StudyMed医師国家試験

酸素を「流す」か、肺に「送る」か―心肺蘇生の器具を見分ける一本の線

第104回医師国家試験 B問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第104回 B問題 第11問

写真(①~⑤)を別に示す。  心肺蘇生術で用いない器具はどれか。

第104回 B問題 第11問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、写真で示された5つの器具のなかから、心肺蘇生で使わないものを選ぶ問題だ。着眼点は、心肺蘇生が「何をする処置なのか」を分解して考えること。胸骨圧迫、気道確保、人工呼吸、そして除細動。それぞれに対応する器具を思い浮かべられれば迷わないよ。まず写真の器具が何か、言えるかな。
医学生医学生
鼻に入れる細いチューブ、ブレードのついた喉頭鏡、バッグバルブマスク、平たい板、それに除細動器ですね。
ドクタードクター
その通り。鼻のチューブは経鼻カニューラ、平たい板は背板、別名心臓マッサージ板だ。では、この中で心肺蘇生に使わないものはどれだと思う?
医学生医学生
正直、最初は背板かなと思いました。床の上でやるイメージが強くて、板なんて要るのかなと。
ドクタードクター
BLS講習は床でやるから、そう感じるのも無理はないね。でも病院で急変が起きるのはたいていベッドの上だ。マットレスは柔らかいから、そのまま押すと力が沈み込んで逃げてしまい、成人で必要な約5cm、6cmを超えない深さの圧迫がなかなか得られない。背中の下に背板を敷くことで、圧迫の力がきちんと心臓に伝わるようになるんだ。
医学生医学生
なるほど、病棟の急変カートに板が立てかけてあったのはそのためだったんですね。
ドクタードクター
そう。胸骨圧迫を「有効にする」ための大事な器具だよ。では、答えはどれになる?
医学生医学生
経鼻カニューラでしょうか。酸素は投与できますが、心肺停止の人には足りない気がします。
ドクタードクター
正解。ポイントは「足りない」の中身だ。経鼻カニューラは低流量、おおむね1〜5L/分で吸入酸素濃度は25〜40%程度。でもそれ以上に重要なのは、患者自身が息を吸うことが前提の器具だという点なんだ。心停止の患者は自発呼吸がないか、あっても有効ではない。鼻先に酸素を流しても、肺に空気を送り込む力がないから換気にならないんだよ。
医学生医学生
酸素を「流す」器具と、肺に「送る」器具は別物ということですね。
ドクタードクター
まさにそれ。肺に送り込む、つまり陽圧換気をする代表がバッグバルブマスクだ。マスクで口と鼻を覆い、自己膨張式のバッグを手で押して空気を送る。酸素チューブとリザーバーをつなげば高濃度の酸素も投与できるし、気管挿管後はチューブに直接つないで換気に使える。
医学生医学生
OSCEの練習で、EC法でマスクを密着させるのが意外と難しかったです。漏れると全然胸が上がらなくて。
ドクタードクター
それは現場でも同じだよ。だから確実な気道確保として、二次救命処置では気管挿管を行う。そのとき使うのが喉頭鏡だ。ブレードで舌と喉頭蓋を持ち上げて声門を直視し、気管チューブを入れる。最近は手技の容易なラリンジアルマスクなどの声門上気道デバイスも使われるね。
医学生医学生
除細動器は、心室細動や無脈性心室頻拍のときに使うんですよね。
ドクタードクター
そう。電気ショックで致死的不整脈を止めて、正常なリズムの回復を図る。こうしたリズムによる心停止では、除細動が早いほど救命率が高くなるから、心肺蘇生に欠かせない器具だ。逆に心静止や無脈性電気活動では電気ショックの適応がないことも、セットで覚えておこう。
医学生医学生
酸素投与の器具は、カニューラ以外にも簡易酸素マスクやリザーバー付きマスクがありますよね。あれも蘇生には使わないんですか。
ドクタードクター
いい質問だね。簡易酸素マスクは5〜10L/分程度で約40〜60%、リザーバー付きマスクは10L/分以上で60%以上の高濃度が出せる。でも、どれも自発呼吸があることが前提という点は同じだ。呼吸が止まっている患者には、どれだけ高濃度の酸素を流しても、バッグバルブマスクや人工呼吸器による陽圧換気がなければ肺に届かない。
医学生医学生
「呼吸しているか」で器具を選び分ける、と整理すればよさそうです。
ドクタードクター
その整理で十分通用するよ。最後に臨床での注意点をひとつ。器具をそろえることに気を取られて、胸骨圧迫が中断してしまうのが一番の失敗だ。100〜120回/分のテンポで、毎回胸を元の位置まで戻し、中断を最小限にする。人工呼吸をするなら圧迫30回に対して2回。器具はあくまで、質の高い胸骨圧迫を支えるための道具だと考えてほしい。

まとめ

心肺蘇生で用いる器具は、胸骨圧迫・気道確保・人工呼吸・除細動という蘇生の構成要素に対応させると整理しやすく、ベッド上での圧迫を有効にする背板、陽圧換気を行うバッグバルブマスク、気管挿管に使う喉頭鏡、致死的不整脈を止める除細動器がこれにあたります。一方、経鼻カニューラは自発呼吸のある患者に低流量・低濃度の酸素を投与する器具で、肺に空気を送り込む機能がないため、呼吸の止まった心停止患者には用いません。簡易酸素マスクやリザーバー付きマスクも自発呼吸が前提である点は同じで、呼吸停止には陽圧換気が必要です。器具は写真で出題されることが多いため、外観と用途を結び付けて覚えておくと、急変の現場で迷わず動ける力にもつながります。

