元気な1か月児の心雑音―「心不全がないVSD」に潜むFallot四徴症
第104回医師国家試験 A問題 第26問
国試問題にチャレンジ
1か月の乳児。健康診査のため来院した。在胎38週,体重2,830 gで出生し,生後5日に退院した。身長52 cm,体重3,900 g。母乳栄養で哺乳力は良好である。呼吸数40/分。心拍数120/分,整。血圧86/54 mmHg。呼吸音に異常を認めない。胸骨左縁第3肋間を最強点とする3/6度の収縮期雑音を聴取する。肝を右肋骨弓下に1 cm触知する。心エコー図(A)(B)を別に示す。 診断はどれか。

- a.単心室
- b.Fallot四徴症
- c.動脈管開存症
- d.心室中隔欠損症
- e.完全大血管転位症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
元気で体重増加が良好な1か月児の収縮期雑音では、まず小さなVSDを考えますが、心エコーで大きなVSD、大動脈騎乗、右室肥大がみられればFallot四徴症と診断します。大きなVSDにもかかわらず心不全がないのは、右室流出路狭窄が肺血流を制限しているためであり、雑音もこの狭窄部を通る駆出性雑音です。乳児早期は流出路狭窄が軽くチアノーゼが目立たないことがあるため、チアノーゼがなくても本症は否定できません。動脈管開存症は連続性雑音、完全大血管転位症は新生児期からの強いチアノーゼ、単心室は中隔の欠如で区別します。全身状態と画像所見の「食い違い」から隠れた病態を推理する姿勢は、先天性心疾患の診断全般に通じる重要な考え方です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・1か月健診で来院した乳児。正期産(在胎38週)で出生体重2,830 g、1か月で体重3,900 g(約1,000 g増、1日あたり30 g以上)と体重増加は良好。哺乳力も良好 ・呼吸数40/分、心拍数120/分、血圧86/54 mmHgはいずれも1か月児として正常範囲。多呼吸や陥没呼吸などの心不全徴候はなく、チアノーゼの記載もない ・肝を右肋骨弓下に1 cm触知 → 乳児では生理的範囲であり、うっ血肝を示すものではない ・胸骨左縁第3肋間を最強点とする3/6度の収縮期雑音 → 何らかの先天性心疾患を示唆する
心エコー図の読影
・(A)傍胸骨左縁長軸断面:心室中隔の上部(膜様部~流出路)に大きな欠損があり、大動脈がその欠損孔をまたいで左室と右室の両方にまたがっている(大動脈騎乗)。 ・(B)傍胸骨短軸断面:右室の壁が厚く、心室中隔は平坦化して左室側へ押されている。右室の圧が左室と同程度まで上がっていること(右室肥大)を示す。
診断のプロセス
病歴と身体所見だけをみると、元気で体重増加も良好な乳児に収縮期雑音があるので、小さな心室中隔欠損症(VSD)が最も考えやすい。しかし心エコー図には、大きな心室中隔欠損、大動脈騎乗、右室肥大が示されている。大きなVSDであれば生後1か月前後には肺血流が増えて心不全(多呼吸、哺乳不良、体重増加不良)が出てくるはずだが、本例にはそれがない。これは、右室流出路狭窄によって肺血流が制限され、左右短絡が抑えられているためと考えられる。 以上から、心室中隔欠損・大動脈騎乗・右室肥大に、雑音の原因となる肺動脈(右室流出路)狭窄を合わせたFallot四徴症と診断する。Fallot四徴症の収縮期雑音は、VSDを通る血流ではなく、狭い右室流出路を通過する血流による駆出性雑音であり、胸骨左縁第2~3肋間で聴取される。新生児期・乳児早期には流出路狭窄が軽く、チアノーゼがはっきりしないことが多い(いわゆるpink Fallot)ため、1か月の時点でチアノーゼがないことは本症に矛盾しない。
選択肢考察
- ×a. 単心室
単心室は、機能的に一つの心室しか持たない疾患である。本例の心エコー図では右室と左室が別々に存在し、両者の間に心室中隔がはっきり描出されているため否定される。また単心室では肺血流の多寡に応じて、生後早期からチアノーゼか心不全が現れることが多い。
