人間ドックで見つかった2.5cmの腎腫瘤―「取り切る」と「残す」を両立する腎部分切除術
第120回医師国家試験 D問題 第59問
国試問題にチャレンジ
60歳の男性。3週間前に受けた人間ドックの腹部超音波検査で右腎下極に径2.5cmの腫瘤を指摘されたため来院した。自覚症状はない。尿所見:蛋白(-),糖(-),潜血(-),沈渣に赤血球,白血球を認めない。血液所見:赤血球474万,Hb 14.9g/dL,Ht 43%,白血球5,900,血小板20万。血液生化学所見:総蛋白7.1g/dL,アルブミン4.1g/dL,総ビリルビン0.9mg/dL,AST 24U/L,ALT 26U/L,LD 156U/L(基準124~222),尿素窒素14mg/dL,クレアチニン1.0mg/dL,Na 138mEq/L,K 4.3mEq/L,Cl 102mEq/L。CRP 0.1mg/dL。腹部造影CTの冠状断像を下に示す。胸腹部CTでは転移を認めない。 最も適切な治療はどれか。

- a.放射線治療
- b.右腎部分切除術
- c.右腎尿管全摘除術
- d.殺細胞性薬による治療
- e.分子標的薬による治療
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
無症状で偶然見つかった、腎実質から発生する造影効果のある充実性腫瘤では、まず腎細胞癌を考えます。腫瘍径4cm以下で腎に限局し転移のないT1a腎癌では、根治的腎摘除術と同等の制癌効果を保ちながら腎機能を温存できる腎部分切除術が標準治療です。腎細胞癌は放射線治療や殺細胞性抗癌薬に抵抗性で、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬は切除不能・転移性腎癌に用いられます。腎尿管全摘除術は腎盂癌・尿管癌など上部尿路上皮癌の術式であり、腎細胞癌とは区別して覚える必要があります。「腫瘍を取り切ること」と「臓器機能を残すこと」の両立という考え方は、腎癌に限らずがん治療全般で治療法を選ぶうえでの基本になります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・60歳男性。人間ドックの腹部超音波検査で、右腎下極に径2.5cmの腫瘤を偶然指摘された。自覚症状はない。 ・尿所見:潜血陰性、沈渣に赤血球なし。血尿がないことは、腎盂・尿管など尿路上皮由来の腫瘍を積極的に示唆しない。 ・血算・生化学はほぼ正常。Hbの上昇(腫瘍によるエリスロポエチン産生に伴う多血症)や貧血はない。クレアチニン1.0mg/dLで、腎機能は年齢相応の範囲にある。CRP、LDも正常。 ・腹部造影CT(冠状断):右腎下極の腎実質に、造影剤で濃染される充実性腫瘤がみられる。腫瘤は腎盂・尿管から離れた実質(皮質)側にある。 ・胸腹部CTで転移はない。
診断
無症状で偶然見つかった、腎実質から発生する造影効果をもつ充実性腫瘤であり、腎細胞癌(最も多いのは淡明細胞型)が最も考えられる。鑑別として腎血管筋脂肪腫(腫瘍内に脂肪成分を含み、CTで脂肪濃度を示すことが診断の決め手)やオンコサイトーマ(良性)があるが、脂肪成分を示す記載はなく、臨床的には腎細胞癌として扱う。腫瘍径2.5cm(4cm以下)で腎に限局し、リンパ節転移・遠隔転移がないため、TNM分類ではT1aN0M0、病期Ⅰ期の小径腎癌である。
設問の考え方
腎細胞癌は放射線や従来の抗癌薬(殺細胞性薬)が効きにくい腫瘍であり、限局性腎癌の根治治療の基本は外科的切除である。切除範囲については、T1a(4cm以下)の腫瘍では、腎部分切除術(腫瘍とその周囲の正常組織だけを切除し、残りの腎臓を温存する手術)が根治的腎摘除術と同等の制癌効果を示しつつ、術後の腎機能をよりよく保てる。腎機能を温存すると、慢性腎臓病の進行やそれに伴う心血管疾患のリスクを抑えられると考えられており、ガイドラインでもT1a腎癌には技術的に可能であれば腎部分切除術が推奨されている。本例は60歳で全身状態が良く、腫瘍は下極の2.5cmと小さく部分切除に適した位置・大きさであるため、右腎部分切除術が最も適切である。
選択肢考察
- ×a. 放射線治療
腎細胞癌は従来の放射線治療に抵抗性とされ、限局性腎癌に対する標準の根治治療ではない。主に骨転移・脳転移の疼痛や神経症状を和らげる目的で用いられる。近年、高齢や合併症のため手術が難しい小径腎癌に対し、定位放射線治療(ピンポイントに大線量を照射する方法)が選択肢の一つとして位置づけられつつあるが、手術が可能な60歳の本例で手術を差し置いて選ぶ治療ではない。
