赤ちゃんの「異常に見えて正常」を見抜く―新生児の生理的所見と多呼吸の境界線
第104回医師国家試験 B問題 第32問
国試問題にチャレンジ
新生児女児の身体所見として生理的でないのはどれか。
- a.産瘤
- b.性器出血
- c.呼吸数70/分
- d.心拍数120/分
- e.Babinski反射陽性
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
新生児では、成人なら異常とされる所見の多くが生理的にみられ、分娩の影響(産瘤など)、母体ホルモンの消退(新生児月経、乳房腫大、魔乳)、中枢神経の未熟性(Babinski反射陽性、原始反射)という視点で整理すると判断しやすくなります。バイタルサインの正常値は心拍数120〜160/分、呼吸数40〜60/分が目安で、呼吸数70/分は多呼吸であり生理的所見とはいえません。多呼吸は新生児一過性多呼吸、呼吸窮迫症候群、胎便吸引症候群、感染症、先天性心疾患などの徴候となりうるため、陥没呼吸や呻吟、チアノーゼの有無とあわせて評価し、呼吸数は1分間かけて数えます。また産瘤は骨縫合を越える皮下浮腫、頭血腫は縫合を越えない骨膜下出血という区別も重要です。正常のバリエーションを正確に知ることは、新生児の異常を見逃さない診療の基盤になります。
解答・解説
正解はcです
【テーマ】成人では異常とされる所見でも、新生児では正常範囲(生理的)とみなされるものが多い。本問は、新生児女児にみられる所見のうち、生理的ではない(病的な)ものを選ぶ問題である。
考え方
新生児の所見は次の3つの観点から整理すると判断しやすい。 ①分娩の影響によるもの:産瘤など、産道通過時の圧迫で生じ自然に消退する変化。 ②母体ホルモンの影響によるもの:胎盤を通じて移行した母体のエストロゲンが、出生後に急に途絶えることで起こる性器出血(新生児月経)や乳房腫大など。 ③中枢神経系の未熟性によるもの:Babinski反射陽性や原始反射など。 これに加えて、バイタルサインの正常値(呼吸数40〜60/分、心拍数120〜160/分程度)を覚えておく必要がある。 呼吸数70/分は新生児の正常上限である60/分を超えており、多呼吸(頻呼吸)に該当する。多呼吸は新生児一過性多呼吸、呼吸窮迫症候群、胎便吸引症候群、肺炎・敗血症、先天性心疾患など、呼吸・循環障害の重要な徴候であるため、生理的所見とはいえない。
選択肢考察
- ×a. 産瘤
生理的所見である(したがって本問の正解ではない)。産瘤は、分娩時に産道で圧迫された児頭の先進部に生じる皮下の浮腫・うっ血で、出生直後に最も目立ち、数日以内に自然に吸収される。皮下組織の変化であるため骨縫合を越えて広がり、境界は不明瞭で、圧迫すると圧痕を残す。治療は不要である。鑑別すべき頭血腫は骨膜下の出血で、骨縫合を越えず境界明瞭、生後数日してから明らかになり、消退に数週〜数か月を要する。
- ×b. 性器出血
生理的所見である(したがって本問の正解ではない)。胎内では胎盤を介して母体由来のエストロゲンにさらされ、子宮内膜が増殖している。出生によりこのエストロゲンの供給が途絶えると、消退出血として生後数日〜1週ごろに少量の腟出血がみられることがあり、新生児月経とよばれる。同じ機序で白色の腟分泌物、乳房腫大、乳汁分泌(いわゆる魔乳)もみられる。いずれも一過性で治療は不要である。
- ○c. 呼吸数70/分
正解(生理的でない)。新生児の呼吸数の正常範囲はおよそ40〜60/分で、60/分を超えると多呼吸と判断する。呼吸数70/分は明らかな多呼吸であり、呼吸障害または循環障害を示唆する病的所見である。多呼吸に陥没呼吸、呻吟(うめくような呼気)、鼻翼呼吸、チアノーゼなどを伴えば呼吸窮迫の徴候として評価・対応が必要となる。なお新生児は主に腹式呼吸で、呼吸の深さやリズムが不規則になりやすく、短い呼吸休止を繰り返す周期性呼吸は生理的とされるため、呼吸数は1分間しっかり数えて評価する。
- ×d. 心拍数120/分
生理的所見である(したがって本問の正解ではない)。新生児の心拍数の正常範囲はおおむね120〜160/分で、睡眠中には100/分前後まで下がることもある。120/分は正常範囲内である。心拍数は年齢とともに低下し、成人ではおよそ60〜100/分となる。
- ×e. Babinski反射陽性
生理的所見である(したがって本問の正解ではない)。Babinski反射(徴候)は、足底の外側縁をこすったときに母趾が背屈し、他の趾が扇状に開く反応である。成人では錐体路障害を示す病的反射だが、乳児では錐体路の髄鞘化が未完成のため正常でもみられる。歩行が確立する1〜2歳ごろまでに陰性化する。
新生児のバイタルサインの目安
・呼吸数:40〜60/分(60/分超で多呼吸) ・心拍数:120〜160/分 ・収縮期血圧:60〜80mmHg程度(週数・体重により異なる) ・体温(腋窩):36.5〜37.5℃程度
新生児にみられる主な生理的所見
・分娩の影響:産瘤、児頭の応形機能(骨重積) ・母体ホルモンの影響:新生児月経、白色帯下、乳房腫大・魔乳 ・皮膚:生理的黄疸(生後2〜3日で出現、1〜2週で消退)、新生児中毒性紅斑、稗粒腫、蒙古斑、四肢末梢のチアノーゼ(末端チアノーゼ) ・その他:生理的体重減少(出生体重の5〜10%程度)、生理的多血、周期性呼吸、無害性心雑音 ・神経:原始反射(Moro反射、把握反射、吸啜反射、探索反射など)、Babinski反射陽性
病的と判断すべき所見の例
・多呼吸(>60/分)、陥没呼吸、呻吟、中心性チアノーゼ ・生後24時間以内に出現する黄疸(早発黄疸) ・原始反射の消失や左右差(分娩麻痺・中枢神経障害を疑う)
産瘤と頭血腫の比較
・部位:産瘤は皮下、頭血腫は骨膜下 ・骨縫合:産瘤は越える、頭血腫は越えない ・出現時期:産瘤は出生時に最大、頭血腫は数日後に明らか ・消退:産瘤は数日、頭血腫は数週〜数か月(黄疸増強の原因となることがある) ・なお帽状腱膜下血腫は骨縫合を越えて広範に広がり、大量出血でショックに至ることがあるため注意を要する。
POINT
・新生児の呼吸数は40〜60/分、60/分を超えれば多呼吸(病的) ・新生児の心拍数は120〜160/分 ・新生児月経・乳房腫大は母体エストロゲンの消退による生理的現象 ・産瘤は骨縫合を越える皮下浮腫で数日で消える(頭血腫は縫合を越えない骨膜下出血) ・Babinski反射は1〜2歳ごろまで生理的に陽性
