心拍が戻ったその瞬間に―蘇生後「まず血圧」の理由をABCDEで読み解く
第120回医師国家試験 F問題 第23問
国試問題にチャレンジ
心肺蘇生による自己心拍再開後,自発呼吸と意識に加えてまず確認すべきなのはどれか。
- a.血圧
- b.体温
- c.瞳孔径
- d.睫毛反射
- e.Babinski徴候
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
心肺蘇生で自己心拍が再開した直後は再び心停止に陥る危険が高く、ABCDEの順に生命維持に直結する項目から評価します。自発呼吸(B)と意識(D)に加えてまず確認すべきなのは循環(C)であり、その代表的指標が血圧です。蘇生後は心筋障害や血管拡張で低血圧をきたしやすく、低血圧は脳の二次的虚血を招くため、収縮期血圧90mmHg以上・平均動脈圧65mmHg以上を目安に是正し、12誘導心電図で急性冠症候群の有無も評価します。体温管理(発熱の予防)は重要ですが循環安定後に行い、瞳孔・脳幹反射などによる神経学的予後評価は心拍再開後おおむね72時間以降に複数の指標を組み合わせて行うのが原則で、Babinski徴候や睫毛反射は予後判定の指標ではありません。評価の優先順位を体系的に身につけることは、救急外来や病棟で急変に立ち会ったときの的確な初期対応に直結します。
解答・解説
正解はaです
問われていること
心肺蘇生(CPR)により自己心拍再開(return of spontaneous circulation:ROSC)が得られた直後に、優先して評価すべき項目は何かが問われている。
考え方:ABCDEアプローチ
重症患者の初期評価は、生命に直結する順にA(airway:気道)→B(breathing:呼吸)→C(circulation:循環)→D(dysfunction of CNS:意識・中枢神経)→E(exposure/environment:脱衣と体温)の順で行う。ROSC直後の患者は再び心停止に陥る危険が高く、まず「生命が維持できる状態か」を確認する必要がある。 設問では自発呼吸(B)と意識(D)が既に挙げられている。気道(A)は蘇生中に確保されていることが多いので、残る生理学的に重要な要素はC(循環)であり、その代表的な指標が血圧である。ROSC後は心筋の機能低下(心停止後の心筋障害)や血管拡張により低血圧をきたしやすく、低血圧は脳への血流を減らして神経学的予後を悪化させるため、早期に把握して是正しなければならない。 体温(E)の管理や、瞳孔・脳幹反射などによる神経学的予後の評価も心停止後症候群の診療に欠かせないが、いずれも循環が安定したあとに行う、あるいは時間をおいて評価する項目である。
選択肢考察
- ○a. 血圧
正しい。ABCDEのうちC(循環)を評価する最も基本的な指標である。ROSC直後は再度の心停止や循環不全に陥りやすく、低血圧は脳や心臓の二次的な虚血を招く。蘇生後の目標として、収縮期血圧90mmHg以上、平均動脈圧65mmHg以上を目安に、低血圧を避けるよう輸液や血管収縮薬・強心薬で管理する。同時に12誘導心電図でST上昇などを確認し、急性冠症候群が原因であれば緊急の冠動脈造影・再灌流療法を検討する。
- ×b. 体温
まず確認すべき項目ではない。ABCDEのE(体温・環境)にあたり、気道・呼吸・循環・意識の評価の後に確認する。ただし体温管理自体は蘇生後治療の重要な柱であり、発熱(高体温)は神経学的予後を悪化させる因子である。昏睡状態が続く患者では体温管理療法(targeted temperature management:TTM)を行い、少なくとも発熱を積極的に防ぐ(おおむね37.5℃以下に保つ)ことが推奨されている。
- ×c. 瞳孔径
