StudyMed医師国家試験

夜だけ現れる「別人」―ICUせん妄は環境を変えて治す

第104回医師国家試験 A問題 第59問

国試問題にチャレンジ

第104回 A問題 第59問

73歳の男性。肺炎でICUに入院した。身体的な経過は良好であったが,入院5日目から,夜になると点滴を外して暴れようとする。看護師がベッドに戻そうとすると,「ここはどこか」,「なぜ妻はいないのか」と興奮することもあった。日中は入院治療を受けていることをよく理解しており,夜間のことを覚えていない。  精神症状への対応として適切なのはどれか。

  1. a.一般病棟に移す。
  2. b.家族の面会を制限する。
  3. c.夜間,部屋を明るくする。
  4. d.夜間,予防的に身体を拘束する。
  5. e.昼寝をしてもらい睡眠時間を保つ。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、入院中の高齢者に夜間だけ起こる精神症状をどう捉え、どう対応するかという問題だ。注目してほしいのは、症状が出る「時間帯」と「場所」、そして身体の経過が順調だという点。まずは、この精神症状が何なのかから考えてみよう。
医学生医学生
夜に混乱して、昼は普通で、夜のことは覚えていない……認知症が入院で表に出てきたのでしょうか。
ドクタードクター
高齢者だとそう考えたくなるよね。でも認知症なら、日中にも記憶や見当識の障害が続いていて、数か月から年単位でゆっくり進むはずだ。今回は入院後数日で急に始まり、日中は治療中だと理解できている。この「急性発症」と「日内変動」がポイントなんだ。
医学生医学生
精神科の講義で習った、意識障害が背景にあるせん妄ですね。夕方から夜に悪化しやすいと覚えました。
ドクタードクター
その通り。せん妄は軽い意識混濁を土台に、注意障害や見当識障害、興奮、幻視などが起こり、後でそのエピソードを覚えていないことが多い。点滴を外して暴れるのは過活動型の典型だ。せん妄の成り立ちを考えるとき、3つの因子に分けると整理しやすい。
医学生医学生
準備因子、直接因子、促進因子ですね。この方だと高齢が準備因子、肺炎が直接因子でしょうか。
ドクタードクター
いいね。ただ、肺炎は良くなってきているのに症状が続いている。ということは、今いちばん効いているのは促進因子、つまりICUという環境そのものだと考えられる。夜も明るい照明、鳴り続けるアラーム、頻回の処置で途切れる睡眠、窓がなく時間がわからない、家族にもなかなか会えない。
医学生医学生
臨床実習でICUを見学したとき、昼か夜か本当にわからなくなる場所だと感じました。いわゆるICU症候群ですね。
ドクタードクター
まさにそれ。だから対応の第一歩は、その環境から離すことだ。身体状態が安定していて集中治療の必要性が乏しいなら、一般病棟に移すのが最も理にかなっている。昼夜のリズムが戻り、家族も面会しやすくなり、刺激も減る。これが正解だ。
医学生医学生
逆に家族の面会を制限するのは、興奮させないための配慮に見えなくもないですが……。
ドクタードクター
そこは逆なんだ。この方は「なぜ妻はいないのか」と不安を口にしている。見慣れた家族の存在は安心感を与えるし、自分がどこにいるかを思い出す手がかりにもなる。せん妄では面会はむしろ積極的に勧めるべきで、制限すると孤立感と不安で悪化させてしまう。
医学生医学生
夜に部屋を明るくすれば、混乱しても状況がわかりやすくなる気がします。
ドクタードクター
気持ちはわかるけれど、夜に明るくするとメラトニン分泌が抑えられて眠れなくなり、睡眠覚醒リズムがさらに乱れる。基本は昼は明るく、夜は暗く静かに。ただ真っ暗だと錯覚や不安を招くので、足元灯くらいの最小限の明かりにするのがよい。
医学生医学生
昼寝で睡眠時間を補う、というのも同じ理由でだめですね。
ドクタードクター
そう。昼に寝れば夜はますます眠れず、昼夜逆転が進む。日中は会話やリハビリ、離床で起きていてもらい、夜にまとまって眠れるようにする。そして最も注意してほしいのが、夜間の予防的な身体拘束だ。
医学生医学生
点滴を抜かれると危ないので、病棟で拘束されている患者さんを見たことがあります。
ドクタードクター
現場では難しい判断を迫られる場面もある。でも拘束自体がせん妄の促進因子で、不安や興奮を強めるうえ、廃用、褥瘡、誤嚥、深部静脈血栓症、窒息などの重大な合併症を招く。拘束は切迫性・非代替性・一時性をすべて満たすときに限った最後の手段で、まだ起きていない危険に備えて予防的に行うものではないんだ。
医学生医学生
せん妄は症状を抑え込むより、原因と環境を整えるのが本筋なんですね。薬はどう使いますか。
ドクタードクター
まず原因となる身体疾患や薬剤への対処、次に環境調整。時計やカレンダーを置く、眼鏡や補聴器を使ってもらう、痛みや排泄を整える、不要なラインを早く抜く、といった工夫も大切だ。それでも興奮が強く危険なときに、少量の抗精神病薬を短期間使う。ベンゾジアゼピン系はせん妄を悪化させやすいので原則避けるけれど、アルコール離脱せん妄は例外で第一選択になる。
医学生医学生
低活動型はうつ病と間違われやすいとも習いました。静かな患者さんほど見逃しに注意ですね。
ドクタードクター
その意識はとても大事だ。ICUではCAM-ICUなどのツールで定期的に評価し、鎮痛を優先した浅い鎮静や早期離床、家族の参加を組み合わせて予防する取り組みが広がっている。せん妄は死亡率の上昇やその後の認知機能低下とも関連するから、「夜だけ少し混乱する」と軽く見ないことが大切なんだ。

