胎児に異常があっても「まず止める」―妊娠27週の切迫早産で優先すべき一手
第104回医師国家試験 A問題 第20問
国試問題にチャレンジ
30歳の女性。妊娠27週。腹痛を主訴に来院した。超音波断層法で羊水過多症と胎児発育遅延とが認められ,さらに胎児心奇形と胎児頭蓋内の異常とを指摘された。内診で子宮口は2 cm開大しており,子宮収縮が3分おきにみられる。出血はなく,破水はしていない。 処置として適切なのはどれか。
- a.羊水穿刺
- b.帝王切開
- c.人工妊娠中絶
- d.McDonald手術
- e.子宮収縮抑制薬投与
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
妊娠22週以降37週未満に規則的な子宮収縮と子宮口開大を認めれば切迫早産であり、未破水で母児に急いで娩出させる理由がなければ、子宮収縮抑制薬(リトドリン塩酸塩、硫酸マグネシウム)で妊娠延長を図ります。胎児に多発異常が疑われても、それだけで産科的管理は変わらず、人工妊娠中絶は妊娠22週未満に限られ、胎児異常は法的な中絶理由になりません。頸管縫縮術は子宮収縮を伴わない頸管無力症が対象で、収縮がある状態では行わず、羊水穿刺も収縮中の急性期に優先する処置ではありません。延長した時間を使って、34週未満なら母体へのベタメタゾン投与や高次施設への母体搬送を進めることが新生児の予後改善につながります。目立つ所見に惑わされず、妊娠週数と母体の状態から処置の優先順位を判断する力は、周産期医療の基本です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・妊娠27週、腹痛を主訴に来院 ・子宮収縮が3分おきに規則的にみられる ・内診で子宮口2 cm開大 ・出血なし、破水なし(未破水) ・胎児: 羊水過多症、胎児発育遅延(FGR: fetal growth restriction)、心奇形、頭蓋内の異常
診断
妊娠22週以降37週未満で、規則的な子宮収縮と子宮口の開大を認め、早産に至る危険が高い状態であるから、切迫早産と診断できる。羊水過多は子宮の過伸展を通じて切迫早産の誘因となりうる。 胎児の多発異常(FGR、心奇形、頭蓋内異常、羊水過多)の組み合わせからは、18トリソミーなどの染色体異常も想定されるが、現時点で確定診断はついていない。また胎児機能不全(胎児の低酸素状態を示す所見)をうかがわせる記載はない。
処置の考え方
妊娠27週での出生は超早産であり、未熟性による呼吸障害や脳室内出血などのリスクが大きい。母体・胎児の状態が保たれている限り、子宮内での妊娠継続が胎児にとって有利である。胎児に形態異常が疑われても、それだけで産科的管理の方針が変わるわけではなく、胎児機能不全や母体の危険がなければ、通常の切迫早産として子宮収縮を抑制し、妊娠期間の延長を図る。子宮口開大が進んでおり、出生後に新生児集中治療や心疾患への対応が必要となる可能性が高いため、子宮収縮抑制を行いながら周産期母子医療センターなどの高次施設への母体搬送を検討する。
選択肢考察
- ×a. 羊水穿刺
誤り。羊水穿刺(羊水検査)は胎児の染色体検査などに用いられ、本例でも胎児多発異常の原因検索として将来的に検討されうる。しかし、規則的な子宮収縮と子宮口開大がある切迫早産の現時点で優先すべき処置ではなく、子宮への刺激となって収縮を増強させたり、破水・感染を招いたりするおそれがある。なお羊水過多に対して行う羊水除去(減量)であれば子宮内圧を下げる目的があるが、本問で問われている急性期の第一選択ではない。
- ×b. 帝王切開
誤り。帝王切開は、胎児機能不全、常位胎盤早期剥離などの母体・胎児の緊急事態や、分娩が避けられない状況で経腟分娩が適さない場合に選択される。本例は出血も破水もなく、胎児機能不全の所見もない。妊娠27週で急いで娩出させる理由はなく、まず妊娠の延長を図るべきである。
- ×c. 人工妊娠中絶
誤り。母体保護法に基づく人工妊娠中絶は「胎児が母体外で生命を保続できない時期」、すなわち妊娠22週未満(21週6日まで)に限って認められる。妊娠27週では法的に実施できず、行えば刑法の堕胎罪に問われうるため、禁忌肢と考えるべきである。また日本の母体保護法には胎児の異常を理由とする中絶の規定(いわゆる胎児条項)はない。
- ×d. McDonald手術
誤り。McDonald手術は子宮頸管を巾着縫合で縛る子宮頸管縫縮術で、頸管無力症(子宮収縮を伴わずに頸管が短縮・開大する病態)に対して行う。本例のように規則的な子宮収縮がある状態で行うと、手術操作が収縮を誘発・増強し、かえって早産を招くおそれがあるため適さない。
- ○e. 子宮収縮抑制薬投与
正解。未破水の切迫早産で、母体・胎児に妊娠継続を妨げる問題がなければ、子宮収縮抑制薬により収縮を抑えて妊娠期間の延長を図る。日本では主にβ2刺激薬のリトドリン塩酸塩や、硫酸マグネシウムが用いられる。妊娠延長により、胎児肺成熟を促す副腎皮質ステロイド(ベタメタゾン)の母体投与や、高次施設への母体搬送の時間を確保できる点でも意義がある。
切迫早産の概要
早産は妊娠22週0日から36週6日までの分娩をいう。切迫早産は、規則的な子宮収縮、子宮頸管の短縮・開大などがみられ、早産の危険が高い状態である。原因として、絨毛膜羊膜炎などの感染、子宮の過伸展(多胎、羊水過多)、頸管無力症、子宮奇形などがある。
管理
・安静と子宮収縮抑制薬(リトドリン塩酸塩、硫酸マグネシウム)。リトドリンは動悸・頻脈、肺水腫、高血糖、低カリウム血症、顆粒球減少などに、硫酸マグネシウムは高マグネシウム血症(腱反射低下、呼吸抑制)に注意する。 ・感染が疑われれば抗菌薬を用いる。 ・妊娠34週未満で早産が予想される場合は、胎児肺成熟の促進と新生児合併症(呼吸窮迫症候群、脳室内出血)の軽減を目的に、母体へベタメタゾンを投与する。 ・自施設で超早産児に対応できなければ、母体搬送を行う(新生児搬送より予後が良い)。
頸管無力症と頸管縫縮術
子宮収縮を伴わずに妊娠中期に頸管が開大する病態で、既往歴などから予防的に、または頸管短縮が判明した時点で頸管縫縮術(McDonald手術、Shirodkar手術)を行う。子宮収縮や感染、破水がある場合は原則として適応外である。
胎児多発異常と18トリソミー
18トリソミーでは、FGR、心奇形(心室中隔欠損など)、羊水過多、脈絡叢嚢胞などの頭蓋内所見、手指の重なり(overlapping fingers)などがみられる。確定には羊水検査などによる染色体検査が必要である。
POINT
・規則的な子宮収縮+子宮口開大(妊娠22週以降37週未満)=切迫早産。未破水で母児の状態が安定していれば、子宮収縮抑制薬で妊娠延長を図る。 ・胎児奇形の存在だけでは管理方針は変わらない。胎児機能不全や母体の危険がなければ通常どおり切迫早産として扱う。 ・人工妊娠中絶は妊娠22週未満のみ。胎児異常は法的な中絶理由にならない。 ・子宮収縮がある状態で頸管縫縮術は行わない。 ・34週未満の早産予測では母体へのベタメタゾン投与、必要に応じて高次施設へ母体搬送。
