StudyMed医師国家試験

白内障と甲状腺は「忘れた頃に」やってくる―放射線障害を時間軸で切り分ける

第103回医師国家試験 G問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第103回 G問題 第2問

放射線治療による晩期障害はどれか。2つ選べ。

  1. a.脱毛
  2. b.白内障
  3. c.粘膜炎
  4. d.味覚低下
  5. e.甲状腺機能低下

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は放射線治療の有害事象を「いつ起こるか」で分類する問題だ。着眼点はひとつ、障害を受ける組織の細胞が速く入れ替わるか、ゆっくり入れ替わるか。これが急性障害と晩期障害を分けるカギになる。
医学生医学生
急性と晩期の境目は、何日くらいで区切るんですか。
ドクタードクター
一般には照射開始からおよそ90日以内に起こるものを急性障害(早期障害)、それ以降、数か月から数年たって現れるものを晩期障害と呼ぶ。ただ、日数を丸暗記するより、なぜ時期がずれるのかを理解したほうが応用がきくよ。
医学生医学生
放射線生物学の講義で習ったBergonié–Tribondeauの法則ですか。分裂が盛んで未分化な細胞ほど放射線に弱い、という。
ドクタードクター
その通り。皮膚の表皮、毛包、口腔や消化管の粘膜、骨髄のように常に細胞が補充されている組織では、幹細胞が分裂できなくなると古い細胞が脱落したあとの補充が追いつかない。だから治療中から症状が出る。逆に、幹細胞が生き残れば回復するので、多くは可逆的なんだ。
医学生医学生
じゃあ晩期障害は、入れ替わりの遅い組織がゆっくり傷んでいく、ということですね。
ドクタードクター
そう。血管内皮、結合組織、神経、水晶体、内分泌腺の実質などだね。毛細血管の障害による血流低下や線維化、実質細胞の減少がじわじわ進み、治療から時間がたって症状が出る。しかも不可逆的なことが多いので、線量計画では晩期障害を起こさないことが最も重視される。では選択肢を見ていこう。まず脱毛は?
医学生医学生
抗癌剤の副作用でもおなじみですが、放射線でも毛母細胞がやられるので急性障害だと思います。
ドクタードクター
正解。照射開始から2〜3週間ほどで照射部位に脱毛が起こり、多くは治療終了後数か月で再び生えてくる。ただし高線量では永久脱毛になることもある。粘膜炎も同じ理屈だ。
医学生医学生
耳鼻咽喉科の実習で、頭頸部癌の放射線治療中の患者さんが口内炎の痛みで食事がとれなくなっていました。あれも治療中に起こっていましたね。
ドクタードクター
いい経験だね。粘膜上皮は入れ替わりが速いから、照射開始2週間前後で発赤やびらんが出て、治療後数週間で回復することが多い。胸部照射での食道炎も同じ仲間だ。味覚低下はどうかな。
医学生医学生
味覚って神経が関わるので、晩期かなと少し迷いました。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。でも味を感じる味蕾の細胞はおよそ10日で入れ替わる速い組織なので、治療中の早い時期から味が分かりにくくなる。一般的には急性障害に分類され、多くは数か月でかなり回復する。ただ、唾液腺障害で口腔乾燥が続くと味覚障害が長引くことはあるので、臨床ではその点も覚えておくといい。
医学生医学生
となると残る白内障と甲状腺機能低下が晩期障害ですね。
ドクタードクター
その通り。白内障は水晶体前面の上皮細胞が傷つき、異常な水晶体線維が後嚢下に集まって濁るもので、症状が出るまで通常数年かかる。しきい線量のある確定的影響で、ICRPはそのしきい線量を約0.5Gyとしている。頭頸部や眼の周囲への照射では水晶体の遮蔽や線量制限が大切だ。
医学生医学生
甲状腺機能低下は、頸部に照射した場合ですか。
ドクタードクター
そう。頭頸部癌やHodgkinリンパ腫、全脳全脊髄照射などで甲状腺が照射野に入ると、血管障害や線維化によって数か月〜数年後に機能低下が現れることがある。最初はTSHだけが上がる潜在性の段階を経ることが多く、症状に乏しいから、治療後も定期的に甲状腺機能を検査する必要があるんだ。
医学生医学生
患者さんが放射線科に通わなくなった頃に起こるので、見逃されやすそうですね。
ドクタードクター
まさにそこが臨床上の注意点。晩期障害はほかにも、口腔乾燥症、下顎骨壊死、放射線脊髄症、脳壊死、肺線維症、腸管の狭窄や直腸出血、二次がんなどがある。二次がんは確定的影響ではなく、しきい線量がないと仮定される確率的影響に分類される点も区別しておこう。
医学生医学生
脱毛と白内障はどちらも確定的影響だけど、出る時期は急性と晩期で違う、と整理すればいいですね。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。「確定的か確率的か」と「急性か晩期か」は別の軸だということを押さえておくと、放射線の問題はかなり解きやすくなるよ。

