白内障と甲状腺は「忘れた頃に」やってくる―放射線障害を時間軸で切り分ける
第103回医師国家試験 G問題 第2問
国試問題にチャレンジ
放射線治療による晩期障害はどれか。2つ選べ。
- a.脱毛
- b.白内障
- c.粘膜炎
- d.味覚低下
- e.甲状腺機能低下
対話形式の解説
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ドクターまとめ
放射線治療の有害事象は、照射開始からおよそ90日以内に起こる急性障害と、数か月〜数年後に現れる晩期障害に分けられます。急性障害は皮膚・毛包・粘膜・味蕾・骨髄など細胞の入れ替わりが速い組織に起こり、脱毛・粘膜炎・味覚低下などがあり、多くは可逆的です。晩期障害は血管内皮・結合組織・水晶体・内分泌腺など入れ替わりの遅い組織に起こり、白内障(しきい線量約0.5Gyの確定的影響)や甲状腺機能低下症、口腔乾燥症、肺線維症、脊髄症などがあり、不可逆的なことが多いのが特徴です。甲状腺機能低下症は潜在性の段階から始まり症状に乏しいため、頸部照射後は長期にわたる定期検査が欠かせません。組織の細胞動態から障害の時期を推論できるようになると、放射線治療の副作用管理や長期フォローアップの考え方が自然に身につきます。
解答・解説
正解はb, eです
テーマ
放射線治療の有害事象(副作用)は、いつ現れるかによって急性障害(早期障害)と晩期障害に分けられる。一般に、照射開始からおよそ90日以内に起こるものを急性障害、それ以降(数か月〜数年後)に起こるものを晩期障害とする。
急性障害と晩期障害の違い
・急性障害:細胞分裂が盛んで、つねに新しい細胞に入れ替わっている組織(皮膚の表皮、毛包、口腔・消化管の粘膜、骨髄など)に起こる。放射線で幹細胞が分裂できなくなると、古い細胞が脱落したあとに補充が追いつかず、治療期間中から治療直後にかけて症状が出る。多くは可逆的で、照射が終わると数週間で回復する。 ・晩期障害:細胞の入れ替わりが遅い組織(血管内皮、結合組織、神経、水晶体、内分泌腺の実質など)に起こる。毛細血管の障害による血流低下、線維化(組織が硬くなること)、実質細胞の減少がゆっくり進み、治療後数か月〜数年たってから症状が出る。不可逆的で治りにくいことが多いため、1回あたりの線量や総線量を決める際に最も重視される。
考え方
選択肢の障害が、細胞の入れ替わりの速い組織の障害(急性)か、遅い組織の障害(晩期)かを考える。脱毛・粘膜炎・味覚低下は、毛包・粘膜・味蕾(舌などにある味を感じる細胞の集まり)という入れ替わりの速い組織の障害で、急性障害に分類される。白内障(水晶体)と甲状腺機能低下症(甲状腺)は、治療から時間がたってから現れる晩期障害である。
選択肢考察
- ×a. 脱毛
毛母細胞(毛を作る細胞)は分裂が非常に盛んで放射線に弱いため、照射開始から2〜3週間ほどで照射した部位に脱毛が起こる。典型的な急性障害である。多くは治療終了後数か月で再び生えてくるが、高い線量を当てた場合は永久脱毛になることがある。
- ○b. 白内障
水晶体の前面にある上皮細胞が放射線で障害されると、異常な水晶体線維が作られる。これが水晶体の後ろ側(後嚢下)に集まって濁り、白内障になる。症状が出るまでには通常数年かかり、晩期障害の代表である。確定的影響(しきい線量を超えると発生し、線量が多いほど重くなる影響)で、ICRP(国際放射線防護委員会)はしきい線量を約0.5Gyとしている。頭頸部や眼の周囲への照射では、水晶体の遮蔽や線量制限が重要である。
- ×c. 粘膜炎
口腔、咽頭、食道、腸管などの粘膜上皮は入れ替わりが速いため、照射開始から2週間前後で発赤、びらん、痛みを伴う粘膜炎が起こる。急性障害であり、治療後数週間で回復することが多い。頭頸部照射の口内炎・咽頭炎や、胸部照射の食道炎が代表例である。
- ×d. 味覚低下
味蕾の細胞は入れ替わりが速い(約10日)ため、口腔を含む照射では、治療期間中の早い時期から味を感じにくくなる。急性障害に分類され、多くは治療終了後数か月でかなり回復する。ただし、唾液腺障害による口腔乾燥が続くと味覚障害も長引くことがあり、晩期にも問題になる場合がある。一般的な分類では急性障害として扱うため、本問では誤りとなる。
- ○e. 甲状腺機能低下
頸部への照射(頭頸部癌、Hodgkinリンパ腫、全脳全脊髄照射など)で甲状腺が照射範囲に入ると、血管の障害や甲状腺組織の線維化によって、数か月〜数年後に甲状腺機能低下症が現れることがある。晩期障害である。初めはTSH(甲状腺刺激ホルモン)だけが上がる潜在性機能低下症の段階を経ることが多く、症状に乏しいため、治療後も定期的に甲状腺機能を検査する必要がある。
主な急性障害(照射中〜照射後早期)
皮膚炎(発赤・色素沈着・びらん)、脱毛、口腔・咽頭粘膜炎、食道炎、味覚低下、悪心・嘔吐、下痢(腸炎)、膀胱炎、骨髄抑制(白血球・血小板の減少)、放射線宿酔(全身倦怠感など)
主な晩期障害(数か月〜数年後)
・中枢神経:脳壊死、放射線脊髄症、認知機能低下 ・眼:白内障、網膜症 ・頭頸部:口腔乾燥症(唾液腺障害)、下顎骨壊死、甲状腺機能低下症、下垂体機能低下症 ・胸部:放射線肺線維症、心膜炎・心筋障害(放射線肺臓炎は照射終了後1〜6か月に起こり、亜急性〜晩期障害として扱われる) ・腹部・骨盤:腸管の狭窄・潰瘍・瘻孔、直腸出血、萎縮膀胱、不妊 ・その他:皮膚の萎縮・線維化、リンパ浮腫、小児の成長障害、二次がん(確率的影響)
確定的影響と確率的影響
・確定的影響(組織反応):しきい線量があり、それを超えると発生し、線量が多いほど重症になる。例:脱毛、白内障、皮膚障害、不妊、骨髄抑制 ・確率的影響:しきい線量がないと仮定され、線量が多いほど発生する確率が上がるが、重症度は線量によらない。例:発がん、遺伝的影響
組織の放射線感受性(Bergonié–Tribondeauの法則)
細胞分裂が盛んで、将来行う分裂の回数が多く、形態・機能が未分化な細胞ほど放射線に弱い。急性障害が入れ替わりの速い組織に起こることは、この法則で説明できる。
POINT
・急性障害(照射開始から約90日以内)は入れ替わりの速い組織に起こる:脱毛、粘膜炎、皮膚炎、味覚低下、骨髄抑制、腸炎。多くは可逆的である。 ・晩期障害(数か月〜数年後)は入れ替わりの遅い組織に起こる:白内障、甲状腺機能低下症、口腔乾燥症、肺線維症、脊髄症、腸管狭窄、二次がん。多くは不可逆的である。 ・白内障は確定的影響で、しきい線量は約0.5Gy(ICRP 2011年勧告)である。
