救出直後こそ危ない―褐色尿が告げる圧挫症候群の検査値
第103回医師国家試験 G問題 第50問
国試問題にチャレンジ
55歳の男性。交通事故で両下肢を挟まれ,3時間後に救出され搬入された。両下肢のしびれを訴える。体温37.0℃。呼吸数24/分。脈拍88/分,整。血圧108/76mmHg。褐色尿を認める。 みられるのはどれか。2つ選べ。
- a.血清クレアチンキナーゼ〈CK〉上昇
- b.血清カリウム上昇
- c.血清カルシウム上昇
- d.血清総ビリルビン低下
- e.代謝性アルカローシス
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
四肢が長時間圧迫されたのちに救出され、褐色尿(ミオグロビン尿)を認める場合は圧挫症候群を考えます。圧迫で横紋筋融解が起こり、再灌流とともに筋細胞内のCK、ミオグロビン、カリウム、リン、乳酸などが全身に流入するため、血清CKとカリウムが上昇し、代謝性アシドーシスとなります。一方、カルシウムは壊死筋への沈着や高リン血症により急性期には低下し、ビリルビンが低下する機序はありません。救出直後はバイタルが安定して見えても、高カリウム血症による心停止や急性腎障害で急変しうるため、早期の大量輸液と心電図モニタリング、必要に応じた血液浄化療法が重要です。病態から検査値を予測する考え方は、災害医療や救急の現場で患者を守る力に直結します。
解答・解説
正解はa, bです
所見の整理
・交通事故で両下肢を挟まれ、救出まで3時間:四肢の骨格筋が長時間圧迫されていた ・両下肢のしびれ:圧迫による筋・末梢神経の虚血障害を示唆 ・褐色尿:壊れた筋細胞から放出されたミオグロビンが尿中に排泄された「ミオグロビン尿」を考える ・バイタルサイン:体温37.0℃、脈拍88/分、血圧108/76mmHgと一見大きな異常はなく、呼吸数24/分とやや速い程度
診断へのプロセス
四肢などが長時間圧迫を受けたのち、圧迫が解除された(救出された)後に全身症状が現れる病態を圧挫症候群(クラッシュ症候群、挫滅症候群)という。圧迫されている間、筋肉は虚血に陥って横紋筋融解(骨格筋細胞の壊死・崩壊)を起こす。圧迫が解除されて血流が再開すると、壊死した筋肉内に蓄積していたカリウム、ミオグロビン、クレアチンキナーゼ(CK)、乳酸などの物質が一気に全身循環へ流れ込む。 本症例は「長時間の下肢圧迫」「救出後のしびれ」「褐色尿(ミオグロビン尿)」がそろっており、圧挫症候群と診断できる。救出直後はバイタルサインが比較的安定していることが多く、見逃されやすいが、その後に高カリウム血症による致死的不整脈や急性腎障害を起こして急変しうる点が重要である。
設問への考え方
横紋筋融解で筋細胞の内容物が血中に出るとどうなるかを考える。筋細胞に多く含まれる酵素(CK)と電解質(カリウム)が血中で上昇する。一方、カルシウムは壊死筋に取り込まれて低下し、乳酸の流入などにより代謝性アシドーシスとなる。
選択肢考察
- ○a. 血清クレアチンキナーゼ〈CK〉上昇
CKは骨格筋に大量に含まれる酵素であり、筋細胞が壊れると血中に逸脱して著明に上昇する。横紋筋融解の診断の中心となる指標で、圧挫症候群では数万〜数十万IU/Lに達することもある。CKは受傷後しばらくして上昇し、1〜3日後にピークを迎えることが多い。値が高いほど急性腎障害のリスクが高いとされる。
- ○b. 血清カリウム上昇
