StudyMed医師国家試験

「また今度…」が患者を孤独にする―余命を問われた医師の逃避的態度

第103回医師国家試験 F問題 第24問

国試問題にチャレンジ

第103回 F問題 第24問

60歳の女性。進行肺癌のため入院しているが,終末期の状態で緩和ケアのみが行われている。回診時の医師と患者との会話を以下に示す。 患者 「あと何日くらい生きることができますか」 医師 「これから外来があるので,そのことについてはまた今度…」  この医師の態度はどれか。

  1. a.理解的態度
  2. b.評価的態度
  3. c.解釈的態度
  4. d.調査的態度
  5. e.逃避的態度

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は医療面接での「医師の態度」を分類する問題だ。病気の知識ではなく、患者さんの言葉に医療者がどう応じたかを読み取る力が問われている。終末期の患者さんが余命を尋ねたとき、医師は何をして、何をしなかったのか。そこに注目してみよう。
医学生医学生
医師は質問に答えずに、外来を理由に話を先送りしていますね。
ドクタードクター
そう。患者さんの言葉の内容には一切触れず、自分の業務の都合を理由に、つらい話題から身を引いている。応答の仕方の分類として、何か習ったことはあるかな。
医学生医学生
行動科学の講義でPorterの態度分類を習いました。評価的、解釈的、支持的、調査的、理解的の5つだったと思います。
ドクタードクター
よく覚えているね。それに、話題そのものを避ける「逃避的態度」が加えられることもある。今回の医師はまさにそれで、正解は逃避的態度だ。他の選択肢がなぜ違うのかも確認しておこう。まず評価的態度とは?
医学生医学生
患者さんの考えを、医療者の価値観で良い・悪いと判断する態度ですよね。「そんなことを考えちゃだめですよ」みたいな。
ドクタードクター
その通り。患者さんは否定されたと感じて本音を話しにくくなる。今回の医師は何の判断も示していないから当てはまらない。解釈的態度はどうだろう。
医学生医学生
患者さんの発言の理由を、医療者が推測して説明づける態度ですか。「ご家族が心配だからそう聞くんですね」とか。
ドクタードクター
そう。当たれば洞察につながるけれど、外れると押し付けになる。今回は意味づけもしていない。では調査的態度は?
医学生医学生
情報を得るために質問を重ねる態度だから、「どうしてそう思われたんですか」と聞き返していれば調査的態度になったんですね。
ドクタードクター
その理解でいい。行き過ぎると尋問のようになるけれど、患者さんの関心事を把握する役には立つ。今回の医師は何も尋ねていないね。
医学生医学生
理解的態度が一番望ましいとOSCEの医療面接で何度も言われました。でも正直、余命を聞かれたら自分も答えに詰まって、話をそらしてしまいそうです。
ドクタードクター
その気持ちは自然なものだし、正直に言えるのは大事なことだよ。だからこそ型を知っておく価値がある。理解的態度とは、患者さんの言葉や感情をそのまま受け止め、「そのことが気になっていらっしゃるのですね」と言い換えて返す態度で、共感的態度ともいう。すぐに数字で答えなくてもいいんだ。
医学生医学生
まず気持ちを受け止めて、それから何を知りたいのかを確かめる、という順番ですか。
ドクタードクター
そう。余命を尋ねる背景には、残された時間への不安、家族や身辺の整理、会っておきたい人がいるなど、さまざまな思いがある。それを確かめたうえで、患者さんの希望に沿って、予後には幅があることも含めて誠実に伝える。今回のように話を打ち切られると、患者さんは「見放された」「聞いてはいけないことだった」と感じて孤立感を深めかねない。
医学生医学生
本当に外来が迫っていて時間がないときはどうすればいいでしょうか。
ドクタードクター
いい質問だね。そのときも打ち切るのではなく、「大切なお話なので、今日の午後○時にゆっくりお時間をとらせてください」と具体的な時間を約束する。先送りでも、向き合う意思を示すかどうかで患者さんの受け止め方はまったく違う。
医学生医学生
支持的態度も選択肢にはありませんでしたが、「大丈夫ですよ」と励ますのも、根拠がなければ不安を置き去りにしてしまいそうですね。
ドクタードクター
鋭いね。根拠のない保証は、逃避の一種になることもある。発展として、悪い知らせを伝える手順のSPIKESモデルも押さえておこう。場の設定、患者の認識の把握、どこまで知りたいかの確認、情報提供、感情への対応、今後の方針とまとめの6段階だ。
医学生医学生
緩和ケア科の実習で、指導医の先生が病室で必ず椅子に座って目線を合わせて話していたのは、場の設定だったんですね。
ドクタードクター
その通り。Kübler-Rossの死の受容の5段階も、必ず順番通りに進むわけではないけれど、患者さんの心理を理解する手がかりになる。緩和ケアでは身体的・精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛を含む全人的苦痛に向き合うことが求められるんだ。

まとめ

終末期の患者から余命を尋ねられた医師が、業務を理由に「また今度」と話題を先送りする応答は、つらい話題から身を引く逃避的態度にあたります。医療面接での応答はPorterの5つの態度(評価的、解釈的、支持的、調査的、理解的)で整理され、最も望ましいのは患者の気持ちをそのまま受け止めて返す理解的(共感的)態度です。余命の質問には、まず背景にある不安や思いを受け止め、何をどこまで知りたいかを確認してから、予後の不確実性も含めて誠実に伝えることが大切で、時間がとれないときも具体的な面談の約束をすべきです。SPIKESモデルや全人的苦痛の考え方とあわせて身につけることで、患者を孤立させない終末期コミュニケーションの土台になります。

