「76」は大人なら正常、赤ちゃんなら危険信号―新生児の正常値で読み解くバイタルサイン
第103回医師国家試験 G問題 第43問
国試問題にチャレンジ
生後10日の新生児。在胎38週2日,出生体重2,530g。Apgarスコア6点(1分),8点(5分)。体温37.3℃。呼吸数48/分。心拍数76/分,整。収縮期血圧52mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦で,右肋骨弓下に肝を1cm触知する。足底把握反射とBabinski反射とは陽性である。 異常な所見はどれか。
- a.呼吸数
- b.心拍数
- c.収縮期血圧
- d.足底把握反射
- e.Babinski反射
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
新生児の正常なバイタルサインは成人と大きく異なり、心拍数はおおむね120〜160/分、呼吸数は40〜60/分、収縮期血圧は50〜80mmHg程度です。本問では心拍数76/分が新生児として明らかな徐脈であり唯一の異常所見で、心電図で先天性完全房室ブロック(母体の抗SS-A抗体による新生児ループス)などを確認し、低酸素や低体温などの原因も検索する必要があります。右肋骨弓下に肝を1〜2cm触れること、足底把握反射(〜9〜10か月)やBabinski反射(〜1〜2歳)が陽性であることは新生児では正常です。原始反射は出現すべき時期の欠如、消失すべき時期の残存、左右差がいずれも異常のサインとなります。年齢ごとの正常値を知っておくことは、小児の診察で異常を見逃さないための基本であり、成人の基準で判断する思い込みを避ける力にもつながります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・在胎38週2日で出生: 在胎37週0日〜41週6日は正期産であり、本児は正期産児である。 ・出生体重2,530g: 2,500g以上であり低出生体重児には当たらない(2,500g未満が低出生体重児)。 ・Apgarスコア(出生後の皮膚色・心拍数・反射・筋緊張・呼吸の5項目を各0〜2点で評価する)は1分値6点、5分値8点。1分値4〜6点は軽症仮死に相当するが、5分値で8点まで改善しており、その後の経過にも大きな問題はうかがえない。 ・体温37.3℃: 新生児の正常体温(腋窩温でおよそ36.5〜37.5℃)の範囲内である。 ・呼吸数48/分、収縮期血圧52mmHg、心音・呼吸音正常。 ・右肋骨弓下に肝を1cm触知: 新生児・乳児では肝が相対的に大きく、肋骨弓下に1〜2cm程度触れるのは生理的である。 ・足底把握反射とBabinski反射が陽性: いずれもこの時期にみられて当然の反射である。
考え方
本問は臨床問題の形をとっているが、実質的には「新生児の正常なバイタルサインと神経所見」を問う知識問題である。各所見を新生児の正常値・正常所見と照らし合わせていくと、心拍数76/分だけが明らかに正常範囲(おおむね120〜160/分)から外れており、新生児としては高度の徐脈である。成人の感覚では76/分は正常に見えるが、年齢によって正常値が大きく異なることが問われている。実際にこのような徐脈があれば、心電図で先天性完全房室ブロック(母体の抗SS-A抗体によるものが代表的)などの不整脈や、低体温・低酸素・頭蓋内圧亢進・甲状腺機能低下症などの原因検索が必要となる。
選択肢考察
- ×a. 呼吸数
新生児の呼吸数の正常範囲はおおむね40〜60/分である。出生直後は不規則なこともあるが、次第に40〜50/分程度で安定する。48/分は正常範囲内である。なお、新生児では60/分を超える状態が続けば多呼吸とみなし、一過性多呼吸や呼吸窮迫症候群、肺炎、心疾患などを考える。
- ○b. 心拍数
