StudyMed医師国家試験

胎児の体で一番「赤い」血はどこを流れる?―臍静脈から始まる酸素のリレー

第103回医師国家試験 H問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第103回 H問題 第11問

胎児循環で酸素分圧が最も高いのはどれか。

  1. a.右心室
  2. b.動脈管
  3. c.上行大動脈
  4. d.下行大動脈
  5. e.Arantius静脈管

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は胎児循環の問題だ。胎児の体の中で、酸素をたっぷり含んだ血液がどこから入り、どこで酸素の少ない血液と混ざっていくのか。その流れをたどれば答えは自然に出てくるよ。まず、胎児はどこでガス交換をしているかな。
医学生医学生
肺はまだ液体で満たされているので、胎盤ですね。
ドクタードクター
その通り。胎盤で母体血から酸素を受け取った血液は、1本の臍静脈を通って胎児に戻ってくる。つまり胎児体内で最も酸素分圧が高いのは臍静脈血で、そこから先は胎児自身の静脈血と合流するたびに酸素分圧が下がっていく。これが大原則だ。
医学生医学生
なるほど。でも、脳に行く血液が一番大事だから、上行大動脈が最も高いのかなと思っていました。
ドクタードクター
いいところに引っかかったね。確かに上行大動脈は、胎児の動脈系の中では酸素の多い血液が流れる部位だ。でも、そこに届くまでにすでに何度か混ざっている。順に追ってみよう。臍静脈血は肝臓の近くで、一部がArantius静脈管を通って肝臓を迂回し、直接下大静脈へ入る。残りは肝臓を灌流してから肝静脈経由で下大静脈へ注ぐ。
医学生医学生
静脈管の中を流れているのは、胎盤から戻ったばかりの臍静脈血そのもの、ということですか。
ドクタードクター
そう、まだ何とも混ざっていない。だから選択肢の中で酸素分圧が最も高いのはArantius静脈管なんだ。その先の下大静脈では、胎児の下半身から戻ってくる酸素の少ない静脈血と合流する。ただし静脈管からの流れは層流になって比較的混ざりにくく、右心房に入ると酸素の多い流れが優先的に卵円孔を通って左心房へ向かう。
医学生医学生
そこから左心室、上行大動脈へと送られて、冠動脈と脳を灌流するんですね。発生学の講義で、心臓と脳に良い血を優先的に送る仕組みだと習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。ただ、左心房では肺静脈からのわずかな還流血とも混ざるから、上行大動脈は静脈管より酸素分圧が低くなる。では、上大静脈から戻ってくる頭頸部・上肢の静脈血はどこへ行く?
医学生医学生
右心房から右心室、肺動脈へ…でも肺は抵抗が高いから、動脈管を通って大動脈へ抜けるんですよね。
ドクタードクター
正解。右心室にはこの酸素の少ない上大静脈血が主に流れ込むから、胎児体内では酸素飽和度が低い部位だ。動脈管を通る血液も同じく低い。そして動脈管は左鎖骨下動脈の分岐より先で大動脈に合流するから、下行大動脈には上行大動脈からの血液に動脈管の低酸素血が加わる。
医学生医学生
だから下行大動脈は上行大動脈より酸素分圧が低いんですね。その血液が下半身を灌流して、2本の臍動脈から胎盤へ戻る、と。
ドクタードクター
その通り。おおよその順序は、臍静脈・静脈管が最も高く、次に下大静脈、そして左心室・上行大動脈、下行大動脈と続き、右心室・肺動脈・動脈管、上大静脈が低い側になる。
医学生医学生
臍静脈が1本で酸素の多い血、臍動脈が2本で酸素の少ない血。成人と名前と中身が逆になるのがややこしいです。
ドクタードクター
「静脈・動脈」は心臓に向かうか離れるかで決まる、と考えれば整理できるよ。発展として、出生後の変化も押さえておこう。臍帯血流が途絶えると静脈管は閉鎖して静脈管索に、臍静脈は肝円索になる。肺呼吸が始まって肺血流が増えると左心房圧が右心房圧を上回り、卵円孔は機能的に閉じて卵円窩になる。動脈管は酸素分圧の上昇とプロスタグランジンE2の低下で収縮し、動脈管索になる。
医学生医学生
新生児科を回ったとき、動脈管依存性の先天性心疾患の赤ちゃんにプロスタグランジン製剤を使って動脈管を開いておくと聞きました。
ドクタードクター
まさにこの生理を利用した治療だね。もう一つ、胎児の酸素分圧は成人の動脈血よりずっと低いのに、なぜ十分な酸素を受け取れるのか。それは胎児ヘモグロビンが2,3-BPGと結合しにくく酸素親和性が高い、つまり酸素解離曲線が左方移動しているからだ。ヘモグロビン濃度が高く、体重当たりの心拍出量が多いことも酸素運搬を支えている。

