15歳でも「まず妊娠反応」―下腹部痛の診療を決める最初の一手
第104回医師国家試験 B問題 第40問
国試問題にチャレンジ
15歳の女子。左下腹部痛を主訴に来院した。体温38.6℃。脈拍80/分,整。血圧110/60 mmHg。性器出血はない。月経が1週間遅れている。腹部は全体に膨満し,左下腹部に圧痛を認める。 まず行う検査はどれか。
- a.腹部エックス線撮影
- b.Douglas窩穿刺
- c.腹腔鏡検査
- d.妊娠反応
- e.造影CT
対話形式の解説
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ドクターまとめ
妊娠可能な年齢の女性が下腹部痛を訴えた場合、年齢や本人の申告にかかわらず、最初に尿中hCGによる妊娠反応で妊娠の有無を確認するのが原則です。妊娠の有無によって、異所性妊娠や黄体出血など腹腔内出血をきたす疾患を優先すべきかどうかが決まり、エックス線・CTや薬剤の使用可否も左右されます。腹部エックス線や造影CTは妊娠確認前には行わず、Douglas窩穿刺や腹腔鏡検査は非侵襲的検査で方針を絞った後に検討します。陰性であれば骨盤内炎症性疾患、卵巣腫瘍茎捻転、卵巣出血、虫垂炎などを超音波・血液検査を中心に精査します。「簡便で非侵襲的な検査から順に進める」という考え方は、救急外来での安全な診療の基本です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・15歳の女子。初経を迎えた後の思春期で、妊娠の可能性は年齢だけでは否定できない。 ・左下腹部痛、腹部全体の膨満、左下腹部の圧痛がある。腹膜刺激や腹腔内への液体(血液・膿など)の貯留を示唆する所見である。 ・38.6℃の発熱がある。炎症性疾患(骨盤内炎症性疾患、卵巣腫瘍の茎捻転に伴う炎症、虫垂炎など)も考えられる。 ・脈拍80/分、血圧110/60 mmHgで、現時点でショックには至っていない。 ・月経が1週間遅れている。性器出血はない。
考え方
妊娠可能な年齢の女性が下腹部痛を訴えたら、最初に妊娠の有無を確認するのが鉄則である。理由は二つある。 1. 異所性妊娠や妊娠に伴う黄体出血など、妊娠関連の疾患は腹腔内出血をきたしうる緊急疾患である。妊娠の有無で鑑別診断の方向性が大きく変わる。 2. エックス線やCTによる放射線被曝、薬剤投与、侵襲的な処置などを選ぶ際、妊娠していれば胎児への影響を考慮しなければならない。 本人が性交渉を否定していても、思春期の患者ではとくに、問診だけで妊娠を除外してはならない。尿中hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)の定性検査は、外来で数分以内に結果が出る。簡便・迅速・非侵襲的で、最初に行う検査として最適である。 妊娠反応が陽性なら、超音波検査で子宮内の胎嚢の有無、付属器腫瘤、腹腔内の液体貯留を評価する。異所性妊娠、黄体出血、流産などを鑑別する。陰性なら、骨盤内炎症性疾患、卵巣腫瘍茎捻転、卵巣出血、虫垂炎などを念頭に、超音波検査、血液検査、必要に応じてCTなどで精査を進める。
選択肢考察
- ×a. 腹部エックス線撮影
腸閉塞や消化管穿孔(遊離ガス)の評価には役立つ。しかし、放射線被曝を伴うため、妊娠の可能性がある女性では妊娠の有無を確かめる前に行うべきではない。本例の所見から得られる情報も限られており、「まず」行う検査ではない。
- ×b. Douglas窩穿刺
Douglas窩(直腸子宮窩)に針を刺して貯留液を吸引し、血液か膿かを判定する検査である。かつては異所性妊娠破裂などの腹腔内出血を診断するためによく行われた。しかし侵襲を伴ううえ、現在は超音波検査で液体貯留を非侵襲的に評価できるため、実施の機会は減っている。いずれにせよ妊娠反応を確認した後に検討する検査であり、15歳で性交経験がない可能性もある患者に最初に行うものではない。
- ×c. 腹腔鏡検査
全身麻酔下で行う侵襲的な検査である。異所性妊娠の確定診断や治療(卵管切除など)、卵巣腫瘍茎捻転の診断・治療に用いられる。妊娠反応や超音波検査などの非侵襲的検査で方針を絞り込んだ後に行うもので、初めに行う検査ではない。
- ○d. 妊娠反応
尿中hCG定性検査は、妊娠可能な年齢の女性の腹痛で最初に行う検査である。月経の遅れがある本例ではとくに重要である。結果はすぐに得られ、侵襲もない。陽性なら異所性妊娠や黄体出血など妊娠関連の腹腔内出血を優先して鑑別する。陰性なら炎症性疾患や卵巣腫瘍茎捻転などを考える。このように、以後の検査・治療の方針を大きく左右する。
- ×e. 造影CT
腹部の炎症性疾患や腫瘤、腹腔内出血の広がりの評価には有用である。しかし放射線被曝があり、造影剤も用いるため、妊娠の有無が不明なまま最初に行う検査ではない。妊娠が否定されたうえで、超音波検査だけでは診断がつかない場合に考慮する。
妊娠可能年齢女性の急性下腹部痛の主な鑑別
妊娠反応が陽性の場合 ・異所性妊娠(とくに卵管妊娠の破裂・卵管流産):腹腔内出血により、下腹部痛、腹部膨満、ショックをきたしうる。 ・妊娠黄体からの出血(黄体出血):妊娠初期は卵巣の黄体が妊娠の維持に働いており、血管に富むため出血しやすい。症状は異所性妊娠によく似るため、超音波検査で子宮内の胎嚢の有無や出血源を確認し、hCGの推移を追って鑑別する。軽症なら保存的に経過をみ、出血が持続する場合は手術で止血する。正常の子宮内妊娠に黄体出血が合併している例を異所性妊娠と誤ると、不要な手術を行うことになる。 ・流産(切迫流産、進行流産) 妊娠反応が陰性の場合 ・骨盤内炎症性疾患(PID):発熱、下腹部痛、子宮・付属器の圧痛。クラミジアや淋菌が主な起因菌である。 ・卵巣腫瘍(皮様嚢腫など)の茎捻転:突然の激痛、悪心・嘔吐。 ・卵巣出血(非妊娠時の黄体出血):性交後や月経周期の後半に多い。 ・虫垂炎、尿路結石、腎盂腎炎など、婦人科以外の疾患。
検査の順序の原則
問診 → 妊娠反応 → 超音波検査(経腹・経腟。性交経験がない場合は経腹や経直腸で行う)→ 血液検査 → 必要に応じてCT・MRI → 侵襲的検査(腹腔鏡など)
POINT
・妊娠可能な年齢の女性の腹痛では、まず妊娠反応(尿中hCG)で妊娠の有無を確認する。 ・妊娠の有無により鑑別診断(異所性妊娠、黄体出血など)と、放射線検査・薬剤の可否が決まる。 ・思春期の患者でも、問診のみで妊娠を否定しない。 ・Douglas窩穿刺や腹腔鏡などの侵襲的検査は、非侵襲的検査で方針を絞ってから行う。