新生児の心拍数は成人よりずっと速く、安静時でおおむね120〜160/分(平均120〜140/分)であり、啼泣や体動で170/分以上に上がることもある。睡眠時にはやや下がるが、100/分を下回れば徐脈と判断する。76/分は新生児として明らかな徐脈であり、本問で唯一の異常所見である。調律が整である点からは洞徐脈のほか、先天性完全房室ブロックのように心室が規則正しく遅いリズムで拍動する病態も鑑別に挙がり、心電図による確認が必要である。
- ×c. 収縮期血圧
新生児の血圧は低く、在胎週数・出生体重・日齢とともに上昇する。正期産児の収縮期血圧はおおむね50〜80mmHg程度(生後数日〜10日前後で60〜70mmHg台が平均的)とされ、52mmHgはやや低めではあるが正常範囲の下限付近と判断してよい。心音・呼吸音に異常がなく、他に循環不全を示す所見も記載されていないことからも、異常所見とはしない。
- ×d. 足底把握反射
足底把握反射は、足の指の付け根(足底の前部)を圧迫すると足趾が屈曲して握るような動きをする原始反射である。出生時から認められ、つかまり立ちや歩行の準備が進む生後9〜10か月ころに消失する。新生児で陽性であるのは正常であり、むしろこの時期に欠如していれば中枢神経や末梢神経・筋の異常を疑う。1歳を過ぎても残存する場合は異常とみなす。
- ×e. Babinski反射
Babinski反射は、足底の外側縁を踵から前方へこすると母趾が背屈し、他の趾が開く(開扇現象)反射である。成人では錐体路障害を示す病的反射であるが、乳幼児では錐体路の髄鞘化が未完成なため生理的に陽性となり、1〜2歳ころまでは陽性でも正常である。ただし左右差がある場合や、他の病的所見を伴う場合は異常を疑う。
年齢別のバイタルサインのおおよその目安(安静時)
・新生児: 心拍数120〜160/分、呼吸数40〜60/分、収縮期血圧60〜80mmHg前後(早産児・日齢の浅い児ではより低い) ・乳児: 心拍数110〜140/分、呼吸数30〜40/分、収縮期血圧80〜90mmHg前後 ・幼児: 心拍数100〜120/分、呼吸数20〜30/分、収縮期血圧90〜100mmHg前後 ・学童: 心拍数80〜100/分、呼吸数18〜20/分 ・成人: 心拍数60〜100/分、呼吸数12〜20/分 年齢が低いほど心拍数・呼吸数は多く、血圧は低い。
新生児の主な原始反射と消失時期(目安)
・Moro反射: 〜4か月ころ ・吸啜反射・探索反射: 〜4〜6か月ころ ・手掌把握反射: 〜3〜4か月ころ ・非対称性緊張性頸反射: 〜4〜6か月ころ ・自動歩行: 〜2か月ころ ・足底把握反射: 〜9〜10か月ころ ・Babinski反射: 〜1〜2歳ころ 原始反射は出現すべき時期に欠如していても、消失すべき時期に残存していても異常であり、左右差は末梢神経麻痺(分娩麻痺など)や片麻痺を示唆する。
新生児の徐脈で考える疾患
・先天性完全房室ブロック: 母体の抗SS-A(Ro)抗体・抗SS-B(La)抗体が胎盤を通過して胎児の刺激伝導系を障害する(新生児ループスの一症状)。心室拍数は50〜80/分程度となることが多い。 ・低酸素血症・低体温・頭蓋内圧亢進・甲状腺機能低下症・高カリウム血症・迷走神経刺激(吸引など)。
新生児の血圧測定
正確な測定は難しく、体格に合ったカフ(幅3〜5cm程度)を選ぶ。非観血的には振動法(オシロメトリック法)が主に用いられ、重症児では動脈ラインによる観血的測定を行う。
POINT
・新生児の心拍数の正常はおおむね120〜160/分。100/分未満は徐脈であり、76/分は明らかな異常。 ・新生児の呼吸数は40〜60/分、収縮期血圧は50〜80mmHg程度で成人より低い。 ・肝を右肋骨弓下に1〜2cm触れるのは新生児では正常。 ・足底把握反射(〜9〜10か月)、Babinski反射(〜1〜2歳)は新生児で陽性が正常。