- ○b. Fallot四徴症
心エコー図(A)で大きな心室中隔欠損と大動脈騎乗、(B)で右室肥大(右室圧上昇による心室中隔の平坦化)がみられ、Fallot四徴症の特徴に一致する。胸骨左縁第3肋間の収縮期雑音は、右室流出路(肺動脈)狭窄を血液が通過することで生じる駆出性雑音と考えられる。流出路狭窄が軽い乳児早期にはチアノーゼが目立たないため、無症状の1か月児であることも本症に合致する。
- ×c. 動脈管開存症
動脈管開存症(PDA)では胸骨左縁第2肋間(鎖骨下)に連続性雑音を聴取するのが典型的である。雑音の性状(収縮期雑音)と最強点が異なるうえ、心エコー図ではVSDと大動脈騎乗という別の構造異常が明らかであり、否定される。
- ×d. 心室中隔欠損症
病歴と聴診所見だけからは最も考えやすい疾患である。しかし心エコー図の欠損孔は大きく、この大きさの単純なVSDであれば、生後1か月前後には肺血流の増加による心不全(多呼吸、哺乳不良、体重増加不良、肝腫大)が出るはずである。本例はそれがなく、さらに大動脈騎乗と右室肥大を伴うため、単独のVSDではなくFallot四徴症と考える。
- ×e. 完全大血管転位症
完全大血管転位症は、右室から大動脈、左室から肺動脈が起始する疾患で、体循環と肺循環が並列になるため、生後早期から強いチアノーゼを呈する(新生児期のチアノーゼ性心疾患の代表)。チアノーゼのない元気な1か月児という本例の経過に合わず、心エコー図でも大動脈は左室から騎乗して起始しており、否定される。
Fallot四徴症(TOF:tetralogy of Fallot)
・発生:胎生期に円錐中隔(漏斗部中隔)が前方(右室側)へ偏位することで生じる。この一つの異常から、①右室流出路狭窄(肺動脈狭窄)、②心室中隔欠損(大きな欠損)、③大動脈騎乗、が同時に生じ、結果として④右室肥大をきたす。チアノーゼ性先天性心疾患の中で最も多い。22q11.2欠失症候群に合併することがある。 ・病態:右室流出路狭窄が強いほど肺血流が減り、VSDを介した右左短絡が増えてチアノーゼが強くなる。狭窄は生後次第に進行するため、チアノーゼは生後数か月以降に目立ってくることが多い。 ・症状・所見:チアノーゼ、太鼓ばち指、多血症、蹲踞(しゃがみ込み)姿勢。聴診では胸骨左縁第2~3肋間の駆出性収縮期雑音と、単一のII音(IIPの減弱)。胸部X線は「木靴型」心陰影(右室肥大による心尖挙上と、肺動脈低形成による左第2弓の陥凹)と肺血管陰影の減少。心電図は右軸偏位と右室肥大。 ・無酸素発作(低酸素発作):啼泣、排便、哺乳などを契機に右室流出路の漏斗部が攣縮し、急激にチアノーゼが増悪する。対応は胸膝位、酸素投与、モルヒネ、β遮断薬、輸液、フェニレフリンなど。予防にβ遮断薬を用いる。 ・治療:心内修復術(VSDのパッチ閉鎖と右室流出路の拡大)を乳児期に行うのが一般的である。肺動脈が細い場合などには、先にBlalock-Taussig短絡術などの体肺動脈短絡術を行う。
乳児健診での心雑音の考え方
元気で体重増加が良好な乳児の心雑音では、小さなVSD、PDA、肺動脈狭窄、そしてチアノーゼが目立たない時期のFallot四徴症などを考える。大きな左右短絡疾患は生後1~2か月で肺血管抵抗が下がるにつれて心不全が顕在化する。完全大血管転位症や単心室などは、通常1か月までに何らかの症状を呈する。
POINT
・Fallot四徴症=肺動脈(右室流出路)狭窄+心室中隔欠損+大動脈騎乗+右室肥大。 ・心エコーの傍胸骨長軸断面で、大きなVSDを大動脈がまたぐ像(大動脈騎乗)が決め手。 ・雑音はVSDの短絡ではなく右室流出路狭窄による駆出性収縮期雑音(胸骨左縁第2~3肋間)で、II音は単一。 ・乳児早期はチアノーゼが目立たないことがあり、無症状でも否定できない。 ・大きなVSDなのに心不全がない → 肺血流を制限する流出路狭窄の存在を考える。