カリウムは細胞内に多く存在する陽イオンで、骨格筋は体内で最大のカリウム貯蔵庫である。筋細胞が崩壊すると、圧迫解除(再灌流)とともに大量のカリウムが血中へ流入し、高カリウム血症を生じる。さらに代謝性アシドーシスによる細胞内から細胞外へのカリウム移動や、急性腎障害による排泄低下も加わる。高カリウム血症は心室細動や心停止の原因となり、救出直後の突然死の主因となるため、心電図モニタリング(テント状T波など)と迅速な治療が必要である。
- ×c. 血清カルシウム上昇
圧挫症候群の急性期にはむしろ低カルシウム血症を呈する。壊死した筋組織にカルシウムが流入・沈着すること、筋崩壊で放出されたリンが増えて(高リン血症)カルシウムと結合すること、などが原因である。低カルシウム血症は高カリウム血症の心毒性を増強する。なお、急性腎障害の回復期には沈着していたカルシウムが再動員され、高カルシウム血症となることがあるが、搬入時にみられる所見ではない。
- ×d. 血清総ビリルビン低下
横紋筋融解や圧挫症候群が血清ビリルビンを低下させる機序はない。褐色尿の原因はビリルビンではなくミオグロビンである。外傷に伴う血腫の吸収や溶血、多臓器障害に伴う肝障害などがあれば、ビリルビンはむしろ上昇しうる。
- ×e. 代謝性アルカローシス
虚血に陥った筋肉では嫌気性代謝によって乳酸などの酸が蓄積しており、再灌流とともにそれらが全身に流れ込むため、代謝性アシドーシスとなる。急性腎障害による酸排泄の低下もアシドーシスを悪化させる。本症例の呼吸数24/分とやや速い呼吸は、代謝性アシドーシスに対する呼吸性代償の可能性もある。
圧挫症候群(クラッシュ症候群)の概要
・原因:地震による建物倒壊や交通事故などで、四肢や体幹の筋肉が長時間(一般に数時間以上)圧迫されることで生じる。阪神・淡路大震災で広く知られるようになった。 ・病態:圧迫による筋虚血・横紋筋融解 → 圧迫解除後の再灌流で、カリウム・ミオグロビン・乳酸などが全身循環へ流入する。同時に損傷筋に大量の体液が移動(サードスペースへの移行)し、循環血液量が減少する。 ・主な合併症: ①高カリウム血症:心室細動・心停止(救出直後の急変の原因) ②急性腎障害:ミオグロビンによる尿細管閉塞・尿細管障害、循環血液量減少による腎血流低下、酸性尿でミオグロビンが析出しやすいことなどによる ③低容量性ショック:損傷筋への体液移動による ④代謝性アシドーシス ⑤コンパートメント症候群:腫脹した筋区画の内圧上昇による二次的な虚血
検査所見のまとめ
上昇:CK、ミオグロビン、カリウム、リン、乳酸、AST・LDH(筋由来)、BUN・クレアチニン(腎障害) 低下:カルシウム(急性期)、pH・HCO3-(代謝性アシドーシス) 尿:褐色〜赤褐色尿。尿潜血反応は陽性だが、尿沈渣で赤血球はほとんどみられない(ミオグロビンがヘモグロビンと同様に潜血試験に反応するため)。
治療
・救出前・救出直後からの大量輸液(カリウムを含まない生理食塩液などが用いられる)で循環血液量を保ち、尿量を確保してミオグロビンの排泄を促す。 ・高カリウム血症への対応:グルコン酸カルシウム静注(心筋保護)、グルコース・インスリン療法、炭酸水素ナトリウム、陽イオン交換樹脂など。 ・コントロール困難な高カリウム血症や急性腎障害には血液浄化療法(血液透析)を行う。 ・コンパートメント症候群を合併すれば筋膜切開を検討する。
POINT
・長時間の四肢圧迫+救出後の褐色尿(ミオグロビン尿) → 圧挫症候群(クラッシュ症候群) ・筋崩壊で上昇:CK、ミオグロビン、カリウム、リン ・低下:カルシウム(急性期、壊死筋への沈着と高リン血症) ・酸塩基平衡:乳酸流入などにより代謝性アシドーシス ・救出直後はバイタルが安定していても、高カリウム血症による心停止や急性腎障害で急変しうる → 早期の大量輸液と心電図モニタリングが重要
