StudyMed医師国家試験

痛みのない血尿に潜む影―染料と多中心性で読み解く膀胱尿路上皮癌

第104回医師国家試験 A問題 第37問

国試問題にチャレンジ

第104回 A問題 第37問

67歳の男性。凝血塊を伴う肉眼的血尿を主訴に来院した。膀胱内視鏡写真を別に示す。  この疾患で正しいのはどれか。2つ選べ。

第104回 A問題 第37問の問題画像
  1. a.家族性発生が多い。
  2. b.夜間頻尿を合併する。
  3. c.扁平上皮から発生する。
  4. d.染料と因果関係がある。
  5. e.尿路で多中心性に発生する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢男性の肉眼的血尿と膀胱鏡所見から疾患を特定し、その疫学や病理の特徴を問う問題だ。症状の情報は少ないけれど、だからこそ痛みなどを伴わない血尿である点に意味がある。まず、凝血塊を伴う肉眼的血尿からどんな出血源を考えるかな。
医学生医学生
血尿というと、腎臓内科の講義で習った糸球体腎炎も思い浮かびます。
ドクタードクター
糸球体性の血尿は顕微鏡的血尿が多く、肉眼的でも凝血塊はつくりにくい。赤血球の変形や赤血球円柱を伴うのが特徴だね。凝血塊ができるほどの出血は、比較的短時間にまとまった量が出たことを示していて、膀胱をはじめとする尿路からの出血を考えやすいんだ。
医学生医学生
高齢男性の無症候性肉眼的血尿なら、まず膀胱癌を疑え、と臨床実習で泌尿器科の先生に言われました。
ドクタードクター
その通り。膀胱鏡では、膀胱内腔へ突出する乳頭状、イソギンチャクやカリフラワーのような腫瘍がみられる。高齢男性の無症候性肉眼的血尿とこの所見を合わせれば、膀胱癌、その大部分を占める尿路上皮癌と診断できる。では、組織型から確認しよう。膀胱癌はどの上皮から発生するかな。
医学生医学生
膀胱は移行上皮なので……扁平上皮から発生するというのは違いますよね。
ドクタードクター
正解。腎盂から尿管、膀胱、尿道の大部分までは尿路上皮、昔の呼び名で移行上皮に覆われていて、膀胱癌の90%以上は尿路上皮癌だ。扁平上皮癌は数%ほどで、長期のカテーテル留置や膀胱結石、ビルハルツ住血吸虫症などの慢性刺激で扁平上皮化生が起きた部分から生じる。
医学生医学生
病理実習で尿路上皮を見たとき、膀胱が伸びたり縮んだりすると細胞の層の厚さが変わると習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。その伸縮できる上皮が癌の母地になるんだ。次は病因。膀胱癌は化学発癌の代表例として知られている。何か思い当たるかな。
医学生医学生
衛生学の講義で、染料工場の職業癌として出てきた気がします。
ドクタードクター
そう。アニリン系染料や、その製造で扱うβ-ナフチルアミン、ベンジジンなどの芳香族アミンへの職業性曝露が原因になる。これらは体内で代謝されて尿中に出て、尿がたまる膀胱の上皮に長く作用するんだ。わが国でも職業病として扱われている。そして忘れてはいけないのが、同じく芳香族アミンを含むたばこで、喫煙は膀胱癌の最大の危険因子とされている。
医学生医学生
環境因子が大きいということは、家族性の発生が多いわけではないんですね。
ドクタードクター
その理解でいい。膀胱癌は遺伝性腫瘍としての性格は乏しく、家族性発生が多いとはいえない。補足すると、Lynch症候群では腎盂・尿管の尿路上皮癌のリスクが上がるけれど、膀胱癌全体からみればごく一部だ。
医学生医学生
夜間頻尿はどうですか。高齢男性なので、つい前立腺肥大症のイメージと混ざりそうです。
ドクタードクター
まさにそこが紛らわしい点だね。夜間頻尿は前立腺肥大症や過活動膀胱、心不全などによる夜間多尿でみられる症状で、乳頭状の膀胱癌に特徴的な症状ではない。ただし上皮内癌や大きく浸潤した腫瘍では、頻尿や排尿時痛などの膀胱刺激症状が出ることはある。だから本疾患の合併症状として夜間頻尿を挙げるのは適切ではないんだ。
医学生医学生
最後に多中心性の発生ですが、膀胱のあちこちに同時にできるという意味でしょうか。
ドクタードクター
膀胱内だけでなく、腎盂・尿管・膀胱・尿道という尿路全体で、同時性にも異時性にも多発しやすいということだ。説明として、尿中の発癌物質に尿路上皮全体がさらされて別々に癌が生じるfield cancerizationの考えと、剥がれた癌細胞が尿の流れに乗って別の場所に着床するseedingの考えがある。
医学生医学生
だから膀胱癌が見つかったら、上部尿路も調べなければいけないんですね。
ドクタードクター
その通り。CT urographyなどで腎盂・尿管も必ず評価する。治療は、筋層非浸潤性ならTURBTが診断と治療を兼ね、再発予防に抗癌剤やBCGの膀胱内注入を行う。筋層浸潤性なら膀胱全摘除術と尿路変向術が標準で、シスプラチンを含む術前化学療法が推奨される。
医学生医学生
再発しやすいので、治療後も定期的に膀胱鏡や尿細胞診で追いかけるわけですね。
ドクタードクター
そう、長期のフォローが欠かせない。もう一つ臨床の注意点として、上皮内癌は平坦で隆起をつくらず、膀胱鏡では発赤した粘膜にしか見えないことがある。一方で尿細胞診は陽性になりやすいから、見た目に腫瘍がなくても細胞診の結果を軽視しないことが大切だ。

