的発達の評価(知的障害の診断など)に用いられる。精神年齢を求めて知能指数(IQ)を算出するのが特徴である。成人の知能評価にはWAIS(Wechsler成人知能検査)が一般的である。いずれにしても知能の測定が目的で、精神病症状の評価には適さない。

  3. ×c.  Minnesota多面人格検査〈MMPI〉

    MMPI(Minnesota Multiphasic Personality Inventory)は、500を超える多数の質問項目に「はい/いいえ」で答える自己記入式の質問紙法人格検査である。心気症、抑うつ、統合失調症傾向など複数の臨床尺度と、回答の信頼性をみる妥当性尺度から、人格の特徴を多面的にとらえる。人格傾向の把握が目的であり、しかも項目数が多い。幻覚・妄想で興奮している急性期の患者は協力を得にくく、回答の信頼性も低くなる。そのため、本例の診断に用いる検査として適切ではない。

  4. ×d.  ウィスコンシンカードソーティングテスト〈WCST〉

    WCST(Wisconsin Card Sorting Test)は、色・形・数の異なるカードを、検者が告げない規則に従って分類させる検査である。途中で規則が変わった際に分類の基準を切り替えられるかをみる。前頭葉機能、とくに概念の形成や思考の柔軟性(セットの転換)といった遂行機能(実行機能)を評価する。統合失調症では成績が低下することが知られているが、これは認知機能障害の評価であり、陽性症状の把握や診断の補助としての有用性は低い。

  5. ○e.  簡易精神症状評価尺度[Brief Psychiatric Rating Scale〈BPRS〉]

    BPRSは、面接にもとづいて検者(医師)が評価する精神症状の評価尺度である。18項目を7段階で評定し、心気的訴え、不安、感情的引きこもり、概念の統合障害(思考のまとまりのなさ)、罪責感、緊張、衒奇的な行動・姿勢、誇大性、抑うつ気分、敵意、猜疑心、幻覚、運動減退、非協調性、不自然な思考内容、情動の平板化、興奮、見当識障害を扱う。幻覚、猜疑心、不自然な思考内容、興奮など、本例に見られる症状を系統的に数値化できる。精神病性障害の症状把握や治療効果判定に広く用いられており、選択肢の中で本例の診断に最も役立つ。

統合失調症の概要

・生涯有病率は約1%で、思春期から青年期(10歳代後半〜30歳代)に発症することが多い。 ・陽性症状:幻覚(とくに幻聴)、妄想(被害妄想、関係妄想、注察妄想など)、思考の解体(まとまりのない会話)、緊張病性の行動。 ・陰性症状:感情の平板化、意欲の低下、会話の貧困、社会的引きこもり。 ・認知機能障害:注意、記憶、遂行機能の低下。WCSTなどで検出される。 ・Schneiderの一級症状:考想化声、話しかけと応答の形の幻聴、自己の行為に随伴して口出しする幻聴、身体への影響体験、思考奪取・思考吹入・思考伝播、妄想知覚、させられ体験など。 ・DSM-5では、妄想、幻覚、まとまりのない発語、ひどくまとまりのない行動または緊張病性の行動、陰性症状のうち2つ以上(少なくとも1つは妄想・幻覚・まとまりのない発語のいずれか)が1か月間存在し、障害の徴候が少なくとも6か月持続することを要件とする。

主な心理検査・評価尺度の整理

・精神病症状の評価:BPRS、PANSS(陽性・陰性症状評価尺度) ・抑うつの評価:ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)、ベック抑うつ質問票(BDI)、SDS(Zung自己評価式抑うつ尺度) ・不安の評価:STAI、MAS(顕在性不安尺度) ・知能検査:田中・Binet式、WISC(児童用)、WAIS(成人用) ・人格検査(質問紙法):MMPI、Y-G性格検査(矢田部・Guilford性格検査) ・人格検査(投影法):Rorschachテスト(インクのしみの図版)、TAT(主題統覚検査)、SCT(文章完成法)、P-Fスタディ ・前頭葉・遂行機能:WCST、Stroopテスト、Trail Making Test ・認知症のスクリーニング:MMSE、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)

POINT

・若年者の幻聴と被害妄想は、まず統合失調症を疑う。 ・統合失調症の診断は面接と経過に基づく臨床診断であり、確定診断のための検査はない。器質性・物質性の精神病の除外は必須である。 ・BPRSは、幻覚・猜疑心・興奮などの精神病症状を検者が評価する尺度で、精神病症状の把握に用いる。 ・心理検査の目的を区別する:STAIは不安、田中・Binetは知能、MMPIは人格、WCSTは前頭葉の遂行機能。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。