鱗屑ひとかけらで真菌を捕まえる―KOH直接検鏡法が光る癜風の診断
第103回医師国家試験 I問題 第21問
国試問題にチャレンジ
苛性カリ〈KOH〉直接検鏡法が診断に有用なのはどれか。
- a.癜風
- b.単純疱疹
- c.伝染性軟属腫
- d.伝染性膿痂疹
- e.尖圭コンジローマ
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
苛性カリ直接検鏡法は、KOHで角質のケラチンを溶かし、溶けにくい真菌の菌糸や胞子を直接観察する簡便な検査です。対象は白癬、皮膚カンジダ症、癜風などの表在性真菌症と、角層に寄生するヒゼンダニを検出する疥癬であり、癜風では短く太い菌糸と球形胞子の集簇が混在する特徴的な像がみられます。単純疱疹・伝染性軟属腫・尖圭コンジローマはウイルス、伝染性膿痂疹は細菌が原因で、それぞれTzanck試験やPCR、臨床像や生検、グラム染色・培養などで診断します。鱗屑を伴う紅斑では安易にステロイドを使わず、まずKOH法で真菌を確認する習慣が誤診防止につながります。病原体ごとに適した検査を対応させて理解することは、皮膚感染症の診断を効率よく進める基本です。
解答・解説
正解はaです
苛性カリ〈KOH〉直接検鏡法は、皮膚の鱗屑(表皮の角層がはがれたもの)・爪・毛などをスライドガラスにのせ、10〜30%程度の水酸化カリウム溶液を滴下して角質を溶かし、顕微鏡で観察する検査である。KOHはケラチンを溶解・透明化するが、真菌の細胞壁(キチンなど)は溶けにくいため、角質中にひそむ菌糸や胞子(酵母形)を直接見つけることができる。簡便・迅速で費用もかからず、皮膚科外来で最も頻繁に行われる検査の一つである。 したがって本問は、「選択肢のうち真菌(または角層内に寄生する虫体)が原因の疾患はどれか」を問うていると言い換えられる。各選択肢の病原体を整理すると、癜風は真菌(マラセチア)、単純疱疹・伝染性軟属腫・尖圭コンジローマはウイルス、伝染性膿痂疹は細菌であり、KOH直接検鏡法で病原体を確認できるのは癜風のみである。
選択肢考察
- ○a. 癜風
癜風は、皮膚の常在真菌である好脂性酵母マラセチア(Malassezia属、主にM. globosaなど)が角層内で菌糸形に転じて増殖することで生じる表在性真菌症である。胸・背部・頸部など皮脂の多い部位に、細かい鱗屑(こすると粉状にはがれる)を伴う褐色斑(黒色癜風)または脱色素斑(白色癜風)が多発する。鱗屑をKOH直接検鏡すると、短く太い菌糸と球形の胞子の集簇が混在する像(いわゆる「スパゲッティ・アンド・ミートボール」)がみられ、これで確定できる。したがってKOH直接検鏡法が診断に直結する疾患である。
- ×b. 単純疱疹
単純疱疹は単純ヘルペスウイルス(HSV-1、HSV-2)による感染症で、口唇や外陰部に小水疱が集簇して生じる。ウイルスはKOH直接検鏡法では確認できない。補助診断としては、水疱底の細胞をギムザ染色して多核巨細胞(ウイルス性巨細胞)を探すTzanck(ツァンク)試験、蛍光抗体法によるウイルス抗原の検出、PCR法などが用いられる。
- ×c. 伝染性軟属腫
伝染性軟属腫(いわゆる水いぼ)は伝染性軟属腫ウイルス(ポックスウイルス科)による感染症で、小児に好発する。中心が臍のようにくぼんだ(中心臍窩)光沢のある小丘疹が特徴で、診断は主に臨床像による。ピンセットで摘除すると白色の粥状物が出てきて、これを鏡検すると封入体を含んだ変性表皮細胞(軟属腫小体、molluscum body)が観察されるが、これはKOHで真菌を探す検査とは目的が異なる。ウイルス性疾患であり、KOH直接検鏡法の対象ではない。
- ×d. 伝染性膿痂疹
伝染性膿痂疹(とびひ)は細菌感染症であり、水疱性膿痂疹は主に黄色ブドウ球菌(表皮剥脱毒素による)、痂皮性膿痂疹は主にA群β溶血性レンサ球菌(黄色ブドウ球菌の混合感染もある)が原因となる。診断は臨床像に加え、病変部の細菌培養・グラム染色で行い、KOH直接検鏡法は用いない。
- ×e. 尖圭コンジローマ
尖圭コンジローマはヒトパピローマウイルス(HPV)、主に低リスク型の6型・11型の感染による性感染症で、外陰部・肛囲に乳頭状・鶏冠状の疣贅を生じる。診断は臨床像が中心で、必要に応じて生検(コイロサイトと呼ばれる空胞化細胞の確認)やHPV検査を行う。ウイルス性疾患であり、KOH直接検鏡法で診断するものではない。
KOH直接検鏡法の対象となる主な疾患
・白癬(皮膚糸状菌症):足白癬、爪白癬、体部白癬、股部白癬、頭部白癬など。隔壁をもつ分岐した長い菌糸がみられる。 ・皮膚カンジダ症:間擦疹型カンジダ症、カンジダ性指趾間びらん症、爪囲爪炎など。仮性菌糸と出芽した酵母がみられる。 ・癜風・マラセチア毛包炎:短く太い菌糸と球形の胞子の集簇がみられる。 ・疥癬:真菌ではないが、角層内に寄生するヒゼンダニ(疥癬虫)の虫体・虫卵をKOH法(またはダーモスコピー)で検出できる。
検査の実際と注意点
・病変の辺縁(活動性の高い部分)の鱗屑や、水疱蓋、爪の混濁部を採取すると陽性率が上がる。 ・抗真菌薬の外用中は偽陰性となりやすいため、外用をしばらく中止してから再検査することがある。 ・KOH法で陽性でも菌種(白癬菌の種類など)は判別できないため、同定が必要な場合は真菌培養を行う。 ・ステロイド外用で悪化した「湿疹」が実は白癬だった、という誤診を防ぐためにも、鱗屑を伴う紅斑では積極的にKOH法を行うことが重要である。
癜風の補足
・高温多湿の夏季、多汗の若年〜中年成人に多い。 ・Wood灯(長波長紫外線)照射で黄色〜黄橙色の蛍光を示すことがある。 ・治療はイミダゾール系などの抗真菌薬外用。再発しやすい。
病原体別の主な迅速診断法
・真菌:KOH直接検鏡法 ・ヘルペスウイルス(単純疱疹・水痘・帯状疱疹):Tzanck試験、蛍光抗体法、イムノクロマト法、PCR法 ・細菌:グラム染色、培養
POINT
・KOH直接検鏡法は角質を溶かして真菌の菌糸・胞子を直接観察する検査である。 ・対象は白癬、カンジダ症、癜風(マラセチア)などの表在性真菌症と、疥癬(ヒゼンダニ)である。 ・ウイルス性疾患(単純疱疹、伝染性軟属腫、尖圭コンジローマ)や細菌性疾患(伝染性膿痂疹)には用いない。 ・癜風ではKOH法で短い菌糸と胞子の集簇(スパゲッティ・アンド・ミートボール像)がみられる。
