StudyMed医師国家試験

鳥のウイルスはなぜ怖いのか―高病原性鳥インフルエンザの正体と治療

第104回医師国家試験 B問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第104回 B問題 第1問

高病原性鳥インフルエンザについて正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.インフルエンザ菌が原因である。
  2. b.20世紀にパンデミックを起こした。
  3. c.入院患者での致死率は5%以下である。
  4. d.病鳥との密接な接触でヒトに感染する。
  5. e.治療にノイラミニダーゼ阻害薬を用いる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高病原性鳥インフルエンザの基本的な特徴を問う知識問題だ。押さえるべき観点は、病原体、流行の歴史、重症度、感染経路と治療の4つ。まずは言葉の意味から確認しよう。「高病原性」とは、誰にとって病原性が高いという意味だと思う?
医学生医学生
ヒトがかかると重症になるから「高病原性」なのだと思っていました。
ドクタードクター
多くの人がそう誤解しているんだ。実はこれは鳥、特にニワトリなどの家禽に対する病原性で定義された言葉で、家禽に全身感染を起こして高率に死なせる株を指す。主にH5亜型とH7亜型で、ヒトへの感染で特に問題になってきたのがH5N1だ。
医学生医学生
名前に「インフルエンザ」とつくので、インフルエンザ菌が原因という選択肢には一瞬つられそうになります。
ドクタードクター
そこは典型的なひっかけだね。原因はA型インフルエンザウイルスで、インフルエンザ菌はグラム陰性桿菌のHaemophilus influenzae、まったく別物だ。昔インフルエンザ患者から分離されたので病原体と誤認され、その名前が残ったんだ。
医学生医学生
微生物学の講義で習いました。インフルエンザ菌は小児の髄膜炎や喉頭蓋炎の原因で、Hibワクチンがあるんですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。では歴史だ。20世紀にパンデミックを起こしたという記述はどうかな。
医学生医学生
スペインかぜなど20世紀には大流行がありましたし、鳥由来のウイルスと聞いたことがあるので、正しそうに思えます。
ドクタードクター
迷うところだね。20世紀のパンデミックはスペインかぜのH1N1、アジアかぜのH2N2、香港かぜのH3N2。鳥由来の遺伝子を含むと考えられてはいるけれど、高病原性鳥インフルエンザそのものの流行ではない。H5N1は散発的なヒト感染を起こしてきたものの、ヒトの間でのパンデミックには至っていないんだ。2009年のパンデミックもブタ由来のH1N1だった。
医学生医学生
なるほど、だからこそ「次のパンデミックの候補」として警戒されているわけですね。致死率はどれくらいなんでしょう。
ドクタードクター
H5N1のヒト感染は重症肺炎からARDSや多臓器不全に進みやすく、WHOに報告された確定例の致死率はおよそ50%前後と極めて高い。入院患者に限ればさらに高くなる。季節性インフルエンザとは桁違いで、5%以下というのは大きく外れている。
医学生医学生
そんなに高いのに広がらないのは、ヒトにうつりにくいからですか。
ドクタードクター
その通り。ヒトへの感染は、感染した家禽や野鳥、その排泄物や体液、羽毛などへの濃厚な接触で起こる。自宅で家禽を飼って解体したり、生鳥市場に出入りしたりすることが危険因子だ。だから病鳥との密接な接触で感染するという記述は正しい。持続的なヒトからヒトへの感染は確認されていない。
医学生医学生
受容体の違いが関係していると聞いたことがあります。
ドクタードクター
そう。鳥のウイルスはα2,3結合シアル酸という鳥型受容体に結合しやすく、ヒトではこれが上気道に少なく下気道の深部に多い。だから感染しにくく、咳やくしゃみで広がりにくいと説明される。逆に言えば、深部の肺に入ると重症肺炎になりやすい。もしウイルスが変異してヒトの間で効率よく広がる力を得れば、新型インフルエンザとしてパンデミックを起こしうる。それが最大の懸念なんだ。
医学生医学生
治療は季節性と同じく、オセルタミビルなどのノイラミニダーゼ阻害薬でいいのでしょうか。
ドクタードクター
正しい。H5N1はノイラミニダーゼ阻害薬に感受性を示すことが多く、治療の中心になる。ノイラミニダーゼは増えたウイルスが感染細胞から離れて広がるのに必要な酵素で、それを止めるわけだ。重症化しやすいので、発症からの時間にかかわらず疑った時点でできるだけ早く投与し、呼吸不全への集中治療と隔離をあわせて行う。アマンタジンは耐性株が多いので頼れない。
医学生医学生
正解は病鳥との接触による感染と、ノイラミニダーゼ阻害薬による治療の2つですね。法律上の扱いはどうなっていますか。
ドクタードクター
感染症法では、鳥インフルエンザのH5N1とH7N9は2類感染症、それ以外の亜型は4類感染症で、いずれも診断したら直ちに届け出る。臨床では、発熱と肺炎の患者で流行地域への渡航歴や鳥との接触歴を問診で拾えるかが勝負だ。最近はH5N1の特定の系統が世界の野鳥や家禽で広がり、北米の乳牛など哺乳類への感染も報告されているから、監視が続いている。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、問診で接触歴を聞くことが感染症診療の第一歩だと言われたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれだね。病原体の性質、感染経路、治療、そして法的な対応をセットで理解しておけば、新興感染症の問題にも強くなれるよ。