まとめ

高齢男性の無症候性肉眼的血尿では膀胱癌をまず疑い、膀胱鏡で乳頭状腫瘍を認めれば尿路上皮癌と考えます。膀胱癌の90%以上は尿路上皮から発生し、扁平上皮癌はまれで、危険因子は喫煙とアニリン系染料などの芳香族アミンへの職業性曝露であり、家族性発生が多いという特徴はありません。尿路上皮癌は腎盂から尿道まで多中心性に発生し再発しやすいため、上部尿路の精査と膀胱鏡・尿細胞診による長期の経過観察が必要です。夜間頻尿は前立腺肥大症などで生じる症状であり、膀胱癌の典型症状ではない点も区別しておきましょう。病因と上皮の特性を結びつけて理解すると、診断から治療後のフォローまで一貫して考えられるようになります。

解答・解説

正解はd, eです

所見の整理と診断

67歳の男性が、凝血塊を伴う肉眼的血尿で受診している。ほかの症状(排尿時痛、発熱、側腹部痛など)の記載はなく、痛みを伴わない肉眼的血尿(無症候性肉眼的血尿)と考えられる。凝血塊が形成されるほどの出血は、比較的短時間にまとまった量の出血があったことを示し、糸球体腎炎のような腎実質性の血尿よりも、尿路(特に膀胱)の病変からの出血を疑わせる。 膀胱内視鏡(膀胱鏡)写真では、膀胱内腔へ突出する乳頭状(イソギンチャク状・カリフラワー状)の腫瘍がみられる。高齢男性の無症候性肉眼的血尿と乳頭状腫瘍の組み合わせから、膀胱癌、その大部分を占める尿路上皮癌(かつての移行上皮癌)と診断する。

設問の考え方

本問は膀胱尿路上皮癌の疫学・病因・病理・臨床的特徴を問うている。押さえるべき特徴は次の通りである。 ・発生母地は尿路上皮(移行上皮)であり、組織型の90%以上が尿路上皮癌である。 ・化学物質による発癌の代表例で、職業性の芳香族アミン(アニリン系染料、β-ナフチルアミン、ベンジジンなど)曝露と喫煙が主な危険因子である。 ・腎盂から尿道まで同じ尿路上皮で覆われ、発癌物質が尿を介して尿路全体に作用するため、同時性・異時性に多発(多中心性発生)しやすく、膀胱内再発も多い。 ・遺伝的な家族集積は一般的な特徴ではない。 ・典型的な症状は無症候性肉眼的血尿であり、夜間頻尿は本症に特徴的な症状ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  家族性発生が多い。

    膀胱癌の発生には、職業性の化学物質曝露や喫煙などの環境因子が大きく関与しており、特定の遺伝子異常により家系内で多発する遺伝性腫瘍としての性格は乏しい。したがって「家族性発生が多い」とはいえない。なお、Lynch症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸癌)では腎盂・尿管の尿路上皮癌のリスクが上がることが知られるが、膀胱癌全体からみればごく一部である。

  2. ×b.  夜間頻尿を合併する。

    乳頭状に隆起する膀胱癌の代表的な症状は無症候性肉眼的血尿であり、夜間頻尿は通常みられない。夜間頻尿は前立腺肥大症、過活動膀胱、夜間多尿(心不全、高齢者の抗利尿ホルモン分泌の日内リズム低下など)でみられる症状である。なお、膀胱上皮内癌(CIS)や腫瘍が大きく浸潤した場合には、頻尿、排尿時痛、残尿感などの膀胱刺激症状が出ることがあるが、夜間頻尿が本疾患の一般的な合併症状とはいえない。

