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血液が人工物に触れるとき―抗凝固がいらないのはどの装置か

第118回医師国家試験 F問題 第22問

国試問題にチャレンジ

第118回 F問題 第22問

抗凝固療法が必須でない人工臓器はどれか。

  1. a.ECMO
  2. b.人工心肺装置
  3. c.人工弁(機械弁)
  4. d.植込み型ペースメーカ
  5. e.植込み型補助人工心臓

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、人工臓器や医療機器と抗凝固療法の関係を問う問題だ。ポイントは「血液がどこを流れ、どんな人工物にどれだけ触れるか」と「血栓ができたらどこへ飛ぶか」の2つ。まず、そもそも人工物に触れると血液はどうなるかな。
医学生医学生
異物表面で凝固系が活性化されて、血栓ができやすくなるんでしたっけ。
ドクタードクター
その通り。生理学で習った内因系、特に第XII因子が人工物表面で活性化され、血小板も付着する。だから広い人工物表面に血液がさらされる装置ほど、抗凝固が欠かせなくなるんだ。まずは体外循環から考えよう。人工心肺装置はどうだろう。
医学生医学生
心臓外科の実習で見学したとき、手術前にヘパリンを大量に入れて、最後にプロタミンで中和していました。
ドクタードクター
よく見ていたね。人工心肺は心臓手術中にポンプと肺の役割を肩代わりする装置で、大量の血液が体外回路や貯血槽を巡り、空気や人工物にも触れる。高用量の未分画ヘパリンで全身をヘパリン化し、ACTを十分延長させてから体外循環を始める。だから抗凝固は必須だ。
医学生医学生
ECMOも同じく体外に血液を出す装置なので、ヘパリンが必要ですよね。
ドクタードクター
そう。ECMOは太いカニューレで脱血し、遠心ポンプと人工肺を通して酸素化してから体に戻す。重症呼吸不全にはV-V、心原性ショックなど循環不全にはV-Aを使う。数日から数週間も回路に血液が触れ続けるから、ヘパリン持続投与をACTやAPTTで調節する。ただ出血合併症も多いので、強さの加減が難しいんだ。
医学生医学生
機械弁は体の中にあるので、体外循環ほどは血栓ができにくいのではないでしょうか。
ドクタードクター
そこが誤解しやすい点だね。機械弁は耐久性が高い反面、血栓が付きやすい。しかも左心系、つまり動脈側にある。弁に血栓が付けば開閉障害で急性心不全やショックに、剝がれれば脳梗塞などの全身性塞栓症になる。だから生涯のワルファリン内服が必須で、PT-INRで管理する。
医学生医学生
DOACではだめなんですか。CBTの勉強では、DOACはワルファリンより使いやすいと覚えていました。
ドクタードクター
心房細動などでは使いやすいけれど、機械弁ではダビガトランの臨床試験で血栓塞栓症も出血もワルファリンより多く、試験が中止された経緯がある。そのため機械弁患者には禁忌なんだ。なお生体弁なら、ワルファリンは植込み後3か月程度に限ることが多い。
医学生医学生
植込み型補助人工心臓も、左室から大動脈に血液を送るので動脈側ですね。
ドクタードクター
その通り。LVADは血液がポンプ内の人工物に絶えず触れて動脈側へ送られるから、ポンプ血栓症や脳梗塞の危険が高い。植込み直後はヘパリン、その後はワルファリンとアスピリンを長期に併用するのが基本だ。日本では移植までの橋渡しに加え、2021年からは移植適応のない人への長期在宅治療としても保険適用になった。
医学生医学生
残るのがペースメーカですね。リードは静脈から右心系に入っているので、血栓ができても肺に行くだけ、ということでしょうか。
ドクタードクター
考え方はいいね。加えて、リードはシリコーンやポリウレタンなど生体適合性の高い素材で覆われた細い人工物で、表面に小さな血栓が付いても症状を起こすことは少ない。右心系の血栓は全身の動脈には飛ばないから、脳梗塞のような全身性塞栓症のリスクも低い。だから植込み型ペースメーカが正解で、機器自体を理由にした抗凝固は不要だ。
医学生医学生
ただ、ペースメーカの患者さんでもワルファリンを飲んでいる人は外来でよく見かけました。
ドクタードクター
鋭いね。それは心房細動など別の適応があるからだ。機器のためではなく、疾患のために抗凝固をしている、と区別して考えよう。ちなみに卵円孔開存などの右左短絡があると、静脈系の血栓が奇異性塞栓として全身に飛ぶことがある点も覚えておきたい。
医学生医学生
体外循環か、左心系の人工物か、静脈系の細いリードか、で整理するとわかりやすいです。
ドクタードクター
そう。周辺知識として、IABPやImpella、血液透析の回路もヘパリンが基本で、出血リスクが高ければ透析ではナファモスタットを使う。冠動脈ステントは抗凝固ではなく抗血小板薬が中心だ。ヘパリンはAPTTやACTで調節してプロタミンで中和、ワルファリンはPT-INRで調節してビタミンKやプロトロンビン複合体製剤で拮抗する。この対応もセットで押さえておこう。