解答・解説

正解はeです

場面の整理

・患者は60歳の女性。進行肺癌の終末期で、積極的治療は終わり、緩和ケアだけを受けている。 ・患者は「あと何日くらい生きることができますか」と尋ねた。残された時間への不安や、死を前にした心の準備、家族や身辺の整理など、切実な思いが背景にあると考えられる。 ・医師は「これから外来があるので、そのことについてはまた今度…」と答え、自分の業務の都合を理由に質問への対応を先送りした。

設問の考え方

医療面接では、患者の発言に対する医療者の応答の仕方がいくつかの「態度」に分類される。代表的なのは、心理学者Porterが示した5つの態度(評価的、解釈的、支持的、調査的、理解的)である。これに、話題そのものを避ける「逃避的態度」が加えられることもある。 本問の医師は、患者の質問の内容に触れていない。評価も解釈もしておらず、情報を集めようともせず、気持ちを受け止めてもいない。「外来がある」という理由をつけて、つらい話題から身を引いている。これは逃避的態度にあたる。 終末期の患者から余命を尋ねられたときは、すぐに数字で答えることよりも、まず質問の背景にある気持ちを受け止めることが大切である。たとえば「そのことが気になっていらっしゃるのですね」と返す理解的(共感的)態度が望ましい。そのうえで、何を知りたいのか、なぜ知りたいのかを確かめ、患者の希望に沿って誠実に情報を伝える。どうしても時間がとれない場合でも、話を打ち切るのではなく、話を聴く具体的な時間を約束するなどの配慮が必要である。

選択肢考察

  1. ×a.  理解的態度

    理解的態度とは、患者の言葉や感情をそのまま受け止め、「〜ということなのですね」と言い換えたり要約したりして、理解したことを相手に返す態度である。共感的態度ともいい、医療面接で最も望ましいとされる。本問の医師は患者の不安を受け止めようとしておらず、これにはあたらない。

  2. ×b.  評価的態度

    評価的態度とは、患者の考えや行動について、医療者の価値観で「良い・悪い」「正しい・誤り」と判断を下す態度である(例:「そんなことを考えるのはよくないですよ」)。患者が否定されたと感じ、本音を話しにくくなりやすい。本問の医師は患者の質問に何の判断も示しておらず、評価的態度ではない。

  3. ×c.  解釈的態度

    解釈的態度とは、患者の発言の意味や理由を医療者が推測して説明づける態度である(例:「そう聞くのは、ご家族のことが心配だからでしょう」)。当たっていれば洞察につながるが、外れると押し付けになる。本問の医師は患者の発言の意味づけをしておらず、これにはあたらない。

  4. ×d.  調査的態度

    調査的態度とは、さらに情報を得るために質問を重ね、事実関係を掘り下げようとする態度である(例:「どうしてそう思われたのですか」「いつ頃からそのことを考えていますか」)。行き過ぎると尋問のようになるが、患者の関心事を把握する役には立つ。本問の医師は何も尋ねておらず、調査的態度ではない。

  5. ○e.  逃避的態度

    逃避的態度とは、答えにくい質問やつらい話題に直面したとき、話をそらしたり、先送りしたり、その場を離れたりして向き合うことを避ける態度である。本問の医師は「外来がある」という自分の都合を理由に、余命についての切実な質問を「また今度」と先送りしている。典型的な逃避的態度である。患者は「見放された」「聞いてはいけないことだった」と感じ、孤立感を深めるおそれがある。

Porterの5つの態度(医療面接での応答パターン)

・評価的態度:患者の考えや行動を、医療者の価値基準で良い・悪いと判断する。 ・解釈的態度:患者の発言の背後にある理由や意味を医療者が推測して説明する。 ・支持的態度:患者を励ましたり安心させたりする(例:「大丈夫ですよ」)。根拠のない保証になると、かえって患者の不安を置き去りにする。 ・調査的態度:さらに情報を得るために質問を重ねる。 ・理解的態度(共感的態度):患者の気持ちや考えをそのまま受け止め、理解したことを相手に返す。最も望ましいとされる。 これらに加えて、話題を避ける「逃避的態度」が挙げられることがある。

終末期患者とのコミュニケーション

・余命について尋ねられたら、まず質問の背景(不安、やり残したことの整理、家族への思いなど)を理解的態度で探る。 ・患者がどこまで知りたいのかを確認し、その希望に合わせて段階的に情報を伝える。予後には幅があり不確実であることも誠実に伝える。 ・悪い知らせを伝える手順として、SPIKESモデルが知られている。場の設定(Setting)、患者の認識の把握(Perception)、どこまで知りたいかの確認(Invitation)、情報の提供(Knowledge)、感情への対応(Emotions/Empathy)、今後の方針とまとめ(Strategy and Summary)の6段階からなる。 ・Kübler-Rossは、死にゆく患者の心理が否認、怒り、取り引き、抑うつ、受容の5段階をたどることがあると述べた。ただし必ずこの順に進むわけではない。医療者は患者の心理状態に応じて寄り添うことが求められる。 ・緩和ケアでは、身体的苦痛だけでなく、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアル(霊的)な苦痛を含む「全人的苦痛(トータルペイン)」に対応することが重要である。

POINT

・答えにくい質問を業務などを理由に先送りし、話題を避ける → 逃避的態度。 ・Porterの5つの態度:評価的、解釈的、支持的、調査的、理解的。医療面接で最も望ましいのは理解的(共感的)態度である。 ・終末期患者から余命を尋ねられたら、まず質問の背景にある思いを受け止め、患者が何をどこまで知りたいかを確認してから誠実に伝える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。