まとめ

放射線治療の有害事象は、照射開始からおよそ90日以内に起こる急性障害と、数か月〜数年後に現れる晩期障害に分けられます。急性障害は皮膚・毛包・粘膜・味蕾・骨髄など細胞の入れ替わりが速い組織に起こり、脱毛・粘膜炎・味覚低下などがあり、多くは可逆的です。晩期障害は血管内皮・結合組織・水晶体・内分泌腺など入れ替わりの遅い組織に起こり、白内障(しきい線量約0.5Gyの確定的影響)や甲状腺機能低下症、口腔乾燥症、肺線維症、脊髄症などがあり、不可逆的なことが多いのが特徴です。甲状腺機能低下症は潜在性の段階から始まり症状に乏しいため、頸部照射後は長期にわたる定期検査が欠かせません。組織の細胞動態から障害の時期を推論できるようになると、放射線治療の副作用管理や長期フォローアップの考え方が自然に身につきます。

解答・解説

正解はb, eです

テーマ

放射線治療の有害事象(副作用)は、いつ現れるかによって急性障害(早期障害)と晩期障害に分けられる。一般に、照射開始からおよそ90日以内に起こるものを急性障害、それ以降(数か月〜数年後)に起こるものを晩期障害とする。

急性障害と晩期障害の違い

・急性障害:細胞分裂が盛んで、つねに新しい細胞に入れ替わっている組織(皮膚の表皮、毛包、口腔・消化管の粘膜、骨髄など)に起こる。放射線で幹細胞が分裂できなくなると、古い細胞が脱落したあとに補充が追いつかず、治療期間中から治療直後にかけて症状が出る。多くは可逆的で、照射が終わると数週間で回復する。 ・晩期障害:細胞の入れ替わりが遅い組織(血管内皮、結合組織、神経、水晶体、内分泌腺の実質など)に起こる。毛細血管の障害による血流低下、線維化(組織が硬くなること)、実質細胞の減少がゆっくり進み、治療後数か月〜数年たってから症状が出る。不可逆的で治りにくいことが多いため、1回あたりの線量や総線量を決める際に最も重視される。

考え方

選択肢の障害が、細胞の入れ替わりの速い組織の障害(急性)か、遅い組織の障害(晩期)かを考える。脱毛・粘膜炎・味覚低下は、毛包・粘膜・味蕾(舌などにある味を感じる細胞の集まり)という入れ替わりの速い組織の障害で、急性障害に分類される。白内障(水晶体)と甲状腺機能低下症(甲状腺)は、治療から時間がたってから現れる晩期障害である。

選択肢考察

  1. ×a.  脱毛

    毛母細胞(毛を作る細胞)は分裂が非常に盛んで放射線に弱いため、照射開始から2〜3週間ほどで照射した部位に脱毛が起こる。典型的な急性障害である。多くは治療終了後数か月で再び生えてくるが、高い線量を当てた場合は永久脱毛になることがある。