解答・解説

正解はaです

本問は、心肺蘇生(CPR: cardiopulmonary resuscitation)の現場で実際に使う器具を写真で見分けられるかを問う問題である。写真の器具は、①経鼻カニューラ、②喉頭鏡、③バッグバルブマスク(手動式人工呼吸器、商品名アンビューバッグ)、④背板(心臓マッサージ板)、⑤除細動器である。 心肺蘇生は、胸骨圧迫(Circulation)、気道確保(Airway)、人工呼吸(Breathing)に加え、心室細動や無脈性心室頻拍に対する電気的除細動(Defibrillation)、さらに二次救命処置(ALS: advanced life support)での高度な気道確保や薬剤投与から構成される。それぞれの要素に対応する器具を思い浮かべると整理しやすい。 ・胸骨圧迫を有効にする: 背板 ・気道確保・人工呼吸: バッグバルブマスク、喉頭鏡と気管チューブ、エアウェイ ・除細動: 除細動器、AED(自動体外式除細動器) 心停止の患者は自発呼吸がないか、あっても有効でない。そのため、鼻から酸素を流すだけの経鼻カニューラでは換気を行えず、心肺蘇生の器具としては用いない。

選択肢考察

  1. ○a.  ①

    ①は経鼻カニューラ(鼻カニューラ)である。先端の2本の突起を両側の鼻孔に入れ、チューブを耳にかけて固定し、低流量の酸素を吸入させる器具である。流量はおおむね1〜5L/分程度で、吸入酸素濃度は25〜40%程度にとどまる。さらに、患者自身の自発呼吸があることが前提であり、陽圧で肺に空気を送り込む機能はない。心停止で呼吸が止まっている患者には換気が必要であるため、心肺蘇生では用いない。したがって本問の正解である。

  2. ×b.  ②

    ②は喉頭鏡である。ハンドルにブレード(先端に光源のついたへら状の部分)を取り付け、舌と喉頭蓋を持ち上げて声門を直接見えるようにし、気管チューブを挿入するために使う。気管挿管は二次救命処置における確実な気道確保の方法であり、心肺蘇生で用いる器具である。

  3. ×c.  ③

    ③はバッグバルブマスク(手動式人工呼吸器)である。アンビューバッグは本来商品名であるが、一般名のように使われている。マスクで口と鼻を覆い、自己膨張式のバッグを手で押して肺に空気を送り込む。酸素チューブやリザーバーを接続すると高濃度の酸素を投与できる。気管挿管後はチューブに接続して換気にも使う。心肺蘇生で人工呼吸を行う際の基本的な器具である。

  4. ×d.  ④

    ④は背板(心臓マッサージ板)である。病院のベッドのマットレスは柔らかく、そのまま胸骨圧迫を行うと力がマットレスに逃げて十分な深さ(成人で約5cm、6cmを超えない)の圧迫ができない。背板を患者の背中の下に敷くことで、圧迫の効果を高める。心肺蘇生で用いる器具である。

  5. ×e.  ⑤

    ⑤は除細動器である。胸壁に電極(パドルまたはパッド)を当てて電気ショックを与え、心室細動や無脈性心室頻拍を停止させて正常なリズムの回復を図る。これらの致死的不整脈による心停止では、早期の除細動が救命率を大きく左右するため、心肺蘇生で不可欠な器具である。

心肺蘇生で用いる主な器具

・背板: ベッド上で胸骨圧迫を有効に行うため背部に敷く ・バッグバルブマスク: 用手的な陽圧換気。リザーバー付きで高濃度酸素投与が可能 ・エアウェイ: 舌根沈下による気道閉塞を防ぐ。口咽頭エアウェイ(経口)と鼻咽頭エアウェイ(経鼻)がある ・喉頭鏡・気管チューブ: 気管挿管による確実な気道確保 ・声門上気道デバイス: ラリンジアルマスクなど。挿管より手技が容易 ・除細動器・AED: 心室細動・無脈性心室頻拍に対する電気ショック ・静脈路確保の器材と薬剤: アドレナリン、アミオダロンなど

酸素投与器具の比較

・経鼻カニューラ: 低流量(おおむね1〜5L/分)、吸入酸素濃度は約25〜40%。会話や食事がしやすい ・簡易酸素マスク: 5〜10L/分程度で約40〜60% ・リザーバー付き酸素マスク: 10L/分以上で60%以上の高濃度 いずれも自発呼吸があることが前提の器具であり、呼吸停止の患者には陽圧換気(バッグバルブマスクや人工呼吸器)が必要である。

胸骨圧迫の要点(成人)

・胸骨の下半分を、深さ約5cm(6cmを超えない)、100〜120回/分で圧迫する ・圧迫ごとに胸壁を元の位置まで戻し、中断を最小限にする ・人工呼吸を行う場合は、胸骨圧迫30回に対して人工呼吸2回

POINT

・心肺蘇生で用いる器具: 背板、バッグバルブマスク、喉頭鏡・気管チューブ、エアウェイ、除細動器・AED ・経鼻カニューラは自発呼吸のある患者への低流量・低濃度の酸素投与用であり、換気ができないため心肺蘇生には用いない ・器具は写真で出題されるため、実物の外観と用途を結び付けて覚えておく

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。