  3. ×c.  扁平上皮から発生する。

    膀胱・尿管・腎盂の粘膜は尿路上皮(以前は移行上皮と呼ばれた)で覆われており、膀胱癌の90%以上はこの尿路上皮から発生する尿路上皮癌である。扁平上皮癌は膀胱癌の数%程度にすぎず、長期のカテーテル留置、膀胱結石、慢性膀胱炎、ビルハルツ住血吸虫症などによる慢性刺激で尿路上皮が扁平上皮化生を起こした部位から生じる。

  4. ○d.  染料と因果関係がある。

    膀胱癌は化学発癌の代表例で、アニリン系の染料や、その製造過程で扱われる芳香族アミン(β-ナフチルアミン、ベンジジン、4-アミノビフェニルなど)への職業性曝露が原因となることが知られている。これらは体内で代謝されて尿中に排泄され、尿が長くとどまる膀胱の上皮に作用して発癌を促す。染料工場の労働者に膀胱癌が多発したことから職業癌として認識され、わが国でも職業病に指定されている。喫煙も同様の芳香族アミンを含み、膀胱癌の最大の危険因子である。

  5. ○e.  尿路で多中心性に発生する。

    尿路上皮癌は、腎盂・尿管・膀胱・尿道の各所に同時性あるいは異時性に多発しやすい。その説明として、①尿中の発癌物質に尿路上皮全体が曝露されるため、別々の部位で独立して癌が発生するという考え(field cancerization、ポリクローナル説)と、②一か所に生じた癌細胞が尿中に剥がれ落ち、別の部位に着床して増殖するという考え(seeding、モノクローナル説)がある。このため膀胱癌を見つけたら、CT urography(CT尿路造影)などで腎盂・尿管の上部尿路も必ず精査し、治療後も膀胱鏡や尿細胞診で長期に経過観察する。

膀胱癌の概要

・疫学:男性に多く(男女比はおよそ3〜4:1)、60〜70歳代に好発する。 ・危険因子:喫煙(最大の危険因子)、芳香族アミンの職業性曝露(染料、ゴム、皮革、塗料工業など)、シクロホスファミド(代謝産物アクロレインによる)、骨盤部への放射線照射、慢性炎症(長期カテーテル留置、結石、ビルハルツ住血吸虫症;扁平上皮癌の原因)、アリストロキア酸(上部尿路癌)など。 ・症状:無症候性肉眼的血尿が最も多い。CISでは頻尿、排尿時痛などの膀胱刺激症状を示すことがある。進行すると水腎症(尿管口の閉塞)や骨盤痛をきたす。 ・診断:尿細胞診、膀胱鏡(確定のための形態観察)、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)による病理診断と深達度評価、CT・MRIによる病期診断、上部尿路の評価。

治療の大まかな流れ

・筋層非浸潤性膀胱癌(Ta、T1、CIS):TURBTが診断と治療を兼ねる。再発予防に抗癌剤の膀胱内注入を行い、高リスク例やCISにはBCG(ウシ型弱毒結核菌)の膀胱内注入療法を行う。再発率が高いため定期的な膀胱鏡検査が必要である。 ・筋層浸潤性膀胱癌(T2以上):根治的膀胱全摘除術と尿路変向術が標準であり、シスプラチンを含む術前化学療法が推奨される。膀胱温存を目指す集学的治療も選択肢となる。 ・転移性:化学療法、免疫チェックポイント阻害薬、抗体薬物複合体などを用いる。

膀胱上皮内癌(CIS)

平坦で隆起を作らないが、高異型度で浸潤癌へ進展しやすい。膀胱鏡では発赤した粘膜として見えるのみのことが多く、尿細胞診が陽性となりやすい点が重要である。

POINT

・高齢男性の無症候性肉眼的血尿 → まず膀胱癌を疑い、膀胱鏡と尿細胞診を行う。 ・膀胱癌の90%以上は尿路上皮癌(移行上皮癌)であり、扁平上皮癌はまれ。 ・危険因子:喫煙、芳香族アミン(アニリン系染料、β-ナフチルアミン、ベンジジン)、シクロホスファミドなど。遺伝性・家族性は特徴ではない。 ・尿路上皮癌は多中心性に発生し再発しやすい → 上部尿路の精査と長期の経過観察が必要。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。