まず確認すべき項目ではない。瞳孔所見はD(中枢神経)の評価の一部として、意識評価に続いて確認しておくべき重要な所見ではあるが、生命維持に直結する循環の評価より優先されるものではない。また、蘇生直後の瞳孔所見は、使用したアドレナリンや心停止中の脳虚血の影響を受けるため予後判定には使えない。神経学的予後の評価は、鎮静薬の影響や体温管理が終わった後、ROSCからおおむね72時間以降に、瞳孔の対光反射・角膜反射、体性感覚誘発電位(SSEP)、脳波、血清ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、頭部CT・MRIなどを組み合わせて行う。
- ×d. 睫毛反射
まず確認すべき項目ではない。睫毛反射(まつ毛に触れると瞬目が起こる反射)は意識障害の深さや脳幹機能をみる所見の一つであるが、ROSC直後に優先して確認すべきものではない。蘇生後の神経学的評価で重視される脳幹反射はむしろ対光反射と角膜反射であり、それも時間をおいて評価するのが原則である。
- ×e. Babinski徴候
まず確認すべき項目ではない。Babinski徴候は足底を擦ったときに母趾が背屈する病的反射で、錐体路(上位運動ニューロン)障害を示す。局所的な神経障害の評価には有用だが、蘇生後の全般的な脳障害の重症度や予後の判定指標としては用いられず、ROSC直後に確認する意義は乏しい。
心停止後症候群(post-cardiac arrest syndrome:PCAS)
ROSC後の患者には、①心停止後の脳障害(低酸素性虚血性脳症)、②心停止後の心筋障害、③全身の虚血再灌流障害(全身性炎症反応)、④心停止の原因となった病態の持続、という4つの問題が同時に存在する。蘇生後治療はこれらへの対応を並行して進めることである。
ROSC直後に行う主な対応
・呼吸:気管挿管などで気道を確保し、SpO2は94〜98%程度(おおむね92〜98%の範囲)を目標に、高酸素血症も低酸素血症も避ける。PaCO2は正常範囲に保つ(過換気は脳血管を収縮させ脳血流を低下させる)。 ・循環:収縮期血圧90mmHg以上、平均動脈圧65mmHg以上を目安に低血圧を避ける。12誘導心電図、心エコーで心機能と原因(心筋梗塞、心タンポナーデなど)を評価する。 ・原因検索と治療:急性冠症候群、肺塞栓症、緊張性気胸、電解質異常(高カリウム血症など)、低体温、中毒などを検索し、可逆的な原因を治療する。 ・合併症の確認:胸骨圧迫による肋骨骨折、気胸、腹部臓器損傷などの有無を確認する。 ・体温管理:昏睡が続く患者ではTTMを行い、発熱を防ぐ。 ・血糖管理:高血糖・低血糖を避ける。 ・痙攣への対応:痙攣発作があれば抗てんかん薬で治療する。
神経学的予後評価
単一の所見で判断せず、ROSC後72時間以降に複数の指標を組み合わせて評価する(multimodal prognostication)。予後不良を強く示唆する所見として、両側の対光反射・角膜反射の消失、SSEPでの両側N20波の消失、血清NSEの高値、頭部CTでの広範な脳浮腫(灰白質と白質の境界不明瞭化)、MRIでの広範な拡散制限、脳波での平坦化や持続するてんかん重積などがある。
POINT
・ROSC直後は再心停止の危険が高く、ABCDEの順で評価する。自発呼吸(B)・意識(D)に加え、まず循環(C)の指標である血圧を確認する。 ・蘇生後は収縮期血圧90mmHg以上・平均動脈圧65mmHg以上を目安に低血圧を避け、12誘導心電図で急性冠症候群の有無を評価する。 ・体温管理(発熱の予防)は重要だが、ABCDの評価の後に行う。 ・神経学的予後は鎮静や体温管理の影響を除いたROSC後72時間以降に、対光反射・角膜反射、SSEP、NSE、画像、脳波などを組み合わせて評価する。Babinski徴候や睫毛反射は予後判定の指標ではない。