まとめ

高病原性鳥インフルエンザは、家禽に対する病原性の高いA型インフルエンザウイルスによる感染症で、ヒトで主に問題となってきたのはH5N1亜型であり、名前の似たインフルエンザ菌とは無関係です。ヒトへの感染は病鳥やその排泄物・体液との濃厚な接触で起こり、持続的なヒト-ヒト感染は確認されていませんが、感染すると重症肺炎やARDSに進みやすく、確定例の致死率は約50%前後と極めて高いのが特徴です。治療はオセルタミビルなどのノイラミニダーゼ阻害薬の早期投与と全身管理、隔離が中心で、感染症法ではH5N1・H7N9が2類感染症に位置づけられています。20世紀のパンデミックはH1N1・H2N2・H3N2によるもので、H5N1はまだパンデミックを起こしていませんが、変異によってヒト間で広がる能力を得ることが最大の懸念です。病原体・感染経路・重症度・治療・法的対応をセットで押さえることは、新興感染症に備える臨床医の基本となります。

解答・解説

正解はd, eです

テーマ

高病原性鳥インフルエンザ(highly pathogenic avian influenza:HPAI)は、本来は鳥類の間で流行するA型インフルエンザウイルスのうち、ニワトリなどの家禽に感染すると全身感染を起こして高率に死亡させる株による感染症である。病原性の「高・低」は鳥(家禽)に対する病原性で定義されており、ヒトでの重症度を直接示す言葉ではない。高病原性を示すのは主にH5亜型とH7亜型で、ヒトへの感染例が特に問題となってきたのはH5N1亜型である。

正解を導く考え方

本問は次の4つの観点を押さえていれば解ける。 1. 病原体:細菌ではなくウイルス(A型インフルエンザウイルス)である。 2. 流行の歴史:H5N1によるヒトのパンデミック(世界的大流行)はこれまで起きていない。20世紀のパンデミック(スペインかぜ・アジアかぜ・香港かぜ)は別の亜型によるものである。 3. 重症度:ヒトで確定診断された症例の致死率は約半数と非常に高い。 4. 感染経路と治療:感染した鳥や、その排泄物・体液などとの濃厚な接触でヒトに感染し、ヒトからヒトへの持続的な感染はみられていない。治療は通常の季節性インフルエンザと同様に抗インフルエンザウイルス薬(ノイラミニダーゼ阻害薬)が中心となる。 これらから、感染経路を述べたdと治療を述べたeが正しい。

選択肢考察

  1. ×a.  インフルエンザ菌が原因である。

    誤り。原因はA型インフルエンザウイルス(オルトミクソウイルス科)である。インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)はグラム陰性桿菌で、名称が似ているが全く別の病原体である。かつてインフルエンザの患者から分離されたため病原体と誤認され、この名が付いた経緯がある。インフルエンザ菌は小児の髄膜炎・喉頭蓋炎、中耳炎、副鼻腔炎、慢性呼吸器疾患の増悪などの原因となり、b型(Hib)にはワクチンがある。

  2. ×b.  20世紀にパンデミックを起こした。

    誤り。H5N1をはじめとする高病原性鳥インフルエンザウイルスは、散発的なヒト感染を起こしてきたものの、ヒトの間でのパンデミックには至っていない。20世紀のパンデミックは、スペインかぜ(1918年、H1N1)、アジアかぜ(1957年、H2N2)、香港かぜ(1968年、H3N2)であり、いずれも鳥由来の遺伝子を含むと考えられているが、「高病原性鳥インフルエンザ」そのものの流行ではない。なお、21世紀に入ってからの2009年のパンデミックはブタ由来のH1N1(A(H1N1)pdm09)によるものである。

  3. ×c.  入院患者での致死率は5%以下である。

    誤り。H5N1によるヒト感染では、重症肺炎から急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や多臓器不全に進行しやすく、世界保健機関(WHO)に報告された確定例の致死率はおよそ50%前後(報告時期によっては60%程度)と極めて高い。入院を要する患者に限ればさらに高くなる。季節性インフルエンザの致死率(0.1%程度未満)とは桁違いであり、5%以下という記述は大きく外れている。

