「病気がない」だけでは足りない―WHO憲章が描いた健康の3つの柱
第104回医師国家試験 B問題 第3問
国試問題にチャレンジ
WHO〈世界保健機関〉憲章前文に述べられている「健康」を定義する文章を示す。 “Health is a state of complete( ),( )and( )well-being and not merely the absence of disease or infirmity.” ( )内に入る言葉はどれか。3つ選べ。
- a.physical
- b.ecological
- c.mental
- d.social
- e.economical
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
WHO憲章(1946年採択、1948年発効)前文は、健康を「身体的(physical)・精神的(mental)・社会的(social)に完全に良好な状態であり、単に疾病または虚弱が存在しないことではない」と定義しています。この定義は、健康を心身と社会生活まで含めて包括的にとらえ、病気がないという消極的な状態ではなく良好な状態(well-being)という積極的な状態として示した点に意義があります。環境(ecological)や経済状況は健康の決定要因ではあるものの定義の語ではなく、1998年に提案されたspiritualやdynamicの追加も採択されておらず、定義は現在も改正されていません。アルマ・アタ宣言(1978年、プライマリヘルスケア)やオタワ憲章(1986年、ヘルスプロモーション)とあわせて理解すると、公衆衛生の理念の流れが見えてきます。健康を多面的にとらえる視点は、患者を生活全体の中で診る臨床の姿勢の基礎となります。
解答・解説
正解はa, c, dです
テーマ
世界保健機関(World Health Organization:WHO)憲章は1946年にニューヨークで開かれた国際保健会議で採択され、1948年4月7日に発効した(この日は「世界保健デー」とされている)。その前文の冒頭に置かれた健康の定義は、公衆衛生学の最も基本的な知識の一つである。
定義の全文
"Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity." 日本語では「健康とは、身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病または虚弱が存在しないことではない」と訳される。
正解を導く考え方
空欄に入るのは、健康を構成する3つの側面、すなわち身体的(physical)、精神的(mental)、社会的(social)である。この定義の要点は、①健康を身体面だけでなく心や社会生活の面まで含めて包括的にとらえたこと、②「病気や虚弱がない」という消極的な状態にとどまらず、「良好な状態(well-being)」という積極的な状態として定義したことにある。生態学的(ecological)や経済的(economical)という語は定義に含まれない。
選択肢考察
- ○a. physical
正しい。physicalは「身体的な」という意味で、WHO憲章の健康の定義の最初の要素である。疾病・障害がなく、身体機能が良好に保たれている状態を指す。
- ×b. ecological
誤り。ecologicalは「生態学的な」という意味である。人と環境との関わりは健康を左右する重要な要因(健康の決定要因)ではあるが、WHO憲章の健康の定義を構成する語には含まれていない。
- ○c. mental
正しい。mentalは「精神的な」という意味で、定義の2番目の要素である。精神疾患がないことだけでなく、心理的に安定し、ストレスに対処しながら自分の能力を発揮できる状態を含む。
- ○d. social
正しい。socialは「社会的な」という意味で、定義の3番目の要素である。家族・職場・地域などでの人間関係や役割を保ち、社会生活を円滑に営める状態を指す。健康を個人の身体だけでなく社会との関係の中でとらえた点が、この定義の画期的な特徴とされる。
- ×e. economical
誤り。economicalは「経済的な、節約になる」という意味である(「経済の」という意味では通常economicを用いる)。所得などの経済状況は健康の社会的決定要因として重視されるが、WHO憲章の健康の定義を構成する語ではない。
「spiritual」「dynamic」の追加提案について
1998年のWHO執行理事会で、定義を「complete physical, mental, spiritual and social well-being」と改め、「state」を「dynamic state」とする改正案が提案された。「spiritual(霊的)」は生きる意味や生きがいなど人間の尊厳や内面的な充足にかかわる側面、「dynamic(動的)」は健康と疾病が連続したものであり、状態が絶えず変化することを表すとされる。しかし、1999年の世界保健総会では審議が見送られて採択されておらず、WHO憲章の健康の定義は現在も1946年の文言(physical, mental and social)のままである。
健康に関するその他の重要な宣言・憲章
・アルマ・アタ宣言(1978年):プライマリヘルスケア(PHC)の理念を提唱し、「西暦2000年までにすべての人に健康を」を目標に掲げた。 ・オタワ憲章(1986年):ヘルスプロモーションを「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義した。
消極的健康と積極的健康
病気や虚弱がないことを消極的健康、より高い身体的・精神的・社会的な良好さや生活の質(QOL)を目指すことを積極的健康と呼ぶことがある。WHO憲章の定義は後者の考え方を含む点に意義がある。
POINT
・WHO憲章(1946年採択、1948年発効)前文の健康の定義:physical(身体的)、mental(精神的)、social(社会的)に完全に良好な状態(well-being)であり、単に疾病や虚弱がないことではない。 ・ecological、economical、spiritualは現行の定義には含まれない。 ・spiritualとdynamicを加える改正案は1998年に提案されたが、1999年の世界保健総会で採択されず、定義は改正されていない。 ・関連事項:アルマ・アタ宣言(1978年、PHC)、オタワ憲章(1986年、ヘルスプロモーション)。