まとめ

胎児のガス交換は胎盤で行われ、酸素化された血液は臍静脈から戻るため、胎児体内で最も酸素分圧が高いのは臍静脈血であり、それを肝臓を迂回して下大静脈へ運ぶArantius静脈管が選択肢中で最も高くなります。酸素の多い下大静脈血は卵円孔を経て左心系から上行大動脈へ送られ心臓と脳を優先的に灌流し、酸素の少ない上大静脈血は右心室から肺動脈・動脈管を経て下行大動脈へ流れるため、下行大動脈は上行大動脈より酸素分圧が低くなります。静脈管・卵円孔・動脈管の3つの短絡路は出生後に閉鎖し、それぞれ静脈管索・卵円窩・動脈管索となります。胎児ヘモグロビンの高い酸素親和性も低酸素環境での酸素運搬を支えています。血液の流れと混合の順序を追う考え方は、新生児の循環適応や動脈管依存性心疾患の理解の基盤になります。

解答・解説

正解はeです

胎児循環の経路をたどり、酸素を多く含む血液がどこを流れ、どこで酸素の少ない血液と混ざるかを理解しているかを問う問題である。

胎児のガス交換の場

胎児の肺は液体で満たされていて呼吸をしていないため、ガス交換は胎盤で行われる。胎盤で母体血から酸素を受け取った血液は、臍静脈(1本)を通って胎児に戻る。したがって胎児体内で最も酸素分圧・酸素飽和度が高いのは臍静脈血であり、その先の血液は、胎児自身の静脈血と合流するたびに酸素分圧が下がっていく。

血液の流れ

1. 胎盤 → 臍静脈 → 肝臓付近へ。臍静脈血の一部はArantius静脈管(静脈管)を通って肝臓を迂回し、直接下大静脈へ入る。残りは肝臓を灌流して肝静脈から下大静脈へ注ぐ。 2. 下大静脈で、胎児の下半身から戻る酸素の少ない静脈血と合流する(ただし静脈管からの血流は層流となって比較的混ざりにくい)。 3. 右心房に入った下大静脈血のうち、酸素の多い流れは卵円孔を通って優先的に左心房へ流れ、左心室から上行大動脈へ駆出される。上行大動脈からは冠動脈と頭頸部・上肢への動脈が分岐するため、心臓と脳には胎児体内では比較的酸素の多い血液が供給される。 4. 上大静脈から戻る酸素の少ない血液(頭頸部・上肢の静脈血)は、主に右心房→右心室→肺動脈へ向かう。肺血管抵抗が高いため肺にはわずかしか流れず、大部分は動脈管を通って大動脈弓の遠位(左鎖骨下動脈分岐より先)で下行大動脈に合流する。 5. 下行大動脈血は、上行大動脈からの血液と動脈管からの血液が混ざったものであり、下半身へ送られるとともに、臍動脈(2本)を通って胎盤へ戻る。

酸素飽和度のおおよその順序

臍静脈 ≧ 静脈管 > 下大静脈(右心房流入部)> 左心室・上行大動脈 > 下行大動脈 > 右心室・肺動脈・動脈管 > 上大静脈 このように、選択肢の中で臍静脈血をほぼそのまま運んでいるArantius静脈管の酸素分圧が最も高い。

選択肢考察

  1. ×a.  右心室

    右心室には、上大静脈から戻る頭頸部・上肢の静脈血(酸素が少ない)と、卵円孔を通らずに右心室へ向かった下大静脈血の一部、さらに冠静脈洞からの血液が流入する。胎児体内では酸素飽和度の低い部位であり、最も高いとはいえない。