まとめ

入院後に急に始まり、夜間に悪化して日中は改善し、見当識障害や興奮を示してその間の記憶がない場合は、軽い意識障害を基盤とするせん妄を考えます。せん妄は準備因子・直接因子・促進因子の重なりで起こり、身体状態が安定した後も続くICUせん妄では、照明や騒音、睡眠の分断、面会制限といったICU環境そのものが大きな促進因子です。そのため、集中治療の必要性が乏しければ一般病棟へ移すことが最も有効な対応となり、家族の面会を促す、昼は明るく覚醒させ夜は暗く静かにして昼寝を避ける、といった環境調整を組み合わせます。予防的な身体拘束はせん妄を悪化させ重大な合併症も招くため行わず、薬物療法は少量の抗精神病薬を短期間に限るのが原則です。原因除去と環境調整を軸にせん妄に対応する考え方は、高齢者医療やICU診療のあらゆる場面で求められる基本的な臨床力です。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・73歳の高齢男性。肺炎でICU(集中治療室)に入院中である。 ・身体的な経過は良好で、肺炎の悪化や新たな身体合併症を示す所見はない。 ・入院5日目から、夜間に点滴を自己抜去し、暴れようとする(精神運動興奮)。 ・「ここはどこか」「なぜ妻はいないのか」と、場所や状況についての見当識障害がある。 ・日中は入院治療中であることを理解しており、意識は清明に近い。 ・夜間の出来事を覚えていない(健忘)。

診断へのプロセス

急に始まり、夜間に悪化して日中は改善するという症状の日内変動、見当識障害、興奮、エピソードの健忘は、軽度の意識障害を基盤とする「せん妄」の特徴である。認知症であれば日中にも認知機能障害が持続し、数か月〜年単位でゆっくり進行するはずであり、本例のように数日で出現して日中は正常に近いという経過とは異なる。 せん妄は、①準備因子(高齢、認知症、脳血管障害の既往など)、②直接因子(感染症、低酸素、電解質異常、薬剤など脳機能を直接乱すもの)、③促進因子(環境変化、睡眠障害、身体拘束、感覚遮断、疼痛、不安など)が重なって起こる。本例では高齢と肺炎が背景にあり、身体経過が良好になった後も症状が続いていることから、ICUという特殊な環境(昼夜の区別がつきにくい照明、モニターのアラーム音、処置による頻回の覚醒、家族との面会制限、多数のカテーテル類)が大きく関与していると考えられる。いわゆるICUせん妄(ICU症候群)である。

設問の考え方

せん妄の対応の基本は、①原因となる身体疾患・薬剤への対処、②促進因子を減らす環境調整、③必要に応じた薬物療法である。本例は身体状態が落ち着いているため、ICUに留まる医学的必要性は低く、ICUという環境そのものを取り除くことが最も効果的な対応となる。環境調整の目標は、昼夜のリズムを整え、見慣れた人や物で安心感と見当識を保たせ、不要な拘束や刺激を減らすことである。

選択肢考察

  1. ○a.  一般病棟に移す。

    肺炎は順調に改善しており、集中治療を続ける必要性は乏しい。せん妄の主な促進因子はICUの環境(夜間も続く照明と騒音、処置による睡眠の分断、面会制限、窓がなく時間がわかりにくいことなど)である。一般病棟へ移れば、昼夜のリズムが保たれ、家族の面会もしやすくなり、刺激も減るため、せん妄の改善が期待できる。促進因子の除去という点で最も適切な対応である。

  2. ×b.  家族の面会を制限する。

    本例は「なぜ妻はいないのか」と家族の不在に不安を訴えている。見慣れた家族の存在は安心感を与え、見当識を保つ手がかりにもなるため、せん妄の予防・改善に役立つ。家族の面会はむしろ積極的に勧めるべきであり、制限すると孤立感や不安を強め、せん妄を悪化させる。

