StudyMed医師国家試験

赤ちゃんの「異常に見えて正常」を見抜く―新生児の生理的所見と多呼吸の境界線

第104回医師国家試験 B問題 第32問

国試問題にチャレンジ

第104回 B問題 第32問

新生児女児の身体所見として生理的でないのはどれか。

  1. a.産瘤
  2. b.性器出血
  3. c.呼吸数70/分
  4. d.心拍数120/分
  5. e.Babinski反射陽性

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、新生児女児にみられる所見のうち、生理的ではないもの、つまり病的なものを選ぶ問題だ。新生児では大人なら異常とされる所見が正常として現れることが多い。「分娩の影響」「母体ホルモンの影響」「神経の未熟性」という3つの視点と、バイタルサインの正常値を軸に整理していこう。
医学生医学生
新生児って何もかも大人と違うので、どこから異常と判断すればいいのか自信がないです。
ドクタードクター
だからこそ枠組みが大事なんだ。まず分娩の影響から。頭にできる産瘤はどうかな。
医学生医学生
産科の実習で、生まれたばかりの赤ちゃんの頭がぶよぶよ腫れているのを見ました。あれは自然に引くと説明されました。
ドクタードクター
そう、産瘤は産道で圧迫された児頭の先進部にできる皮下の浮腫・うっ血で、出生直後に最も目立ち、数日で自然に吸収される。治療は不要な生理的変化だ。注意したいのは頭血腫との違い。
医学生医学生
頭血腫は骨膜下の出血だから、骨縫合を越えないんでしたよね。
ドクタードクター
その通り。産瘤は皮下なので縫合を越えて広がり、境界は不明瞭。頭血腫は境界明瞭で生後数日してから目立ち、消えるのに数週〜数か月かかり、黄疸を強める原因にもなりうる。次は女児ならではの性器出血だ。
医学生医学生
女の赤ちゃんに出血があったら、正直ちょっと焦ってしまいそうです。
ドクタードクター
気持ちはわかるけれど、これは新生児月経とよばれる生理的現象なんだ。胎内では胎盤を通じて母体のエストロゲンが届き、子宮内膜が増殖している。出生でそれが急に途絶えると、消退出血として生後数日〜1週ごろに少量の腟出血がみられることがある。
医学生医学生
同じ仕組みで、乳房が腫れたり乳汁が出たりすることもあると、CBTの勉強で見た覚えがあります。
ドクタードクター
よく覚えているね。いわゆる魔乳や白色の腟分泌物も同じ機序で、いずれも一過性だ。では神経の未熟性、Babinski反射陽性はどうだろう。
医学生医学生
神経内科の実習では錐体路障害のサインと教わったので、赤ちゃんで陽性だと心配になります。
ドクタードクター
大人ではそうだね。でも乳児では錐体路の髄鞘化が未完成なので、正常でも陽性になる。歩行が確立する1〜2歳ごろまでに陰性化するんだ。最後にバイタルサイン。新生児の正常な心拍数と呼吸数は覚えているかな。
医学生医学生
心拍数は120〜160/分くらいなので、120/分は正常範囲ですね。呼吸数は…大人より速いのは知っていますが、70/分くらいなら大丈夫な気もします。
ドクタードクター
そこが落とし穴。新生児の呼吸数の正常範囲はおよそ40〜60/分で、60/分を超えると多呼吸と判断する。70/分は明らかな多呼吸で、これが今回の正解、生理的でない所見だ。
医学生医学生
速いのが当たり前だと思って、上限を意識していませんでした。多呼吸だと何を考えればいいでしょうか。
ドクタードクター
新生児一過性多呼吸、呼吸窮迫症候群、胎便吸引症候群、肺炎や敗血症、それに先天性心疾患など、呼吸や循環の障害を考える。陥没呼吸、呻吟、鼻翼呼吸、中心性チアノーゼを伴えば呼吸窮迫の徴候として速やかな評価が必要だ。
医学生医学生
呼吸数を数えるときに気をつけることはありますか。
ドクタードクター
新生児は腹式呼吸が主体で、深さやリズムが不規則になりやすい。短い呼吸休止を繰り返す周期性呼吸も生理的にみられるから、15秒数えて4倍するのではなく、1分間しっかり数えるのが基本だよ。
医学生医学生
「分娩」「母体ホルモン」「神経の未熟性」で生理的所見を整理して、バイタルの正常値から外れたものを拾う、という流れですね。
ドクタードクター
その通り。ほかにも生理的黄疸、新生児中毒性紅斑、蒙古斑、末端チアノーゼ、生理的体重減少なども生理的所見として押さえておこう。逆に、生後24時間以内に出る早発黄疸や、原始反射の消失・左右差は病的なサインだ。「正常のバリエーション」を知っているからこそ、本当の異常に気づけるんだ。

まとめ

新生児では、成人なら異常とされる所見の多くが生理的にみられ、分娩の影響(産瘤など)、母体ホルモンの消退(新生児月経、乳房腫大、魔乳)、中枢神経の未熟性(Babinski反射陽性、原始反射)という視点で整理すると判断しやすくなります。バイタルサインの正常値は心拍数120〜160/分、呼吸数40〜60/分が目安で、呼吸数70/分は多呼吸であり生理的所見とはいえません。多呼吸は新生児一過性多呼吸、呼吸窮迫症候群、胎便吸引症候群、感染症、先天性心疾患などの徴候となりうるため、陥没呼吸や呻吟、チアノーゼの有無とあわせて評価し、呼吸数は1分間かけて数えます。また産瘤は骨縫合を越える皮下浮腫、頭血腫は縫合を越えない骨膜下出血という区別も重要です。正常のバリエーションを正確に知ることは、新生児の異常を見逃さない診療の基盤になります。