まとめ

血液が人工物に触れると内因系凝固や血小板が活性化されるため、抗凝固療法の要否は血液の流れる場所と人工物の性質で判断できます。ECMOや人工心肺装置のように血液が体外回路を流れる装置ではヘパリンが必須で、機械弁や植込み型補助人工心臓のように左心系・動脈側に置かれる人工物では、全身性塞栓症を防ぐため長期の抗凝固が必須です。特に機械弁はワルファリンが基本でDOACは禁忌であり、補助人工心臓ではワルファリンと抗血小板薬を併用します。一方、植込み型ペースメーカのリードは抗血栓性素材で被覆され静脈・右心系に留置されるため、機器そのものに対する抗凝固療法は必須ではなく、心房細動など別の適応があれば疾患に応じて行います。血栓の発生部位と塞栓の行き先を結びつけて考える視点は、周術期管理や抗血栓薬の使い分けを理解する基盤になります。

解答・解説

正解はdです

テーマ

人工臓器・医療機器と抗凝固療法の必要性についての問題である。

考え方

血液が人工物の表面に触れると、凝固因子(特に第XII因子による内因系)や血小板が活性化されて血栓ができやすくなる。抗凝固療法が必須となるかどうかは、主に次の点で判断できる。 1. 血液が体外の回路を流れるか:ECMOや人工心肺装置のように血液を体外に導き、チューブ・ポンプ・人工肺といった広い人工物表面と接触させる装置では、短時間で回路内に血栓が生じ、回路の閉塞や塞栓症の原因となる。そのためヘパリンによる抗凝固が必須である。 2. 動脈系・心腔内の高い血流にさらされる人工物か:機械弁や植込み型補助人工心臓は左心系(動脈側)に置かれる。ここで血栓ができると、弁や装置そのものの機能不全に加え、血栓が全身の動脈に流れて脳梗塞などの致死的な塞栓症を起こす。そのため長期にわたる抗凝固療法が必須である。 3. 静脈系に置かれ、抗血栓性の高い素材で被覆された細い人工物か:植込み型ペースメーカのリードは静脈内から右心系に留置される。リードは組織と血液に適合しやすい素材で覆われており、表面に小さな血栓が付くことはあっても臨床的な問題になることは少ない。さらに静脈・右心系で生じた血栓は肺に流れるため、全身性の塞栓症を起こす危険は乏しい。 したがって、抗凝固療法が必須でないのは植込み型ペースメーカである。

選択肢考察

  1. ×a.  ECMO

    誤り(抗凝固療法は必須)。ECMO(extracorporeal membrane oxygenation:体外式膜型人工肺)は、太いカニューレで脱血した血液を遠心ポンプで人工肺に送り、酸素化・二酸化炭素除去を行ってから体内に戻す装置である。静脈から脱血して静脈に返すV-V ECMOは重症呼吸不全に、静脈から脱血して動脈に返すV-A ECMOは心原性ショックや心停止など重症循環不全に用いられる。通常の人工呼吸や昇圧薬・強心薬では救命困難で、原因が可逆的と考えられる病態が適応となる。数日〜数週間にわたり血液が回路に接し続けるため、回路内凝固や人工肺の目詰まりを防ぐ目的で、未分画ヘパリンの持続投与を行い、ACT(活性化凝固時間)やAPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)を指標に調節する。出血合併症が問題となるため、抗凝固の強さは慎重に管理される。

  2. ×b.  人工心肺装置

    誤り(抗凝固療法は必須)。人工心肺装置は、心臓手術の際に心臓のポンプ機能(血液ポンプ)と肺のガス交換機能(人工肺)を一時的に代行し、心停止下での手術を可能にする装置である。血液は大量に体外回路を循環し、貯血槽や吸引回路など血液が空気や人工物に触れる部分も多いため、凝固が非常に起こりやすい。そのため開始前に高用量の未分画ヘパリンを投与して全身を十分にヘパリン化し、ACTを大きく延長(一般に400秒以上が目安)させてから体外循環を開始する。手術終了後はプロタミンでヘパリンを中和する。

  3. ×c.  人工弁(機械弁)