  3. ×c.  夜間,部屋を明るくする。

    夜間に照明を明るくすると、メラトニン分泌が抑えられて睡眠が妨げられ、睡眠覚醒リズムがさらに乱れる。せん妄対策では、日中はカーテンを開けて十分に明るくし、夜間は照明を落として静かな環境で眠れるようにすることで、昼夜のメリハリをつける。ただし完全な暗闇は錯覚や不安を招きうるため、足元灯程度の最小限の明かりにとどめる。

  4. ×d.  夜間,予防的に身体を拘束する。

    身体拘束は、患者の不安・興奮を強めてせん妄を悪化させるうえ、廃用症候群、褥瘡、誤嚥、深部静脈血栓症・肺塞栓症、拘束具による窒息などの重大な合併症を招く。拘束は、生命や身体への危険が差し迫っており(切迫性)、ほかに代わる方法がなく(非代替性)、一時的である(一時性)という条件をすべて満たす場合に限って、最小限の範囲・時間で行う最後の手段である。まだ起きていない危険に備えて「予防的に」拘束することは許されず、禁忌の選択肢である。

  5. ×e.  昼寝をしてもらい睡眠時間を保つ。

    日中に眠らせると夜間の睡眠がさらに浅く短くなり、昼夜逆転を助長して夜間の症状を悪化させる。せん妄では、日中は会話、リハビリテーション、離床などで覚醒を保ち、夜にまとまった睡眠がとれるように睡眠覚醒リズムを整えることが重要である。

せん妄の概要

・定義:身体疾患や薬剤などにより急性に生じる、注意障害と意識障害(軽度の意識混濁)を中核とする脳機能障害である。数時間〜数日の単位で出現し、1日の中でも症状が変動する(夕方〜夜間に悪化しやすい)。 ・症状:注意の集中・維持困難、見当識障害、記憶障害、幻視などの知覚障害、睡眠覚醒リズムの障害、興奮または活動性低下。 ・病型:過活動型(興奮・不穏)、低活動型(ぼんやり・無気力。うつ病と誤認されやすく見逃されやすい)、混合型がある。 ・経過:原因が除去されれば多くは可逆的であるが、せん妄の発生は死亡率上昇、入院期間の延長、その後の認知機能低下と関連する。

せん妄の3因子

・準備因子:高齢、認知症、脳器質疾患、せん妄の既往、アルコール多飲 ・直接因子:感染症、低酸素血症、脱水・電解質異常、低血糖、肝・腎不全、手術、薬剤(ベンゾジアゼピン系薬、抗コリン薬、オピオイド、ステロイド、H2受容体拮抗薬など)、アルコール離脱 ・促進因子:環境変化(入院、ICU)、睡眠障害、身体拘束、感覚遮断(眼鏡・補聴器がない)、疼痛、便秘・尿閉、不安

対応

1.原因の検索と治療:身体疾患の治療、原因となる薬剤の中止・減量。 2.非薬物療法(環境調整) ・日中は明るく活動的に過ごさせ、夜間は暗く静かにして睡眠を確保する。 ・時計・カレンダーを見える位置に置き、繰り返し日時や場所を伝える(見当識の支援)。 ・家族の面会を促し、なじみの物を持ち込む。 ・眼鏡・補聴器を使用させる。 ・早期離床・リハビリテーション、疼痛・排泄のコントロール。 ・不要なライン・カテーテルを早めに抜去し、身体拘束は最小限にする。 3.薬物療法:非薬物療法で不十分で、興奮が強く危険な場合に、少量の抗精神病薬(ハロペリドール、リスペリドン、クエチアピンなど)を短期間用いる。クエチアピンは糖尿病患者には禁忌である。ベンゾジアゼピン系薬は通常せん妄を悪化させるため単独では用いない(アルコール離脱せん妄は例外で、第一選択となる)。

ICUせん妄

・ICU入室患者の多くにみられ、人工呼吸管理例ではさらに高率である。評価にはCAM-ICU(Confusion Assessment Method for the ICU)やICDSC(Intensive Care Delirium Screening Checklist)が用いられる。 ・予防・管理には、鎮痛の優先、浅い鎮静、早期離床、家族の参加などを組み合わせた多面的な取り組み(ABCDEFバンドル)が推奨されている。

POINT

・急性発症、夜間に悪化し日中は改善、見当識障害、興奮、健忘 → せん妄(夜間せん妄)。 ・高齢・身体疾患を背景に、ICUという特殊環境が促進因子となって生じる(ICUせん妄)。 ・対応の基本は原因除去と環境調整:身体状態が安定していればICUから一般病棟へ移す。 ・家族の面会は促す。昼は明るく覚醒、夜は暗く静かに睡眠し、昼寝は避けて睡眠覚醒リズムを整える。 ・予防的な身体拘束は行わない(拘束は切迫性・非代替性・一時性をすべて満たすときの最後の手段)。 ・薬物療法は少量の抗精神病薬。ベンゾジアゼピン系薬は原則避ける(アルコール離脱せん妄は例外)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。