  4. ○d.  病鳥との密接な接触でヒトに感染する。

    正しい。ヒトへの感染は、感染した家禽(ニワトリ・アヒルなど)や野鳥、その排泄物・体液・羽毛などに濃厚に接触することで起こる。具体的には、自宅での家禽の飼育・処理(解体や羽むしり)、生鳥市場への出入りなどが危険因子である。一方で、ヒトからヒトへの感染は、患者を看病した家族などでごく限られた例が疑われているのみで、持続的なヒト-ヒト感染は確認されていない。鳥インフルエンザウイルスは鳥型受容体(α2,3結合シアル酸)に結合しやすく、この受容体はヒトでは下気道の深部に多く上気道には少ないため、ヒトには感染しにくく、ヒト間でも広がりにくいと説明される。ウイルスが変異してヒトの間で効率よく広がる能力を獲得すれば、新型インフルエンザとしてパンデミックを起こす可能性があり、それが最大の懸念である。

  5. ○e.  治療にノイラミニダーゼ阻害薬を用いる。

    正しい。H5N1ウイルスはノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル、ザナミビルなど)に感受性を示すことが多く、治療の中心となる。ノイラミニダーゼは、増殖したウイルスが感染細胞から離れて広がる際に必要な酵素であり、これを阻害することでウイルスの拡散を抑える。重症化しやすいため、発症からの時間にかかわらず、疑った時点で可能な限り早期に投与を開始することが推奨される。あわせて、呼吸不全などに対する集中治療による全身管理と、感染拡大防止のための隔離を行う。なお、アマンタジン(M2蛋白阻害薬)には耐性の株が多い。

インフルエンザウイルスの基礎

インフルエンザウイルスはA・B・C(およびD)型に分けられ、パンデミックを起こすのはA型である。A型はウイルス表面の2種類の糖蛋白、ヘマグルチニン(HA:H1〜H16など)とノイラミニダーゼ(NA:N1〜N9など)の組み合わせで亜型に分類される。水鳥(カモなど)がほぼすべての亜型を保有する自然宿主である。

抗原連続変異と抗原不連続変異

・抗原連続変異(antigenic drift):HAやNAの遺伝子に少しずつ点変異が蓄積する現象。毎年の季節性流行の原因となる。 ・抗原不連続変異(antigenic shift):ヒトが免疫をもたない亜型のウイルスがヒトの世界に入り込む現象。ブタなどの体内でヒト型と鳥型のウイルスが同時に感染して遺伝子分節が入れ替わる(遺伝子再集合)場合や、鳥のウイルスが直接ヒトに適応する場合がある。パンデミックの原因となる。

ヒトの鳥インフルエンザ(H5N1)の臨床像

・潜伏期間は通常2〜5日程度で、季節性インフルエンザよりやや長く、最長で1週間を超える例もある。 ・高熱、咳などで始まり、急速に重症肺炎、ARDS、多臓器不全へ進行しやすい。下痢などの消化器症状を伴うこともある。 ・診断は、流行地域への渡航歴や鳥との接触歴を問診で確認したうえで、咽頭・下気道検体のPCR検査などで行う。

わが国での扱い

感染症法では、鳥インフルエンザ(H5N1)と鳥インフルエンザ(H7N9)は2類感染症に、それ以外の亜型の鳥インフルエンザは4類感染症に分類され、いずれも診断した医師は直ちに届け出る。2類感染症では患者の入院勧告の対象となる。

最近の動向

2020年代に入ってH5N1の特定の系統が世界中の野鳥・家禽で広がり、哺乳類(海獣類、北米の乳牛など)への感染も報告されている。乳牛と接触した作業者などで結膜炎や軽症例を中心としたヒト感染も報告されており、監視が続けられている。

POINT

・高病原性鳥インフルエンザの原因はA型インフルエンザウイルス(ヒトで問題となったのは主にH5N1)で、インフルエンザ菌とは無関係。 ・感染経路は病鳥やその排泄物・体液との濃厚接触。持続的なヒト-ヒト感染は確認されていない。 ・ヒトでの致死率はWHOの確定例で約50%前後と極めて高い。 ・H5N1によるパンデミックはまだ起きていない。20世紀のパンデミックはH1N1(1918)、H2N2(1957)、H3N2(1968)。 ・治療はノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビルなど)の早期投与と全身管理、隔離。 ・感染症法ではH5N1・H7N9は2類、その他の鳥インフルエンザは4類。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。