- ○b. 右腎部分切除術
腫瘍径4cm以下で腎に限局し転移のないT1aN0M0の腎細胞癌では、腎部分切除術が標準治療である。根治的腎摘除術と比べて癌の制御は同等でありながら、患側腎の機能を残せるため、術後の慢性腎臓病の発症・進行を抑えられる。腎癌は将来対側腎や同側に再発・新規発生することもあり、ネフロンを温存しておく意義は大きい。本例は全身状態良好で、腫瘍が下極にある2.5cmの小病変であり、開腹・腹腔鏡下・ロボット支援下のいずれでも部分切除が行いやすい。
- ×c. 右腎尿管全摘除術
腎尿管全摘除術(腎臓・尿管全長と膀胱の一部をまとめて切除する手術)は、腎盂癌・尿管癌など上部尿路上皮癌に対する標準術式である。尿路上皮癌は尿路の中で多発・再発しやすいため尿管まで切除する。本例は腎実質から発生した腫瘍で血尿もなく、尿路上皮癌を示す所見はない。腎細胞癌に尿管切除は不要であり、さらに腎全体を失って腎機能を損なうため不適切である。
- ×d. 殺細胞性薬による治療
腎細胞癌は、細胞から薬剤を排出する仕組み(多剤耐性に関わる輸送蛋白)の発現などのため、従来の殺細胞性抗癌薬に抵抗性であり、ほとんど効果が期待できない。進行・転移性腎癌でも、薬物療法の主体は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬である。切除可能な限局性腎癌に用いる治療ではない。
- ×e. 分子標的薬による治療
血管内皮増殖因子(VEGF)受容体などを阻害するチロシンキナーゼ阻害薬(スニチニブ、アキシチニブ、カボザンチニブなど)やmTOR阻害薬は、切除不能・転移性腎細胞癌の治療に用いられ、現在は免疫チェックポイント阻害薬との併用が中心となっている。転移のない小さな限局性腎癌では、手術で根治が見込めるため第一選択とはならない。
腎細胞癌の概要
・腎実質(尿細管上皮)から発生する悪性腫瘍。組織型は淡明細胞型が最も多く(約7〜8割)、ほかに乳頭状、嫌色素性などがある。 ・危険因子:喫煙、肥満、高血圧、長期透析(後天性嚢胞性腎疾患)、von Hippel-Lindau病など。 ・古典的三徴(血尿・側腹部痛・腹部腫瘤)がそろうのは進行例で、現在は健診や他疾患の画像検査で偶然見つかる無症状の小径腎癌が多い。 ・傍腫瘍症候群:エリスロポエチン産生による多血症、PTHrP産生による高カルシウム血症、発熱、肝機能異常(Stauffer症候群)など。 ・画像:造影CTの早期相で強く不均一に濃染し、後期相で造影剤が抜ける(wash out)のが淡明細胞型の典型像である。
T分類(原発巣)の要点
・T1a:腎に限局し最大径4cm以下 ・T1b:腎に限局し4cmを超え7cm以下 ・T2:腎に限局し7cmを超える ・T3:腎静脈・下大静脈への進展、腎周囲脂肪への浸潤など(Gerota筋膜は越えない) ・T4:Gerota筋膜を越える浸潤、同側副腎への直接浸潤
治療の整理
・T1a:腎部分切除術が標準。高齢・合併症例では経皮的凍結療法やラジオ波焼灼療法、さらに小径腫瘍では積極的経過観察(監視療法)も選択肢となる。 ・T1b:可能であれば腎部分切除術、困難なら根治的腎摘除術。 ・T2以上の局所進行例:根治的腎摘除術(静脈内腫瘍塞栓があれば塞栓摘除を含む)。 ・転移性腎癌:免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体など)を軸とした併用療法や分子標的薬が中心。症例を選んで原発巣摘除や転移巣切除を行う。 ・腎細胞癌は放射線・殺細胞性抗癌薬に抵抗性であることを押さえておく。
腎腫瘤の鑑別
・腎嚢胞:内部が均一な水濃度で造影されない。 ・腎血管筋脂肪腫:CTで脂肪濃度(負のCT値)を含む。結節性硬化症に合併しやすい。大きいものは出血の危険がある。 ・オンコサイトーマ:良性。中心性瘢痕が特徴とされるが、画像だけで腎細胞癌と確実に区別することは難しい。 ・腎盂癌(尿路上皮癌):腎盂内に発生し、血尿や尿細胞診陽性を伴いやすい。治療は腎尿管全摘除術。
POINT
・無症状で偶然見つかった造影される充実性腎腫瘤 → まず腎細胞癌を考える。 ・径4cm以下で腎に限局(T1a)、転移なし → 腎部分切除術が標準治療。 ・腎部分切除術は根治的腎摘除術と同等の制癌効果で、腎機能を温存できる。 ・腎細胞癌は放射線治療・殺細胞性抗癌薬に抵抗性。 ・転移性腎癌には免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬。 ・腎尿管全摘除術は腎盂癌・尿管癌(尿路上皮癌)の術式。