  2. ○b.  白内障

    水晶体の前面にある上皮細胞が放射線で障害されると、異常な水晶体線維が作られる。これが水晶体の後ろ側(後嚢下)に集まって濁り、白内障になる。症状が出るまでには通常数年かかり、晩期障害の代表である。確定的影響(しきい線量を超えると発生し、線量が多いほど重くなる影響)で、ICRP(国際放射線防護委員会)はしきい線量を約0.5Gyとしている。頭頸部や眼の周囲への照射では、水晶体の遮蔽や線量制限が重要である。

  3. ×c.  粘膜炎

    口腔、咽頭、食道、腸管などの粘膜上皮は入れ替わりが速いため、照射開始から2週間前後で発赤、びらん、痛みを伴う粘膜炎が起こる。急性障害であり、治療後数週間で回復することが多い。頭頸部照射の口内炎・咽頭炎や、胸部照射の食道炎が代表例である。

  4. ×d.  味覚低下

    味蕾の細胞は入れ替わりが速い(約10日)ため、口腔を含む照射では、治療期間中の早い時期から味を感じにくくなる。急性障害に分類され、多くは治療終了後数か月でかなり回復する。ただし、唾液腺障害による口腔乾燥が続くと味覚障害も長引くことがあり、晩期にも問題になる場合がある。一般的な分類では急性障害として扱うため、本問では誤りとなる。

  5. ○e.  甲状腺機能低下

    頸部への照射(頭頸部癌、Hodgkinリンパ腫、全脳全脊髄照射など)で甲状腺が照射範囲に入ると、血管の障害や甲状腺組織の線維化によって、数か月〜数年後に甲状腺機能低下症が現れることがある。晩期障害である。初めはTSH(甲状腺刺激ホルモン)だけが上がる潜在性機能低下症の段階を経ることが多く、症状に乏しいため、治療後も定期的に甲状腺機能を検査する必要がある。

主な急性障害(照射中〜照射後早期)

皮膚炎(発赤・色素沈着・びらん)、脱毛、口腔・咽頭粘膜炎、食道炎、味覚低下、悪心・嘔吐、下痢(腸炎)、膀胱炎、骨髄抑制(白血球・血小板の減少)、放射線宿酔(全身倦怠感など)

主な晩期障害(数か月〜数年後)

・中枢神経:脳壊死、放射線脊髄症、認知機能低下 ・眼:白内障、網膜症 ・頭頸部:口腔乾燥症(唾液腺障害)、下顎骨壊死、甲状腺機能低下症、下垂体機能低下症 ・胸部:放射線肺線維症、心膜炎・心筋障害(放射線肺臓炎は照射終了後1〜6か月に起こり、亜急性〜晩期障害として扱われる) ・腹部・骨盤:腸管の狭窄・潰瘍・瘻孔、直腸出血、萎縮膀胱、不妊 ・その他:皮膚の萎縮・線維化、リンパ浮腫、小児の成長障害、二次がん(確率的影響)

確定的影響と確率的影響

・確定的影響(組織反応):しきい線量があり、それを超えると発生し、線量が多いほど重症になる。例:脱毛、白内障、皮膚障害、不妊、骨髄抑制 ・確率的影響:しきい線量がないと仮定され、線量が多いほど発生する確率が上がるが、重症度は線量によらない。例:発がん、遺伝的影響

組織の放射線感受性(Bergonié–Tribondeauの法則)

細胞分裂が盛んで、将来行う分裂の回数が多く、形態・機能が未分化な細胞ほど放射線に弱い。急性障害が入れ替わりの速い組織に起こることは、この法則で説明できる。

POINT

・急性障害(照射開始から約90日以内)は入れ替わりの速い組織に起こる:脱毛、粘膜炎、皮膚炎、味覚低下、骨髄抑制、腸炎。多くは可逆的である。 ・晩期障害(数か月〜数年後)は入れ替わりの遅い組織に起こる:白内障、甲状腺機能低下症、口腔乾燥症、肺線維症、脊髄症、腸管狭窄、二次がん。多くは不可逆的である。 ・白内障は確定的影響で、しきい線量は約0.5Gy(ICRP 2011年勧告)である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。