聴診器とペンライトで死を確かめる―「死の三徴候」が心電図を必要としない理由
第104回医師国家試験 B問題 第10問
国試問題にチャレンジ
心臓死の確認に必要なのはどれか。3つ選べ。
- a.呼吸の停止
- b.瞳孔の散大
- c.心拍動の停止
- d.腱反射の消失
- e.心電図の平低化
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
日本で一般に行われる死亡判定は、心拍動の停止、呼吸の停止、瞳孔の散大(対光反射の消失)という「死の三徴候」がそろい、不可逆的であることを確かめて行います。これは心臓・肺・脳(脳幹)の機能停止を、聴診器やペンライトだけで体外から確認できる徴候で代表させたもので、在宅や救急の現場でも判定できるよう、心電図などの機器所見は必須とされていません。腱反射は脊髄反射であり脳幹機能を反映しないため死の判定には用いず、脳死でも残りうる点も押さえておきましょう。一方、法的脳死判定では平坦脳波という検査所見が必須で、三徴候死との違いとして比較して覚えると理解が深まります。死亡の判定は医師にしかできない行為であり、看取りに立ち会う臨床実習や研修の場で確実に実践できるようにしておくことが大切です。
解答・解説
正解はa, b, cです
本問は、臨床現場で医師が死亡を判定するときに何を確認するか、すなわち「心臓死(三徴候死)」の判定基準を問う問題である。 日本で一般に行われている死亡の判定は、次の3つの徴候がそろったことを確かめて行う。 1. 心拍動の停止(聴診で心音が聞こえない、頸動脈などで脈を触れない) 2. 呼吸の停止(自発呼吸がみられない、呼吸音が聞こえない) 3. 瞳孔の散大(瞳孔が開き、対光反射が消失している) これを「死の三徴候」と呼び、これらが不可逆的に失われたと判断した時点で医師が死亡を宣告する。心臓・肺・脳(脳幹)という生命維持に欠かせない3つの臓器の機能停止を、それぞれ体外から確認できる徴候で代表させていると理解するとよい。 判定に使うのは、聴診器やペンライトなど特別な検査機器がなくても確認できる所見である点が重要である。在宅看取りや救急の現場など、心電図モニターがない状況でも医師は死亡を判定しなければならないため、機器による検査結果は必須条件とはされていない。また、脊髄レベルの反射(腱反射)は脳幹機能とは別の系統であり、三徴候には含まれない。
選択肢考察
- ○a. 呼吸の停止
自発呼吸の停止は死の三徴候の一つであり、心臓死の確認に必要である。胸郭の動きがないこと、聴診で呼吸音が聞こえないことなどで確かめる。呼吸は延髄の呼吸中枢によって維持されているため、自発呼吸の消失は脳幹機能の喪失を反映する所見でもある。
- ○b. 瞳孔の散大
瞳孔の散大(および対光反射の消失)は死の三徴候の一つであり、心臓死の確認に必要である。ペンライトで光を当てても瞳孔が縮まないことを確認する。対光反射は中脳を中枢とする脳幹反射であるため、その消失は脳幹機能の停止を示す。瞳孔散大の代わりに対光反射の消失として表現されることもある。
- ○c. 心拍動の停止
心拍動の停止(心停止)は死の三徴候の中心となる所見であり、心臓死の確認に必要である。聴診で心音が聞こえないこと、頸動脈や大腿動脈などの太い動脈で拍動を触れないことで確認する。
- ×d. 腱反射の消失
腱反射(膝蓋腱反射やアキレス腱反射など)は脊髄を反射弓とする脊髄反射であり、心臓死の判定項目には含まれない。脳幹機能を反映する所見でもないため、死の判定には用いない。なお、脳死判定においても脊髄反射は残存しうることが知られており、脊髄反射の有無は脳死の判定を左右しない。
- ×e. 心電図の平低化
病院内では心電図モニターで心静止(平坦な波形)を確認することが多く、補助的には有用である。しかし、心電図は死の判定の必須条件ではない。仮に必須とすると、心電図がない在宅や救急現場では医師が死亡を確認できなくなってしまう。心拍動の停止は聴診や脈拍の触診で確認できるため、心電図の平坦化は「必要な項目」には当たらない。
死の三徴候
・心拍動の停止(心停止) ・呼吸の停止(自発呼吸の消失) ・瞳孔の散大(対光反射の消失) これらを確認して行う死亡判定を三徴候死(心臓死)という。死亡の判定は医師(歯科医師を含む法令上の資格者)のみが行える行為であり、死亡診断書・死体検案書の作成につながる。
死の確徴(死体現象)
時間経過とともに現れる死後変化で、死亡の確実な証拠となる。 ・早期死体現象: 死斑、死後硬直、体温低下(死冷)、角膜混濁、乾燥など ・晩期死体現象: 腐敗、自家融解、ミイラ化、屍蝋化など 死斑は死後おおむね30分〜数時間で出現し始め、死後硬直は死後2〜3時間ころから顎関節など上方から始まる。
脳死との違い
脳死は、人工呼吸器などで心拍が維持されていても脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止した状態である。わが国の法的脳死判定(臓器移植法に基づく)では、深昏睡、瞳孔の固定・散大(両側4mm以上)、脳幹反射の消失、平坦脳波、自発呼吸の消失(無呼吸テスト)を確認し、6時間以上(6歳未満は24時間以上)あけて2回判定する。脳死判定では脳波という検査機器の所見が必須である点が、三徴候死と異なる。一方、脳死でも脊髄反射は残りうる。
POINT
・心臓死(三徴候死)の判定: 心拍動の停止、呼吸の停止、瞳孔の散大(対光反射消失)の3つ ・判定は聴診・触診・ペンライトなど機器に頼らない所見で行う。心電図は補助であり必須ではない ・腱反射は脊髄反射であり死の判定に関係しない(脳死でも残りうる) ・死亡の判定は医師の独占業務である