  2. ×b.  動脈管

    動脈管は肺動脈と大動脈をつなぐ短絡路で、右心室から肺動脈へ駆出された酸素の少ない血液の大部分が、抵抗の高い肺を避けてここを通り下行大動脈へ流れる。流れている血液は右心室と同程度の低い酸素飽和度であり、該当しない。出生後は動脈血酸素分圧の上昇やプロスタグランジンの低下により収縮・閉鎖し、動脈管索となる。

  3. ×c.  上行大動脈

    上行大動脈には、下大静脈から卵円孔を経て左心房・左心室に入った、比較的酸素の多い血液が駆出される。冠動脈や脳へ向かう血液であり、胎児の動脈系の中では酸素分圧が高い部位である。しかし下大静脈で胎児下半身の静脈血と合流し、左心房では肺静脈からのわずかな還流血とも混ざるため、臍静脈血をほぼそのまま運ぶ静脈管よりは酸素分圧が低い。

  4. ×d.  下行大動脈

    下行大動脈には、上行大動脈から大動脈弓を経た血液に、動脈管からの酸素の少ない血液が合流する。そのため酸素分圧は上行大動脈よりさらに低い。この血液が下半身を灌流し、臍動脈を通って胎盤へ戻り、再び酸素化される。

  5. ○e.  Arantius静脈管

    Arantius静脈管(静脈管)は、臍静脈と下大静脈をつなぎ、胎盤で酸素化された臍静脈血の一部に肝臓を迂回させて直接下大静脈へ送る短絡路である。流れているのは胎盤から戻ったばかりの臍静脈血そのもので、まだ胎児自身の静脈血と混ざっていないため、選択肢の中で酸素分圧が最も高い。出生後は臍帯血流の途絶により閉鎖し、静脈管索となる。

胎児循環の3つの短絡路と出生後の変化

・静脈管(Arantius管):臍静脈 → 下大静脈。肝臓を迂回させる。出生後は閉鎖して静脈管索となる。 ・卵円孔:右心房 → 左心房。酸素の多い下大静脈血を左心系へ導く。出生後、肺血流の増加で左心房圧が右心房圧を上回ると弁状の組織が押し付けられて機能的に閉鎖し、のちに卵円窩となる。 ・動脈管(Botallo管):肺動脈 → 下行大動脈。肺を迂回させる。出生後、酸素分圧の上昇とプロスタグランジンE2の低下により収縮し、動脈管索となる。

その他の胎児循環の遺残構造

・臍静脈 → 肝円索 ・臍動脈 → 内側臍索(近位部は上膀胱動脈として残る)

胎児の酸素運搬を支える仕組み

胎児の酸素分圧は成人の動脈血よりはるかに低いが、胎児ヘモグロビン(HbF)は2,3-BPG(2,3-ビスホスホグリセリン酸)との結合が弱いため酸素親和性が高く(酸素解離曲線が左方移動)、胎盤で母体血から効率よく酸素を受け取ることができる。加えて、胎児はヘモグロビン濃度が高く、心拍出量も体重当たりで多い。

胎児循環の特徴のまとめ

1. ガス交換は胎盤で行われる。 2. 肺血管抵抗が高く肺血流が少ない。 3. 3つの短絡路(静脈管・卵円孔・動脈管)が存在する。 4. 右心系と左心系が並列に働き、酸素の多い血液が心臓・脳へ優先的に送られる。

POINT

・胎児体内で酸素分圧が最も高いのは臍静脈血で、それをほぼそのまま運ぶ静脈管(Arantius管)が選択肢中で最も高い。 ・酸素の多い下大静脈血は卵円孔→左心系→上行大動脈へ向かい、心臓と脳を優先的に灌流する。 ・上大静脈の酸素の少ない血液は右心室→肺動脈→動脈管→下行大動脈へ。 ・下行大動脈は上行大動脈より酸素分圧が低い。 ・臍静脈は1本(酸素の多い血液)、臍動脈は2本(酸素の少ない血液)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。