解答・解説

正解はcです

【テーマ】成人では異常とされる所見でも、新生児では正常範囲(生理的)とみなされるものが多い。本問は、新生児女児にみられる所見のうち、生理的ではない(病的な)ものを選ぶ問題である。

考え方

新生児の所見は次の3つの観点から整理すると判断しやすい。 ①分娩の影響によるもの:産瘤など、産道通過時の圧迫で生じ自然に消退する変化。 ②母体ホルモンの影響によるもの:胎盤を通じて移行した母体のエストロゲンが、出生後に急に途絶えることで起こる性器出血(新生児月経)や乳房腫大など。 ③中枢神経系の未熟性によるもの:Babinski反射陽性や原始反射など。 これに加えて、バイタルサインの正常値(呼吸数40〜60/分、心拍数120〜160/分程度)を覚えておく必要がある。 呼吸数70/分は新生児の正常上限である60/分を超えており、多呼吸(頻呼吸)に該当する。多呼吸は新生児一過性多呼吸、呼吸窮迫症候群、胎便吸引症候群、肺炎・敗血症、先天性心疾患など、呼吸・循環障害の重要な徴候であるため、生理的所見とはいえない。

選択肢考察

  1. ×a.  産瘤

    生理的所見である(したがって本問の正解ではない)。産瘤は、分娩時に産道で圧迫された児頭の先進部に生じる皮下の浮腫・うっ血で、出生直後に最も目立ち、数日以内に自然に吸収される。皮下組織の変化であるため骨縫合を越えて広がり、境界は不明瞭で、圧迫すると圧痕を残す。治療は不要である。鑑別すべき頭血腫は骨膜下の出血で、骨縫合を越えず境界明瞭、生後数日してから明らかになり、消退に数週〜数か月を要する。

  2. ×b.  性器出血

    生理的所見である(したがって本問の正解ではない)。胎内では胎盤を介して母体由来のエストロゲンにさらされ、子宮内膜が増殖している。出生によりこのエストロゲンの供給が途絶えると、消退出血として生後数日〜1週ごろに少量の腟出血がみられることがあり、新生児月経とよばれる。同じ機序で白色の腟分泌物、乳房腫大、乳汁分泌(いわゆる魔乳)もみられる。いずれも一過性で治療は不要である。

  3. ○c.  呼吸数70/分

    正解(生理的でない)。新生児の呼吸数の正常範囲はおよそ40〜60/分で、60/分を超えると多呼吸と判断する。呼吸数70/分は明らかな多呼吸であり、呼吸障害または循環障害を示唆する病的所見である。多呼吸に陥没呼吸、呻吟(うめくような呼気)、鼻翼呼吸、チアノーゼなどを伴えば呼吸窮迫の徴候として評価・対応が必要となる。なお新生児は主に腹式呼吸で、呼吸の深さやリズムが不規則になりやすく、短い呼吸休止を繰り返す周期性呼吸は生理的とされるため、呼吸数は1分間しっかり数えて評価する。

  4. ×d.  心拍数120/分

    生理的所見である(したがって本問の正解ではない)。新生児の心拍数の正常範囲はおおむね120〜160/分で、睡眠中には100/分前後まで下がることもある。120/分は正常範囲内である。心拍数は年齢とともに低下し、成人ではおよそ60〜100/分となる。

  5. ×e.  Babinski反射陽性

    生理的所見である(したがって本問の正解ではない)。Babinski反射(徴候)は、足底の外側縁をこすったときに母趾が背屈し、他の趾が扇状に開く反応である。成人では錐体路障害を示す病的反射だが、乳児では錐体路の髄鞘化が未完成のため正常でもみられる。歩行が確立する1〜2歳ごろまでに陰性化する。

新生児のバイタルサインの目安

・呼吸数:40〜60/分(60/分超で多呼吸) ・心拍数:120〜160/分 ・収縮期血圧:60〜80mmHg程度(週数・体重により異なる) ・体温(腋窩):36.5〜37.5℃程度

新生児にみられる主な生理的所見

・分娩の影響:産瘤、児頭の応形機能(骨重積) ・母体ホルモンの影響:新生児月経、白色帯下、乳房腫大・魔乳 ・皮膚:生理的黄疸(生後2〜3日で出現、1〜2週で消退)、新生児中毒性紅斑、稗粒腫、蒙古斑、四肢末梢のチアノーゼ(末端チアノーゼ) ・その他:生理的体重減少(出生体重の5〜10%程度)、生理的多血、周期性呼吸、無害性心雑音 ・神経:原始反射(Moro反射、把握反射、吸啜反射、探索反射など)、Babinski反射陽性

病的と判断すべき所見の例

・多呼吸(>60/分)、陥没呼吸、呻吟、中心性チアノーゼ ・生後24時間以内に出現する黄疸(早発黄疸) ・原始反射の消失や左右差(分娩麻痺・中枢神経障害を疑う)

産瘤と頭血腫の比較

・部位:産瘤は皮下、頭血腫は骨膜下 ・骨縫合:産瘤は越える、頭血腫は越えない ・出現時期:産瘤は出生時に最大、頭血腫は数日後に明らか ・消退:産瘤は数日、頭血腫は数週〜数か月(黄疸増強の原因となることがある) ・なお帽状腱膜下血腫は骨縫合を越えて広範に広がり、大量出血でショックに至ることがあるため注意を要する。

POINT

・新生児の呼吸数は40〜60/分、60/分を超えれば多呼吸(病的) ・新生児の心拍数は120〜160/分 ・新生児月経・乳房腫大は母体エストロゲンの消退による生理的現象 ・産瘤は骨縫合を越える皮下浮腫で数日で消える(頭血腫は縫合を越えない骨膜下出血) ・Babinski反射は1〜2歳ごろまで生理的に陽性

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。