呼吸も血圧も自分で保てる―それでも欠かせない「栄養」が植物状態の命をつなぐ
第103回医師国家試験 H問題 第12問
国試問題にチャレンジ
植物状態患者の生命維持に最低限必要なのはどれか。
- a.酸素投与
- b.栄養管理
- c.昇圧薬投与
- d.抗菌薬投与
- e.人工呼吸器管理
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
植物状態は大脳の機能が広く失われる一方、脳幹機能が保たれているため、自発呼吸や循環、睡眠・覚醒のリズムは自力で維持されます。しかし自力で摂食することはできないため、経鼻胃管・胃瘻による経腸栄養や経静脈栄養などの栄養管理が生命維持に最低限必要です。酸素投与、昇圧薬、抗菌薬は誤嚥性肺炎や敗血症などの合併症が生じたときに行う治療であり、人工呼吸器が不可欠なのは脳幹機能まで失われた脳死の場合です。自発呼吸の有無が植物状態と脳死を分ける基本的なポイントであり、日本では6項目が3か月以上持続することで植物状態と定義されます。障害部位と保たれている機能を対応させて考える姿勢は、意識障害患者の管理や家族への説明の基礎となります。
解答・解説
正解はbです
植物状態(遷延性意識障害)とは、大脳の広い範囲が障害されて意識的な精神活動・運動・感覚が失われている一方で、脳幹の機能はおおむね保たれている状態である。脳幹には呼吸中枢や循環中枢、睡眠・覚醒のリズムをつくる仕組みがあるため、患者は自分で呼吸し、血圧や心拍も自力で維持し、開眼と閉眼を繰り返す。こうした生命維持に直結する自律的な機能を、植物にもある生命機能になぞらえて「植物機能」とよぶ。 したがって本問は、「植物機能が保たれている患者が、それでも自力ではできないことは何か」を考えればよい。植物状態の患者は食物を認識して口に運び、かんで飲み込むことが自力でできない。そのため、生命を維持するには外から栄養と水分を与え続けること、すなわち栄養管理が不可欠である。一方、呼吸や循環を補う治療や感染症の治療は、合併症が起きたときに必要となるものであり、植物状態そのものに対して常に必要なものではない。 「植物状態」と「脳死」を混同しないことも重要である。脳死は脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に失われた状態で、自発呼吸がないため人工呼吸器なしでは生命を維持できない。自発呼吸の有無が両者を分ける大きなポイントである。
選択肢考察
- ×a. 酸素投与
植物状態では延髄の呼吸中枢が働いており、自発呼吸が保たれている。肺炎などの合併症で低酸素血症を来した場合には酸素投与を行うが、呼吸器系に異常がなく酸素化が保たれていれば必要ない。生命維持に常に必要なものではないため誤りである。
- ○b. 栄養管理
植物状態の患者は意識的に食物を摂取することができず、自力での摂食は不可能である(自力摂食不能は植物状態の診断基準の一項目でもある)。そのため、胃管や胃瘻(PEG:経皮内視鏡的胃瘻造設術で作る胃への栄養の入り口)からの経腸栄養、あるいは経静脈栄養によって栄養と水分を補給し続けなければ生命を維持できない。呼吸・循環が自立していても栄養だけは外部から与える必要があるため、これが生命維持に最低限必要なものである。
- ×c. 昇圧薬投与
植物状態では脳幹の循環中枢(血管運動中枢)が機能しており、血圧や心拍は自力で維持されている。昇圧薬は敗血症性ショックなど循環不全を合併した場合に用いるものであり、植物状態の維持に常時必要なものではない。循環を薬剤で支える必要が生じやすいのは、むしろ脳幹機能まで失われた脳死の状態である。
- ×d. 抗菌薬投与
植物状態の患者は誤嚥性肺炎、尿路感染症、褥瘡感染などを起こしやすいが、抗菌薬は感染症を発症したときに投与する治療薬である。感染がない状態で予防的に投与し続けることは必要なく、耐性菌を生む原因にもなる。生命維持に最低限必要なものではない。
- ×e. 人工呼吸器管理
植物状態では自発呼吸が保たれているため、人工呼吸器は必要ない。人工呼吸器なしでは呼吸を維持できないのは、延髄の呼吸中枢を含めて脳幹機能が廃絶した脳死である。自発呼吸の有無は、植物状態と脳死を区別する最も基本的な点である。
植物状態の診断基準(日本脳神経外科学会、1972年)
脳損傷後、治療にもかかわらず以下の6項目を満たす状態が3か月以上続き、ほぼ固定したものを植物状態とする。 1. 自力移動が不可能 2. 自力摂食が不可能 3. 屎尿失禁がある 4. 声を出しても意味のある発語ができない 5. 「目を開け」「手を握れ」などの簡単な命令にはかろうじて応じることもあるが、それ以上の意思疎通はできない 6. 眼球はかろうじて物を追っても認識はできない
植物状態と脳死の比較
植物状態:大脳の機能が広く失われるが脳幹機能は残る。自発呼吸あり、循環も自立している。睡眠・覚醒のリズムがあり開眼することもある。適切な栄養管理と看護により長期生存しうる。まれに意識が回復する例もある。 脳死:脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止した状態。自発呼吸がなく人工呼吸器が必要で、脳幹反射もすべて消失する。人工呼吸器や循環管理を行っても、多くは比較的短期間で心停止に至る。
植物状態の患者の管理
栄養管理(経鼻胃管、胃瘻、経静脈栄養)に加え、体位変換による褥瘡予防、口腔ケアや体位調整による誤嚥性肺炎の予防、排泄の管理、関節拘縮の予防などが中心となる。合併症が起きたときに酸素投与や抗菌薬投与などを必要に応じて行う。
関連する概念
国際的には、植物状態を「無反応覚醒症候群(unresponsive wakefulness syndrome)」とよぶことも提唱されている。また、明確ではないものの一貫しない意識的反応がみられる状態は最小意識状態(minimally conscious state)として区別される。
POINT
・植物状態は大脳機能が失われ、脳幹機能(呼吸・循環・睡眠覚醒リズム)は保たれた状態である。 ・自力摂食ができないため、生命維持には栄養管理(経管栄養・経静脈栄養)が不可欠である。 ・自発呼吸があるので人工呼吸器は不要であり、この点で脳死と区別される。 ・酸素投与、昇圧薬、抗菌薬は合併症が起きたときに必要に応じて用いるものである。 ・日本の植物状態の定義は6項目が3か月以上持続することである。