    誤り(抗凝固療法は必須)。機械弁はパイロリティックカーボンなどでできた弁で、耐久性に優れ生涯の使用が期待できる一方、血栓が付着しやすい。弁に血栓が付くと弁の開閉障害(血栓弁)による急性心不全・ショックを起こし、血栓が剝がれれば脳梗塞などの全身性塞栓症を起こす。そのため、植込み後は生涯にわたるワルファリン内服が必須であり、PT-INR(プロトロンビン時間国際標準比)で効果を管理する。直接経口抗凝固薬(DOAC:ダビガトランなど)は、機械弁患者を対象とした臨床試験でワルファリンより血栓塞栓症・出血が多く試験が中止された経緯があり、機械弁患者には禁忌である。なお、生体弁ではワルファリンは植込み後一定期間(おおむね3か月程度)に限られることが多く、長期の抗凝固は必須ではない点と区別する。

  4. ○d.  植込み型ペースメーカ

    正しい(抗凝固療法は必須でない)。植込み型ペースメーカは、前胸部の皮下に本体(電池と回路)を植え込み、鎖骨下静脈などからリードを右房・右室に留置して心臓を電気刺激する装置で、洞不全症候群や高度房室ブロックなどの徐脈性不整脈に用いる。リードは抗血栓性・生体適合性の高い素材(シリコーンやポリウレタン)で被覆されており、留置した静脈内に小さな血栓が付くことはあっても症状を起こすことは少ない。また右心系の血栓は全身動脈に飛ばないため、脳梗塞などの全身性塞栓症の危険は低い。したがって、ペースメーカ植込み自体を理由とした抗凝固療法は不要である。ただし、心房細動など別の適応がある患者では、その疾患に応じて抗凝固療法を行う。近年は右室内に直接留置する、リードのないリードレスペースメーカも用いられている。

  5. ×e.  植込み型補助人工心臓

    誤り(抗凝固療法は必須)。植込み型補助人工心臓(左室補助人工心臓:LVAD)は、左室心尖部から血液を取り込み、ポンプで上行大動脈へ送り出すことで弱った左室のポンプ機能を補う装置である。薬物治療などに抵抗する重症心不全が対象で、日本では心臓移植までの橋渡し(bridge to transplantation)として使われてきたが、2021年からは移植の適応とならない患者に対する長期在宅治療(destination therapy)としても保険適用となった。血液がポンプ内の人工物表面に絶えず接触し、動脈側に送り出されるため、ポンプ血栓症や脳梗塞などの塞栓症の危険が高い。植込み直後はヘパリンで抗凝固を行い、その後は長期にワルファリンと抗血小板薬(アスピリン)を併用するのが基本である。

人工臓器・医療機器と抗血栓療法の整理

・人工心肺装置(手術中):高用量ヘパリンで全身ヘパリン化、終了後プロタミンで中和。 ・ECMO、IABP(大動脈内バルーンパンピング)、Impella(補助循環用ポンプカテーテル)など:ヘパリン持続投与が基本。 ・血液透析:回路内凝固防止のためヘパリン(出血リスクが高い場合はナファモスタットなど)を使用。 ・機械弁:生涯のワルファリン(DOACは禁忌)。 ・生体弁:植込み後早期のみワルファリン、その後は抗血小板薬や無投薬も選択肢。 ・植込み型補助人工心臓:ワルファリン+アスピリンを長期継続。 ・冠動脈ステント:抗凝固ではなく抗血小板薬(2剤併用→単剤)が基本。 ・植込み型ペースメーカ、植込み型除細動器(ICD):機器そのものに対する抗凝固療法は不要。

血栓の部位と塞栓症の行き先

・静脈系・右心系の血栓 → 肺塞栓症(肺動脈へ)。ただし卵円孔開存などの右左短絡があれば奇異性塞栓として全身へ。 ・左心系・動脈系の血栓 → 脳・腎・腸管・四肢などの全身性塞栓症。 このため、左心系に置かれる人工物は抗凝固の必要性が特に高い。

抗凝固薬のモニタリング

・未分画ヘパリン:APTT、ACTで調節。中和はプロタミン。 ・ワルファリン:PT-INRで調節。拮抗はビタミンK、緊急時はプロトロンビン複合体製剤。

POINT

・血液が体外回路を流れる装置(ECMO、人工心肺)はヘパリンによる抗凝固が必須。 ・左心系・動脈側に置かれる人工物(機械弁、植込み型補助人工心臓)は長期抗凝固が必須。機械弁はワルファリンのみで、DOACは禁忌。 ・植込み型ペースメーカは右心系にリードを置き、抗血栓性素材で被覆されているため、抗凝固療法は必須でない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。